日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「空気清浄機」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:綺麗、人工、禁止】


「遅えぞ、何やってんだ!」
 世の中には“毒”になる人間が多過ぎる──彼はそうかねてより考えていました。
 その日、目の前に広がっていた光景も例に漏れません。昼過ぎのコンビニ。ちょうど弁当
目当ての客がにわかに増えてきた頃、つっかえていたレジの店員に向かって一人の男が苛々
とした様子で怒鳴っています。
「す、すみません。もう少しお待ちを……」
「こっちは時間がねぇんだよ。チンタラすんじゃねえ!」
 汚れた作業着姿の、如何にも柄の悪そうな男でした。どうやら昼休憩の時間がそう長くは
ないらしく、ずらりとレジ前で待たされることにストレスを感じていたようです。
 店員は眉をハの字に伏せながら小さくなり、それでも一つ一つ他の客達が持ってきた商品
を会計してゆきます。
 店内には、明らかにピリピリした空気と、男の怒声に“居心地の悪さ”を感じ始めていた
他の客達が同居していました。無遠慮にかかっている明るいテンポのBGMと、外から漏れ
聞こえる街の生活音。その対比が、今この瞬間の彼らの居た堪れなさを強調しているかのよ
うにもみえます。
『──』
 そんな時でした。店の奥の方から、一組の男女が歩いて来ました。
 一人は草臥れたワイシャツを着た、黒縁眼鏡の青年。一人はその傍らで、感情乏しく立つ
女性です。……ですが、その姿には違和感がありました。全体的に彼女には生気というもの
が感じられません。一見すると人の姿形なのですが、肩の部分や指の関節に「繋ぎ目」があ
ったり、両目の下にも「繋ぎ目」的な線が走っているのです。
「クリア」
『空間内不快指数の許容値を突破。シークエンスを開始します』
 するとどうでしょう。青年がちらっと横目を遣った次の瞬間、彼女の両目が赤く光り始め
たではありませんか。コオオオ……と。周りがその異変に気付いた時にはもう遅かったので
した。先ほどの作業服の男が「あ?」と振り返った直後、彼女の両目から離れたレーザーが
彼の脳天を貫きます。そのまま、男は悲鳴一つ上げることなくその場に倒れました。代わり
に周りの客、店員達が突然の出来事に叫びます。
『浄化(クレンズ)完了』
 額に綺麗な穴が空き、仰向けに倒れ込んだまま血だまりを拡げてゆく作業着の男。
 この妙に無機質な──機械仕掛けの女性と黒縁眼鏡の青年は、客や店員達の悲鳴を何処吹
く風といったように踵を返すと、そのまま店を後にしました。つい先刻まで店内を支配して
いた男の怒声は、もう聞こえません。

「それでね? それでね……?」
「ははは、マジ? あり得ないんだけどー」
 彼らの行脚は続きます。所変わり、運行中の満員電車。ぎゅうぎゅう詰めになった人ごみ
の中で、二人の若い女性が会話に花を咲かせています。雑談──誰かを笑う、エピソード談
でしょうか? ですがそこは大して重要ではないのです。ここで観察すべきは、彼女らの大
きく無遠慮な笑い声が、じっと揺れと密度に耐えている周囲の人々にとって耳障りな──神
経を乱す“雑音”となっていた点です。
 大よそそれは、この社会にありふれた光景だったのでしょう。いつの時代も“空気”を読
まない一部の人間が我が物顔で空間を制し、読みながらじっと沈黙を守っている大多数がい
つも割を食わざるを得ないのですから。
『──』
 ですがその日ばかりは、状況が違っていました。
 何故ならこの便には、先の黒縁眼鏡の青年と、彼に付き従う機械仕掛けの女性が乗り合わ
せていたのですから。
 ゆっくりと、二人はこの一組の女性達に眼を遣っていました。
 車内のぎゅうぎゅう詰めな人ごみの隙間。その隙間を縫うように、時折揺れる車体の動き
も全て計算した上で、彼女はこの二人への最短直線距離を見つめます。
『空間内不快指数の許容値を突破。シークエンスを開始します』
 次の瞬間でした。彼女の両目が赤く光を蓄え始めた直後、真っ直ぐにレーザーがこの二人
の若い女性へと放たれ、その即頭部を一挙に貫きました。ぺちゃくちゃと喋り続けていた声
がピタリと止み、どうっと席の背もたれにもたれ掛かります。最初は周囲も何があったのか
理解できませんでした。ですが程近い者達が、彼女達の額に穴が空いて血が流れている──
即死の状態であると悟った瞬間、車内はまた別の悲鳴(おんりょう)に取って代わられる事
になります。
「ひっ──!?」
「死ん、でる……?」
「何だ? 一体何があった?」
「……ビームだ。さっき何か、ビームみたいなものが……」
「おい、誰か運転手を! 車掌を呼べ!」
 にわかに人々がざわめき始めました。そんな事件が起きているとも知らず、電車は次の駅
に到着し、片側のドアが一斉に開きます。待っていた駅の客達が知る由もなく車内の客達と
入れ替わってゆきますが、それでも異変の気配はちらほらと彼らの視線を遣らせるのです。
『浄化(クレンズ)完了』
「ああ。では行こうか」
 そんな混乱に乗じるかのように、黒縁眼鏡の青年と機械仕掛けの女性は車内を後にしてゆ
きました。周囲の殆どが彼らの仕業だと理解するよりも先に、人ごみの中に紛れるように姿
を消してしまいます。

「何度言ったら分かるんだ! お前はこんな事も出来ないのか!?」
 更に──とあるオフィスビル。その一室で、部長が一人の年若い部下に激しい叱責を加え
ていました。周りにはそれぞれのデスクで忙しなく仕事に追われている他の同僚達がずらり
と並んでいます。彼らは部長の怒声を聞いていながらも、努めて関わり合わないようにして
いる風に見えました。叱責の対象はあくまでこの彼であり、自分ではない──怒りが飛び火
して被害を被ることは御免だと、暗に防御を固めているような俯き加減です。
「まったく、どいつもこいつも……。お前らも他人事じゃないぞ! 先月先々月とうちの営
業成績は下がってるんだ。チームの失速は全員の責任、一つのミスがお前ら全員の足を引っ
張るんだからな!」
 詰られていた当の若い部下は、静かに身を震わせながら項垂れていました。
 加えてそう有り余る怒りの矛先を向けられた他の同僚達は、一様に眉根を寄せて居た堪れ
ない表情(かお)をしていました。中にはとばっちりを受けたことに対し、この若い同僚を
恨みがましく睨み返す者達もいます。
『空間内不快指数の許容値を突破。シークエンスを開始します』
 そんな時でした。ふとそんな声が、彼らのオフィスから少し離れた位置から聞こえ、目を
遣ってみると黒縁眼鏡の青年と妙に無機質な女性がこちらに近付いて来るのが見えました。
「? 君達は何──」
 部長は深く眉間に皺を寄せ、誰何しようとします。しかしその言葉は文字通り途絶えさせ
られてしまいました。直後、彼女の両目から放たれた赤いレーザーが彼の脳天を貫き、彼の
意識を永遠に吹き飛ばしたからです。
 ざわっ……。オフィスの部下達が一斉に驚愕していました。力なく上座の自らの席にもた
れ込むこの上司の姿に、数拍理解が追いつかず、或いは反射的に悲鳴が上がりました。
「ぶ、部長!?」
「え? え? 何だ? 撃たれた……?」
「いやあああああ!」
「おい、誰か救急車! 救急車呼べ!」
 やがて弾かれたように彼らはこの上司だったものへと駆け寄ってゆきます。まだ冷静な者
が中心となり、急ぎ処置を施そうと動き始めますが、素人目にも脳天を貫かれたその姿はも
う手遅れだと告げています。
『浄化(クレンズ)完了』
 にも拘わらず、そのまま踵を返して立ち去ってゆく二人を誰一人として追おうと──取り
押さえようとしなかったのは、単に気が動転していた以上に彼らが何処かで「厄介払い」で
きたことへの安堵を何処かで抱いたからなのかもしれません。

「──素晴らしい! 実験は大成功だ!」
 黒縁眼鏡の青年は喜んでいました。何度かの“運用試験”を終えて自身の古びた洋館へと
帰って来ると、彼はこの機械仕掛けの女性と向き合って大きく左右に手を広げます。天を仰
ぐように叫びます。
 目の前の女性・クリアはただ黙して立っていました。まるで先刻まで“浄化”して回った
者達のことなど微塵も気に留めず、淡々と次の命令を待っているかのような。
 彼女は、この青年が作り上げた人造人間でした。その体内には場の空気──人々の不快を
感知・算出するセンサーが幾つも搭載されており、ある一定水準を超えるとその元凶となっ
ている“毒”の発生源、すなわち人物を抹殺するようプログラムされています。
 彼は、かねてより世の中には“毒”になる人間が多過ぎると考えていました。
 世の中の様々な場面にあって、ただそこにいるだけで、その言動で周囲の者達にストレス
を与えるいわば歩く害悪。
 彼は、そんな悪感情を露出することに躊躇いの無い人間がいなくなれば、世の中はもっと
快適になる筈だと考えていました。彼自身、そのような居心地の悪さという経験をこれでも
かと味わい続けてきたのです。故に、彼は持ち前の頭脳と技術を総動員し、何年もの研究の
果てにこの機械仕掛けの“浄化装置”を完成させたのでした。
 浄化(クレンズ)する──CLEANSEから、名をクリア。透き通るような白い肌と髪
色、生身の人間と遜色ない姿を実現した人造人間でした。
 青年は高らかに笑い、夢の実現が叶うビジョンに酔い痴れていました。
「この調子で世の中の全てのクソ野郎を始末すれば、僕達はもっと……」
 故にクククと、明確な野望をもって呟きます。
『空間内悪意値の上昇を観測。シークエンスを開始します』
「えっ」
 ですが、それが幕引きの始まりでもあったのです。あれこれと思い描いていた“夢”に思
わずほくそ笑み、口に衝いて出た次の瞬間、クリアは突如その両目を赤く光らせて攻撃体勢
に入ったのでした。
「ま、待て! クリア──」
 気付いた時にはもう遅かったのです。彼が驚いて中止の命令を出そうとするよりも早く、
彼女のレーザーが彼の脳天を貫いていました。どうっと、彼はこの日“浄化”してきた者達
と同じように、額に穴を開けてコンクリート敷きの床に倒れ、じわじわと赤い血だまりを広
げてゆきます。
『浄化(クレンズ)完了』
 彼女は、クリアは淡々と呟きました。しかし数拍し、異変に気付きます。目の前にいた筈
の主の生命反応が無いのです。見れば自分の足元で、血だまりを作って動かなくなってしま
っています。彼女は暫くじっと見つめていました。ガラクタだらけの、散らかり放題の地下
の研究室の中で、ぽつんとただ一人彼女は音も立てずに立っています。
『……シークエンス続行。ルート設定後、自動巡回に移ります』

 抑止力を失った彼女の存在は、程なくして世の人々の脅威となりました。
 何せどこからともなく現れては、一見無差別に殺害してゆくのです。その姿に当初は一体
何者なのか、何故凶行を繰り返すのかと疑問が尽きませんでしたが、やがて狙われた者達の
共通点──いわゆる言動に問題があったことが判明し、更に当の製作者である青年の遺体が
とその研究ノートが発見されたことで、状況は彼女の破壊措置へと大きく舵が切られること
になります。
「総員、構え!」
「陣形を崩すなよ。数の力を活用できなかったら俺達の負けだ」
「とにかく頭部を狙え! 奴の両目が例の殺人光線の発射口だ!」
 厳戒態勢が敷かれた街中で、完全武装した特殊部隊が彼女と取り囲んでいました。一斉に
銃口を向け、合図一つで一気に叩き壊す作戦です。
『……悪意値の上昇、多数確認。シークエンスを開始します』
 コオオオとその両目が光り始めました。あくまでその体は自衛ではなく、目の前に展開さ
れた幾つもの害意──“毒”を“浄化”する為。隊長格の男がそれを見て即座に合図をしま
した。幾つものレーザーサイトが顔面と、或いは動きを封じる為に足に向けられます。ごく
りとヘルメットの下で息を飲み、次の瞬間面々の引き金がひかれます。
「撃てーッ!!」
 合計、毎秒数百発という銃弾が彼女に撃ち込まれました。両目からのビームは初撃、隊員
数名の肩などを貫きましたが、叩き込まれた衝撃がその照準を大きくずらします。
「七番から十二番、負傷!」
「急いで下げてやれ、手当てを! 残りは攻撃を続けろ! 奴に反撃の隙を与えるな!」
 視界の端で初撃を受けた仲間が数人運ばれてゆきます。その間も、隊長を始めとした面々
は、この前例のない殺人人形を破壊すべく銃弾を叩き込み続けます。
 顔面はボコボコに変形していました。精度よりも数撃ちゃ当たる──程なくして肝心であ
る両目が幾つもの銃撃によって潰され、両脚や全身の各部も次々に銃弾の雨霰の威力によっ
て散々にへしゃげてゆきます。
「よし……。今だ、組み付けーッ!!」
 おおおおおッ!! そしてビームを封じ切ったと見るや否や、隊長の合図で隊員達が銃を
投げ捨てて彼女へと突撃します。
 その手には、腰から抜き放った鈍器。四方八方から組み付いて押し倒し、機能停止するま
で徹底的に破壊するのです。
『悪意、値の……上昇、多数……確認。シークエンス続行、続行、続行……』
 尚も呟いてはいましたが、最早彼女に抵抗できるだけの力は残されていませんでした。物
理的な行動能力が破壊され、ただのサンドバッグです。幾度となく隊員達に馬乗りになって
振り下ろされる鈍器は、その度に彼女のボディをぐちゃぐちゃに凹み、歪ませ、破壊して剥
き出しにしてゆきました。内部の装置が悲鳴を上げるように爆ぜて露出してゆきます。それ
でも尚、彼女自身は、プログラミングされた使命を必死に果たそうとしていました。
『浄化(クレンズ)、浄化(クレンズ)、クレ……ン、ズ──』
 しかし、破壊され続けたその身体は遂に限界を迎え。
 彼女はそこまで来てようやく機能を停止しました。その間も暫く隊員達は無我夢中で鈍器
を叩き付けていましたが、やがて何人かが彼女が止まったことに気付き、物々しい破壊の音
が鳴り止みます。隊長格ら数名が用心深くゆっくりと近寄り、改めてその機能停止──死を
確認すると首を大きく縦に振りました。「おお……!」と隊員達が、作戦の様子を遠巻きか
ら撮影しつつ伝えていた各種メディアも喜色を浮かべました。
「やりました! やりました!」
「遂に破壊された模様です。ここ数ヶ月、人々を恐怖のどん底に陥れていたあの殺人人形が
完全に機能を停止しました!」
 おおおおお……! 現場が、遠巻きの野次馬が、中継映像に齧り付いていた人々が一斉に
歓喜の声を上げました。そこには一見、誰一人として場の空気を乱すような人間は存在しな
いようにも見えます。
 青年が願い、その為に造られた彼女の残骸を、皆が武器を手にして取り囲みながら。
                                      (了)

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  1. 2017/10/29(日) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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