日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「ブリッヂ」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:未来、墓標、橋】


 気が付けば、あなたは其処に立っていた。見通しの利かない古びた石畳の上だ。

 一体いつから? いや、そもそも“始め”などあったのだろうか? 漠然と抱く不安と、
それ以前の記憶をまるで引っ張り出せない既視感。あなたはじっと眉を顰めつつ、ともかく
前へと歩き出す。
 辺りには濃い靄が広がっていて、見通しが利かない。精々はっきりと見えるのは半径五・
六メールほど先までだろうか。だがその境目も、じわじわと寄せては返す波のように、静か
に蠢く靄の端々によって確実とは言えない。
 どうやら足元の石畳は、かなり幅が広いようだ。あなたは目を凝らして、なるべく遠くを
確かめようとする。靄の隙間に、石畳の端と、そこからストンと落ちる薄暗い水面のような
ものを見た。どうやら自分は、かなり大きな石橋の上に立っているらしい。
 あなたは、前へ進んでいった。歩みはどうしてもゆっくりだったが、何故か此処でじっと
しているのがとても不安だったからだ。
 誰か、いないのか……? 見回す視線は、自分以外の誰かの姿を探している。
『──』
 そうすると、程なくして他人(それ)は見つかった。いや、或いはあなたが居て欲しいと
願ったから、そこに現れるようになったのか。
 消えない靄と大きな石橋の上で、彼らはぼんやりと佇んでいた。或いは縁に座り込んで、
じっと高さも底も知れない薄暗い水面を見つめている。
 あなたは、声を掛けようとした。誰かの声が聞きたかった。
 しかし、喉が詰まる感じがして、言葉が出ない。いや、あなた自身先ず何から話し掛けれ
ばいいのか分からなかったのだ。
 こんにちは? こんばんは? 此処は一体何処なんですか? 私達は何故、こんな所に居
るのでしょうか? 私を知っていますか? 貴方は誰ですか? 一体この先に、何があると
いうのですか……?
 彼らは、そんなあなたの戸惑いに気付かない。まるでお互いの存在を認識すらできていな
いかのように、ぼんやりとゆっくりと、石畳の上を歩いて行く。
 気のせいだろうか。そんな彼らの姿が、時折明滅して透き通って見えた。あなたは思わず
目を擦る。そして今度は、自分自身の身体を確かめた。……どうやら透けてはいないようだ
った。しかしそれが、即ちあなた一人が安全であるという証明ではない。
『──ッ、──!』
 ちょうどその時だった。少し後ろの縁に座っていた一人が、突然自ら石橋の上から身を投
げてしまった。あなたは思わず振り返り、おずおずとそこへと近付いてゆく。靄は相変わら
ず確かな視界ギリギリを侵食し、油断すれば遠近の感覚がごっそりと持ってゆかれそうにな
るほどだ。
 縁から下を覗き込んでみた時は、既に遅かったようだ。漠然と“高い”とだけ認識できる
その落ちていった先、薄暗く得体の知れない水面は、とうにその誰かを呑み込んで波紋さえ
消し去った後だった。しんと、何一つ音が聞こえない。
「……」
 じわじわと、あなたは強い不安に駆られていった。
 先程までのものとは似ていて、しかし本質的に何かが違う。
 バッと振り返り、あなたは背後の石橋──靄の中に広がる石畳の風景を改めて見つめ直し
ていた。ぼうっと明滅しながら歩いてゆく他人びとに、或いはまるで迷い、困惑しているか
のように立ち止まっている他人びと。その誰もがお互いに気付かず、独りの不安を抱えてい
るのではとあなたは思った。
 では自分は、何なのだろう? 彼らを認識できて、しかし関われないというのは。
『──』
 ゆっくりと、あなたは石橋の中央に戻って行き、そして靄の中に点々と建つそれらを目の
当たりにする事となった。
 墓標だ。古びた木を十字に結び付けただけの粗末なそれが、よく見れば石橋の両縁近辺を
中心に点在している。各々に名前は無く、あっても長い歳月が経っているのか、文字らしき
ものも掠れて読み取れない。土の匂いすらしない石畳の上に、只々無骨にその杭先が刺し込
まれ、表面を抉っている。
 ……皆、ここで死んだのだ。あなたは直感的にそう理解した。
 改めて辺りを見渡す。そこにはやはり、ぼんやり前へ前へと歩いていく、明滅する他人び
とと、或いはその場に力尽きるように蹲り、動かなくなってしまった他人びとがいる。
 ……皆、ここで諦めたのだ。あなたは半ば無意識にそう向こう側を仰いだ。
 濃い靄の向こうに、分岐路が見える。どうやら石橋は、途中で幾本ものルートに分かれて
いるらしい。
 もしかして、とあなた思った。もしかして自分が歩いてきた今の此処も、そんな幾つもに
分岐した先の一本なのかもしれないと。
 だがもう、後ろは見えなくなっていた。じわじわと靄が掛かり、その全容はやはり窺い知
ることができない。……ただ自分達は、進むしかないのだ。あなたは暫く振り返ったその体
勢のまま、立ち尽くしている。その間にも明滅する他人びとがあなたを縫ってゆき、或いは
ばた、ばたと一人また一人と倒れて靄の中に隠されてゆく。
「……」
 どうして此処にいるのだろう? 自分達は、彼らは一体何なのだろう?
 問うても、答えてくれる者は誰一人としていない。仮に答えを見つけられたとしても、そ
の時はもう遅過ぎる筈だと、不思議とあなたは何処かで知っている。
 進むしかなかった。あなたは他の彼ら・彼女らと同じように、やがてそのぼんやりとした
隊列の中に混ざり始めた。うとうとと、まるで自意識が溶けてゆくように、それまで抱えて
いた不安や疑問が次第に頭の中から霧散してゆく──。

 ***

 其処は即ち、縮図の世界だ。自らの意思だけではどうにもならない時の、前へ前へと進む
ことしか許されない“仕組み”の中で歩き続け、いずれ力尽きるその瞬間(とき)まで歩を
止めてはならないと云われる。
 誰に? 何の権利があって? 分からない。誰にも。
 過去はやがて靄のように、改めて見通すことができずに埋もれていって、あなたを前へ前
へと押し遣るだろう。その理由も、意味も、与えられる利益も明確にはされず、全てはあな
た次第だと“大きな力”はそう嘯いて。
 途中で力尽きる者もいるだろう。或いは歩みを止め、自ら降りる人がいる。
 だが逃げたことを詰られさえすれ、縮図はそこに込められた思いを汲み取りはしない。何
故なら彼らのそれを一々受け取っていたら、壊れてしまうからだ。渡る人のいなくなった石
橋に、一体何の価値があるという?
 幾つもの道がある。選択肢が用意されている。だがそれは、必ずしも光り輝く結末を保証
するものではないのだろう。選び、選ばず、突き進んで或いは絶望し、それぞれの終わり。
過去はいつだって振り返った時にこそ輝くのだ。今に煩悶し、疑問を抱くからこそ、相対的
に輝いて見える。それだけのこと。故に本質的に真逆であるあなたの、彼らの未来に、少な
くとも“今”光を見出すのは難しい。前提としてあなたは先ず、それまでの過去が陰惨だと
確信していなければならない。

 力尽きて、無名の墓に埋もれるのではなく。
 漠然と歩き続けて、考えを止めるのでもなく。
 個であることに拘り続けて、その最後を自ら演出するでもない。
 その後ろに負い続けたものが暗闇であるからこそ、その先に待っているものが輝いて感じ
られる筈だ。ただその一点が、あなたの足を踏み出させる理由になる──。

 ***

 あなたは、石畳の上を歩いていた。人一人が軽く小さな点のように為って呑み込まれてし
まうほど、とても横幅の広く古びた石橋だ。
 辺りを包む濃い靄、静かに寄せては返す薄暗い眼下の水面に包まれ、臨み、あなた達の足
場を支える石柱が幾本も建っている。古びた見た目とは裏腹に、あなた達の歩みで軋むよう
な素振りは一切なく、只々行くべき道を黙々と守り続ける。
 止めてしまおうか? でも止める理由は何処にある……? 数え切れないほど薄れては我
に返るということを繰り返しながら、あなたは歩いていた。周りの明滅する他人びとも、は
たして何を考えているのか。もしかしたらもう……。しかしあなたは、今確かにまだ諦めな
いでいる。この言葉を読んでいる。
 幾つもの誰かが、脱落していくのを横目に見た。しかしあなたは足を止めない。
 幾つもの分岐路を、迷いながらも選んで進んだ。だからあなたは戻れない。
 正解だったろうか? 不正解だったろうか? そのただ一つの答えはきっと存在しないだ
ろうし、同じくこの道を選んだ他人びとに訊こうにも届かない。もしかしたら、彼らの少な
からずが、あなたに同じように問うていた──同意を求めていたのかもしれない。
 少しずつ、目の前の靄が晴れてきた。見えなかった道の先が見えてきた。
 尤もそれは、これまで歩いてきた過去の道が、代わりに見通せなくなってしまった証でも
あるのだが。あなたは、あなた達は、誰からともなくそっと顔を上げた。
『──』
 光? 靄の向こうに見える、地続きの石畳が少し明らんで見えた気がした。
 そこが最果てではないだろうに、報いを受けられる場所でもなかろうに。しかし次の瞬間
周りの他人びとは、縋るようにゆっくりと再び前進し始めた。手をかざして、掴めるかもし
れないその遠景と、己が掌を目に映した。
「……」
 あなたも。
 光を求める。今は未だ、あなたは諦めていない。
                                      (了)

スポンサーサイト



  1. 2018/06/01(金) 00:00:00|
  2. 週刊三題
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<(企画)週刊三題「魂籍」 | ホーム | (企画)週刊三題「四祈」>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://higurasisouann.blog27.fc2.com/tb.php/998-cd421346
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

訪問者累計

最新記事

最新発言

検索窓

月別履歴

08 | 2019/09 | 10
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 - - - - -

分類/索引

【案内板】 (2)
【小説:短編】 (20)
本の蟲 (1)
硝子野不動産店 (1)
夏の日の幻影 (1)
四番線の彼女 (1)
夢視の宿 (1)
線を曳く町 (1)
炬燵の神様 (1)
三者三盗噺 (1)
色眼鏡 (1)
奴らは攻城戦師 (1)
詰め替える (1)
同じ籠の狢 (1)
二十年後の遺言 (1)
轍の先 (1)
水に流せば (1)
真夜中の御二柱 (1)
いつか見た夢 (1)
神様達の初詣 (1)
白い花束 (1)
丸の代償 (1)
【小説:長編】 (188)
Amethyst League (6)
アンティーク・ノート (3)
ユウキのヒカリ (5)
NIGHT GUNNERS (5)
レディ・ルーン-Bonds of RU'MEL- (6)
ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- (108)
死に損いのデッドレス (5)
Dear SORCERY (4)
サハラ・セレクタブル (46)
【企画処】 (459)
週刊三題 (449)
その他参加物 (10)
【資料庫】 (2)
【落書帳】 (2)
【詩歌帳】 (8)
【雑記帳】 (396)
【読書棚】 (32)
【遊戯倉】 (25)
path. (4)
decide: (3)
ユー録FW(凍結中) (17)

記事録

交友関係

このブログをリンクに追加する

(RSSリンク)

(QRコード)

QR

Tweets by long_month