日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「バリケ・イド」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:扉、過酷、城】


 目の前に、囲いが建っている。四方を石か金属かよく分からない材質の壁が覆い、正面に
鍵の掛かった扉が付いていた。辺りはとにかく殺風景で、マス目の入った白い地面と灰一色
の空が延々と広がっている。
「……」
 あの中には、何があるのだろう? 昔見聞きしたような気もするが、しなかったような気
もする。ぼうっと立ちぼうけ、見上げてみても、中からは音一つしないためにその様子を窺
い知ることはできない。
「──すぐに手にするべきだ! 取り返しのつかない事になるぞ!」
「──いいや、守ってゆくべきだ! 取り返しのつかない事になるぞ!」
 だが代わりに、その外側については過ぎるくらいにやかましい。
 囲いを挟んで両側に、人々が陣取っていた。石や木の、金属で出来た、継ぎ接ぎだらけの
櫓を組み、その上で向かいの面々に対してお互いがあーだこーだと唾を飛ばしている。
 開けるべきか、否か。
 彼らの“議論”する大よその主題はそこなのだろう。だがこうして遠巻きに眺め続けてい
ると、はたして彼らは何をしたいのだろう? と不安になってくる。そもそもに、お互いが
一方的に自分達の主張を叫んでいるだけで、話を聞いている風ではなかったからだ。とかく
相手を否定し、自分達を肯定する。その目的の為に、彼らの“議論”は重箱を突く──主題
が二転三転する。
 トンカンと、その間にも彼らは櫓を組み続けている。まるで少しでも、自分達の声が遠く
に届くように。相手を見下す位置に立てるように。
 足元からどんどんと材料が投げ込まれ、持ち込まれ、左右の彼らはその足場を突貫工事で
高く積み上げていった。時々──しばしばバランスを失って崩れそうになり、実際何度か崩
れて何人かが落ちていったが、それでも彼らはめげずに、時間が経てばまた登って来る。ま
た同じように継ぎ接ぎして歪に組んだ櫓の上で、あーだこーだと唾を飛ばしている。
「……」
 まるで城砦のようだな。ぼんやりと僕は思った。
 元々あった囲いを守るように、それぞれが隣接して建て始めた櫓。
 だけどもいつからだったか、それらは気付けば本来の囲いの姿さえ隠して、変えてしまっ
て、あれが何だったのか分からない。そもそも彼らは今、眼下にあるその本丸が見えている
のだろうか?
 少なくとも、ここからじゃあ見えない。壁が高くて、その周りを覆った櫓が視界を塞いで
しまって、囲いの中を窺うこともできやしない。そもそもあれの天井が空いていたのか、元
からぴっちり塞がっていたのかも今では分からなくなった。忘れてしまった。
 元気だなあ、と思う一方、何でだろう? と、僕は不思議に思ったままこれを見つめ続け
ていた。関係ないやと、さっさと目を逸らせばいいのに──気付けば最初の両陣営だけでは
なく、僕の後ろや周りにもぐちゃぐちゃな櫓が乱立し、それぞれが思い思い勝手気ままに唾
を飛ばしていたり、見物していたりして億劫なのに──僕はまだここに立っていた。何処か
で何とかしなきゃいけないって、変な使命感に駆られていたのかもしれない。
「……」
 何故だろう?
 皆、あの囲いの中に何があるのか──或いは何もないのかを知りたがっているのに、誰も
直接確かめようとしないんだ。皆その周りに集まって、櫓ばかり組んで、好き勝手にあーだ
こーだとは言っているけど、それだけじゃあ鍵が開く筈はないじゃないか。
 ため息が出た。馬鹿馬鹿しいことだと思った。
 彼らが、というだけじゃない。こんな所で関わり合いになっている僕自身も含めて。
 案の定もう囲いの周りには櫓がぐちゃぐちゃに建てられて、邪魔もいい所だったけれど、
僕は思い切って前に進んでみることにした。「おい、止めろ」「何をする気だ?」「もう手
遅れなんだよ!」「そうだ、全部ぶっ壊すしかないんだ!」色んな声があちこちから聞こえ
てきたけど、無視する。そうやって集るだけ集ったって、囲いはずっとここに在るのに。
「……」
 正直、しんどい。面倒臭い。別に僕がやらなくてもいいじゃないか。そう思った。
 なのに何でかな……見ていられなかったというか、早く終わらせて欲しかった。早く済ま
せてしまって、すっきりしたかった。その意味では凄く我がままな理由だと自覚している。
誰かの為じゃなく、僕自身が快適になる為のもの──出来ることが先で、そこに他人が引っ
張られてゆく後のことは、割と二の次だったような気がする。
 散々回り道をして、時には邪魔な柱を剥ぎ取っては投げ棄てて……。
 僕は扉の前に立った。鍵の前に立った。苦しい。だけど、あんなやたらめったら遠い所か
らじゃなくても、開けることはできた筈なのに。囲いの中は、ずっと変わらずにそこに在っ
たのかもしれないのに。
 じっと鍵穴を見て、せっせかと鋳型を作る。じんわりと汗を掻きながら、出来上がったそ
れを差し込んで、カチリとようやくその聞きたかった音を耳にする。
「──おお!」
「開いたぞ! 遂に開かれたんだ!」
「嗚呼、何てことを!?」
「もうおしまいだあ。これから私達は、どうしたら……?」
「何だよ……。せっかくこれから、俺達がぶっ壊そうとしていたのに……」
「よくやった! よくやったぞ! 君はまさに英雄だ!」
 人々がざざっと駆け下りてきた。或いはわあっと、四方八方から僕を囲い込んでくる。
 色んなことを訊かれた。色んな賞賛と、怨嗟と、嫉妬を投げ付けられた。正直あんまりに
多過ぎて、混ざり過ぎて、全部聞き取れやしなかったけど。
 それでも一部の“賞賛”してくる人達は、バンバンと僕の背中を叩いて笑っている。或い
は「中に何があった?」と、ちゃんと訊ねてくる人もいたけれど……答えたくなかった。も
う開いてるから見てくればいいですよ。わあっと入れ違いになだれ込んで行く人達が肩越し
に見える。……何が在ったんだっけ? 何が無かったんだっけ? まぁどうでもいいや。こ
れでもうここは静かになる、と思う。まだ暫くは、余韻というか反動が伝染して続いてゆく
ことになるんだろうけど……。
「素晴らしい! 是非君も、私達と来て欲しい」
「いいや、私達にこそ相応しい。彼の功績をすっぱ抜こうなんてそうはさせない」
 何だとう!? あー、もう……。またそうやって喧嘩し始める。僕は彼らに返事も寄越さ
ぬまま、そそくさとこの場を後にしようとした。中にはそれに気付いて、尚もついて来る人
達がいたけれど、放っておくことにした。無視しておくことにした。……どうせ時間が経て
ば、僕のことなんか忘れるだろう。利用価値なんて無くなるだろう。
 嗚呼、ほら。また櫓を組み始めた。
 というか、何処からその材料持って来てるんだ……?
「待ってくれよ~! いや、待ってくださいよ~!」
「……」
「どうすればあんな事が出来るんですか!? 私にも出来ますか!?」
「……」
「お願いです。私達と一緒に闘ってください! “敵”はまだ沢山いるんです!」
 冗談じゃない。僕はその一切を無視することにした。弁明も何もしないことにした。
 だって仮に「君達の為」だって言ったら、どんどん役割が押し付けられてくるんだろう?
もし「自分の為」だったと開き直ったら、やれ偽善者だの何だのと煩く纏わり付いてくるに
決まっているんだから。ただ櫓が、僕自身に変わるだけの話だ。
「……」
 何よりも。
 そんな彼らの人ごみから離れて、歩き始めた先に、僕は見ていたからだ。同じようについ
てくる彼らだって、気付かない筈はないんだけど……。

 囲いがあった。四方が石か金属がよく分からない材質の壁で覆われていて、その前面に鍵
の掛かった扉が付いている。それらが少し遠くに、ずっとマス目の地平線の向こうに、幾つ
も幾つも建っているのが見えた。今さっき、やっとの思いで開けた囲いと、見た目はまるで
同じものばかりだ。
「──すぐに手にするべきだ! 取り返しのつかない事になるぞ!」
「──いいや、守ってゆくべきだ! 取り返しのつかない事になるぞ!」
 そこにはやはり、櫓の上で叫んでいる人達がいた。元々の囲いの周りに継ぎ接ぎだらけな
材料を積み上げ、ただ壊すべきだ否守るべきだと、その中に在るものさえ真っ直ぐに確認し
ようともしない人達が。
                                      (了)

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  1. 2018/02/25(日) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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