日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「イグノア」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:部屋、破壊、テレビ】


 彼はその日も、アパートの自室でごろごろとしていた。定職に就くことはもう何年も前に
諦めてしまい、定期の派遣や期間工で金を貯めては取り崩すという生活が続いている。
「……」
 彼はぼうっと横寝をしたまま、点けっ放しのテレビを眺めていた。
 時折飽きてきて、チャンネルを変えたりもするが、画面に現れるのは代わり映えのしない
外の世界だ。
 こちら側を蚊帳の外に置いて、内輪だけで盛り上がっているバラエティ。
 最早テンプレートをなぞるだけの、トントン拍子で手掛かりが集まったり、主人公の説得
にあっさり泣き崩れる犯人。都合の良過ぎるサスペンス。
 芸人が、芸に専念もせずに、何を勘違いしてか政治や社会を語っているワイドショー。
 その一方で、そんな言い並べられる“綺麗事”とは逆に、特定の演者(だれか)を弄り回
すことで「場」が成立しているさま。一体日頃苛めは駄目だ、パワハラは駄目だと大仰に言
っておきながら、舌の根が乾かない内に真逆のことをやっているのは──そこに誰も違和感
を持っていないのはどういう神経をしているのか。
 もっと子供の頃は、好きな番組があって、それこそその時間には齧り付いて観ていたよう
な気がする。単純にあの頃は何も知らない馬鹿であって、今みたいな妙に冷めた目で世の中
を見ていなかったなのだろうが……。

 遠くの街で、誰かが金を盗まれた。
 しかし彼は「ふぅん?」と一瞥を遣るだけで、特に何も感じなかった。何故なら自分の住
んでいる近所ではなかったし、何より見知らぬ赤の他人だったからだ。
 遠くの街で、誰かが殺された。
 しかし彼は「ふぅん?」と一瞥を遣るだけで、特に何も思わなかった。何故なら自分の知
っている場所ではなかったし、何より涙を流す理由がなかったからだ。
 遠くの町で、誰かが事故を起こした。
 しかし彼は「ふぅん?」と一瞥を遣るだけで、特に何も怒らなかった。何故なら自分の日
頃の行動範囲ではなかったし、何より実害を受けた訳ではないからだ。

 今日も画面の向こうから色んなニュースが流れてくる。昔では知り得なかった、いち個人
にはどだい抱え込むには余りある情報が、電波に乗せられてやって来る。
 だから彼は、次第に疲れてしまった。気付けばそれらを右から左に、受け流しながら小さ
く纏まることを是とするようになっていた。それが処世術で、いわゆる“大人”になること
だと思った。一々飛んでくる話をまともに受けていたら、それだけで一日が過ぎてしまう。
こっちは自分の生活、仕事を耐え切ることで精一杯なのに、他人のあれこれを知らされても
困る。○○でしょう? ○○だと思え──感じることを押し付けられても困る。何があって
お前らにそんな権利がある? 何で自分にそんな義務がある?
 まったく、面倒臭い。かったるい。
 人のエネルギーは無限じゃないんだぞ……。

 彼は思っていた。明日の天気も、ただ報せてくれればいい。用はそれで足りる。別に余計
な茶番などこちらは頼んじゃいない。
 彼は思っていた。他人の惚れた腫れたなんぞ聞いてもいない。別に自分は親戚でもなけれ
ば、知り合いでもないというのに。
 彼は思っていた。画面の向こうではほぼ毎日のように誰かのスキャンダル──粗探しを皆
でやって、散々に騒いで混ぜっ返した末に、放置する。他人の不幸は蜜の味、という奴か。
だが別にそんな話、聞きたくもなかった。頼んでもいなかった。綺麗事を言いながら、一方
でその渦中の人間に皆で石を投げ付けることにどんな正しさがあるというのだろう? 疑問
だったし、何より疲れた。毎月のように尽きることなく追加される“燃料”に、こっちの方
がすっかりガス欠になってしまった。面倒臭くなった。
 彼は思っていた。若者の○○離れというが、要するにそれは金が無いからだ。ステータス
と言われるものが限られていた時代はとうの昔の話だし、何よりそもそも金が無い状態なら
ステータスみたいな外見よりも先ず、食う方を優先して当たり前だ。それを「俺達の頃とは
違う」と顰めっ面を向けてくるのなら、給料を出せ。誠意をみせない相手に、どうしてこち
らが全力を尽くしてくれると思うのか? 使う金も、使う暇も奪っておいて、儲からないと
嘆いている奴らを見ていると、頭がおかしいんじゃないかと思う。もしかして、こんな風に
考える自分の方がおかしいのだろうか……? 考えて、だけども段々と途中で面倒臭くなっ
てきて、結局いつもその辺りのことは放り出す。

 どうやら世間では、とある通り魔事件にざわついているらしい。犯人はまだ捕まっておら
ず、日を追うごとに犠牲者ばかりが増えていっているそうだ。その度に無責任なコメンテイ
ターが、あーでもないこーでもないと分析を披露するが、別段彼らのそれは事件の進展には
何ら貢献しない。
 どうやら世間では、全国で建物の老朽化が進んでいると話に不安がっているらしい。確か
に今のインフラはもう何十年も前に整えられたものだ。順当に考えればガタが来たっておか
しくないのだが……それらをメンテする予算などを、当時の政府が絞ったというのも大きい
のだという。街頭インタビューを受けた市民や、スタジオに戻ったコメンテーターがやはり
知ったかぶった風に答える。批判をするのは一人前だが、結局具体的にどうすれば交換やら
何やらが進むかは全く示されないままだ。
 どうやら世間では、とある政治家の汚職疑惑に沸いているらしい。こと彼の所属している
与党が大嫌いな連中は、連日彼を、ひいては今の政権そのものが倒れることを期待している
ようだった。今日もテレビでは、大規模なデモが起きていると中継を続けている。ただはた
して、報じられているほどの人数が実際にいるのかどうか。個人的には数千だろうが数万だ
ろうが、そうやって何がしかの方向に偏った連中が政治をひっくり返すようなことが当たり
前になってしまったら、そもそも世の中がまともに機能しないのでは? と思う。
 加えて、緊急ニュースとやらがあった。曰くこの地球(ほし)に、隕石が落ちてくるのだ
とか何とか。『NASAの発表によると、先日地球の軌道上に乗った物の一つで、その後の
分析の結果、地上への落下の可能性が高まったとのことです』──そう画面の向こうでは、
緊張しているのかいないのか、変に真面目な表情(かお)をした女性アナウンサーが淡々と
原稿を読んでいる姿が映っている。

「……。コンビニ、行ってくるか」
 空腹を覚えて、彼はテレビの電源を切った。のそりと身を起こし、一人気だるい様子で歩
いてゆくと、部屋のドアを開けて階段を下りる。
 その先に広がっていたのは──荒れ果てた街の姿だった。
 あちこちにくすんだ血の痕が飛び散り、行き場を失った人々がボロ毛布や薄いダンボール
を身体に巻いてじっと蹲っている。その少し向こうではプラカードを掲げたデモ隊らしき人
だかりが出来ており、これを制そうとする警官隊と罵り合いの衝突を繰り広げている。
 だが彼は、そんな街の様子にはまるで無関心だった。
 とっくに見慣れたとでもいうように、眠たげな半眼で両手をズボンのポケットに突っ込み
つつ、一度「ふああ……」と大きく口を開けてあくびをする。
 ひび割れだらけの遠いビル群、赤く濁った空に、何かが降ってきた。隕石だ。地球の重力
に引かれて高熱と光の尾を帯びたそれは、遙か斜め上から次第に轟音を響かせて近付き、次
の瞬間地面に激突する。

 辺り一面が爆ぜた。高熱の炎が巻き上がり、順繰りに地表のあらゆるものを消し飛ばして
ゆく。あちこちひび割れて老朽化した街並みも、デモ隊と警官隊も、道端に点々と蹲ってい
た浮浪者達も等しく巻き上げられて、黒い消し炭の中に消えてゆく。
 だが彼は、何ら興味を示さなかった。
 そんな背後で起こった天変地異に振り返ることもなく、のそのそと気だるげに歩き去って
ゆく。いつものように、一人近所のコンビニへと出掛けてゆく。
                                      (了)

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  1. 2018/04/16(月) 00:00:00|
  2. 週刊三題
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
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