日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「傍観希望」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:主人公、入学式、脇役】


 自分の人生の主役は自分だけだとはよく云うが、冗談じゃない。
 少なくとも僕は、目立ちたくはなかった。物語の主人公のように自分を、周りを巻き込み
ながら波乱の人生を送るよりも、波風を立てずに静かに暮らしたかった。激しい変化に見舞
われるのはうんざりだ。モブキャラでいい。誰にも殊更注目されるでもなく、それ故に無駄
に厄介事を背負い込まずに済む人生──。
「ねえねえ、神原君。今度の休み遊びに行こうよ~」
「あ、ちょっと。抜け駆けは駄目だって言ってるでしょ!? 私、私と行こ?」
「私とだよねー? この前約束したもんねー?」
「……」
 なのに、何でこうも周りの奴らは喧しいんだ。休み時間になればなる度、馬鹿の一つ覚え
みたいに集まって五月蝿くする。
 僕はちらっと一回横目に視界の端にそれを映したが、すぐに直視できずに逸らした。
 今日三度目の休み時間。クラスの教室ではとある一人の男子を中心に、彼を取り囲むよう
に女子達がわらわらと集まってアピール合戦を繰り広げている。
「あはは……。こ、今度ね? 行くっていうなら皆で遊んだ方が楽しいと思うけど……」
 露骨に色目を使いやがって……。女子どもの群れにもうんざりだが、それ以上に標的とな
っているあいつの態度にもいい加減怒りを通り越して呆れてくる。
 線の細い、柔らかな微笑を貼り付けたあいつ。
 形容するならば、爽やか系のイケメンとでも言うべきなのだろうか。とにかくあいつはモ
テる。基本的に怒らないし、紳士的な態度を崩さないものだから、肉食系の女子達にとって
はいいカモなのだ。育ちも医者の一族だから、あわよくばという欲もあるのだろう。
 気に食わなかった。僻みなんかじゃない。こいつはいつも皆の中心にあって、僕達の近く
に騒がしさを連れてくる。
 実際、僕以外にも疎ましく──羨ましく憎しみの眼を向けている奴らがちらほらといる。
同じ教室の中に押し込められているのに、この差は何だ? 顔か、性格か、はたまた醸し出
す雰囲気なのか。僕には解らない。だが少なくとも、成長するにつれ、あいつは妙に女子に
モテだしたことだけははっきりしている。
(……ちっ)
 人間を主役とモブに分けるのなら、間違いなくあいつは前者の側なのだろう。
 気に入らない云々とは別に、現実としてそういう奴は世の中に一定数存在する。本人達は
思うがままに生きているのだろうが、それだけで、その容姿や才覚を振り撒くだけで人々の
輪の中心に持ち上げられる。世の中のムーブメントを担う存在になる。
 その一方で……僕たち後者は、いつもその煽りを受けているのではないか? こちらが望
む望まないに拘わらず、世の中を動かすあいつらの余波に、僕らは合わせざるを得ない。あ
いつらを基準に引っ張られる世界に、僕らはついてゆくようしばしば強制させられる。
 ……静かに暮らしたかった。激しい変化などなくてもいい。ただこの今を、より長く、平
穏無事に過ごすことができさえすれば。
 なのに、それさえ邪魔してくる。あいつのような輩は、そんなささやかな願いすら踏み躙
ってくる。何より大抵の場合──少なくともあいつに関しては、自身がその渦の中心になっ
ているという自覚が薄いものだから、性質が悪い。
(何で、よりによって……)
 同じクラスになってしまったんだ。モテ始めているのは知っていたから、そこさえ避けれ
ばまだ比較的静かに暮らせると思っていたのに。
 ぐっと唇を噛んだ。周りの他の男子とは、また違った感慨なのだろう。あいつらが向けて
いるのはジェラシーだが、僕のそれは怒りである。たった一つ、残されてやっと縋りついた
願いさえも、この喧騒はびりびりと、ゆっくりと時間を掛けるように引き裂いてくる。
「っ……!」
 耐えられなかった。やはりほんの十分ほどとはいえ、同じ空間になんて。
 僕は一人席を立っていた。ガタンと椅子を押し飛ばし、その足で真っ直ぐに教室の外へと
早足で出てゆく。
 辛抱だ。残りの時間、トイレでも校舎裏でも、静かな場所にいよう。何もあいつの連れて
くる騒がしさと同居することはない。やり過ごして、落ち着けるんだ。自分が求めているの
は激しい変化ではない、動揺ではない。ただ平穏に、掻き乱されずに自分が自分であれるよ
うに生きること……。
「! 望(のぞ)──」
「ねえ、神原君」
「何処見てるの?」
「一体、誰を選ぶの?」
 だからこの時、僕は気付かなかった。
 あいつが教室から抜け出す僕に気付いて、声を掛けようとしていたことに。

「はあ、はあ。やっと見つけた……。ここにいたんだ」
 だからあいつが追い掛けてきた時、僕は物凄く不機嫌な表情(かお)をしていたと思う。
 教室の喧しさから逃げ、階段傍のデッドスペースに一人佇んでいた時、一希は現れた。例
の如くニコニコと、走ってきたのかちょっと肩で息をしながら、それでも笑顔を浮かべたま
まで。
「……何さ。女子達と話してたんじゃないのか」
「話してたっていうか、向こうから一方的にだよ。この前つい、遊びに行こうって安請け合
いしちゃったもんだから……」
「……ふん」
 自慢か。僕は確かに苛立っていた。壁に背を預けて、こいつのヘラヘラした面構えを睨む
ように見ている。というか、お前がここにいたら、またあいつらが追ってここまで来てしま
うんじゃないか?
「じゃあさっさと戻れよ。自分で背負い込んだ女難くらい、自分でケリつけなよ」
 なのにこいつは、そんな僕の言葉を哀しそうに聞いていた。それまでヘラヘラと笑ってい
た表情(かお)が、はたと静かに真面目なものになる。
「……やっぱり、俺のせいなのか? 俺がずっと、一緒に遊んでたせいで……」
 言うな。僕は眉間に皺を寄せて、最初黙っていた。この底抜けのお人好しには怒鳴りたい
ことなど山ほどあったが、こちらからぶちまけてしまっては“負け”だと思っていた。
「正直、驚いたよ。だって入学式の時、男の制服を──」
「五月蝿い!」
 なのに、何でだ? 何でお前は、そういつも僕の苛立つ所ばかりを触ってくる?
 僕はぎゅっと、制服の上から胸元を握った。内心で、やはり日に日に膨らんできているの
が分かる。解っているんだ。でも一希、お前と一緒に遊び回っていた僕は……。
「僕は、僕だ。学校にもちゃんと事情は話してある。お前さえ黙っていれば、僕はこの三年
間をやり過ごすことだって……」
「で、でも。そんなの辛いじゃないか。自分を偽って生活するなんて……」
 だからギリッと、僕は歯を噛み締めた。誰のせいでここまで拗れたと思ってる? 小さい
頃から一緒に、お前達の中に交じって、同じだと思って駆け回っていたんだから……。
「今更、どうしろってんだよ。お前だって中学の頃から、ああモテ始めて戻れやしないだろ
うが」
 放っておいてくれ。切にそう願った。
 お前と距離を置いてさえすれば、少しでも和らぐと思ったんだ。激しい変化を、目の前の
彼女達を見さえしなければ、徒に意識することもさせられることも無くなると思いたかった
から。
「でも……」
 なのにお前は、心配そうに僕を見る。いつだってそうだ。そうやって誰であろうと、男で
あろうと女であろうと、自分よりも他人ばかり心配してくるものだから、こっちが逆に掻き
乱されるんじゃないか。
 だからモテるんだろうけどな。
 そんなこいつを、昔から知っている得意気と、実際に自分の心の中を掻き乱してくること
に対しての苛立ちと。……もう終わったんだ。幼馴染なんてのは、こっちが望みもしていな
いのにくっ付いてきて、今じゃあ重しになるからと避けているのに、目の前のこいつは今で
も僕のそれであろうとし続けている。
「望(のぞみ)は──女の子だよ。俺が知っている誰よりも」
「……っ」
 だから、胸元を握った手に余計に力が篭もる。一希の言葉に、否応無く現実を突きつけら
れた気がして逃げ出したくなった。気持ち俯き加減になって、結んで垂らしていた後ろ髪が
ふぁさりと揺れる。それでも僕を包んでいるのは男子の制服。幼い頃、一希たちと一緒に駆
け回っていた頃に信じていた自分だ。
 半ば無意識に、ゆっくりと顔を上げていた。この一希(おさななじみ)を見ていた。
 この零れる涙は──何なんだ? どうしていつも、お前は僕にそういう事ばかり言う?
「僕、は……」
 特別なんて要らなかった。皆と同じがよかった。
 “主人公”になんてなりたくなかった。こんな思いを、背負わされるくらいなら。
                                      (了)

スポンサーサイト



  1. 2017/12/11(月) 00:00:00|
  2. 週刊三題
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<(雑記)改宗するでもないけれど | ホーム | (雑記)マウント・ザ・アラウンド>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://higurasisouann.blog27.fc2.com/tb.php/938-a6142f3b
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

訪問者累計

最新記事

最新発言

検索窓

月別履歴

11 | 2019/12 | 01
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -

分類/索引

【案内板】 (2)
【小説:短編】 (20)
本の蟲 (1)
硝子野不動産店 (1)
夏の日の幻影 (1)
四番線の彼女 (1)
夢視の宿 (1)
線を曳く町 (1)
炬燵の神様 (1)
三者三盗噺 (1)
色眼鏡 (1)
奴らは攻城戦師 (1)
詰め替える (1)
同じ籠の狢 (1)
二十年後の遺言 (1)
轍の先 (1)
水に流せば (1)
真夜中の御二柱 (1)
いつか見た夢 (1)
神様達の初詣 (1)
白い花束 (1)
丸の代償 (1)
【小説:長編】 (194)
Amethyst League (6)
アンティーク・ノート (3)
ユウキのヒカリ (5)
NIGHT GUNNERS (5)
レディ・ルーン-Bonds of RU'MEL- (6)
ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- (111)
死に損いのデッドレス (5)
Dear SORCERY (4)
サハラ・セレクタブル (49)
【企画処】 (472)
週刊三題 (462)
その他参加物 (10)
【資料庫】 (2)
【落書帳】 (2)
【詩歌帳】 (8)
【雑記帳】 (403)
【読書棚】 (32)
【遊戯倉】 (25)
path. (4)
decide: (3)
ユー録FW(凍結中) (17)

記事録

交友関係

このブログをリンクに追加する

(RSSリンク)

(QRコード)

QR

Tweets by long_month