日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「淡色の眼」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:入学式、終末、少女】


 どれだけ綺麗なものだと繕おうとも、事実“現実”はゆっくりと着実に死に向かっている
というのに。

 私は今日も、自宅兼店舗の番台に座って、店番をしている。商店街の一角に、挟まれるよ
うにして建っている小さな古本屋だ。尤も店というよりは、祖父の代以前からの蔵書を積む
だけ積んでおき、誰かが手を挙げてくれば売り渡しているといった実態なので、大して儲け
はない。ましてや安定した仕事とやらからは遠く離れている。

『何っ? 店を継ぎたい?』
『そりゃあ、何もしてないよりはマシだろうが……。正直、流行んねぇぞ?』

 そう後を継ぐと言った時の、亡き父の戸惑いぶりを、私は今でもよく覚えている。あれは
ちょうど、街からこの故郷に出戻って来て半年が経とうとしていた頃だったか。
 私は学校を出た後、特に疑問も抱かずに街へ出て勤め人となったが、早々に疲弊してしま
った。今風に言えばドロップアウトという奴だ。最初こそ当時まだ存命だった両親は心配し
ていたが、うんともすんとも言えないほどやつれた息子を気味悪がってか、次第に家の中で
も避けるようになった。当の私と言えば、将来の暮らしに不安ばかり抱き、内心只々焦って
いたのだが──今となっては打ち明ける機会も永遠に失われてしまった。
 その後、知り合いの助けで医者に掛かり、以来かれこれ十数年、傷病者用の年金で食い繋
ぐ毎日である。実年齢の割にはすっかり白くなったぼさぼさの髪と着古した単衣(ひとえ)
を表からの微風に晒し、今日も今日とていつ来るとも知れない客を待っている。
「……」
 そんな私の生活は、いつも静かだ。
 それは単に、田舎の良さ、などという上っ面の言葉故ではない。文字通り閑散としている
からだ。戻って来てから十数年、この辺り一帯はすっかりシャッター街となってしまった。
うちのように営業している店の方が寧ろ珍しいくらいである。衰退の一途。それは何もこの
地区だけではなく、この故郷そのものにも言えることなのだが。
 ……思うにこの町は、過去の因習を克服できずにいたが故、国の発展から取り残された。
 尤もその国、全体自体もその発展は「かつての」が付くのだろう。特別際立っている訳で
もない。何処の田舎もそんなものだ。加えて、逆に都市部──街と呼ばれるものは、こうし
た場所を捨て、逃げて来た者達で出来ている。一時はその一員だった自分に、今更大上段な
批判などできるものか。
 それでも、こうして再び故郷に戻って来て日々の暮らしを見つめていると、痛感する。
 いわゆる街の人間が田舎暮らしと言って憧れるものは、幻想だ。この地には一向に変わら
ぬ市政があり、変えさせぬ者達が住み着き、えいやと振るった鉈も、大半があさってで時代
遅れな方向へと落とされてゆく。インフラとインフラを、分断する。その間にも姿を消す店
や世帯は後を絶たず、不便は進んでも便利になったという試しは今の所知らない。
 ……ゆっくりと、真綿で絞め殺されているようなものだと思う。
 何よりも深刻なのは、人だ。それが全てと言ってもいい。子供はどんどん減ってゆく一方
なのに、町には老人ばかりが増えてゆく。ぶちまけてしまえば、彼らばかりが悪目立ちして
いるように思えてならないのだ。事実この店の前、シャッター街を時折通り過ぎるのも、そ
の大半がカートを押したり杖を突いた年寄りばかりなのだから。

『いいからやってくれよ。あんた、まだ若いだろ?』
『そんな勝手なこと、許されると思ってるのか? 皆ちょっとずつ我慢してるんだよ!』

 この町に出戻り、年金を受け取ってようやく生活を立て直し始めようとしていた頃。地区
の住人──年寄り達には最初、色々な役目を押し付けられそうになった。
 実際、彼らより若いのには間違いない。だからこそ、老いた自分達には手の回らない役目
を担って貰おうと、あれこれ名目をつけては“義務”ばかりを要求してきたのだ。尤も私が
病を理由に、それらを断り始めると、掌を翻すように悪態をついては散って行ったのだが。
 だから私には現在、コミュニティ内の諸々の“権利”がない。はっきり言ってしまえば半
ば村八分にされているのだが、此処が普段からシャッター街なのと、一度は街での自活経験
があるためにその点を理由にした大きな不自由は感じない。寧ろ静かな孤独という奴が此処
でも続くのだという、ある種の諦めでもって臨めているように思う。私にだって「行く道」
なのだ。残る若さに任せて責め立てても、いずれ自分に返ってくるのは明らかなのだから。
 ……そんなんだから、若者が逃げるんだぞ?
 まぁ実際にはもっと単純に「金がない」が多くを占めるのだろう。少なくともこういうも
のだと飲み込む暇もなく、一方的な期待ばかり投げ付けられるモンだから、ある程度「今」
の人達は嫌気が差してしまうのだと考えている。昔は通じても、最早構造からして錆び付い
ている。それを一過性のブーム、田舎暮らし目的のリターンで埋めようなど、どだい無理な
話なのだ。
「……」
 まだ朝方というのもあるかもしれないが、昔に比べて、目に映る町の景色はすっかり色褪
せてしまったように思う。
 全体的に淡く消え失せそうな、静かさと脆さ。
 それは何も、この町に老人が多く済むことと無関係ではない筈だ。年寄り、つまりとある
時点でそれぞれの時間が止まった人間達が集中することで、町そのものがゆっくりとその歯
車を止めてしまったかのような……。
 昔は、こんな風ではなかった筈だ。私達が子供の頃は、もっと無根拠に、未来というもの
信じていた。ずっと向こうで輝いているように見えた。時代の流れ、そう言ってしまえば詮
無いが、本当に私達は結局見誤っていたのだろうか? 愚かなだけだったのだろうか?
『──! ──!』
 そんな時だ。ふと表が騒がしくなった。子供達の声だ。
 私はついっと番台から軽く身を乗り出して、古本の並ぶ棚の向こう、シャッター街の道向
かいを集団で登校する子供達の姿を目に映していた。
 わいわいと。無邪気に笑い、駆け、学校に向かっている。一年生──低学年の男の子や女
の子も少なからず含まれているのだろうか。背中で揺れる、真新しいランドセルが妙に目を
惹いた。……ああそうか。つい先日、入学式があったばかりだったな。
(……ふう)
 思い出して、私はそう静かに嘆息を零してしまう。厳密にはそこには、自嘲するそれも含
まれていた。
 “まだ”この町に子供達がいるという安堵感。しかしその数は間違いなく減っている。私
が出戻って来てからのこの十数年も、山間地区などでは新しい生徒がいなくなり、幾つかの
学校が廃校や吸収合併を余儀なくされたと記憶している。じわじわと、町は確実に死んでい
るのだ。ただ殆どの住民がそれを自覚する機会に乏しいか、自ら好んで見ようとはしていな
いのだと思う。
 古本棚同士の隙間、店の道向かい。寂れたシャッター街の前を子供達が去ってゆく。屈託
のない笑い声を、自分達に届けてくれる。
 だが、そんな無根拠に信じている日々に、いつか絶望する時が来る。
 その時、成長した彼らは何を思うのだろう? どう行動するのだろう? ままならぬ己と
環境を嘆き、やはりいずれは故郷を出て行ってしまうのだろうか。衰退の一助と理解はしな
がらも、私達がそうだったように先ずは自らの安定の為に振り払うのだろうか。
 ……申し訳ない。
 私は、私達は、君達に何をしてやったら──。
「おはようございます!」
『おはよーございまーすっ!』
「本のおじちゃん、おはよー!」
 なのに、君達はそうやって屈託なく笑うんだ。私が店の中にいるのに気付いて、こちらを
そっと見ているのに気付いて、誰かに言われたからでもなく挨拶をしてくれるんだ。先生に
教わった通りに、ぴっと手を挙げて「ここにいるよ」と告げてくれるんだ……。
「……はい。おはよう」
 同じように、小さく手を振り返した。フッと静かに苦笑(わら)い掛ける。

 静けさと脆さ。淡く色褪せて、ゆっくりと死んでゆく風景。
 私もいつかは、そうして真っ白に老いてゆく。
                                      (了)

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  1. 2018/03/18(日) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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