日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「次じゃなく」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:来世、ヒロイン、消える】


 背中から伝わる彼女の感触を誤魔化すように、蓮は一心不乱にペダルを漕いだ。
 時刻は夜明けの少し前、日付は大晦日──を終えた新年早々。
 年越しを、恋人とのスマホのやり取りで迎えた彼は、ふと思いついたようにその中でメッ
セージを送った。
『日付変わりましたね』
『うん。あけましておめでとー』
『おめでとう』
 もしかしたら第一声の後、ふと彼女の生の声が聞きたくなったのかもしれない。
『もう寝ちゃいますか?』
『? ううん。夜更かしするよー』
『なら、出掛けませんか。いい場所を知っているんで』
 そうして何度かやり取りをし、アパートを出たのは明朝に差し掛かった頃。自転車に乗っ
て彼女のアパートまで迎えに行き、その後ろに乗せてから蓮は、肌寒くて人気のない住宅街
の坂道をひたすらに上っていた。
「ふう……。ふう……」
 何処へ? 彼女は訊かなかった。二つ返事で応えてくれた。
 元からそういった、ある意味さっぱりした性格もあるのだろうが、それ以上に自分の事を
信頼してくれているようで内心蓮は嬉しかった。黒縁のファッション眼鏡の奥で人知れず目
を輝かせて、寒さに頬を赤くして白い息を吐いて、彼は後ろでぎゅっと腰に掴まってくれて
いる彼女の為にも急いで目的地を目指す。
「──うわあ……!」
 そこは、坂道を上った先にある道端の憩いスペースだった。とは言っても、年季の入った
レンガと二つ三つのベンチが敷いてあるだけで、大抵の人間はその存在にも気付かず素通り
してしまうような場所だが。
 だがそこは、家屋建ち並ぶ辺り一帯を見渡せる良スポットだった。特にこんな空気の澄ん
だ明け方に、昇ってくる日の光を拝もうとするならば。
 自転車を傍に止め、二人は互いに並んでこれを眺めていた。彼女は喜んでくれたらしく、
ぱあっと目を輝かせてこの光景を見つめている。蓮はそんな彼女を、横目でちらっと見遣り
ながら少し安堵した。喜んでくれたようで何よりだ。
「すごいね。すごいね。こんな所があるなんて知らなかったよー」
「でしょう? 俺も見つけた時はちょっと興奮しました」
「そっかー。ふふ、ありがとね。まさか街中で初日の出を見れるなんて思わなかったよー」
「喜んで貰えて何よりです」
 暫くそうやって遠く物陰の下から覗く眩い光を眺める二人。
 しかし、蓮がそう楽しそうにする彼女に受け答えしていると、何故かふと当の彼女がこち
らを見てぷくっと膨れっ面になった。「むー」とベタな効果音までつくように、両手を腰に
当ててこちらを見ている。
「蓮君」
「? 何ですか、十和(とわ)先輩」
「だからそれー! サークルの中ならともかく、二人っきりの時は十和でいいのにー」
 あっ、となって思わず唇を小さく結ぶ蓮。
 だが時既に遅く、対する彼女──目の前の十和はすっかりぷくっと膨れっ面で不機嫌を表
明していた。
 年上とは思えないほどの可愛らしい小柄。ほわほわとした言葉遣い。
 蓮自身が一七八センチという長身であることも相まって、彼女のそれは尚更目立っている
ような気がする。それでも先輩という意識がきちんとあるのは、知り合い程度の仲ではない
ということと、その小柄さとは対照的に豊かな胸元故だろう。……だから好きになった、と
いう訳ではないのだが。ないのだが。
「すみません……」
 思わずポリポリと頬を掻いて、謝る蓮。
 だがその言葉遣いもまた丁寧になってしまって、慌てて口に手を当てる。
「うー……。まぁいいよう。別に他意があるって訳じゃないのは分かってるし。ただ、もう
私達付き合って半年にもなるんだから、いい加減もうちょっと砕けてくれてもいいのになあ
って思うんだよ?」
「……はい。じゃなくて、うん」
 二人が出会った直接の切欠は、サークルだった。大学に入学したての頃、入った同じサー
クルに在籍していた先輩の一人が十和だった。最初はその体格から部外者だと思い込んでし
まい、随分怒られたものだが……何だかんかでその手の構図は今もあまり変わっていないよ
うな気もする。
 黒縁眼鏡の下で、あははと苦笑い。
 蓮はこの小さくて不思議な、だけど一緒にいて楽しいこの人と、年明けを過ごす。
「……。綺麗だね」
「ええ」
 そうして暫くの間、蓮と十和はこの坂途中の高台でゆっくりと昇る朝日を見つめていた。
すぐ近くで横並びになって、初冬の微風に吹かれている。眼下に見える家々でも、そろそろ
年越しの余韻が冷めている頃合だろうか? 一旦布団に入って、寝入ってしまっている頃合
だろうか? 或いは人によっては夜通し仲間と語り合い、同じように朝の光に目を細めてい
るのだろうか?
「いいね、こういうの。来年も、そのまた来年もずっと──蓮君と、生まれ変わってもまた
こうして同じ景色を見ていたいなあ……なんて」
「……」
 なのに、そうちょっと気持を奮い立たせて呟いた十和の台詞に、蓮は横目こそ向けてきな
がら、ただ黙して目を瞬いているだけだった。かぁっと、ただでさえ少し赤かった彼女の頬
が自ら熱を帯びて赤くなる。赤くなり、ふるふると震え出したかと思うと、次の瞬間には両
手をぽかぽかと彼の胸元に叩きつけて「むー!」と不服を表明する。
「もう! 何でそこで黙るわけ!? 私と一緒じゃ嫌なの!?」
「あ、いや、そうじゃなくて……。つい考え事が……」
「? 考え事?」
「はい」
 ばつが悪そうに、蓮はぽりぽりと後ろ髪を掻く。身長差的にどうしても見下ろす形になら
ざるを得ない十和の頭をぽむっと手を当てて撫でてやりながら、宥めてやりながら、彼は弁
明の如くぽつぽつと語り始める。
「その……俺、生まれ変わりとか輪廻転生とか、あまり信じたくはないんです」
「え、そうなの? 蓮君って無宗教だっけ?」
「そういう訳ではないんですけど。祖母の葬式にもちゃんと出ましたし……。そうではなく
て、その“次”もあるっていう考え方があまり好きじゃなくて……」
 十和は存外食いついてきたようだった。普段、どちらかと言うとガリ勉で、あまりこうい
った突っ込んだ話は「しない方が賢い」とばかり思ってきた蓮も、内心少し安心している。
年上の包容力というか、彼女のその好奇心にまた救われている。
「たとえばキリスト教でも、大よその教義というのは“今を善く生きて、天国で救われる”
じゃないですか。仏教も“現世は苦しいから、修行してその輪から抜け出そう”みたいな話
でしょう? ……結局どれも、今の否定なんですよ。自分達じゃこの世の中はどうしようも
ないから、次の人生とか極楽とか、別の何処かを用意して救われようとする。だったらこう
して“今”を生きてる俺達って何なのかなあって。馬鹿みたいじゃないですか。“次”があ
るんだからこの人生はいいや、みたいになっちゃうのが好かなくて……」
「ふうん……。相変わらず難しいこと考えるねえ、蓮君は」
「性分なもので。だから先輩がちょっと羨ましいです」
「むー? それって褒めてるの? 馬鹿にしてるの?」
 あはは……。ぷくっと頬を膨らませる彼女に、彼は苦笑(わら)っていた。暗にそんな事
はないと伝えている。伝えようとするが、如何せん自身の不器用さがそれをさせてはくれな
いのだ。
 彼女とサークルで出会った。それは結局の一つの切欠に過ぎない。
 始めから蓮は、迷っていたのだった。ずっとそういった霊魂だの救済だのと言われる言説
に対し、自分の生きる意味に対し、懐疑的であった。答えを見つけられないでいた。
「そういう訳じゃないですよ。ただ、そうやって昔の人達が“今”に見切りをつけるような
教えを残しているっていうのが、どうもやり切れなくて」
「じゃあ蓮君は、まだ信じてるんだ?」
「……なんですかね? 俺のはもっと個人的なものだと思いますよ。もし“今”を生きる目
的が“次”の人生の為ならば、じゃあ“今”の自分って何なんだろう? って。そりゃあ生
物学的にも、生きてる最大の理由は子孫を残すことですけど、じゃあその為だけに費やされ
る自分って何なんだろう? って思うんです。俺が死んでも俺の次がいる。でもその次の俺
も、きっとそのまた次の俺の為に生きるんであって──じゃあやっぱり、意味はないんじゃ
ないかって考えてしまって。それで……」
「来世って考え方が、嫌になっちゃった、と」
「……はい」
 だから、蓮にはとても新鮮に映った。“今”を目一杯笑って生きている十和が、とても眩
しく魅力的に映った。有り体に言えば羨ましかったんだろう。
 サークル内の付き合いから、今のような交際へ。紆余曲折あってこうして現在の関係にま
で発展した訳だが、その根っことなった理由には、そんな彼女への憧れと興味が多分に存在
していたからである。尤も、結局当の本人には、終ぞ打ち明けられないままなのだが……。
「ふむう……」
 十和は、珍しく考え込むような様子をみせていた。唇にトントンと指先を当て、何処か別
の空(くう)を見るように視線を逸らしている。
「全く、前向きなんだか後ろ向きなんだか……」
 そして、はあと嘆息。
 だがその表情は、次の瞬間には苦笑(わら)っていた。見る者を安堵させる、包容力のあ
る笑顔だった。
「次の人の意味は、その次の人達本人が考えればいいじゃない。蓮君が全部背負い込むこと
なんてないよ。蓮君は“今”の蓮君を生きなくっちゃ。生まれ変わりとか、信じない方なん
でしょ?」
 だから、そんな十和の言葉に、蓮は思わずハッと目を見開いた。その隙に彼女はついっと
背を伸ばし、見下ろしてくる彼の顔近くまで寄ってくる。そ・れ・に──言葉を一音一音区
切るようにして、彼女はニッと悪戯っぽく笑う。
「私は見つけたよ、今生きている意味。こうして、目の前にいる」
「え──?」
 だから、殆ど不意打ちだった。気付いた時には、彼女はもうすぐそこにまで迫っていた。
 昇って街を照らし始める朝日が高台の二人を眩しくする。逆光に包まれ、目一杯背伸びを
して近付いて来た、十和の唇。
 ちょうど、次の瞬間だった。
 固まる蓮の唇にそっと、彼女のそれが小さく触れて──。
                                      (了)

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  1. 2018/01/28(日) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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