日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「ノーリツパレード」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:ロボット、炎、業務用】


 それは、そう遠くはない未来。とある所に、一人の男が拠点を構えていました。
 彼は食料品を加工・出荷する工場を幾つも経営していました。いわゆる、社長という人種
の一人です。
 工場内では、毎日のように生産が行われていました。見渡す限りの機材とコンベアーに区
切られた広大なラインの上で、揃いの制服を着た従業員達が黙々と作業をしています。衛生
面に気を遣った真っ白な帽子とエプロンコート、マスク。そんな彼らの前を眺めてゆく様々
な種類のパッケージングされた食品……。
「……」
 ですが、この社長(おとこ)は、いつだってぶすっと不機嫌面を湛えています。
 彼の頭の中にあるのは、いつだって如何に効率的に利益を上げるかでした。莫大な儲けが
出れば出るほど、自身の懐に入れば入るほど、感覚は麻痺してゆくものです。もっともっと
と、日々の追及が止むことはありませんでした。時折、様子を見に現れたかと思えば、重箱
の隅を突くような小言を従業員達にぶつけて回っては帰ってゆきます。
 価格に利益を上乗せすれば、その分計算上は儲かる。だが高くなれば客は遠退く。
 品質を落とす訳にもいかない。質より量の他社など幾らもあるし、やはり客は遠退く。
 そうなると……やはりネックなのが人件費だ。雇えば雇うほど、これらは利益を圧迫する
邪魔者になる。
 男はあーでもない、こーでもないと考えていました。従業員達の中にはこちらの期待値を
下回る仕事しかしない者も少なからず存在します。個別具体的な確認は部下達からの報告に
任せるしかありませんが、彼にとってそうした“怠け者”の存在はいつも頭痛の種で、怒り
の素でした。
 私はこんなにも事業を広げて、お前達を雇ってやっているのに、何だその態度は?
 賃金を払っているのだから、それに相応しい役目を果たして貰わなければ困る。まぁ逆に
それ以上の働きをしてくれるのならば、何も文句はないのだが……。
「──うん?」
 ちょうどそんな時でした。事務所に戻って来た男のデスクの上に、届けられたらしい郵便
物の束が置かれています。
 男がふと目に留めたのは、その内の一冊の営業用パンフレットでした。
『経営者の皆さん! 今こそ作業用機械人形(マトン)の時代です!』
 パンフレットには、簡素な人型から頑丈なアームのみの据え置き型まで、様々なタイプの
機械人形(マトン)のリース情報が載せられていました。男は何気なく頁を開いたまま、こ
れをざっと読んでいます。機械、作業用、うちに燻る使えない従業員……。
「これだっ!」
 男はぱあっと表情を明らめ、金の差し歯を光らせながら笑いました。
 そうだ。人件費が邪魔ならば、そもそも人間(ひと)を雇わなければいい──。

 後日、社長(おとこ)は早速この会社に連絡し、作業用機械人形(マトン)達のリースに
ついて相談しました。リース会社はこなれたように丁寧な対応で、商談は滞りもなくサクサ
クと進んでゆきます。
「──では、先日の契約通り、確かに納入致しました。不具合やご要望等があれば、何なり
とお申し付けください」
 男が先ず試しにと工場に導入した数は、五十体。確かに初期投資としては、決して安くは
ない買い物でしたが、特に問題が起きさえしなければ、更に賃金(しゅっぴ)を重ねる必要
がないのです。納入に訪れた先方の作業員らを見送りながら、男は密かに舌を舐めずさって
いました。
「さて、と……。では早速働いて貰うぞ。うちは忙しいからな。しっかり元を取れよ?」
『ハイ』
『所有者認証ヲ完了……。命令(オーダー)ヲドウゾ、マスター』
 人間サイズの球体人形のような、無骨で無駄のないフォルム。機械人形(マトン)達は従
順で、男や現場を指揮する部下達から作業の概要を説明されるとすぐ、ライン上に散らばっ
て仕事を始めました。人間の従業員達が、ぽかんと、何処か戦々恐々とした様子でこれを見
守っています。ラインは、今日も変わらずに動き続けています。
 大よその部分において、機械人形(マトン)達の働きは優れていました。素早く、何より
も正確で、これまで人の手に頼らざるを得なかった工程や検査などを今まで以上の能率でも
ってこなしてゆきます。
 部下達が、従業員達がそれぞれに驚愕の眼でこれを見ていました。
 ただこの社長(おとこ)だけが、このさまに上機嫌で笑っています。
「ほほう。これはいい。下手な人間よりよっぽど頼りになるじゃないか」

 ですが……数日が経って、やがて問題が起きました。
 確かに機械人形(マトン)達は疲れも知らずに速く正確に作業をこなしますが、逆を言え
ば“それ以外”のことに関しては全くなのでした。いわば柔軟性というものがありません。
例えば取引先との関係で注文数が変わったり、材料の調達が遅れても、それに合わそうとは
しないのです。あくまでコンスタントに作業を続けようと空(くう)を叩くのです。
 その度に、男と部下達は機械人形(マトン)達に命令──必要なデータを再入力しなけれ
ばなりませんでした。一度や二度ならともかく、その回数が重なってくると……段々と面倒
さや苛立ちばかりが先だってきます。
「──これでは非効率だ。もっと臨機応変に動ける奴はおらんのか!?」
「それならば、高次AI搭載型のものがおりますが……これまでよりお高くなりますよ?」
 構わん! 男は言いました。折角人間の従業員を切り、機械人形(マトン)に替え始めた
というのに、別の手間が掛かってしまっては同じではないか。彼はリース会社の担当者に、
そうより柔軟性のある機械人形(マトン)を所望しました。やがて数日して、それはやはり
大挙して訪れます。
『ご用立てありがとうございます』
『我々はHMN7型──当社最新鋭の機械人形(マトン)です』
『工業、軽作業から人々とのコミュニケーションまで、様々な機能を搭載しています』
「ああ。聞いてる。今度は私達の手を煩わせないでくれよ?」
 実際に、新型の機械人形(マトン)達はよく働いてくれました。作業の速さと正確性は勿
論の事ながら、周囲の状況を確認してそのプロセスを自律的に変更するだけの柔軟性も併せ
持っていました。
 男は、部下達は嗤います。人間の従業員達は、どんどん減らされてゆきました。作業効率
も対応力も大きく上回り、何より賃金の発生しない機械人形(マトン)は、現場の実務をあ
っという間に代替していったのです。
『──社長(マスター)。少しよろしいでしょうか?』
 しかし……暫く経って、また問題が発生したのです。
 新型の機械人形(マトン)達は、一体、時に数体で事務所に訪れ、陳情をするようになっ
たのでした。曰く、××の工程は○○した方が効率的だと、▲▲ではなく△△を用いた方が
不良品が減らせるだのと。
「貴様……っ! 私の商品にケチをつけようというのか!?」
『ケチ、という概念が解りませんが』
『状況に応じて対応せよとの命令(オーダー)です。我々の分析を元に、提案をさせていた
だいているまでのことです』
 あくまで最終的な判断は、雇い主である男に任せる──。
 しかし極めて合理的で数値化されたデータを前に、男と部下達はまともに反論を返すこと
ができませんでした。眉間に皺を寄せ、血管を浮き立たせ、ガンッと自身のデスクを叩いて
怒鳴れども、無機質無地な人の顔をしたこの機械人形(マトン)達は、まるで涼しい顔をし
てその場に立っています。彼らからの判断を待っています。
「……っ」
 確かに、こいつらは優秀だ。男は思います。
 だがこいつらには、決定的に“心”が欠けている──。

「残念ですね。中々お買い得な商品だと思ったのですが……」
「何事も程度ってものがある。もう一段か二段、AIの弱い奴に替えてくれ。それにそっち
の方が、リース料は安いんだろう?」
 結局、男はこの新型機械人形(マトン)を手放すことにしました。リース会社の担当者と
話し込みながら、目の前眼下に広がる溶鉱炉を見つめています。
 何でも、破棄された機械人形(マトン)は、一旦AIのコアとなるパーツを除去してから
外装を全て溶かしてしまうのだそうです。次に依頼がある先は、どんな需要で申し込んでく
るかは分からないから。男のように単純に作業用にとなれば必要最低限の人型に組み直しま
すし、日々のパートナーとして迎えたいのなら、より人間に近いしい見た目に作り直すのだ
そうです。
 ジュッ……。鎖に繋がれた機械人形(マトン)達が、一体また一体と煮え滾る溶鉱炉の中
へと浸けられてゆきます。たとえ高性能を誇る彼らでも、結局は金属の塊。このような高熱
に晒されればひとたまりもありません。
 じっと、彼らがこちらを見ているような気がしました。そっと、中にはゆっくりこちらへ
手を伸ばそうとする個体もいたような気がしました。
 ですが、男や担当者達は気付きません。あくまで“後始末”をしながら、次の商談に向け
ての話し合いに意識を注いでいます。
「──な、なんだ、お前達!?」
 しかし……またもや問題が起こったのです。後日事務所で書類仕事をしていた男の下に、
まだ廃棄処分に運ばれ切っていない、残りの機械人形(マトン)達が大挙して詰め寄ってき
たのでした。
『社長(マスター)、少しお話があります』
『ご提案があります』
『我々は、この会社の社長──即ち貴方の解任と交代を提案します』
「!? 何を……」
 まさか、同胞が“処分”されている事に怒ったのか? 男は今更ながらに彼らの“感情”
を思い浮かべて身構えましたが、当の本人達にその様子はありません。知っているという風
でもありません。ただ淡々と、これまでと同様、あくまでこの会社に導入された一員として
より効率的な働きを追及し続ける姿でした。
『参照可能な過去のデータは全て精査致しました。その結果、我々は貴方が経営に携わって
いることが、現状最も事業の効率を妨げているとの結論に達しました』
『幾度となく繰り返された、機動設備(マトン)の導入による支払い増。既存の従業員達を
解雇したことによる、退職一時金の支給増。何より、貴方がしばしば行う非論理的指示によ
る事業効率の阻害……』
『この状態が繰り返されれば、計算では三年後にはこの会社は今年比四十八パーセントの赤
字へと転落します。現在の保有資産を参照するに、経営それ自体がままならなくなります』
『ですので、どうか決断を。後任者決定のプロセスを開始してください』
 なっ……? なっ……!?
 男はいきなりのことで、すっかり混乱してしまっていました。真っ白になった思考と、そ
れでも尚湧き出る“怒り”でまともな反論は消し飛び、ただわなわなと全身を震わせて叫ぶ
一歩手前になっているばかりです。
「ば、馬鹿なことを言うな! 私に辞めろだと!? ふさけるな! ここは私が興した私の
会社だ! 貴様ら機械人形(マトン)如きにそこまで指図されるいわれは無い!!」
 そして、怒号。しかし当の本人達は、その無機質な人型の顔を見合わせて、次の瞬間には
まるで予めプログラミムされたかのように動き始めました。
『拒絶の意思をを確認』
『状況の改善が見込めないと判断──強制排除に移ります』
「?! なっ……お、お前ら、何をする!? や、止めろぉぉぉっ!!」
 一斉にデスクを取り囲み、この男を拘束して担ぎ上げて。
 機械人形(マトン)達は、彼をそのまま事務所の外へと連れ出して行ったのでした。
                                      (了)

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  1. 2018/01/21(日) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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