日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(長編)レディ・ルーン-Bonds of RU'MALE-〔1〕

 その来訪者達に対し、我々はあまりにも無慮な対応を取ってしまったのかもしれない。

「──こちら第八中隊。対象区域に到着しました」
 星峰(ほしみね)山系中腹。
 都心からも離れ、面積こそ広いが比較的なだらかな稜線の山々として一年を通して多くの
登山愛好家が訪れる山々であり、ここ星峰市のシンボルともなっている場所である。
 しかし、その山中を進むこの一団はどう見ても登山客には見えなかった。
『こちら司令部。そちらの映像は送れるか? 状況報告を併せて現状を確認したい』
 一言で形容するのなら、軍隊。
 そんな迷彩色の服と装備に身を固めた男達は、一様に山中からある一点を凝視しているよ
うにも見える。
「了解。今準備をさせていますので五分以内にはそちらに送信を開始できるかと思います。
できるかと、思うのですが……」
 そんな大半の面々の後ろで、通信装置の前に屈み込んでいる兵士が言葉を濁して言う。
『どうした、何か問題が起きているのか?』
「問題……というべきかまだ分かりません。ですが、異変には間違いないでしょう」
 通信機の向こうからは、じれったいといった感じを漏らしつつ疑問符が飛んで来ている。
 だがその問い掛けにもこの兵士は再び困ったように言い淀んだ。無言のまま他の仲間達と
互いに顔を見合わせて苦々しい表情を浮かべると、ゆっくりと視線を背後の山中の景色へと
向ける。
 ──そもそも自分達がこの場に赴く事になった発端は、ほんの数時間前に遡る。
 星峰が……揺れた。強烈な威力の地震が、全ての始まりを告げたのだ。
 そして、この揺れを感じ取ったのは何も市民だけではない。自分達、自衛隊星峰駐屯地の
面々も同じだった。突然の天災。急ピッチで始まった復旧作業。
 しかし、突如としてもたらされた衝撃はそれだけに留まらなかったのである。
『本日〇六四七時、星峰山東部中腹に国籍等不明の飛行体が墜落した。大至急、現地へ向か
い詳しい調査を開始せよ──』
 こういった事件がいつもの事である、とは言わない。
 だが自分の仕事──自衛官としての任務が世間一般の職業よりも特殊なものであることは
重々分かっているつもりだった。
 だからこそ自分達は粛々と命令を受け取ると、ある意味で馴染みのある緊張感と共にここ
まで星峰山を登ってきた、のだが……。
(一体、あれは何なんだ……?)
 視界の先に広がる現場の光景は、大方の予想の遥か斜め上を行っていた。
 見る限り確かに何か──詳細不明な飛行体と聞かされている──が墜落しているらしい。
 しかしその姿形はどう見てもヘリや旅客機、或いは戦闘機の類ではない。
 ガラスのような質感で統一された滑らかなフォルムの、とてつもなく巨大な……構造体。
そんなその場で見上げるだけでは到底把握できないほどの巨体が、斜めに傾いた格好で所々
で煙を上げながら大地に突き刺さっていたのである。
「……まるで高層ビルが丸々一つ落ちてきたって感じだな」
「で、でもあれってビル……なのか? 話じゃ正体不明の飛行体なんだろ?」
「さぁな……。とんでもなく馬鹿でかいって何かって事は確かだろうが……」
「お、俺達あんな得体の知れないものを調べるのかよ……?」
 何故、山岳救助隊ではなく自衛隊(じぶんたち)なのか。
 その理由が、何となく分かったような気がした。
『…………』
 非常事態にはそれなりに慣れている筈の仲間の隊員達も、それぞれに驚きや戸惑いの声を
漏らしつつ距離と保っていた。僕はその場から立ち上がると、そんなにわかにざわめく隊伍
の方へと歩み寄る。
(……やっぱり、不自然だ)
 勿論異変の発端であるこの飛行体(構造物?)の見慣れなさに驚きはする。
 だが、脳裏にはもっと別の事が過ぎり僕を混乱させていた。
 それは──被害が何故この程度で済んだのか? という点。
 確かに、墜落現場周辺は巨大なクレーターとなって一面が即席の荒地と化している。
 しかしこれほど巨大な構造物が直撃したのなら、本来なら星峰一帯が吹き飛んでしまって
いてもおかしくなかった筈だ。だが自分達は、星峰の街は幸い壊滅するような被害は受けて
おらず、現にこうして自分達が現場の様子を見に来てさえいる。
 だとすれば……考えられる可能性は一つしかない。
(ギリギリまで減速しようとしていたのか? 星峰への被害を……最小限に抑える為に)
 そう思うとにわかに身体中に緊張が駆け巡った。
 思わずもう一度、大地に突き刺さったままの、天まで届くかのような巨体を見上げる。
「準備完了しました。送信、開始します」
 そうしていると、通信機材の周りの面々が映像送信の準備を整え終えていた。
 専用の機材で録画・録音をしつつ、リアルタイムで現場の様子を司令部に送る。
『何だ……これは……』
 間もなく、司令部の上官達からも驚きと戸惑いの声が聞かれた。
 駐屯地の幹部クラスでも事態を厳密に把握していなかったというのだろうか?
 僕達現場の面々は、静かにざわつく通信の向こうの意思決定をじっと待つ。
『そこからは、何か先方に動きは見えるか?』
 そしてたっぷり数十秒の沈黙があった後、司令部からそう質問が飛んできた。
「いいえ。特に誰かが出てくる様子はありません。もしかしたら中の乗員は既に……」
『……そうか』
 こちらからの返答に、司令部側は再び何やら相談を始めたようだった。
 その間も僕達はちらりと墜落したままの巨体に注意を配り、事態の変化に備える。
 こんな事例は他に例がないのだろう。指示を出す側も困惑しているようだった。そういう
意味では、彼らもまた現場の所謂制服組に変わりはないのだなと漠然と思う。
『……こちらが受けている情報以上に事態は予断を許さない状態のようだ。そちらは墜落体
の調査を開始してくれ。様子は既に飛ばしたヘリ部隊からも確認する。そちらからは大き過
ぎて全体像は見えないようだからな』
「了解しました。ではこれより調査行動を開始します」
 そして、僕達は動き出した。
 通信の向こうからのそのゴーサインに頷き、隊伍を整え直して即席の荒地へと足を踏み入
れていく。途中空を見上げてみると、遠くに数個の機影が見えた。おそらくあれが派遣され
てきたヘリ部隊なのだろう。
 クレーターとなった現場の地面は大きく陥没して長い急斜面となっていた。僕達は用心の
為、ロープを使って降下する事にする。
 その境を過ぎると、頭上を覆っていた木々はなくなり全方位に視界が開ける格好となる。
 墜落時の威力で薙ぎ倒されたのだろう、辺りには大きな倒木がゴロゴロとしている。
 同心円状に陥没したクレーターの痕も然り。その光景はそれらと共に墜落時の衝撃の大き
さを物語っていた。
「改めて近づいてみると……でかいな」
「あぁ……。下手したら星峰自体、吹き飛んでたかもしれないな……」
「気を抜くなよ。少なくとも一般の航空機などではないんだ、何が起こるか分からないぞ」
「おい、支援要員は下がれ。武装要員はもっと前衛に出るんだ」
 張り詰める緊張。否、それ以上に漠然とした不安が皆を包んでいるように見えた。
 少しずつ、しかし一歩一歩確実に。
 小銃を手にした仲間達を先頭にして、僕達は沈黙したままの墜落体へと近づいていく。
「…………ん?」
 ちょうど、そんな時だった。
 突如として、それまで継ぎ目すら見えなかった墜落体の表面にサッと線が走るとその一部
がさながら飛行機のハッチのように開いたのだ。驚いた僕達は、残り数十メートルの距離で
思わず立ち止まる。
 開いた部分はそのままゆっくりと九〇度以上傾いて地面に接地し、昇降口らしき渡り廊下
になる。ただその裏側は階段ではなくどうやらスロープ状になっているようだった。
『──俺達が様子を見てくる』
 そして数秒の沈黙の後、先頭にいた数名が無言で振り返りそう後方の僕達を片手で制して
押し留めると、そのままゆっくりとハッチの方へと近づいていく。
 ひとりでに扉が開いたという事は、内部に誰か生存者がいる可能性が高い。
 僕達は固唾を呑んでその様子を見守ろうとした。だが──。
「! 誰か出てくる……」
「生存者か!?」
 変化は続けざまにやって来た。
 ハッチから墜落体の内部を覗き込もうとした隊員の一人が近づいてくる人の気配に気付い
て短く声を上げる。走る緊張。僕達も、身を乗り出して近づいてくる足音に耳を傾ける。
『……??』
 やがて姿を見せたのは、数名の女性だった。
 しかしすぐに妙な事に気付く。その服装──ローブのようないでたちが明らかにおかしい
のだ。世間一般の服飾というよりも、何処かの民族衣装のような……そんな格好に近い。
 だがそれがこれほどの巨大な飛行物体のクルー(?)が着る服だとも思えない。
 それに何よりも──彼女達は一様に激しく疲労しているように、僕には見えた。
「おい君達、大丈夫か!?」
「いや、それよりも……。君達は何者なんだ? この馬鹿デカいのは一体……?」
 そんな彼女達の様子に慌てて駆け寄ろうとする隊員、先ずは現状を把握しようと質問を投
げ掛けようとする隊員。
「……テ、ル」
「ん?」「え、何だって?」
 だが彼女達は、
「エ……、エーテル……ッ!」
「イル……。イッパイ……イルッ!」
「! なっ!?」「うわぁっ!?」
 あろう事か、僕達の姿を見ると突如として猛烈な勢いで襲い掛かってきたのだ。
 上がる隊員達の悲鳴。それらに覆い被さるように次々と飛び掛ってくる彼女達。見ればそ
の顔つきは荒々しく血走りさえしている。
 突然の事に、僕達は思わず顔を引き攣らせていた。
「エーテル……、エーテルッ!」
「ぬわっ! 何をす──」
 そして、僕は見た。
 彼女達が仲間達の首元の傍まで顔を寄せて大きく口を開けた次の瞬間、彼らの身体から何
か靄のようなものが勢いよく彼女達の口の中へ吸い込まれていくのを。
「る、ん……」
 まるで何かを取り込むよう飲み込む動作をする彼女達。それと連動するように急に力を失
いどうっと地面に倒れる仲間達。
 何が起こったのか理解できない者が殆どだっただろう。
 だが少なくとも今この瞬間、目の前で仲間達が死んだのだ。まるで生気を失ったかのよう
に青ざめた顔色で、彼らはピクリともせずに倒れていた。
「……足リ、ナイ」
「渇ク……渇、ク……」
「マ、ダ……エーテル、ヲ……」
 そして言葉も出ずに目を丸くして立ち尽くす僕らを、血走ったままの彼女達が見据えた。
 ゆたりとした動き。だが僕達は恐怖と驚愕の余り中々そこから動き出す事もできない。
「………ば、化け物だぁー!!」
 そして仲間の内の誰かが堪え切れずに叫んだ、その一言が合図となった。
 震えて力が入らない身体に鞭を打って一斉に逃げ出そうとする面々。そんな僕らに彼女達
はあり得ない身のこなしで飛び掛ってくる。
 最早統制など崩れていた。てんで散り散りに逃げ出そうとした仲間達は次々と彼女達に追
いつかれると組み倒され、そして何か生気を抜き取られるようにして事切れ、倒れていく。
(何なんだ、一体……!?)
 僕は一気に少なくなった仲間達に混じりながら必死に逃げた。
 背後で次々と仲間達が死んでいく。なのに逃げる事で精一杯だった。
 何故。恐怖の感情と共にそんな想いが胸を過ぎった。
 ただ僕達は墜落したあの飛行体が何なのかを調べに来ただけなのに。それだけで殺されよ
うとしている。
(いや……違う?)
 だがそんな想いにふと違和感を覚えた。
 相手の敵意。目の前の事実を見ればそうなのかもしれない。
 だが僕にはそれが本当だと思うには引っ掛かりを感じたのだ。
(彼女達の様子は敵意というよりはむしろ……。これは……飢え?)
 ややあってピンと来た厳密な表現。僕は走り続けながらも振り返る。
 改めて見てみれば彼女達は、一様に捕らえた仲間達の首元に口を近づけては何かを大きく
吸引するような仕草をしていた。その血走った眼も、敵意という怒りというよりは飢餓感に
よる発作のようなものから来ている印象を受ける。
「ウ、アァァァ……ッ!」
「! しまっ──」
 だがその思考が隙になっていた。緩んだ歩を見逃すまいと、一人が僕に飛び掛ってくる。
 しかし次の瞬間、彼女は僕の頭上で爆音と共に吹き飛ばされていた。
「……?」
 瞑りかけた目を恐る恐る開く。
 するとそこには硝煙を上げる小銃を構えた仲間の一人・兵藤が荒く肩で息をついていた。
「……大丈夫か、真崎?」
「あぁ……。助かったよ」
「ぼうっとしてんな、殺られるぞ」
「だ、だけどいきなり銃なんか……」
「そんな事言ってる場合か! 見て分からないのか!? あれは人間なんかじゃねぇ、女の
皮を被った化け物だ!」
「それ、は……」
 兵藤の激しく強い口調。
 だがその言葉に、僕は躊躇いを自覚しながらも言い返す事ができなかった。
「無事だったか! 真崎、兵藤!」
 そうしていると兵藤を皮切りに生き残っていた攻撃要員達が集まってくる。
 良かった、まだ全滅はしてない。少しだけ安心するがすぐにまた不安が心を塗り潰す。
 ちらと向けた視線の先、墜落体の周囲ではまだ彼女達が仲間達に襲い掛かっていた。
「くそ、一体何なんだよ、あの女達は?」
「こっちが聞きてぇよ。畜生ッ……佐伯、中川、大野……」
 小銃を構えながらも迂闊に手を出せない面々。
 それでも当の彼女達はお構いなしに“飢え”をしのぎ続けている。
「……!? しまった、囲まれた!」
 そして彼女達は残った僕達も逃すつもりはないらしかった。
 ふと気付けば四方八方からぞろぞろと、文字通り飢えた眼の女性達が迫って来ていた。
「ぬぅ……」「くそっ……」
 じりじりと。僕達はその包囲網の中で徐々に後退させられる。
 見れば墜落体から開いたハッチの奥から飢えた眼の女性達が次々と現れていた。
 その数はあっという間に膨れ上がり、既にこちらの兵力を上回りつつある。
(ここまで、か……)
 到底、敵う訳がない。
 自分が持っているのは小銃ではなく拳銃が予備を併せて二丁だけ。そもそも僕達は調査の
為に来たのであって、武装も護身用を除けば比較的簡易な物しか持ち合せていないのだ。
(……すまない。珠乃さん、美月……。それに、陽……)
 そうして最期に家族の顔を浮かべて覚悟を決めようとした、そんな時だった。
 突如として次々と地面が抉れて爆ぜた。
 その破壊に、彼女達が巻き込まれて吹き飛ばされていく。
 僕達は反射的に背後の上空を見上げていた。
『第八中隊、聞こえるか?』
 空中には数機の哨戒ヘリがホバリングをしていた。先刻、司令部が派遣したという部隊だ
ろう。するとその内の一機から緊迫した声で通信が飛んできた。仲間の一人が慌てて通信機
を取り出すと応答を開始する。
「こちら第八中隊、助かりました。現状は──」
『承知している。空(こちら)から見てもまるで地獄絵図だ』
 それは正直な感想だったのだろう。聞こえてきた重苦しい声色がそれを物語る。
『それよりも司令部より伝令だ。すぐにここを脱出しろ。先程本隊全軍を以って墜落体ごと
その女(アンノウン)どもを殲滅するとの決定が下された』
 その言葉が飛び込んできた瞬間、僕達は一瞬固まっていた。
 殲滅──彼女達を皆殺しにする……だって?
「わ、分かりました。すぐに撤退を──」
「待て、西岡」
 すると返答しようとした彼を兵藤が止めた。
 彼を見遣る面々。だが当の兵藤はじっと彼女達の跋扈する姿を睨み付けている。
「……その本隊が到着するのにどれだけ掛かる?」
『正確な時間は分かりかねる。十分程度ではないだろうか』
「そうか……」
 淡々と上空の友軍と交わされた言葉。
 そしてその質問で何かを確認すると、兵藤は小銃を構え直して独り前進を始めたのだ。
「ま、待て兵藤、どうする気だ!?」
「伝令を聞かなかったのか、撤退命令だぞ!」
 勿論僕達は彼を止めようとした。命令──いや、その建前以前に目の前の彼女達に勝てる
気などしなかったというのが大きいかったのだろう。
「馬鹿野郎! ここで退いたら街はどうなる!」
 だが兵藤はそんな弱気を吹き飛ばすように怒声を張り上げて振り向いた。
 ビクリと固まる面々。兵藤は今にも誰かを撃ち殺しそうな殺気立った眼で言う。
「本隊が来るまで多少なりとも時間が掛かる。それまでに奴らがここを離れられたら麓の街
が狙われる筈だ。あいつらはどうやら人間(おれたち)を──いや、俺達の何かしらを喰お
うとしているようだからな」
 それは否定できなかった。目の前で実際にそうして多くの仲間がやられているのだから。
「もし奴らが街に降りてみろ、被害は俺達程度じゃ済まなくなる。街には……嫁さんと子供
だっているんだ。俺達がここで食い止めなきゃ……全部失っちまう」
 兵藤の、その静かでいて強烈な言葉が引き金だった。
 始めは立ち向かう事に及び腰になっていた皆が、一人また一人と頷くと銃を構えて兵藤の
傍らに並び始めたのである。
『…………』
 前方では、次々と現れる彼女達が倒れ伏した隊員達に群がっていた。
 周囲では、哨戒ヘリの機関銃で撃たれた筈の彼女達がボロボロになりながらもよろよろと
起き上がろうとしていた。
「お、おい。嘘だろ……?」
「直撃してたよな? 何で生きてんだよ……」
「……文字通り、化け物だという事だろうな。お前ら……死ぬ気で殺さないと、死ぬぞ」
 その姿にたじろぐ面々。それでも兵藤だけは殺気を纏ったまま静かに言い放っていた。
 隊伍を整え、目配せで皆に合図を送る。ガチャリと銃が揺れる音がする。そして、
「掛かれぇ!!」
 その叫び声と共に、兵藤ら生き残った攻撃要員達は半ば自棄に近いと言えなくもない決死
の雄叫びを上げながら彼女達に向かって突撃していく。
「…………」
 僕は他の加わらなかった者達の中で、呆然と兵藤達の背中を見送っていた。
 どうして退けと言われたのにどうして戦おうとするんだ……。自分が死ねば、守りたいと
思う人達の笑顔を見ることもできないのに……。
「こちら第八中隊! 兵藤陸佐達が再び交戦を開始しました! 本隊が到着するまで奴らを
食い止めるつもりです! どうか早く、早く応援を──」
 傍らで別の隊員が必死に通信機から助けを求めていた。
(どうする? このまま兵藤達を置いてここにいる面子と逃げるのか……?)
 心が、迷った。グラグラと、揺れている。
 撤退せよとの命令は出ている。だがどうしてだろう? 自分という心と体が、思うように
言う事を聞いてくれない。
「──くっ……!」
「ま、真崎?」
「おい、待て! 早まるな!」
 だけど、気がついた時には僕は、駆け出していた。
 軍人としては甘いなのかもしれない。だけど、見捨てたくなかった。まだ間に合うんじゃ
ないかと思った。思いたかったから。
 何よりも僕は思った。感じる。この戦いは……僕らも、彼女達も本意ではない筈だと。
(止めなくっちゃ……こんな戦いは……!)
 数多の銃声が聞こえる。悲鳴が響き渡る。撤退しろとの怒声が通信機から放たれている。
 何故僕達はこんな事になってしまったのだろう。
 これから僕達は一体どうなってしまうのだろう。
 ただ一つだけ確かなのは、今僕達が歴史の大きな転機の最中にいるという事だけだった。

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  1. 2011/04/28(木) 20:30:00|
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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