日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「凸凹」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:狼、ツンデレ、魅惑的】


 いつもの慣れ親しんだ道も、その時々の気持ちによって全く違ったもののように見える気
がする。
 巡る季節は春。吹き過ぎてゆく風に、頬が暖かい微熱を帯びるのを感じながら、この日も
亮司はバイトに向かう通り道を歩いていた。
「~♪」
 その傍らには、ちょこんとこちらの手を繋ぎ、鼻歌を口ずさんでいる彩芽の姿。
 こちらが人並み以上に大柄で、強面だからか。或いは彼女のが人並み以下に小柄で幼く見
えるからか。
 多分そのどちらともなのだろうなと、亮司は思っていた。
 何のとも知らぬ花弁がふわりと舞って、視界の隅を通り過ぎていった。お互いのそうした
見てくれが悪い意味で噛み合ってしまうから、俺達はいつも──。
「ちょっと、君」
 そんな時だった。後ろから投げかけられたのは、やや緊迫を含んだ男性の声。
 自転車を押しながら、制服姿の警官がこちらに歩いて来ていた。パトロール中か何かだっ
たのだろう。彼は明らかにこちらを──亮司を警戒の眼差しで見つめている。
「……俺ッスか」
「ああ。すまないが、身分証になる物を見せてくれるかな?」
 立ち止まって振り向き、一応訊いてみる。警官はじっとこちらを見つめたまま、視界から
外そうとはしなかった。ちらっと、一瞬その視線が亮司から隣の彩芽へ、そして亮司へと戻
ってくる。「あ~……」彩芽は小さく漏らしたが、その表情は変わらずニヤニヤとある種の
余裕さえ保っている。
 亮司も、はあと大きくため息をつきながら、財布から免許証を取り出した。彩芽も背中の
リュックから自分の学生証を取り出し、言う。
「俺、こいつの彼氏です」
「私、亮君の彼女です」
 ほぼ同時に答えた言葉。片やもう何度も繰り返してきて、面倒臭そうに。片やるんるんの
明るく人懐っこい笑顔で、嬉しそうに。
 最初数拍、警官は固まっているように見えた。二人が提示してきた免許証と学生証を交互
に受け取って検めて、二人が同じ大学生であることを知る。寧ろ彼女の方が、彼よりも一個
年上だと判った瞬間の、丸くした目ときたら。
 ……し、失礼。思わず警官はコホンとわざとらしく咳払いをし、二人に身分証を返した。
 いいッスよ、別に。対して亮司の返答は淡白だ。あまりに似たようなケースが多過ぎて、
もう慣れっこになってしまっている。
「すまないね。てっきり君が……」
「ええ。まぁこれだけ見た目が違うと、普通はそう思っちゃいますから」
 警官がつい先刻とは逆に、へこへこと謝り倒してくる。最後まで台詞を言い切りはしなか
ったが、要するに“事案”を疑ったのだろう。我が恋人ながら、彩芽は見た目十代でも通じ
てしまうちんまさだ。歳相応に落ち着いている訳でもなく、天真爛漫──と言えば聞こえは
いいが、性格も未だ子供っぽい所があるから、余計にそう見られてしまう。
「大丈夫ですよー。亮君、こう見えて優しいですから」
「はは。そうですか。清い交際をしているのなら結構結構」
「あ、でも……。夜は狼さんだけどね♪」
「おいっー?!」

 ***

 この見た目と口下手のせいで、子供の頃からずっと損ばかりしてきた。
 周りの同年代と比べて背丈も高く、体格も一回りは優に大きく、顔立ちも岩を刻んだよう
ながっしりとした強面。そんな見た目をしているものだから、亮司は度々周囲の女子から避
けられたし、自分のことを勘違いした不良達にばかり近寄られる。
 ……ふざけんじゃねえ。俺は善良な一般市民だ。
 事実、亮司は見てくれこそ強面だったが、困っている人を見捨てられない常識人だった。
荷物を背負って立ち往生しているお婆さんがいれば持ってあげ、横断歩道を一緒に渡ってあ
げたこともあったし、キャラクターの風船をうっかり木の上に引っ掛けてしまった子供の為
に、自ら登って取ってあげたなんてこともあった。
 なのに、周りの人間は大抵そんな彼を勘違いする。
 勿論全員が全員ではないし、向こうも“善意”でやったことなのだとは思うが──例えば
お婆さんの時には、こちらが彼女を暴行していると勘違いされて通報され、何人も警官が駆
けつけて来たし、風船の子供の時には、我が子が苛められていると勘違いして、激怒した母
親にこの子供をぶん取られた。どちらの時も、そういった時も、亮司は丁寧に自分の名誉の
為に弁明はしたのだが……大半の場合、相手方はそのばつの悪さも手伝って、素直に非礼を
詫びるということをしてくれなかった。寧ろややこしいと、逆にこちらに説教を食らわせて
くることも珍しくはなくて……。

『全く。無駄な労力を使わせやがって』
『人助けはいいけれど……。もうちょっと、弁えてからにしなさいよ』

 そんな強面(かお)の癖に。
 色んな人間に、暗にそんな事を言われてきた。中には己の自尊心が為に、直接そう怒鳴り
罵ってくる者もいた。その度に亮司は項垂れてきた。……すみません。何故? 自分は決し
て間違ったことはしていないのに。分かっている。それを言い返したら、今度こそ相手は退
くに退けなくなってしまうんだ。余計に拗らせてしまうんだ。大きな身体に小さく纏めた心
を押し込めて、只々大人しく従順な一般人を演じるしかなかった。

『──こんにちは! 君が新しい子だね?』
 そうして、段々馬鹿らしくなって、すっかり口下手になってしまった頃。
 亮司はある出会いを果たした。高校生になり、バイトを始めようと幾つかの店の面接を受
けて採用された先、駅ビルの中にある小さな飲食店。そこに先輩ウェイトレスとして働いて
いたのが、彩芽だったのだ。
 最初は、亮司もその彼女の見た目から随分年下だと思った。そう思って接して、実は一個
上だと聞いて随分驚いたものだ。「ぷんすか」と彼女は漫画みたいに怒りはしたが、それほ
ど本気でという訳でもなかった。こちらが慌てて平謝りすると、すぐに機嫌を直してくれた
し、何より次の瞬間にはそのパァッと周りを明るくする笑顔で言ってくれたのだった。
『うんうん。素直でよろしい』
『じゃ、お仕事覚えよっか。一からしっかり教えてあげるからね?』
 それ以来、亮司は彼女の下について、店の仕事を覚えていくことになる。最初の頃はウェ
イターもやっていたが、案の定その見てくれで客が怖がったため、裏方に回ることにした。
 ……本当はいい子なのに。彩芽はその時しょんぼりと呟いていたが、亮司は後悔はしなか
った。昔からの経験の延長線上だ。今に始まった事ではない。裏方──厨房の仕事だって、
やりようもやりがいもある。それに……。
『はいはいー! 三番テーブル、四名様入りまーす!』
 他でもない、彩芽の姿に亮司は内心励まされていた。
 自分とは逆の──見てくれから、幼いと舐められてしまいがちでも、彼女は毎日周囲に元
気を振り撒いている。店のスタッフの中にあっても、そのムードメーカー的存在だ。彼女が
くるくるとフロア内を給仕して回る姿は、何だか微笑ましくて癒された。……いや、嬉しか
ったんだ。見た目で損をしていたって、それは“絶対”じゃない。きちんと努力さえすれば
ああやって美徳にもなる。真っ直ぐに真面目に。周りの眼を気にして生き方を変えなくちゃ
いけないことなんてないんだ……。
 だから気付けば、亮司は彩芽に惹かれていた。具体的に言えば、異性として好きになって
いた。そして偶然にも、彼女もまた本当は優しい亮司のことを憎からず思っていて──二人
が正式に恋仲になるのには、そう時間は掛からなかった。ムードメーカーと、寡黙で堅実な
仕事人であり、ツッコミ役兼ブレーキ役。店の皆からも祝福された。そうして高校・大学と
進み、二人の関係は現在へと至る──。

 ***

「いやあ、災難だったねえ」
「何他人事みたいに言ってんだよ。お前もそういう眼で見られてたんだぞ?」
 警官の職務質問からも解放されて、改めて二人でバイトへと向かう道を。
 てくてくと傍らを歩き、にこにこと笑う彩芽に、亮司は静かに眉間を寄せて言った。自分
の強面はともかく、こいつまでそういう──アレな性癖の男に引っ掛かった男、みたいな扱
いを一瞬でもされたなんてのが正直気に食わない。
「ふふふ。分かってるよお。……本当、亮君は優しいんだから」
「……。だったら、あんな火に油を注ぐような発言をするな。あの後取り繕うの大変だった
ろうが」
 なのに、突然フッと振り向いて微笑(わら)ってくるのは反則だ。亮司は数拍言葉を詰ま
らせたが、そう嘆息をついてみせながら言い返した。事実あの警官にはゴミを見るような眼
で見られた。まぁすぐに当の彼女の冗談だと分かり、矛は収めてくれたが。
「でも、事実っちゃ事実だし?」
「女の子が昼間っからそういう話をするんじゃありません。エロ親父か、お前は」
 まったく……。もうすっかり慣れて当たり前になったやり取りだが、気持ち頭を抱える。
 別に俺はそういう趣味じゃねえんだよ。惚れた女が偶々小柄だっただけだ。そもそも自身
が大柄なもんだから、基本そういう構図にならざるを得ないし。……それだけ、だよな?
「……」
 何となく一度ぎゅっと細目になり、軽く空を仰いだ。頭上の並木からは、桜や何やらの花
弁が、風が吹く度に解かれて舞っている。綺麗だった。どうせすぐに過ぎ去ってしまうのだ
ろうが、とても気持ちが安らぐ一時であることには間違いない。
「? どったの、亮君?」
「……いや」
 ちょんと、また彼女がこちらを振り向いて見上げている。繋いだ手が、ピンと一度揺らさ
れる動きにつられて、互いの繋がりを改めて知らせてくれたような気がした。時間がゆっく
りと、自分達の間でだけ流れている心地がする。
「……バイトが終わったら、何処か食いに行くか」
「えっ? 本当?」
 何故だろう。亮司は次の瞬間、この恋人にそう提案していた。当の彼女は彼女で、ぱあっ
と表情を明らめ、小さな身体を弾ませる。……何だか不思議な感覚だった。そのまま抱き締
めてやりたいような、逆にそっと見守っていたいような。ただフッと、亮司のその普段寡黙
な口元に、小さな弧が覗く。
「……ああ。偶にはいいだろ。好きなもん、食わせてやる」
 やっりー! 彼女が、彩芽が幼げな歓喜の声を上げていた。
 二人は手を繋いでいる。握り合って、ぶんぶんと互いの間で揺らしている。
 花がはらはらと散っていた。何の変哲もない並木の通り道が、むず痒いほどにかけがえの
ないもののように感じられた。
                                      (了)

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  1. 2018/03/25(日) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

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