日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「星詩(ほしうた)」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:迷信、欠片、彗星】


 僕は旅をする。僕達は、当ても無い旅をする。

 そこは満遍なく冥(くら)くて、音もなく僕達や、僕達じゃないものが数え切れないほど
に漂っている。時折光る何かが見えたりもするけれど、基本的に僕らはお互いにその存在を
知ることはない。只々漂って、彷徨って、この廣(ひろい)暗がりの中で旅をする。
 だけど僕達がその尾を引く時は、近くに大きな“光”がある証拠だ。
 いや、光というより“熱”の塊と言った方がいいのかもしれない。冥(くら)くて果ての
ない場所だけど、そうじゃないそれに手を伸ばしたって、救ってくれる訳じゃないから。
 引き寄せられて、撒き散らす。
 引き寄せられて、千切れてゆく。
 真っ赤な熱に溶かされて僕が、僕達の一部は散ってゆくし、強過ぎる輝きは、そんな僕達
の一部をこの冥(くら)がりの中に目立たせる。

 ……嗚呼、また僕が僕を失ってゆく。僕達が、また一つ僕達ではなくなってゆく。
 哀しいね。そうでもない? どうせ元々意味なんてなかったから。僕達はただの現象で、
誰かに求められたものじゃなくって、ただ人知れずそこに漂っているから。尾を引いて、千
切れていって、いつかは消えて無くなってしまうものだから。
『──』
 なのに妙なんだ。あの子達は、そんな僕を目を見開いてじっと見上げている。
 とても妙なんだ。あの子達は、そんな僕達に何とか意味を見出そうとしている。
 真っ赤な塊のお隣さん。そのお隣さんの、またお隣さん。その足場にずっと前から留まっ
ているあの子達。どうやらこの場所では珍しい、自律したもの達。
 彼らには、僕はどんな風に見えているのかな?
 どうだろうね。僕達と彼らじゃあ、あまりにも距離があり過ぎる。
 ただ少なくとも、あの子達は僕らのことを、自分達よりも大きな存在として信じているよ
うだった。時間の流れの中で──尤も僕達にとっては、あっという間なのだけど──彼らは
色んな意味を、僕達に与えようとしてくれたんだ。
『嗚呼! 空に凶兆が!』
『災いだ! 災いだ! 滅びが来るぞ!』
 最初の頃は、多分珍しかったんだろう。僕達がはっきりと見える度に、あの子達はとても
慌てている様子だった。石をたくさん積み上げた地面の上で、塵でも氷でもないだぼだぼの
衣を纏って、外側から飛んでゆく僕達に、何度も何度もひれ伏すようにお腹をつけている。
先頭に立つ子らが言った。真ん丸に目を見開いて、他の子らが仰々しく怯えている。

 ……とても妙なんだ。僕は何も、彼らにしてやれることなんて無いのに。寧ろあの子達の
方が、僕に意味を与えてくれてくれていたかもしれないのに。
 ……そうなんだ。買い被り過ぎなんだ。僕達は彼らに何もしてやれない。ただずっとずっ
とその外側を漂って、引き寄せられて、少しずつ千切れて消えてゆくだけの存在。そこに意
味なんて無く、意味を求めてもいけない。ただ“そういうもの”なんだから。だからこうや
ってあの子達を観て、冥(くら)がりの中、思いを馳せること自体が本当は必要とされてい
ないことでさえあるのかもしれなくて。

『あっ、流れ星!』
『願い事、願い事……』
『あはは。お前、まだそんなの信じてんの?』
 だけど気が付けば、あの子達も少しずつ学んできたようだ。落ち着いている地点によって
差はあったけれど、彼らは最初の頃ほど僕達を怖がることはしなくなった。まぁ中には、未
だに自分なりの意味を与えて、誰かを不安にさせようさせようとする子もいたけれど……。
 どうやら長い──彼らにとっては長い時間の中で、彼らが僕達に与える意味も随分と変わ
ってきたようだね。
 そのようだ。どうも地面の上から僕達が見えている間に、繰り返し願いを込めるといいん
だそうだ。もし成功すれば、その願いが叶うんだとか何とか。

 ……可笑しな話だけどね。そもそも僕達には、そんな力がない。意味を与えてくれている
のは他ならぬあの子達の方だ。僕達はただ、漂って引き寄せられて、千切れて消えるだけだ
っていうのに。
 ……誰が言い出したんだろうね? そもそも見えている間、という条件は不可能に近いん
じゃないかと思う。だからこそ難しく、達成しがいがあるのかもしれないけど。どうもあの
子達の考えることは筋が通っているようで、通っていないんだなあ。
 ……申し訳ないと思うよ。僕達には、そんな力はないのに。なのに限りある──僕達より
もずっと僅かしか存在(い)られないその時間を、そんな不確かなことに費やさせてしまう
だなんて。
 ……ああ、随分と肩を持つじゃないか。確かにそれはそうだろうけどね。僕達なんかに願
う暇があるのなら、もっと確実な努力をすべきじゃないかな? そもそも自身の在りようを
決めることすらできない僕達が、言える台詞でもないんだろうけど。

 僕は旅をする。僕達は、当ても無い旅をする。
 只々漂って、彷徨って、引き寄せられては千切られて。でもそんなずっとずっと外側の僕
達のことを、形は違えど見上げてくれる子達がいる。
 彼らは、何を思っているのだろう? どんな意味を与えているのだろう? どんな願いを
託しているのだろう?
 熱い塊に、輝きに引き寄せられて、僕達は千切れ消えてゆく。でも君達がその姿を見てい
る時には、僕達はもうとっくに消えて無くなってしまっているんだ。それだけ長い、君達に
とっては途方もない時間を旅して、光となって、僕達の最期はそっちに届く。
 だから……ごめんよ。その願いは叶えてあげられない。そもそも叶えるような力なんて何
一つ持っていないのだから。寧ろそうやって意味を与えてくれたことが、僕達にとっての幸
いであったのかもしれない。だからそんな眼を向けてないで欲しいその真ん丸の中に、こ
の冥(くら)がりと同じ広さと輝きを含んだそれを、向けないで欲しい。僕達はそこまで君
達の思いには応えられない。ただ最期に尾を引いて、消えてゆくだけなんだ……。

『まだかな……』
『あと、五分前。四分……五十秒』
 なのにあの子達は、いつも僕達をその地面の上から見上げていて。
 確かに、ずっと昔──僕達にとってはほんの少し前ほどそうやって僕達を見ている人数は
減ったけれど。気付けば彼らは自分から色んな壁を作って、お互いの距離を遮るようになっ
てしまったけれど。それでも時々、彼らは僕達が来るのを待ち構えている。よくは知らない
が、僕達がたくさん集まるタイミングというものを予め調べているらしい。そんな時には僕
達を見上げようとする物好きな子達が、自分の顔ほどはある筒を手に集まっている。
『りゅーせーぐん?』
『そうそう。こうぶわーっと、いっぱいお星様が出て来るんだよ』
 まだ色んな壁の建っていない所、なるべく平たい地面の上。
 彼らは僕達を見上げる為に集まっている。ずっと遠く、この冥(くら)い外側に向けて目
を凝らして、僕達の姿を追う。引き寄せられて、少しずつ千切れて尾を引いてゆく僕達のそ
の姿を、目を輝かせて見つめている。
 ……あんまり、見せびらかすような最期(すがた)じゃないんだけどな。
 ……いいじゃないか。それにすら、彼らは意味を与えてくれるというのなら。
 彼らの立つ地面のずっとずっと遠く、ずっとずっと外側。この冥(くら)くて廣(ひろ)
い場所から僕達も、彼らの姿を観ている。千切れてゆく自分の一部から、感覚と呼べるもの
が少しずつ切り離されて無に還ってゆくのを自覚しながら、だけど彼らのその輝かせた眼が
眩しくって、嬉しくって、でも切ない。
 ……ごめんよ。僕は君達に何も与えてやれない。災いを持ってくることもないし、まして
や願いを叶えるような力なんて持ってない。
 それでも、未だそんな僕達に意味を与えてくれるのなら……精一杯この最期を輝かせてあ
げようと思う。実際、束の間の出来事だ。引いた尾が長く彼らの頭上を描いて、でも長くは
もたずに消える。そもそも彼らにその姿が届いた頃には、僕達自体はとうに消えて無くなっ
ている。君達がどう思ったのか、喜んでくれたのか、それを確かめる術は、そもそも僕達に
は存在しない。ただ想像することしかできない。
『──! ──!』
 消えてゆく。千切れ続けて、消えてゆく。
 僕達に意味はあったのだろうか? 何か意味を残せるのだろうか? 答えは得られない。
得られる前に、この意識は文字通り塵になり、無に還るから。
 でもありがとう。知ることができて。僕達に束の間の夢でも──意味を与えてくれて。
 きっと届きはしないのだろう。こちらに届くこともないのだろう。
 でもありがとう。小さく脆い、無数の命よ。消え去るこの宙(そら)から、愛を込めて。
                                      (了)

スポンサーサイト
  1. 2018/05/13(日) 00:00:00|
  2. 週刊三題
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<(雑記)自由と理想と闘わぬことと | ホーム | (雑記)百罰の今と、関わる覚悟>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://higurasisouann.blog27.fc2.com/tb.php/992-eb23d069
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

訪問者累計

最新記事

最新発言

検索窓

月別履歴

09 | 2018/10 | 11
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -

分類/索引

【案内板】 (2)
【小説:短編】 (20)
本の蟲 (1)
硝子野不動産店 (1)
夏の日の幻影 (1)
四番線の彼女 (1)
夢視の宿 (1)
線を曳く町 (1)
炬燵の神様 (1)
三者三盗噺 (1)
色眼鏡 (1)
奴らは攻城戦師 (1)
詰め替える (1)
同じ籠の狢 (1)
二十年後の遺言 (1)
轍の先 (1)
水に流せば (1)
真夜中の御二柱 (1)
いつか見た夢 (1)
神様達の初詣 (1)
白い花束 (1)
丸の代償 (1)
【小説:長編】 (172)
Amethyst League (6)
アンティーク・ノート (3)
ユウキのヒカリ (5)
NIGHT GUNNERS (5)
レディ・ルーン-Bonds of RU'MEL- (6)
ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- (99)
死に損いのデッドレス (5)
Dear SORCERY (4)
サハラ・セレクタブル (39)
【企画処】 (403)
週刊三題 (393)
その他参加物 (10)
【資料庫】 (2)
【落書帳】 (2)
【詩歌帳】 (7)
【雑記帳】 (362)
【読書棚】 (31)
【遊戯倉】 (25)
path. (4)
decide: (3)
ユー録FW(凍結中) (17)

記事録

交友関係

このブログをリンクに追加する

(RSSリンク)

(QRコード)

QR

Tweets by long_month