日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「想失癖」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:音、箱、幻】


「じゃあ、久しぶりの再開を祝して……乾杯!」
「乾杯ー!」
「……か、乾杯」
 独特な雑音が響き渡る部屋の中で、そうカツンと互いに酒の入ったグラスを合わせる。
 私はこの日、中学・高校時代の旧友二人と会っていた。どうせなら、羽目を外して遊ぼう
と選ばれたのは、繁華街の一角に居を構えるカラオケボックスだ。
 相変わらずだな……。集合して初っ端からテンションの高い二人を見ていると、こっちが
変に恥ずかしいような懐かしいような、一人苦笑いを零してしまう。
 ここでは仮に、YとKと呼ぶ事にしよう。
 二人は学生時代から、スポーツが得意の活発な性格で、いつも皆の中心にいるような人物
だった。どちらかと言えば根暗で引っ込み思案な私とは対照的だ。正直な所、釣り合うよう
な相手ではないと思っていた。
 ……なのに、ある時二人は私に話し掛けてきた。
 当時から、切磋琢磨し合う良き好敵手(ライバル)同士だったYとK。
 そんな良くも悪くも熱くて無鉄砲な二人にとって、私がしばしば向ける眼差しと嘆息──
分析眼は、自分達にはない貴重なものと映っていたらしい。
「へえ。お前は倉庫業かあ」
「……そんな大層なものじゃない。下っ端に毛が生えた程度だ」
「でも実際、在庫管理や発送に関わってるんだろう? 立派じゃないか。そういうのって、
俺達の生活には欠かせない訳だしさ?」
「そうそう。お前らしくていいと思うぜ? 昔っから全体を見るのが得意だったもんなあ。
毎日スーツ着て、走り回るぐらいしか能のない俺達みたいのと比べりゃあよ」
 買い被り過ぎだ。私はただ少し物事を、俯瞰的に見ていたに過ぎないのに。
 くいっと一杯目の酒をすぐに空にして掌の中で弄びながら、Yが言う。筋肉質で日焼けし
たその笑顔は昔とあまり変わらない気がする。Kも一見スラリと背が高く、端正な顔立ちで
もってそうこちらを持ち上げてくる。……あまり褒めちぎってくれるな。きっと悪意は無い
のだろうが、自分を安易に下げながらのそれは、相手を却って不安にさせる。
「……それも立派な仕事さ。売る側がいなければ、そもそも品物は捌けない」
 カラン。グラスの中に残った酒に浮かんだ氷を揺らしながら、私は二人に少し窘めるよう
にして言っていた。職業に貴賎なしなどとは云うが、その実そんな言葉を吐いたのはただ単
純に、二人が真っ直ぐな言葉を向けてくるのが気恥ずかしい──内心、辛いかったからだ。
「へへっ……」
「そういう所も、相変わらずだよなあ」
 なのに一瞬ポカンとして、互いに顔を見合わせて。
 二人は笑う。長い歳月を経ているにも拘らず、極々当たり前のように私に向かって。

 ……私では釣り合わない。だがそれはきっと、正確な表現ではないのだろう。
 ずっと怖かったのだ。こんな偶然にも近い出会いと繋がりも、いずれ風化するように消え
てゆくのだろうと。別れの時は来るのだろうと。
 事実つい最近まで、私達はこうして直接会うことなどなかった。有り体に言えば、時の流
れがそれぞれの環境を変えてしまった──お互いに“大人”になったのだから、もう昔では
なく、今を生きなくっちゃならない。
 なのに二人は、卒業後も連絡を取り合っていたらしい。私の下にもKからRINEの招待
が来て、時々メッセージのやり取りはあった。それでも結局、私は自ら能動的に連絡を取る
ということはなく、向こうから来る何気ない「久しぶり」とか「元気か?」といった文面に
短い返事を寄越すくらいのものだった。
『~♪』
 酒も適度に回り、YとKは歌い始めた。カラオケ画面に、何処ぞの役者とも知れぬ男女が
語らう場面だったり、或いは佇むような姿が次々と映ったりしている。流行りの歌なりアー
ティストなりはよく分からないのだが、少なくとも二人とも随分若い感じのアップテンポな
歌を好んで歌っているようだった。同い年の筈なのに、精神的なそれがすっかり違ってしま
っている。
 私はと言えば、変わらずちびちびと飲みながら、この二人の様子を見ているだけだった。
彼らとは違って、私はあまり歌も得意ではない。いや、羞恥心の問題か。こうして誘われで
もしなければ、普段こんな場所に足を運ぶことは無いと言っていい。一人でなど尚更だ。
「……」
 改めて、二人と私は違うんだなと思う。同じ部屋の中にいながらも、こうもアグレッシブ
さに違いがあるとは。改めて何故あの頃、彼らは私なんかとつるもうとしたのだろう? と
不思議でならない。
 ……きっと、その辺りを動き出す前に色々考えていないから、なのだろう。私はつい相手
に対して「理由」なり「目的」をつけたがるが、二人は多分そういうものを殆ど意識しなか
った。自分達とはある意味真逆のタイプの人間に対しても、ただ純粋に“面白そうだから”
と近付いて行ったと表現する方が正確なのだろう。そういったことが、思慮を踏まえずとも
すんなりと出来てしまうのが、この友らの持つ強みなのだろう。私には、終ぞ持ちえなかっ
たものなのだろう。
 ……嗚呼、そうだ。私達はいつもそうだった。
 とにかく目の前の興味に真っ直ぐで、正直に動くYとK、そんな二人を──時にまだマシ
である方のKと一緒になって、必要とあらばブレーキを掛ける役が私。だから私は長い間、
ずっと“考える”ことに集中できた。目の前の誰かとの繋がり、関係性が維持できたのは、
いつだってこの二人のお陰だったのだから。
「なあ、お前は歌わないのか?」
「ん? ああ……。そういうのは得意じゃないから。お前達が楽しんでるならそれでいい」
 いつもいつも、目の前にあるものに悲観的で。いずれ壊れ、消えてゆくものだと分かった
風に構えて、その実怖いから関わらないようにしてきただけで。
 当たり前だったんだ。意識しているか否かに拘らず、それを維持しようとする努力もしな
いで、壊れるのを止められる訳がないんだ。消えてしまうと嘆くだけで、何も自身の労力を
割かないというのは、身勝手ではないのか……?
「んー。そう言われてもなあ」
「むぐ……。やっぱり一緒に楽しまないと、損だろう?」
 はたと交互に続いていた歌が止まり、マイクを片手にしたYが、口を軽くへの字に曲げて
いた。Kもちらっとこちらを見ながら、注文してあったつまみの残りをもきゅもきゅと口に
運んでいる。白け始める──と言えば言い過ぎなのかもしれないが、二人からはそんな不満
そうな様子が見て取れた。
「……」
 私は少し押し黙る。多分、こういう所があるから、今までもずっと生きるのが下手だった
のだろう。その点でもって二人が──これまでの経緯からして私を切り捨てる可能性は低い
とは思うが、そうやって彼らの、相手のエネルギーに頼ってばかりいた事がそもそもの間違
いだったのだから。
「仕方ないな……」
 言いながら、私は躊躇いつつも残りのマイクを手に取った。検索装置を慣れぬ指先で操作
して、自分の記憶の中から引っ張り出すのは、二人とは違って少し古めのバラード調の曲。
大丈夫かな……? 恐る恐るそっと顔を上げたが、この友らがイントロが鳴り始めると途端
に上機嫌で音頭を取り始めた。苦笑いを零し、私は歌い出しの直前で大きく息を吸い込む。
『~♪』
 正直、お世辞にも上手いとは言えない。そんな事は自分が一番分かっている。選曲だって
古いものばかりだし、普段遊び慣れているであろう二人からすれば、多少なりともギャップ
を感じていたっておかしくはない。
「へい、へいっ!」
「へい、へいっ!」
 なのにこの友らは、まるでそんな素振りを見せなかった。そんなに私がカラオケ遊びに加
わってくれたのが嬉しかったのか、二人して両手を叩いてリズムに乗っている。或いは酒が
先程よりも回ってきたからだろうか? 彼らのテンションに、私の声もついボリュームを上
げて調子に乗り始める。
「……」
 やっぱり慣れないけどなあ。
 そうして私達三人は、歌って食べて、語り明かす。

 カラオケが済んだ後、私達は近くの居酒屋へ梯子し、一通り飲み直した頃にはすっかり夜
も明けていた。
 薄く白ばんだ街の中を、三人で歩く。
 ちょうど週末ということも手伝って人通りは疎らだが、あと二・三時間もすれば普段通り
の賑わいが戻って来るのだろう。
「はあ~……。楽しかったー!」
「ああ。こんなに遊んだのって、随分久しぶりな気がする」
「そうだな。後で身体が悲鳴を上げなきゃいいけど……」
 大きく伸びをして、Yが未だテンションの高いまま言った。変にハイになってしまってい
るのだろう。Kも落ち着いて頷いてこそいるが、内心小躍りしっ放しな風に感じられる。私
もそんな二人のやや後ろを歩き、苦笑(わら)った。まるで若い頃に戻ったみたいだ。
 おもむろにYとKがこちらを振り向き、ニヤリと笑った。何かおかしい事でも言っただろ
うかと思ったら……嗚呼そうか。そんな言葉が衝いて出てしまうくらい、現実にはすっかり
私達も歳を取ったということだ。事実おじさん三人が、妙に浮かれた様子で明け方の街を歩
いているのだから。
「あーあ、もう終わりかあ。あっという間だったなあ」
「偶にはこういうのもいいモンだね。普段の息抜きも兼ねてさ?」
 再び前を向き始めたこの友らが言う。久しぶりの再開、そして別れを惜しむように。
 私も内心、同じことを考えていた。一時の娯楽に身を任せても、こうして必ず終わりはや
って来る……。
「また集まろうな!」
「その時は連絡するよ。RINE、見といてくれよ?」
 だからフッと振り向いてきた、そんな二人の姿が、かつての学生時代と重なって見えて。
「……。ああ」
 だから私は、あれこれと理由を考える暇もなく、頷くしかなくて──。
                                      (了)

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  1. 2018/05/01(火) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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