日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「ツキモノ」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:悩み、携帯、才能】


 一つ違うだけで、どうしてああにも態度に出すのだろう? どうしてこうも、僕が被らな
ければならないのだろう?
『おいおい……。ガラケーかよ』
『今時それはないでしょ~?』
『ったく、使えねーなあ』
 僕の携帯を見る度に、周りの人間はさもそんな風に思いながらこっちを見てくる。直接面
と向かって哂われたこともあった。きっとどいつも、同じような目で僕を見下ろしている。
 確かに僕のそれは、未だにガラケーだ。
 正式に言えば、ガラパゴス携帯──この国の中でのみ通用するような、外国との互換性を
失って孤立化した、独自過ぎる進化を歩んだ携帯のことをいう。間違いなく揶揄するために
生まれた言葉だ。元となった件の島に対しては、貴重な生物の宝庫と物珍しく持ち上げるの
に、何とも不名誉なものだと思う。
 二つ折りの、小さな金属の長方形。
 形だけじゃあそうパッと見は変わらないというのに、今じゃあこれを持っているだけで僕
達は周りから“化石”扱いだ。今では蓋のない、少し幅の大きくなったその画面を撫で回し
ながら歩いている光景が、すっかり当たり前になってしまった。
 ……便利なのは知っている。でも、何となく買い換える機会を逃してしまったんだ。
 よく他人には「だって、LINEもできないよ?」と煽られるのだが、それは持ったから
の結果論であって、大元の目的じゃない。大体、普段から連絡を取り合うような友達なんて
いないんだ。持った所で虚しいだけなのは目に見えている。一昔前は、携帯で連絡に代える
ことさえ、年寄りには渋い顔をされていたものだ。曰く面と向かって会うのが本筋、手紙と
いう文化が途絶える──実際世の中はそうなって久しくはあるけれど、そういった歴史を考
えれば、僕らは何も変わっているようで変わっていないんじゃないか? ぼんやりとそんな
事を考える。
『……ちっ、既読スルー(むし)かよ』
『あ、これ新しいグループね。○○には絶対教えないで?』
 便利だと云われたものが、気付けば世の中の当たり前になっていくプロセス。
 僕達は繋がりやすくなった反面、それを悪用する術ばかり見つけているように思う。常に
誰かと繋がっていなければならないという脅迫観念、電子の海に乱立してゆく無数のコミュ
ニティに、縋り付いては振り落とされて──。僕らが道具を使うのではなく、道具が僕らを
使う時代なのだろう。
 ……それはあたかも、怪物を飼っているかのような。
 僕はしばしば、一様に画面に視線を落として俯き、スマホに齧り付いている他人びとに出
くわすと、その背中に怪物を幻視(み)る。
 継ぎ接ぎだらけの、機械をモチーフにした怪物だ。そいつらは彼らの背中に、頭に幾つも
の蛇腹な配管を繋げて引っ付き、ケタケタと嗤っている。彼らはそんな自分の異変に気付か
ずに──気付こうともせずに、やはりずっと画面に視線を落とし、撫で回している。
 僕がおかしいのか。それとも彼らが等しく狂っているのか。
 普通とは、何なのだろう? そうやって皆が同じ──同じようにのめり込むことが当たり
前だというのなら、確かに僕だけが狂っているのか。何が違うというのか。ガラパゴスだと
揶揄しておきながら、その当たり前に、皆が一色に染まる──誰がそれを正しくて、或いは
間違っていると、後れていると決めるのだろう?
 ……それが技術の進歩だと呼ぶのなら。ことITの類については、明らかに顕著で。
 正直言って、僕はこういった速過ぎる“進歩”は好きじゃない。
 次々と変わってゆく、リリースされる新商品。その度に、それまで出ていた、僕達の手元
にあった道具は途端に旧いものと見做される。皆が周りが「何で替えないの?」「ガラケー
のままなの?」と哂ってくる一因でもあるのだが、メーカーもメーカーで、しきりに新しい
ものに替えるよう催促してくるモンだから、逃げ場がない。
 新しいもの、変革を呼ぶ者。俗にそういった人間を、僕らは天才と呼ぶ。
 だが僕は、そういった人種が大嫌いだ。だって彼らはいつだって、否応なしに僕達をその
身勝手な変化の中に巻き込んでくるのだから。その天才性とやらで、これまで見ていた景色
を世界を一変させてしまうのだから。
 ……ただ僕は“平穏”が欲しかった。激しく変わらぬこと、平和で静かな秩序を望んでい
たのに、彼らはお構いなしでひっくり返してくる。それがこの世界の為なのだと──自分達
にとって都合よく──信じている。
 だからこそ、彼らは僕達を時代遅れと呼ぶんだろう。彼らにくっ付いた、周りの他人びと
のそれと同じように。
 だからこそ、僕はずっとスマホに替えないのかもしれない。このガラケーを持ち続けてい
るのかもしれない。それはささやかな、僕なりの抵抗運動(レジスタンス)だと何処かで自
負しているのではないかと思った。尤も僕が、彼らの背中に怪物を見ているように、彼らも
また、僕の背中に化石のような怪物を見ているのだろうけど……。
 僕はただ、平穏が欲しかった。変わることなく、ゆっくりと流れていく平和がいつまでも
続けばいいと思っていた。
 だけど……そんなことは夢物語だと、一方ではとうに解っている。それが他人の攻撃的な
態度だったり、世の中を変える技術だったり、或いは金の力や軍隊だったり。この日々はい
つか、どんな形であれ侵され、壊されてしまうものだと知っているから。だからこそ、所詮
そんな叶わぬ夢をだと分かっていても、僕はそうあって欲しいと願うんだ。
 ……ねえ。そうやって、一心不乱に画面を弄り回しているけどさ。君達は幸せかな? 幸
せになれたのかな?
 変化について来れなくなった人達を切り捨てて、置き去りにして、それで──。

「さあさあ、新バージョンⅩⅡが発売だ! 今買わなきゃ損するよっ!」
 昔から通い慣れた電気街も、今はどんどん古い建物が壊され、新しいビルが挿げ替えられ
てゆく。細々と掘り出し物のパーツやゲームを買って帰るこの道のりも、僕にとってはすっ
かり憂鬱の種となってしまった。
 帰り道、真新しい今風のビルの軒先を通りかかると、そう威勢のいい売り子店員達の声が
飛んできた。揃いの法被を羽織って、鉢巻を巻いて、軒下にまで積み上げた新しい携帯端末
をアピールしている。
 凄い行列だった。人ごみだった。事前にこの新商品が出ることは情報として知っていたけ
れど、よもやその販売の最前線に出くわすとは。人の密度に中てられ、売り子達の五月蝿い
声に中てられ、内心いい気分ではなかった。こんな事なら、もっと違うルートを通ればよか
ったかなと後悔した。……僕がスマホどころか、未だにガラケーを持っていると知れたら、
ここにいる人達はどんな眼をするのだろう。
「はいはーい、落ち着いて!」
「順番に! 順番に並んでくださーい!」
 軒先はさながら、特売セールでも開かれているかのような賑わいぶりだった。我先にと押
し寄せる客達を、店員達が営業スマイルだけは崩さずに誘導している。相変わらず、こなれ
たものだ。
 先頭はこちらです。最後尾はこちらです。
 小さなプラカードと店員達の声が、ムーヴメントに乗らんとする怒涛を捌いてゆく……。
「……」
 じっと、やや遠巻きから眺めていた僕には幻視(み)えていた。店に押し寄せる客達の背
中には、一様に継ぎ接ぎだらけな機械の異形がくっ付いている。
 しかし、それらは各々の人間が商品を手に取った瞬間、ぽろりと剥がれて地面に転がって
いった。灰色めいた乾いたアスファルトの地面に、そんな無数の“旧い”怪物達が、一言も
発さずにただ放り出されたままになっている。
 代わりに客達の背には、その商品を手に取った直後、今度は別の“新しい”怪物が何処か
らともなく現れてくっ付いていた。前よりもシャープで、陶器のような、のっぺり画一化さ
れたような容貌──。
「……」
 瞼が妙に重く、熱を帯びたように感じて、ごしごしと目を擦った。するとそうして再び彼
らの方を見遣った次の瞬間には、怪物はいなくなっていた。旧い方も、新しい方も。店舗の
軒先に群がる客達の背中には勿論、周囲のアスファルトにも。
 幻か。僕は思った。これが現実なのだと改めて知り、彼らの忙しないやり取りが、どこか
遠い国の言葉に聞こえる。それでいて、やけに自分の耳に入り込んでくる。

 暫くそんな様子を眺めていたが、やがて僕はゆっくりと踵を返した。
 思わず深く、静かに嘆息が口を衝いて出る。背中のリュックを揺らして、その場から逃げ
るように、僕は歩き出していた。
                                      (了)

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  1. 2018/03/11(日) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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