日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「レタリチュア」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:本、時間、可能性】


■0901-2775(ID:UB278530c2b)
この星で《統合機関(ルーラー)》が運用され始めて、今日でちょうど十年になる。
導入当時は、それこそ非難轟々だったのだが、人とは慣れの生き物なのだなと今改めて噛み
締めている所だ。ひとえにそれは、人々の心の少なからずに、旧来の「議論」と「政治」へ
の多大なる絶望感があったからこそなのだと私は考えている。

それまでの世界には、幾つもの国々が乱立し、毎日のように互いの利益の為の闘争を飽きる
事なく繰り広げていた。人の歴史とは戦いの歴史……と言ってしまえばあまりに手垢の付き
過ぎた表現だが、事実私達は先祖から今日に至るまで、数え切れないほどの“敵”を殺して
きた。滅ぼしてきた。野蛮で剥き出しの欲望をギラつかせた、暗い時代がずっと続いていた
と歴史は書き残している。私達がそこから一歩仕組みを踏み外し、近代的な法と国際秩序に
則って暮らすようになったのは、実はそう昔の事ではない──ここ数百年、大きな歴史の中
で言えばすぐ最近の事なのだ。

しかし、舞台を銃弾飛び交う戦場からスーツ姿の政治家達が囲むテーブルに変えても、争い
それ自体は無くなりはしなかった。寧ろ事態は強かに、こちらからは中々見えないテーブル
の下で、互いに笑顔を向けながらも蹴り合うような陰湿さを増して続いていった。その矛盾
や欺瞞をひた隠しにするように、自由や人権、平等といった様々な概念を生み出しながら。

私個人、それが「正しい」ことだとは思わないが、不信はずっと燻り続けていたのだろうと
思う。国内の、世界中の少なからぬ人々がその上っ面を嫌い、毎日流されるニュースに一喜
一憂する。そんな長く「当たり前」だった日常の営みも、やがては唾棄すべき打倒すべき悪
習へと変わった。そのように広く認識されるようになった。

《統合機関(ルーラー)》の開発と導入は、そんな末期の世界情勢を待っていたかのように
突如として発表された。当時の大国──旧連邦の科学者によって作られたそれは、従来特定
の誰かに委ねる他なかった政治という営みを、徹底して「人」から分離する仕組みだった。
各国がそれぞれの利益を追求し、しばしば軍事力を背景にしてそれらを強引に叶えてしまお
うとする現実。そうした一連のパワーバランスを、根本からひっくり返した統制システム。
既存の「秩序」を文字通り一旦ゼロに破壊し尽くした上で、より合理的で画一的で、大よそ
「私情」と呼べる一切の要素を排除しようとした試み。

時とは無常だ。あまりに荒唐無稽だと思われていたこの計画から歳月を経ても、結局私達は
その変化をすっかり受け入れながら、生き長らえている。

やがて私も、後十年二十年と経てば、口煩い老人と忌避されるのだろうか。

■0522-2782(ID:UB278530c2b)
昨日また一つ、居住区が「削除」された。
《統合機関(ルーラー)》の制御AIが、規定値を上回った「悪性」を記録したその住民を
彼の住む地域ごと消し飛ばしたのである。

空間核だ。十数年前まではあまりにも極端で現実的でないと言われ続けていたこの巨大プロ
グラムを、今や世界の現実としてしまった立役者──後ろ盾である。
それまで大国らがパワーバランス上、大国でありえた核兵器をも越える超技術。核の爆発で
敵地を「吹き飛ばす」のではなく、投下した一帯を「削り取る」兵器。
私も素人に毛が生えた程度の知識しかないので詳しいメカニズムまでは分からないが、どう
もあれはある一定範囲内の空間を圧縮し、限りなく無に還すことで、まるでそこだけがごっ
そり削り取られたかのような惨状になるそうだ。事実《統合機関(ルーラー)》導入に反対
した当時の国々は、文字通りこの新世代の兵器の前に消えてなくなった。私達以前の世代の
人間にとっては、今でもトラウマにさえなっている。

今思えば、《統合機関(ルーラー)》が先ず世界地図を一旦全て白紙にし、同本部を中心と
して各地を徹底して均一に区画化したのは、この新たな「抑止力」をより効果的且つ効率的
に発揮させる為の下準備でもあったのかもしれない。碁盤の目──旧日本ではあれをそう形
容するそうだが、世界が画一的な地形ばかりであれば、空間核を撃ち込む際の狙いは格段に
つけ易くなる筈だ。

そして《統合機関(ルーラー)》は、私達人間の諍いの芽を、常時観測して「悪性」として
数値化し、記録してゆく。その値が一定値以上を超えてしまうと、周辺秩序を著しく損うと
して本部からその人物が居住する区域に向けて空間核が撃たれる……という仕組みだ。故に
物理的な抑止力と、巻き添えになってしまっては困るという周囲の人間達による心理的な抑
止力、もとい監視の眼がさも両輪のようになって現在の秩序というものを維持させている。

今後は例の如く、将来的に増産した人口や家畜などを再びこの「空き地」へと宛がう流れに
なるのだろう。その頃には「悪性」の判定を受けた当人は勿論、被害を被った関係者達も、
こういった過去を忘れてしまっている筈だ。

確かに世界は「平和」になった。乱立する国も、そこから生まれる争いも文字通り根っこか
ら破壊し、一つの仕組みの下に全ての人間が暮らすようになって久しい。
だがそこには、かつて叫ばれていた多様性とか、文化といった人間的な豊かさは一切介在し
ない。寧ろそれらを徹底的に浄化(クレンズ)することが、至上としてプログラムされてい
るかのように思う。

あれを開発した科学者という人間の顔や素性を、私は一切知らない。
彼(彼女?)は本気で、それが世界を平和にすることだと考えていのだろうか?
もしそうだとしたら、正直な話、狂気の沙汰としか思えないが……。

■1109-2812(ID:CA948775y3g)
嗚呼、神よ! どうして息子をあんな目に遭わせたのですか!?

これが試練だというのですか? 報いだというのですか? だとしたらあまりにも酷い。酷
過ぎます。あの神をも恐れぬ所業を──空間核を息子一人に撃ち込むなんて!

報せを聞いた時にはもうあの子の姿は、欠片一つも残ってはいませんでした。ただあの子が
歩いていたらしい場所がごっそりと抉られて消え失せ、人々が遠巻きからその様子を見つめ
ていたのです。……反秩序の罪? 私は何も知りません。仮にあの子がそんな非合法な組織
に唆されていたとしても、何故あの子なんです? 何故もっと上の、組織のリーダーのよう
な人間に落とさなかったんです? 理不尽じゃないですか、理不尽じゃないですか! あの
子は私達が貧乏なせいで満足な教育も受けさせてあげられなかったのに、あんなに頑張って
大学にも進んだんですよ? 卒業した後の進路だって決まりかけていました。私達にやっと
親孝行をしてあげられると、不器用でもはにかんでいたような子なんですよ!?

嗚呼、どうして? どうして、どうして、どうして!?

■1122-2812(ID:CA94695e0b)
息子が「削除」されてしまってからというもの、妻の精神状態は悪化する一方だ。
どうして? という問いなら私も同じ思いだ。しかし私のそれは、妻とは大分違っているの
ではないかと、最近思い始めている。どうして息子は、あの《統合機関(ルーラー)》に歯
向かおうという発想になったのか?

普通に考えて、敵う筈もない。相手はその気になればエリアの一つや二つ簡単に消し飛ばす
ことのできる化け物だ。おそらくは進学先で、性質の悪い連中に唆されていたのだろう。

確かに《統合機関(ルーラー)》がこの世を支配するようになって随分と経つが、実際戦争
の類は一切起きていないではないか。
危なっかしい国やら人間やらを事前に摘む──彼らにしてみれば、一連の統制は暴挙と映っ
ているのかもしれない。しかし私は、人生平穏が一番だと思っている。
両親がまだ若かった頃、世の中は今よりももっと酷かったという。国という幾つものエリア
が勝手気ままに他のエリアを奪い取ろうとしたり、ムラっけの大きい人間の政治によって、
人生を狂わされたり、文字通り命を失った者達も少なくないと聞く。そんな過去を思えば、
今は随分とマシではないのか。確かに窮屈さはあるが、下手を打ちさえしなければ誰しもが
最低限の生活は保障されている。家族の為にも、B級市民への昇格を目指していた時期が私
にもあったが……。

何にせよ、このまま妻までおかしくなってしまえば、私達も息子の後を追いかねない。
今の所はまだ大きな事件にはなっていないが、精神を病んだ彼女が誰かに危害を加えるよう
な真似をもしすれば、たちどころに「悪性」の加算が嵩んでしまう。そうなれば私も妻も、
ひいてはこの辺り一帯もが空間核の餌食になる危険性があるのだ。

C級民にとっては高過ぎる買物だが、今度皆と相談して深層シェルターの購入も検討した方
がいいかもしれない。医者の方も、このままずるずると妻を治せないなら、もう少し遠くの
地区まで探しに行くことを考えなければ。

……しかし不気味な話だ。一昔前は、空間核は基本1エリア単位だったというのに。だから
こそ同じ地区の住民同士、互いに協力し合って「悪性」を溜めないよう、この平和を維持す
るのにも役立っていると捉えていたんだが。

一体いつから、本部は人間一人に、ピンポイントに空間核を打ち込める技術を確立していた
のだろう? 少し前には、旧連邦の公館区にも落ちたそうだ。《統合機関(ルーラー)》に
しろ空間核にしろ、元々は彼らが開発した技術ではなかったのか。普通に考えれば、自分達
だけには予め、攻撃が飛ばないような設定くらいやっていそうなものだが……。

■0210-2840(ID:WE770114q3b)
同志に告ぐ。作戦決行は三日後の二十四時だ。
今度こそ奴らの本拠を落とす。予定の六方面を八方面に増やし、防御網を突(ERROR:

くっ、もう気付かれたか!? 再認証の間隔が以前よりも短くなってる。
気を付けろ。多分、この前の戦闘で向こうも警戒レベルを上げてる。もう偽造ID(ERROR:

ちっ……禁止ワードか。駄目だ、もうこっちでのやり取りは不可能だ。他の同志にも知らせ
てくれ! 奴らは既に俺達を監視(ERROR:思考ログじゃ駄目だ。紙を使ってやり取りを!

(ERROR-305:連続した不正ワードを検出しました。情報の遮断を開始します…

こんな世の中、間違□□□□ 俺達は□□と□□を手に□れるんだ!

俺達、ヒュー□ンライツ解放□盟は、決して屈(ERROR:
(ERROR-009:機構への敵対行為を確認。該当者への削除プロセスを開始します…

■0307-2915(ID:JP635008d2b)
もう□□しようも□い。この□の中は□□だ。

四六時中、何処へ行っても□が俺達を□てる。少しでも□□□動きを□せれば、すぐ空□□
が□□□□るようになっ□□った。もう《□□□関(□□ラー)》はトチ□□□る。いや、
そん□こと□ずっと前から分かっ□□□なんだ……。

一体、□□□まった地□は幾□□る? もう実際殆どが□□て□くなっ□□ってる。

こんなの、□きているって言□るのか? □んでるようなモンだ。俺□はあの□械の□□物
に、飼い□しに□□てるん□□! 完全に奴□だ! もう□えられ□□!

□□□盟は一体□処にいる? まだ□ってるのか?

頼む□……。もう俺を、□してくれよ……。
(ERROR-015:生存義務違反を確認。効率化の為、該当者の削除プロセスを開始します…

 ***

 廃墟の深層から幾つかの思考ログを発見したが、その大半は激しく損傷していた。復旧を
試みたものの、手持ちの機材では不十分なのもあるのか、判読可能な部分は限られている。
『……』
 全身を頑丈な防護服で覆った彼は、今や家屋とすら呼べない、辛うじて壁があったらしい
場所からゆっくりと這い出てきた。
 その手には、幾つかのデータを保存した淡翠色のビームディスク。
 発見した傍には紙に書かれた文面も幾つかあったが、何をするにも機械が欠かせない今の
時代において、一体何の意味があるのだろう?
『何か見つかったか?』
『ああ。一応古い思考ログと……紙が何枚かだ』
『紙ぃ? そりゃあまた、随分とアナクロな……』
 彼が掘った穴から出てくる姿を認めて、仲間と思しき他の防護服姿の面々が何人かこちら
へ近寄って来た。分厚いその格好越しに時折ノイズの掛かった呼吸を混じらせ、彼らがその
回収した成果に思わず眉根を顰めている。
『うーん。何もねえなあ』
『そうだな。上空からの観測でも生体反応は出なかったし、やっぱ死惑星とみて間違いない
だろう』
 仲間の内の一人の呟きに、淡々と。
 この当人を含め、少なからぬ面々が覆面の奥でそっと嘆息をついた。骨折り損というのは
まさにこの事だなと思う。
『──』
 彼らが見渡す限りの大地は、抉られた大穴が無数に並んでいた。まるで巨大な何者かにご
っそりと削り取られてしまったかのように、そこには街はおろか、命一つさえ無い。


 その星は極めて均一で、且つ無だった。
 全てはくすんだ黄色の土へと静かに埋もれ、芽吹きも鼓動する音も聞こえない。
                                      (了)

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  1. 2018/05/20(日) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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