日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「先に脱ぐこと」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:サボテン、先例、地獄】


 君達は、きっと棘を纏っているのだろう。君自身が傷付かないように、何重にも棘の付い
た皮を被って。
 ……ああそうだ。それ自体を責める訳じゃない。その行為自体が悪なんかじゃない。君の
接するセカイが、善意に溢れているとのたまうほど、無責任なつもりはないのだから。
 それでも、聞いて欲しい。
 私の言葉に立ち止まって欲しい。

 君の纏う棘は、誰かを傷付けてはいないだろうか? かつて君を今へと追い遣った者と、
その誰かは別人なのに。もしかしたら、その追い遣った者は、未だ君の近くにいるのかもし
れないけれど。
 君は棘を纏っている。
 その切っ先を向けたまま誰かに近付いていることに、君は気付いているだろうか? 自ら
を守ろうとして、他の誰かを突き刺してしまってはいないだろうか?

 警戒だったり猜疑だったり、不信だったり。或いは漠然とした憎悪だったり。
 だがそれは地獄なんだ。そんな現実に、君達は加担していることになるんだ。
 今まで君は、たくさん傷付いてきたのだろう。たくさん失敗してきたのだろう。
 でも、殆どの他人びとは──君の前に現れる誰かは、そんな過去を知らないだろう。そん
な思いを汲み取ってはくれないだろう。ただ棘の皮を被ってじっとしている、或いはにじり
寄ってくる君を、危なっかしい何かと思って一瞥するのだから。もしかしたら、かつて君が
そうしてきたように、警戒だったり猜疑だったり、不信を抱き始めるかもしれない。

『自分は、○○と言われて傷付いた』
 そんな君の思いを、その誰かは知らない。
『自分は、△△に酷い目に遭わされた』
 そんな君の経験と、その誰かはイコールじゃない。
『自分は、××というものを憎む』
 そんな君の決意は、その誰かにはまるで拒場(きょば)のように映る。

 君はたくさん傷付いてきた。失敗をした。辛い思いをした。
 だけど、その復讐の相手を君達は往々にして間違う。抱え込んだその失敗を、痛みを、憎
しみを、本来関係のない誰かにも向けてしまってはいないだろうか?
 ……地獄なんだ。矛先を向ける相手を間違うほどに、君がかつて君を追い遣った者と同じ
過ちを犯すことで、君達の接するセカイは一層救われないものになる。他でもない、君達自
身を苦しめる。纏った棘は自分以外の誰をも守らない。只々その切っ先は、君が自覚するし
ないに拘らず、その場に居合わせた他の誰かを傷付けてしまう。

 泣き寝入りしろっていうのか──違う、そうじゃない。気付いて欲しいんだ。君がその棘
を纏っているままじゃあ、君は救われない。君の周りにいる人々も、救われない。
 棘は所詮、棘でしかないんだ。突き刺す以外に、出来ることはない。
 君が棘を纏っていて、誰かも棘を纏っていたら、ぶつかり合って近付けない。
 君が棘を纏っていて、誰かが棘を纏っていなければ、今度はその誰かが傷付くだろう。
 かつて、君が誰かにそうされたように。今度は君が──意図するしないに拘らず、その誰
かを傷付けるだろう。拒絶、短慮、無理解、無自覚。或いは自分を“守ろう”とする余り、
その固さが相対した誰かを傷付ける。
 頑なさとは、転じれば攻撃力だ。棘を着込んだまま近付けば、その棘が相手を突き刺す。
 自分を守る為に。
 自分が損をしない為に。
 自分が自分である為に。
 そうして放った言葉が、態度が、哲学が“アタリマエ”となって飛び回る……。

 きっと君を傷付けた誰かも、そうだったのだろう。彼なりの、彼女なりの“アタリマエ”
を疑わず、棘の皮を纏って歩いていると気付けず、運悪く君はその餌食となった。或いは彼
も彼女も、別の何処かで傷付いて、自らその棘の皮を着込み始めたのかもしれない。
 ……だから地獄なんだ。君を追い遣った誰かは、その前の誰かから。追い遣られた君が、
その次の誰かに。その別の誰かが、新しく棘を纏って、更に別の誰かに。
 輪転する。その始まりが、一体誰であったのかも分からなくなるほどに。
 不毛である。誰一人として、その行き着く果てに在る姿も知らないで。
 ただ確かなのは、誰もがそうして棘の皮を纏って離さない内は、誰もが「被害者」である
ということ。つまりは要求する側だ。権利がある側だ。要求しても、大勢が咎めない側だ。
 でも……実際はどうなのだろう? 周りの他人びとの多くが知らない過去を、痛みや憎し
みを内側に抱えて、外側から見れば棘の皮を纏った危うさの塊。
 君はたくさん傷付いてきた。だから、こんなセカイは間違っていると願う。
 それ自体が、更に多くの痛む人達を生み出す可能性も知らないで。自分だけが、その思い
を尊重されるのだと、されるべきなのだと思い込んで。

 だから君は、脱いでみるべきなんだ。先ずはその棘の皮から自分を出して、切っ先を向け
ずに頼んでみたらどうだろう? そうすれば少しは、君と出会う人達も、要らぬ警戒を猜疑
を不信を、抱かずに済むのだから。
 ……ああそうだ。しかし一方で、これは大きな賭けでもある。君が棘を纏わずに歩くよう
になっても、他の誰かが纏っていないという保証は何処にもない。寧ろそんな誰かに出会っ
てしまったら、また理不尽に傷付いてしまうかもしれない。
 だけど落ち着こう。彼は、彼女は、まだ“途中”の人なんだと思えばいい。棘の皮を着込
まなければこのセカイを安心して歩けない、まだ道半ばの人なんだと理解すればいい。その
誰かの、皮の内側までをその都度知ろうとしなくてもいい。ただそうなんだと、かつての君
を思い出して、そっと身をかわせばいいだけなんだ。ギリギリまで近付いて「危ないよ?」
と言ってあげられるなら、本当はもっと良いんだけど……。

 君はたくさん傷付いてきた。失敗した。辛い思いをした。
 同じように、その誰かもたくさん傷付いてきたし、失敗したし、辛い思いをしたんだと私
は思う。時には“同じ”と括られるのが嫌だと言われるかもしれないけど、だったらその皮
を脱いでくれと君達は伝えよう。だって分からないんだから。“同じ”じゃないんだから。
君の過去と、彼の過去。彼女の過去。それぞれに違った痛みがあって、苦しみがあって、そ
の末に君達は棘を纏うと決めた。同じ過ちを繰り返さないように──もう同じことで傷付か
ない為に。ただそのやり方が、ちょっと極端なだけで。“相手”を分別していないだけで。

 ○○と言われて傷付いて。
 △△な誰かに酷い目に遭わされて。
 だから××なもの全てを憎むようになった。少なくともそうすれば、同じ過ちがまたやっ
て来ても、気付ける筈だと思ったから。

 繰り返そう。過去の君は今の君じゃない。君を傷付けた過去の誰かは、今の誰かとは本来
別人の筈だ。それでも反応してしまうのは、そうやって××な「全て」にセンサーを向けて
しまっているから。実際に君へ悪意を与えている訳ではないのに、まるで“また”自分が傷
付けられようとしている。そう錯覚してしまう。……尤も無理はないのだけれど。それだけ
君が受けた痛みは、忘れられなくて。忘れる訳にはいかなくて。それが自分を“守る”機能
と深く紐付けされて、心の中で金切り声を上げる。ガンガンと響いてきて、プログラミング
された痛みに、気付けば依存してしまっているのだから。捨てられなくて。捨てる訳にはい
かなくて。いつしか棘の皮は、君が纏うものではなく、君を纏うものになってゆく……。

 地獄なんだ。悔しいかな、君達の接するセカイは、そんな風になってしまった誰かで溢れ
ている。色んな段階の“途中”の人達が溢れ、しばしば君達を傷付けるだろう。
 でも……でも、願わくば。そんな理不尽を受けても、棘の皮を着込まないで欲しい。しつ
こいようだが、君の纏った棘が、いつかまた新しいその誰かを生み出してしまうかもしれな
いのだから。
 率先して損をしろ、という風に聞こえうるんだとは思う。
 だけどこの今繰り広げられている地獄を解消する為には、そうして地道に君達が、私達が
棘の皮を纏わないと決めなければならないんだ。纏わずに登ってゆくと決め続け、歩み続け
る必要があるんだ。少しずつでもいい、休んでいてもいい。せめて君が今へ追い遣られたと
いう過去と、今ある棘を纏った人達とを混同しないで欲しい。痛みを知ったからこそ同族を
忌むのではなく、そっと遠くから見守って欲しい。わざわざ関わる──彼や彼女の棘に刺さ
れろとまでは言わないから、君は君で、その棘の皮を脱いで欲しい。先ずは君から、危険の
芽を摘んで欲しい。

 繰り返そう。過去の君は今の君じゃない。過去の痛みは、今の痛みじゃない。忘れろと言
っても難しいのだろうけど、それらが今の君の“拠り所”と化しているのなら……それは間
違いなく不健全だ。
 先ずは君から脱ぎ去って欲しい。棘の皮を着込み続けることは、これからの他人びとだけ
でなく、何よりも君自身を過去のまま停止させるのだから。時は動いている。停止したまま
であればあるほど、気付いた時、君はどうしようもなく引き裂かれるだろう。もしかしなく
ても、また新たに厚く厚く着込んでしまうかもしれない。私達に、君と出会う外側の全ての
人々に、それこそ永遠に知りえぬ膨大な思いを背負い込んだまま。秘匿したまま。
 どうして解ってくれないんだ──? 願っているのに、他でもないその分厚く着込んだ棘
の皮こそが、君を知ってくれる全てのものを拒むというのに。

 “欲すれば、先ず与えよ”
 それは単なる、美辞麗句で曖昧な愛ゆえではなく、人は皆自分が大事だという現実に、原
則に向き合った上での解法なのだから。棘同士がぶつかり合うこの地獄を、少しでも冷ます
為の一滴なのだから。

 ……君達は、きっと棘を纏っているのだろう。
                                      (了)

スポンサーサイト



  1. 2018/04/22(日) 00:00:00|
  2. 週刊三題
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<(長編)サハラ・セレクタブルⅢ〔33〕 | ホーム | (企画)週刊三題「イグノア」>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://higurasisouann.blog27.fc2.com/tb.php/983-6af4bcf9
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

訪問者累計

最新記事

最新発言

検索窓

月別履歴

11 | 2019/12 | 01
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -

分類/索引

【案内板】 (2)
【小説:短編】 (20)
本の蟲 (1)
硝子野不動産店 (1)
夏の日の幻影 (1)
四番線の彼女 (1)
夢視の宿 (1)
線を曳く町 (1)
炬燵の神様 (1)
三者三盗噺 (1)
色眼鏡 (1)
奴らは攻城戦師 (1)
詰め替える (1)
同じ籠の狢 (1)
二十年後の遺言 (1)
轍の先 (1)
水に流せば (1)
真夜中の御二柱 (1)
いつか見た夢 (1)
神様達の初詣 (1)
白い花束 (1)
丸の代償 (1)
【小説:長編】 (194)
Amethyst League (6)
アンティーク・ノート (3)
ユウキのヒカリ (5)
NIGHT GUNNERS (5)
レディ・ルーン-Bonds of RU'MEL- (6)
ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- (111)
死に損いのデッドレス (5)
Dear SORCERY (4)
サハラ・セレクタブル (49)
【企画処】 (472)
週刊三題 (462)
その他参加物 (10)
【資料庫】 (2)
【落書帳】 (2)
【詩歌帳】 (8)
【雑記帳】 (403)
【読書棚】 (32)
【遊戯倉】 (25)
path. (4)
decide: (3)
ユー録FW(凍結中) (17)

記事録

交友関係

このブログをリンクに追加する

(RSSリンク)

(QRコード)

QR

Tweets by long_month