日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「純度」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:神様、犬、綺麗】


 生けとし生ける者達は、皆最後には彼の下へと辿り着きます。

 ……いえ、彼女と言うべきでしょうか? 等しく彼らの前に現れる彼(彼女)は、どちら
とも取れるほどに整った──中性的な顔立ちをしていたのです。
 肌は陶器のように白く、淡い金糸のような髪は腰近くまで伸びています。真っ白な貫頭衣
に身を包み、透き通った蒼い瞳をうっすらと開けて佇むその姿は、少なくともこの世の者で
はありません。
 なのでここでは、仮に“カミサマ”と呼ぶ事にしましょう。
 若木の杖を片手に、カミサマはいつもその白くて明るい場所に立っていました。
『──ようこそ。長旅お疲れ様です』
 目の前にやって来たのは、一人の若い青年でした。遊び盛りだったのでしょう。ジーンズ
の腰には数珠繋ぎになったアクセサリーをジャラジャラと下げ、被ったニット帽にも凝った
絵が刺繍されています。
「な、何だよあんた。つーか、ここは何処だ? 俺は一体……?」
 青年は最初、酷く狼狽しているようでした。口調こそ平素らしき強がりで、相手に対する
敬意は感じられませんが、そこはかとなく何重にも重ね着したその“核”が観えます。
『私は、導くもの。残念ですが、貴方はお亡くなりになられました。これから貴方の魂は再
び意識の海の中へと還ってゆくことでしょう。ですがその前に、一つだけ望みを叶えて差し
上げます』
「はあっ?!」
 淡々と、優しい声色。
 ですが青年はカミサマの言葉よりも、自らが死んだという事実に衝撃を受けているようで
した。顔を引き攣らせて顰め、ありったけの反感をカミサマに吐きつけます。カミサマは黙
っていました。そのような反応することは許されていません。そもそも、自身の中に備わっ
てもいないのです。
「俺が……死んだ? ふざけんじゃねえ! 俺はついさっきまで、皆と……。皆と遊んでて
カラオケに行って、その後……」
 あああああッ!? 青年はそう叫び、ぶつぶつを自身の言葉を紡ぎながら、やがて思い出
したようでした。直前に起こった出来事、夜道を行く仲間達へと突っ込んで来たトラックの
ライト──全てを思い出し、頭を抱えて髪を掻き毟って、目をひん剥いて叫んでいました。
『残念ですが、貴方はお亡くなりになりました』
 罵倒から震えに変わり、静かになった青年に向かって、カミサマは再び告げました。改め
て彼を導く為の役目を果たします。スッと静かに、真っ白な空間の中で言いました。
『貴方の魂が還ってゆくその前に、一つだけ望みを叶えて差し上げます』
「っ……!」
 青年はハッと弾かれたように顔を上げました。その表情は泣きじゃくったような、絶望の
際にあるようなさまです。がしりとカミサマの胸倉を掴み、彼は言いました。叶えてくれる
というのなら、他には無いという具合に。
「だったら……! 生き返らせてくれ! 俺はまだ死にたくない! もう一度皆の所に帰し
てくれよ!」
『残念ですが、それはできません。死自体を無効にする訳にはいきませんので。それに、既
に貴方の肉体は大きく損傷しています。戻られても、再びこちらに帰ってくる結果には変わ
りないと思われますが』
「う……うわああああああああーッ?!」
 青年は、再び錯乱し始めました。端的に述べられた現実を受け入れられず、掴んだ胸倉か
ら手を離し、その場で頭を抱えてしまいました。当初の強がりはすっかり消え失せてしまっ
ています。その表情は絶望で歪み、大粒の涙を惜しむことなく垂れ流していました。
「嫌だ、嫌だ、嫌だ! 死にたくない! 俺はまだ、死にたくない……ッ!!」
 白くだだっ広い空間に、彼の悲鳴が響いていました。しかしそんな声も、遮るものの無い
この場所ではすぐに霧散し、遠くに消えてゆきます。
『それでは、今回は無回答という形にさせていただきます。貴方に良き帰還を。願わくば良
き再臨がありますよう』

「──望み? なら嫁(あいつ)から取り上げてちょうだい! あいつにあたしの財産が渡
るなんて、死んでも死に切れないわ!」
「──本当に何でも叶うっていうのか? なら……もう一人、此処に連れて来てくれ。俺を
苛めてた奴なんだ。道連れにしてやる。あ、でも、何人でもオッケーってなら全員を……」
「──ふむ? ならば私を“天国”とやらに案内しろ。私は生前、多くの事業を興し、財を
成してきた。多くの人間の生活を支えてやっていたんだ。そんな私が、凡百に紛れてこちら
側に暮らすなどあってはならない。君だってそう思うだろう?」
「──そんなのはどうでもいい。さっさと殺してくれ、もう消えたいんだ。……畜生。何で
死んだのに、こんな無駄な問答……」
 それからも、カミサマの前には多くの人々が訪れました。
 自らが遺す羽目になってしまった財産を、赤の他人である嫁に取られたくはないと殺気立
って叫ぶ老婆。苛めを苦にアパートの屋上から飛び降り、されど願いが一つ叶うと知って自らを追い詰め
た“犯人”達に復讐を試みようとする少年。生前財産家だった男に、現世の全てに絶望して
自ら命を絶った男。
 カミサマから提案されたそのたった「一つ」の願いに、彼らは思い思いのまま縋りついて
きました。ある者は執念の為、ある者は自負の為、またある者はそこに掛ける願いすらもか
なぐり捨てて、自らが最も欲しいものを答えていきました。
 カミサマはただそこに立っています。
 白く明るい、遮るものも無いだだっ広い空間で、器(にくたい)との別れを告げた命達に
分け隔てなく接しました。等しく彼らの願いを訊き、当人の死を覆すといった例外を除いて
は、その全てを叶えてあげました。
 我が物にできた筈の貯金が、ごっそり何者かに盗まれました。年季の入った家が火事によ
って全て焼け落ちてしまいました。自殺した生徒に関わっていたとされる同級生のリーダー
格が、ある時突然の死を迎えました。心臓発作だったそうです。かつて財産家だった男の魂
は、意識の海の中から爪弾きにされた遠い位置に移されました。次の生を迎えるまで、ただ
孤高を保ってその時を待ちます。速やかで安らかな死を願った魂は、次の瞬間、淡い金の光
の粒となって霧散していきました。
 その全てを、カミサマは見送りました。
 勝ち誇り、狂い笑い、或いは酷く安堵して消えてゆく魂。
 知性あることは、時に苦しみや囚われを抱えたまま終焉を迎えます。魂に分解され、意識
の海へと再び浸されれば、小さき虫であろうと猿の末路であろうと何ら変わりはしません。
 その全てを、カミサマはじっとその場に佇み続け、見送り続けてきました。

『──ようこそ。長旅お疲れ様です。私は、導くもの。残念ですが、貴方はお亡くなりにな
られました。これから貴方の魂は再び意識の海の中へと還ってゆくことでしょう。ですがそ
の前に、一つだけ望みを叶えて差し上げます』
「……?」
 そしてまた一人、還って来た魂が一つ。
 その姿は、か細く小さな獣のように見えました。現世でいう所の小型犬です。黒くつぶら
な瞳と、歳月のせいか若干ばさついた薄茶色の毛並みが小刻みにぷるぷると揺れています。
 カミサマはいつものように告げました。一つだけ、最後に願いを叶えてあげると。
 しかし当の本人は、その意味をイマイチ解っていないようでした。どうやら生前の肉体、
種の能力にまだ大きく引き摺られているようです。カミサマはスッと静かにその瞼を少しだ
け持ち上げ、若木の杖先を彼に向かって一振りしました。するとその姿は、獣耳をした一人
の幼子に変わったのです。
「……あ、れ? 僕……?」
『どうでしょう? 私の言葉が解りますか? 私は、導くもの。残念ですが、貴方はお亡く
なりになられました。これから貴方の魂は再び意識の海の中へ還ってゆくことでしょう』
「……」
 ぱちくり。そしてじんわり。
 獣耳の彼はゆっくりとその真ん丸な瞳を揺らがせ、大きく見開いていました。自身が置か
れた状況に、生前何があったのかに理解が追いついたのでしょう。最初彼はショックを隠せ
ないようでしたが、激しく狼狽するでもなく、泣き喚くでもなく、ただじっと唇を結んで暫
くの間黙っているだけでした。
「そう、ですか。僕は死んだんですね」
『はい。器たる肉体の耐用年数が尽き、魂及び霊魂との接続が維持できなくなりました』
「? えっと……」
『貴方達の呼ぶ死のことです』
 コク。目を瞬き、少し困っているようでしたが、獣耳の彼はややあって頷きました。顔を
上げて、向かい合ったカミサマを待つようにじいっと見つめます。
『これから貴方の魂は意識の海に還ってゆくことでしょう。ですがその前に、一つだけ望み
を叶えて差し上げます』
 カミサマは言いました。他の誰とも等しく、他の誰とも変わらぬ問いかけです。
 獣耳の彼はまた暫くぼうっとこれを見つめていました。見つめて、ぐるぐると如何せんま
だ足りず追いつかない頭で考えようとしていたように見えます。
「……だったら」
 故に、彼は答えたのでした。数拍迷ったようで、だけども他には無いと踏ん切りをつける
ようにふるふると首を横に振ってから、彼はカミサマに向かって答えます。
「もしご主人様が来たら、伝えておいてくれませんか? 僕を拾ってくれて、最期まで一緒
にいてくれてありがとうって。ここは死んだ人達が来る場所、なんですよね? だったら、
ご主人様もいつか……」
 哀しそうでした。思わず泣き出しそうになっていました。
 ですがこの獣耳の彼は、ぐっとそれを堪えると、真っ直ぐにカミサマに向かってそう懇願
したのでした。陶器のような白い肌と、金糸のような長い髪と、若木の杖を手にした貫頭衣
の姿がじっと佇んでいます。
『分かりました。それが望みなのですね』
 はい──。獣耳の彼は迷いなく答えました。カミサマは了承します。次の瞬間、彼の身体
が、生前の魂だったものの塊が霧散し始めます。淡く輝く無数の金色の粒となり、その姿は
意識の海へと還ってゆくのです。
『……』
 ぽつんと、また独りになりました。白くて明るい、だだっ広い空間が広がっています。
 ですがカミサマは、一瞬フッと、口元に小さな弧を浮かべていたように見えました。
                                      (了)

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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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