日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「アイ・ディール」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:天国、東、墓場】


 その国は、まさに理想郷でした。

 その国は、前方に交差する複数の運河を、後方に外海を抱えていました。
 即ち大陸の端っこです。ですが見方を変えれば、周辺の国々にとっては最短距離を行ける
重要なルートでもありました。大陸の外へと進出する為には、是非とも押さえておきたい要
衝の一つだったのです。
 それ故にこの国は古くから、周辺国との小競り合いが絶えなかったといいます。尤も当時
は、大陸中の国々が野心を抱き、或いは剥き出しにして領土の拡大に心血を注いでいました
から、その事自体を今の価値観で責めても仕方ないのかもしれませんが……。
 その国は、決して強大という訳ではありませんでした。寧ろ豊富な水がもたらす山海の幸
に感謝しながら、のんびりと暮らす──そんな人々が集まる国でした。
 しかし、そんな彼らの内情や国民性を、周りの国々が鑑みることはありません。しばしば
各国は軍を率い、この土地を我が物にすべくやって来ました。大陸の少なからずを通るこの
運河を掌握すれば、外海と直接接するこの国を手に入れれば、自分達はもっと大きな富を得
ることができる……。
 その度に、この国の人々は立ち向かいました。戦わざるを得ませんでした。のんびりと流
れていた水と緑の世界が、時を経るにつれ、石畳と焼け跡の広がるそれへとどんどん変わっ
てゆきます。そんな姿が、あちこちのありふれた光景となってゆきます。
 この国の民の為に──歴代の首長らは、懸命にこの外敵との戦いを耐え続けました。その
政策はしばしば、肝心の民こと人々の生活をも縛り、ゆとりを失わせました。のんびりと思
い思いのままに過ごしていた日々、自由さえも目減りしていって……人々の間には、着実に
時の為政者らへの鬱憤が溜まってゆきます。
 そんな、ある時代のことでした。遂にその国は、度重なる侵攻に押し負けて敗戦の憂き目
に遭ったのです。中々どうして粘り続けるこの国に業を煮やした幾つかの国が、連合軍を組
織して落としに来たのです。
 当時の為政者は処刑されました。それは連合軍による見せしめでもありましたが、同時に
既に支持を失っていたこの国の人々の溜飲を下げる行いでもありました。
 この国の為に──しばしば時の首長達は、そう言って皆の団結を呼び掛けました。
 ですが……正直な所、人々は飽き飽きしていたのです。
 そう言って、生活は悪くなる一方じゃないか、外側に敵を作って自分を正当化しようとし
ていただけなんじゃないか? 何より長年寄せては返す波のように繰り返されてきた戦いの
歴史は、人々に諦めの境地を抱かせるには充分でした。

 これで……ようやく終わる。
 もう誰がお上になろうが、構わない。

 待ち侘びた時代の始まりの筈でした。無理やり“一つ”になることを強いられてきた日々
から解放され、安定した暮らしがいずれは戻って来ると信じていました。

 ***

 ですが、端的に結果を述べればそんな事はなくて。
 それまでの首長が倒され、この国に入り込んで来た連合軍。しかしこれで安定した政治が
戻って来ると思いきや、今度はその連合軍を形成する国々同士が争い始めたのです。
 無理もなかったのでしょう。あくまでこの同盟は、この国という要衝を落とす為に結ばれ
たもの。元よりそれぞれがその先の“自分”の野望を見据えていた時点で、少なくともこの
国を治め直すというエネルギーも覚悟もありはしませんでした。
 再び、今度は国だった土地の中で、連合軍だった者同士が戦い始めます。各国の軍ごとが
それぞれに支配下の置いた地域の人々を搾取し、生活はまたしても悪くなってゆきました。
彼らは人々に自らの勢力の名の下“一つ”になることを強要し、従わない者を次々に迫害し
てゆきました。人々は頭を抱えました。こんな筈じゃない。このままでは、本当に自分達は
根絶やしになってしまう……。
 そこへ現れたのが、現在の首長の源流を引く者達です。彼らは当時有力な勢力だったとあ
る国軍と手を組み、残るこれらを排除するべく戦いを繰り広げました。そしてようやく国内
が統一され、力を取り戻した隙を狙ってこの協力していた国軍さえも追い出したのです。
『──我々は、自由を愛する!』
『──我々は、等しく権利を有する!』
『──我々は、何者にも縛られることはない!』
 それは長らくこの国の人々が、連綿と受け継いでいた思い。時の為政者の都合によってそ
の“結束”を強制され、その精神の自由を侵されてきたことへの強い後悔。そして今度こそ
は決して、それらが為政者らの足元で踏みつけられぬような国にしようと……。
 人々は歓喜しました。諸手を挙げた賛成によってこの新しい首長を迎え入れました。
 ずっと、代々密かに語り継ぎ、抱えてきた時代への鬱憤。それらを代弁し、至上のものと
掲げる者達が現れた。その瞬間に立ち合えたことが、どれほど嬉しかったか。
 時代も、この動きを後押ししました。長らく続いていた大陸中の戦乱がようやく落ち着き
を見せ始め、各国の領土も確定してゆく最中にあったからです。かつて外海から大陸の外へ
と進出して行った拡張路線も、未開の各地の抵抗に遭い、その多くが結果的に失うものの方
が多かったからという各国の失敗経験も大きく影響したと云われています。
『自由! 自由! 自由!』
『我らが共和国に、栄光あれ!』
 新しい──これまでになかった、全く新しい国の始まりです。
 人々は歓喜しました。人々の自由を、権利を平等を守る為の法律が次々と整えられてゆき
ました。それぞれが自らの暮らしを謳歌できるように、様々な仕組みが創られ、運用される
ようになりました。人々はこの国の人間なら、誰でもそれを行使できます。もしそれらを妨
げる者がいたとすれば、たとえいわゆる権力者であっても、強い謗りは免れないでしょう。

 ***

 その国は、まさに理想郷でした。

 その国に住む人々は皆、生まれながらに様々な自由と権利を、平等を保障され、自分なり
の人生を何も臆することなく楽しむことができます。探求することができます。
 例えば、こんな声がしばしば通ります。
『私は、自分を犠牲にしてまで働きたくはない。貴方の求める条件は、私を縛る』
 訴えは認められ、この住民は以前よりもずっと多くの余暇を楽しむことができるようにな
りました。組織によって“奉仕”を強制されない──やがてその考え方は、この国の当たり
前として定着してゆきます。
『私は、女性だからと侮られることが耐えられない。貴方の求める役割は、私を縛る』
 訴えは認められ、この女性は以前よりもずっと女性であることに胸を張れるようになりま
した。性別によって“役割”を強制されない──やがてその考え方は、この国の当たり前と
して定着してゆきます。
『私は、彼らを虐げる貴方がたを悪と断じます。貴方がたの行いは、間違っている』
 訴えは認められ、他国から流れてきた人々は以前よりもずっとこの国で暮らしやすくなり
ました。出自によって“階級”を強制されない──やがてその考え方は、この国の当たり前
として定着してゆきます。

 高く掲げるのは、自由と権利、そして平等。
 それらを侵そうとする者、制約しようとする者、その全てにこの国は立ち向かいました。
ひとえにそれは、長い歴史の中でしばしば“一つ”に集まれと押し付けられてきた、人々の
苦々しい記憶によるものです。
『──ちょっと待ってください。それは彼の自由を侵すことになりませんか?』
『──ちょっと待ってください。それは彼女の権利を認めないということですか?』
『──ちょっと待ってください。それは公平ではないのではありませんか?』
 また一方で、彼らはその“理想”を広く伝えることにも熱心でした。
 西に、この国への視察希望者らがいると聞けば手厚く出迎え、東に後れた文明があると聞
けば、現地に乗り込んで正しに向かいます。
 彼らは信じていました。誰かを蔑ろにすることを許せば、いずれ自分達がその標的になっ
てしまう。自分達が蔑ろにされることに声を上げなければ、きっと“強き者”達は自分の都
合のいいようにこの土地を操るだろうと。
 ……それだけは決して許してはならない。それは、連綿と記憶されてきた自分達の苦難の
日々なのだから。繰り返しては、再び暗黒と言われたあの時代が戻って来てしまう……。

 人々は、国を挙げて、その理想を侵す者達を指弾していきました。仮にその対象が時の首
長であっても一切の容赦はしません。というよりも、彼らが“国”や“結束”といった概念
を持ち出し始めると、人々はこれを強く敵視するのでした。
『北の帝国が、また力をつけてきている。このままでは、またこの国が戦場になってしまう
かもしれない。ここは皆で、備えを強くするべきだ』
『そんな言葉には騙されないぞ! 敵を作っておいて、自分に支持を集めようしているだけ
だろう!?』
『そうだそうだ! そう言っておいて、また私達の自由を奪うつもりなんだろう!?』
『こいつは自由の敵だ! こいつを、引き摺り下ろせ──!』

 ***

 長い年月が経ちました。いえ、確かに大陸中の戦乱があった頃からすればまだ比較的最近
の内なのかもしれませんが、それでも新しく生まれ変わったこの国も、そんなかつての苦難
の歴史は過去という暗がりの中に埋没しようとしています。
 ちょうどこの頃、おかしな現象が起こっていました。国内の人口が減少の一途を辿ってい
たのです。周辺の国々からの移住者も減り、ひいては生まれてくる子供達の数も。何より不
思議でならなかったのは、国から出て行く人々が年々増加しているとの調査結果が出たこと
でした。
『──本当に、行っちまうのかい?』
『ああ。家族と話し合って決めたんだ。ここはもう、俺達が暮らすには厳し過ぎる……』
 運河と小高い丘陵地帯を臨む国の玄関口から、今日もまたとある一家が荷物を纏めてこの
国を後にしようとしています。老齢の、残される縁者らが見送っていました。彼らの寂しそ
うな声音に、この一家の大黒柱たる男性は申し訳なさそうな表情をみせています。
『……』
 そんな遠巻きの光景を、この国の人々は眺めていました。皆白く清潔なローブ状の衣装を
身につけ、じっと真っ直ぐな眼でこれを見つめています。目立った感情の起伏はなく、ただ
心底不思議そうに、互いに話しています。
『何故なんだろう? この国に一体何の不満があるというのか』
『分かりませんね。他国へ渡っても、自由や権利の侵害は酷くなるばかりですのに』
『もっと啓蒙活動の範囲を広げる必要がありますね。北方や東方の島々には、未だに意識の
低い民族が多く残されていると聞きますし』
 うーむ……。そう淡々としていながらも、彼らは真剣に悩んでいました。この国にはいつ
しか、二種類の人間が存在するようなりました。

『……何とか引き留められないものでしょうか?』
『できませんね。それは何処に住むかを選ぶ、彼らの自由を侵すことになります』
 一つは、この国の理想に順じ、遂行できぬ者を許さない人々です。
『それにもう……。彼らは“私達”ではありませんから』
 一つは、この国の理想を遂行できず、許されない人々です。
                                      (了)

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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

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