日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「懲悪」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:竜、最強、馬鹿】


 ただ自分は──力が欲しかっただけだ。
 もう誰にも負けないように。もう二度と、力が無いというだけで奪われるなんて理不尽を
繰り返さない為に。

「はあッ、はあッ、はあッ……!」
 その日フリッツは、遂に成し遂げていた。身につけた鎧は既にその役割を果たせない程に
大破し、全身は酷く血塗れになっている。荒く肩で息をつき、杖代わりに地面へ突き刺した
剣は大きく刃毀れして今にも折れてしまいそう。実際、彼の周りには何十本何百本と使い捨
てられた武器の成れの果てが転がっている。
『……』
 そんな、激しい戦いを物語る場。
 それでも尚、闘志を燃やし続けるフリッツの目の前には、巨大な翼を持つトカゲのような
魔物が立ち塞がっていた。
 竜(ドラゴン)──数多いる魔物達の中でも、最強と呼ばれる種族。その堅固な鱗はあら
ゆる刃を防ぎ、その口から吐き出す高熱のブレスは全てを溶かす。加えて魔法を無効化する
障壁まで張れる個体もいるというから、およそ常人では太刀打ちなどできない。そもそもこ
の最強の魔物と面と向かって戦おうという者自体が普通はいない。
 だがこの青年・フリッツは違った。まさしく常軌を逸したと言うべき鬼気を以って、単身
その竜が棲むというこの洞窟へと足を踏み入れたのだった。
 ──その身一つで竜を倒した者、かの魔物の持つ力の全てを得られるだろう。
 俗に言う“竜殺し”の伝説だ。しかしそれはあくまで詩人の語るお伽話であり、本当に実
行しようなどという命知らずはまずいないと言っていい。
 その意味で……彼は明らかにおかしかった。狂人の域と言っていい。そんな不確かで危険
極まりない伝承に縋ってまで、彼は“強さ”を手に入れたかった。
 大量の武器と防具、マジックアイテムを抱えてこの洞窟に乗り込んできたのはかれこれ一
月ほど前。フリッツはこの最強の魔物と昼夜を問わず戦い続けた。どれだけ圧倒的な力の差
を見せつけられようとも、瀕死一歩手前になろうとも諦めなかった。
 そんな凄まじい執念があってか、対する竜の側にも少なからぬ深手が刻まれていた。強靭
な手足の筋肉や鱗の隙間に、いくつもの武器が突き刺さり、魔法──幾つものマジックアイ
テムによる焼け爛れた傷がジュウジュウと再生能力と戦っている。
『人間よ。いい加減、諦めたらどうだ? 私が手を抜いていなければ、お前はとうに死んで
いるのだぞ?』
「断る。お前を殺すまで、俺は死ねない。お前を倒して、俺は力を手に入れるんだ……」
 洞窟に棲まう竜は、そう人語を操りこの挑戦者を何とか諦めさせようとしていた。しかし
フリッツは一向に首を縦には振らない。とうに限界など幾度も越えているというのに、その
眼には執念と呼ぶしかないギラついた闘志だけが灯っている。
『そこまでして私の力が欲しい、か。一体お前に何があった?』
「……」
 問われる。だがフリッツは答えない。
 それは一々受け答えする余力がなかったというのもあるが、この目の前の倒すべき敵に、
自分の惨めな過去を話すことを恥だと思っていたからでもあった。
 フリッツは幼い頃、魔物の群れに故郷を滅ぼされた。
 魔物達にとっては何の気ない行進だったのだろう。だがその気まぐれ一つで全てを失った
彼にとっては、生涯忘れることのできない汚点(できごと)であった。
 力が欲しい──憎しみのまま、家族や同胞らの弔いの為にと彼は武芸を磨き続けた。西に
魔物の巣があると聞けば乗り込んで一匹残らず殺し尽くし、東に伝説の武器があると聞けば
遠路遥々訪ねてこれを大冒険の末に手に入れた。
 十数年。フリッツはそうしてその人生を只管に戦いに捧げた。強くなる為ならばどんな危
険なことでも臆せずに実行した。全ては力を手に入れる為。あの日守れなかった人々の無念
を晴らし、二度とあのような理不尽を味わわせないように。
 そんな果てない旅路の中で、ようやく聞きつけたのだ。
 最強の魔物・竜(ドラゴン)。これを倒すことができれば、力を得られる。誰にも負けな
い力が得られる。ようやく果てが見えたのだ。この戦いに捧げてきた人生に、ようやく完遂
の二文字を与えられる場所が……。
『だんまりか。そうだな、言って聞くような常識人であれば、私に挑むような真似などしよ
うとは思わんか』
 やれやれ。この巨大な老竜は嘆くように、ふるふると首を横に振った。彼もまた少なから
ずフリッツに攻撃を打ち込まれているというのに、苦しんでいる気配すらない。或いは本当
にこの最強の存在にとっては、掠り傷程度でしかないのか。
『……よかろう。これで最後だ。消え失せろ、人間!』
「う、おおおおおおおおおおッ!!」
 大きく息を吸い込み、ブレスを吐き出そうとする竜。
 その動作を見て、フリッツはボロボロの身体に鞭打って駆け出していた。身長大の巨大な
幅広剣を担ぎ、一直線にこれへ向かう。もう限界だ。これで決められなければ、おそらく勝
機は見えない。
 灼熱のブレスが吐き出された。それを、フリッツは寸前の所で横っ飛びしてかわし、ぐん
と加速する。ちょうどブレスを吐いた直後で、竜の首は地面へ擦れるように下がっていた。
カッと目を見開き、フリッツは跳び上がる。大剣を振り下ろす格好で重力に身を任せ、その
ままこの老竜の片目へと狙いを定める。
『ぐっ──?!』
 思わず、敵もくぐもった声を漏らしていた。フリッツの渾身の一撃は、真っ直ぐにこの老
竜の右目を貫き、更に奥の脳髄にまで届かんとしていたのだ。
 その巨体が暴れる。だがフリッツはこれが最後のチャンスを言わんばかりに、大剣の柄に
縋り続けた。悶え苦しむ揺れをも利用しながら、ぐいぐいっとその刃を彼の中枢深く深くへ
と押し込み、掻き回して壊す。
 どばどばと、焼けるほどの血潮が溢れていた。だがフリッツは止まらない。とうに身体も
限界であるにも拘わらず、ただこの巨体を殺すことだけに全身全霊を捧げた。これで、これ
で終わる。終わらせる。十七年……戦い続け、鍛え続けたこの身は、全てこの瞬間の為にあ
ったのだ……。
『があッ、があッ! お、おのれ。おのれェェェーッ!!』
 それははたして断末魔であった。押し出された血流やら体液やらが、これまでの戦いで刻
まれた傷口から溢れ出す。
 老竜は叫んでいた。それは虚勢でもなく、本当の痛みであるように思えた。
 ぐわんと大きくのたうつ巨体。
 フリッツは、そこでようやく組み付いていた身体を振り解かれて──。


「おお、フリッツ様だ。フリッツ様が戻られたぞ!」
「という事は、街道の魔物も……?」
「ああ、間違いない。退治してくださったんだ」
「フリッツ様万歳!」
「我らの竜殺し(ドラゴンスレイヤー)、万歳!」
 “竜殺し”誕生の知らせは、瞬く間に人々の間に広まった。
 最初こそ、そんなお伽話の存在などいる訳がないと疑う者も多かったが、その向かう所敵
なしの強さと、何より如何なる軍勢と対峙しても死なない姿に、人々は認めざるを得なかっ
た。人里に帰還したフリッツは、その“竜殺し”として得た力を、全て彼らの為──世の全
ての魔物を滅ぼす為に使っていた。依頼を受けて討伐から帰って来る度に、彼の周りにはそ
の姿を一目見ようと黒山の人だかりが出来るようになった。

『見、事……。人間の執念の、何と凄まじいことよ』
 あの日、一ヶ月近くにも及び激戦の末、フリッツはかの老竜を倒していた。
 敗北の言葉。“竜殺し”誕生の瞬間。
 だが脳天を抉られて、互いに持ちこたえていたその命が焼き切れる寸前、この最強の魔物
は、まるで彼の未来を予見するように言ったのだった。
『我が力、持ってゆけ。ふふ……。だが、きっと後悔するぞ……?』

 当のフリッツは、そんな言葉を遠征が終わる度に思い返していた。
 暗示を掛けられたからじゃない。ただ、思い描いていた未来がどうにも虚しくてならなか
ったからだ。
 確かに自分は最強の力を手に入れた。並みの兵士、魔物の動きなど酷く鈍間に見えるし、
軽く剣を振っただけで相手は真っ二つになる。あまり得意でなかった魔法も、竜の魔力を受け
継いでからは国家魔導師級の──術式によってはそれさえも超える領域に達していた。
「……」
 なのに、この虚しさは何なのだろう?
 幾度も魔物を殺し、返り血で染まった全身鎧。腰に下げた武器は、一瞬でつく勝負ゆえに
さして劣化も血汚れも少ないが、何故か以前にも増してずしりと重く感じるようになった。
 何よりも──自分を取り囲む人々の声が煩い。
 確かにこれは他ならぬ自身が望んだことだ。絶対の力を手に入れて、もう二度と理不尽を
味わわせないようにする。事実自分が抑止力となり、人々は魔物の脅威に怯えることも少な
くなった。自分がいれば、騎士フリッツがいれば大丈夫だと、安心し切っている。
 だが……その為に自分が払ってきた犠牲を、彼らは知らない。鍛錬に捧げた半生と、あの
老竜との死闘。別に広く知って欲しい、自慢したいという訳ではないのだが、この力を得る
為に費やしてきた日々を、どうも連中は軽く見積もり過ぎているような気がする。
『──』
 故にこの時はまだ、フリッツは気付いていなかった。束の間の平穏は先延ばしにされた。
 熱狂する人だかりの外側、白亜の官舎のバルコニーで、貴族らしき者達が数人ひそひそと
何やら話し合いながら、冷たくこちらを見下ろしていたのを。


『あの力は、危険だ』
『少なくとも他国に渡してはならない。我々が、所有すべきだ』
 はたして、フリッツの抱えていた虚しさは、ある時ある種の“絶望”として確認に変わっ
たのだった。“竜殺し”の騎士として魔物から人々を守っていた彼の耳に、そんな情報が入
ってくる。それはただ一人の「最強」を如何に扱うか──本人不在の脅威論と、その扱いの
主導権を巡る国家間の争いであったのだ。
 フリッツはその風向きに逸早く反応した。利用されることを警戒し、ある時突如して人々
の前から姿を消したのだ。各国は大いに焦った。それからも相変わらず本人は神出鬼没に現
れては魔物を狩り、人々を救ってはいたのだが、自らが御せぬ力になど価値はない。いや、
それ以上にいつ自分達に向けられる分からない──只々、脅威でしかなかった。
 故に、各国は幾度なくフリッツへと刺客を送った。しばしば一国を攻め滅ぼせるほどの大
軍勢が襲ったが、最強の魔物・竜の力を宿した彼はことごとくこれを打ち破って逃げた。そ
の度に人々は快哉し、心配し、一方で権力者達には焦りが蓄積していった。言うなれば民衆
と王侯貴族達の間の“溝”が顕在化していったのである。
 これが、あいつの言っていたことか──。
 フリッツは実に十年越しに、ようやくあの今際の言葉の真意を理解したのだった。
 確かに竜(ドラゴン)は最強の魔物だ。だがそれよりも、誰よりも凶悪で恐ろしいのは、
他ならぬ彼ら人間達ではなかったか……?
「おい。今度はセボニアが落ちたってよ」
「本当か? これで、七つ目か……」
「フリッツ様、やっぱり本気で俺達を……?」
 再び独りになった──逃亡生活に追いやられた果て。
 やがてフリッツは、何度となく繰り返した自問自答の末に、反転攻勢に出た。自分の力を
狙い、刺客を送ってきた国々を、一つ残らずその手で滅ぼして回り始めたのだった。
 各国は勿論、徹底抗戦の構えを取ったが、最強の魔物の力を宿した彼に敵う筈もない。た
った一人の自由騎士に王都は攻め落とされ、その度に王や取り巻き達だけが殺された。人々
は只々、まるで暴風でも駆け抜けたかのような惨状に呆然としながらも、あくまで王のみを
狙っては去ってゆく彼に、何処か畏敬の念を残さずにはいられなかった。
『あやつは……危険だ』
『このままでは、残りの国々が滅ぼされるのも時間の問題だぞ……?』
『……魔物だ。あいつは最早、人ではない……』
 されど、人は云う。人という群れの長である王達は口々に呼び始める。
 魔物の力を、最強の力を宿した人型の怪物。
 彼こそが、世界を滅ぼす“魔王”だと。
                                      (了)

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  1. 2017/11/06(月) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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