日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「出口のない箱」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:部屋、死神、時流】


 僕はちょうど、この人生を終えようとしていた。
 狭くて古い安アパートの部屋で、天井近くの収納棚の取っ手に結んで繋いだネクタイを通
し、輪っかにしたもう一方を首に巻く。
「──ちょっと待ったああ!!」
 そうした最中のことだった。
 突然、何処からともなく邪魔者が割り込んで来たのは。
「げほっ、ごほっ!? ……だ、誰?」
 スパーンと戸を開けて入って来たのは、一人の黒いスーツ姿の男。
 面識は……ない。少なくとも自分の記憶には居ない。スーツと同じ黒縁の眼鏡を掛け、軽
く髪を撫で付けてある。ひょろ長だし、何となく頼りなさそうな感じだ。
 中途半端に輪っかが絡まっていたからか、酷く喉が詰まった。咽ながら睨み返す。
 大体こいつ、どうやって家の中に入って来たんだ……?
「あ、どうも初めまして。私、死神をやっております、ナンバー2055と申します」
「は……? 死神ぃ?」
 だからその第一声を聞いた時、正直僕は馬鹿みたいな表情(かお)をしていたと思う。
 勝手に上がり込んで来て、何言ってんだこいつ。漫画じゃあるまいし。それに“死神”と
言えば、もっとこう……。
「全然、そうは見えないんだけど」
「ええ。よく言われます」
 苦笑(わら)ってんじゃねえよ。
 この黒スーツの男──自称・死神はポリポリと、後ろ髪を掻きながら言った。
 そのまますとんと目の前に座ってくる。本当、何なんだ。調子が狂う……。
「死神ってのはもっとこう、禍々しい感じじゃん。中身は骸骨で、黒いローブにおっきな鎌
を持った……」
「あはは。それは貴方達人間が勝手に作り上げたイメージじゃないですか。漫画の読み過ぎ
ですよ? 確かに大昔はそんな感じに近い装束だったかもしれませんけど、今はこれが私達
の正装です。死神も近代化しているんですよ」
「ふ、ふぅん……?」
 存在自体がファンタジーのお前に言われたかないんだが。
 というか、死んでもスーツ姿なのか。余計に絶望してきた……。
「それよりも! 今貴方、死のうとしてたでしょ。駄目ですよお、そんなにホイホイと死な
れたら」
「はあ? 不法侵入した上に説教か? あんたには関係ないだろ。僕はもううんざりしてた
所なんだよ。給料は上がらないし、仕事はキツいし、周りの人間は頭おかしい奴らばっかり
だし……。何処に転職した(いった)って変わらないんなら、早く楽になろうって……」
「あー、貴方もその系ですか……。大変ですねえ。あ、あと信じて貰えていないようなので
お手を一つ」
「ああ? って、わあっ!?」
 加えて今し方吊ろうとしていた事を咎められたものだから、流石に頭にきた。それでも切
欠さえあればスラスラと愚痴が零れる辺り、大分病んでいるんだなと思う。
 男は、そんな僕の態度に安い同情のようなものをみせた。更に片腕を取ってきたかと思う
と、そこに自分の腕を“貫通”させる。
「わあっ、わあーッ?!」
「ちょ、ちょっとそんな大声出さないで下さい。証拠をお見せしただけですってば。ほら、
通り抜けているでしょう? 私が本来霊体だからできる技です。このお部屋にも、同様にし
て入らせていただきました」
「……。信じられないけど。ていうか、さらっと侵入認めるのな」
 最初はいきなりで焦ったが、あくまで気弱で事務的な男の喋り口に落ち着いてきた。いつ
までも貫通させられたままじゃあ気味が悪いので、さっさと解いて貰う。改めてこの狭くて
古いアパートの一室で野郎が二人、ちょこんと正座と尻餅のままの胡坐で向き合っている。
「つーかさ、あんた死神だろう? 何で人を助けるような真似するんだよ。折角意を決して
逝こうとしてたのに。手伝ってくれりゃあいいじゃんか」
「いやいや、それも貴方達の勝手なイメージですよ。私達死神の仕事は、あくまで死した魂
を安全に冥府へ導くこと。迷われて悪霊になられたら困りますからね。確かに月毎のノルマ
はありますけど……だからって自分で手に掛けるなんてとんでもない! そもそもそんなの
は重大なルール違反ですから」
「……こっちは寧ろ、死神にもノルマとかあるって方が初耳なんだが」
 何もかも、自分が想像していたものとは全く違っていた。要するに死神ってのは回収業者
であって勤め人なのか。……死んでも働いてるのか。
「と、とにかくですね? 貴方達現世の人間にホイホイ死んで貰っては困るんです。貴方達
くらいですよ? 自分から死のうなんていう生き物は。それも年々人数が増えていっている
ものですから、手続きの量も膨らんで膨らんで……」
「……」
 あー、何となく話が見えてきた。というかごめん。多分それ、人間の中でもこの国の連中
のせいだわ。
「なので、こうして私達エージェントが定期的に現世を回って、徒な死を未然に防ぐ取り組
みをしているという訳なんです。お分かりいただけましたでしょうか?」
「ああ、うん。まあ……。あんたらも辛いんだな」
「ええ、そうですとも。分かるでしょう?」
 ねっ? 男(本当に死神と呼んでいいのだろうか)は一通り説明すると、ずいっとこちら
に気持ち詰め寄って来た。正直鬱陶しい。何で吊るのを半端に止められた挙句、おっさんに
迫られなきゃならんのか。この世は──多分あの世も、理不尽に満ちている。
「……それ、別に僕じゃなくてもいいんじゃないの?」
「っ!? 貴方まだ諦めて……。駄目ですよ!? 私の目の前で死なないで下さい! 仕事
が増えちゃうじゃないですか。ただでさえ今月の防止ノルマ、半分もいってないのに……」
「いや。そりゃああんたもお気の毒なんだが、僕だってそう言われてはいそうですかって訳
にはいかないよ。折角気持ちを奮い立たせたってのに、馬鹿みたいじゃないか……」
 あぐあぐ。この死神はどうも意図してかせずか、泣き落とし作戦を採ってきているように
思えた。僕は一旦落ち着いてさっきまでの自分を顧みる。これまで胸の中に積もりに積もっ
た憂鬱な気持ちを、掘り起こす。
 個人的な面子というか、拘りの問題だ。こんな素っ頓狂な出来事で邪魔されて、尚且つ何
だかんだでまだ生きてましたーなんて、馬鹿馬鹿し過ぎる。
「いやいやいや! 駄目ですって。諦めて下さい。次の査定に響くんですよ~!」
「……そう言われると余計になあ。いやまぁ、死んだ所であんたみたいな生活が待っている
となると、結局何も楽にはなれやしないのか……」
 本当、調子が狂う。死んだ後の事なんて考えもしなかった。強いて言えば、死んだら全部
がプツンと切れて、楽になるとばかり思っていたから……。
「なあ。一応訊くけど、僕らが死んだらどうなる?」
「ふえ? ああ、さっきも話しましたように、私達最寄の死神が貴方の下へ駆けつけて魂を
冥府まで誘導します。その後は審判と各種浄化作業の後、輪廻コースに入るかあちらで居留
するかに振り分けられることになりますね」
「浄化作業……?」
「ええ。貴方がたの創作でもよくあるじゃないですか。地獄に落ちて釜で煮られたり、鬼に
追われて拷問をされたり……。実際は“獄吏”達なんですけどね。まあ、元々荒くれ者だっ
た者が就くことが多いので、そんなイメージが伝わったんでしょう。生前に重ねた罪で穢れ
た魂を、長い時間をかけて綺麗にするんです。辛いですよー? 何たって一回死んでいる訳
ですからね。辛いからといって逃げることも出来ないんです。それが嫌だからと、たとえ制
限された暮らしでも、上層に留まりたいっていう人達は多いんです。……そうですよ。そう
やって貴方達がホイホイ死んでくるから、街の治安もどんどん……」
 そう暫く話を聞いていたが、やがて死神はあの世(むこう)の暮らしを思い出したのか、
みるみる内に憂鬱な表情になっていった。ずーんと沈んで、深いため息。何だか悪い事をし
たようでこちらが気まずい。
「あ、うん。その──」
「で・す・か・ら! 貴方達には一人でも多く真っ当に生き抜いて貰わないと困るんです!
本当、迷惑なんですよ。次から次へとどんどん、本当、馬鹿の一つ覚えみたいに落ちて来る
もんだから……!」
 あああああ。死神は、遂にはその場で頭を抱え出した。よっぽどのトラウマのようだ。と
いうか、これ完全に仕事でキャパオーバーして壊れかけてる奴だよな。
「……その、ごめん。あんたらの方は詳しく知らないけどさ? 愚痴くらいなら聞くよ?」
 そんなもんだから、つい僕はこいつの傍に回って、えぐえぐ泣き始めたその背中を擦って
やり始めていた。
「ううっ……。すみません、すみません……」
 ああ本当、見てるこっちが辛いっての。
 そっか。死んだって辛いのか。その後ってのも、在っちゃうのか。
 嫌だなあ。希望としては、さっくりとその輪廻コースとやらに逝きたいが、こいつの話か
らして多分無理そうだしなあ。魂のまま浄化もとい拷問かあ。そりゃあの世で暮らし直した
方が楽だよなあ。まぁそのせいで、こいつら死神やら向こうの連中に皺寄せが行っているら
しいけど……。
「じゃあ、どうればいいんだよ」
 ポツリと僕は言った。もしこいつの言うように、生きてても死んでても僕達を取り囲む仕
組みがさして変わらないのなら、本当に慈悲なんて欠片もなく逃げ場なんて──この現実に
は出口さえ、存在しないってことになるじゃないか……。
「──おーい、20(フタマル)。そっちは終わったかー?」
 ちょうどそんな時だった。また別の黒スーツの男が、もの凄くナチュラルに部屋の戸を開
けて入って来た。多分同じ死神の一人だろう。
 僕はこいつの──最初の方の死神を相変わらず慰めてやりながら「あっ」という感じで視
線が合ったのだけど。まるで立場が逆転したみたいに、もの凄く瞬間的に、何とも言えない
ような気まずい感じになったのだけど。
                                      (了)

スポンサーサイト



  1. 2017/12/01(金) 00:00:00|
  2. 週刊三題
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<(企画)週刊三題「タメライミライ」 | ホーム | (企画)週刊三題「蓋と泥」>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://higurasisouann.blog27.fc2.com/tb.php/934-911cc6b2
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

訪問者累計

最新記事

最新発言

検索窓

月別履歴

07 | 2020/08 | 09
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31 - - - - -

分類/索引

【案内板】 (2)
【小説:短編】 (20)
本の蟲 (1)
硝子野不動産店 (1)
夏の日の幻影 (1)
四番線の彼女 (1)
夢視の宿 (1)
線を曳く町 (1)
炬燵の神様 (1)
三者三盗噺 (1)
色眼鏡 (1)
奴らは攻城戦師 (1)
詰め替える (1)
同じ籠の狢 (1)
二十年後の遺言 (1)
轍の先 (1)
水に流せば (1)
真夜中の御二柱 (1)
いつか見た夢 (1)
神様達の初詣 (1)
白い花束 (1)
丸の代償 (1)
【小説:長編】 (205)
Amethyst League (6)
アンティーク・ノート (3)
ユウキのヒカリ (5)
NIGHT GUNNERS (5)
レディ・ルーン-Bonds of RU'MEL- (6)
ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- (116)
死に損いのデッドレス (5)
Dear SORCERY (4)
サハラ・セレクタブル (55)
【企画処】 (510)
週刊三題 (500)
その他参加物 (10)
【資料庫】 (2)
【落書帳】 (2)
【詩歌帳】 (9)
【雑記帳】 (419)
【読書棚】 (32)
【遊戯倉】 (25)
path. (4)
decide: (3)
ユー録FW(凍結中) (17)

記事録

交友関係

このブログをリンクに追加する

(RSSリンク)

(QRコード)

QR

Tweets by long_month