日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「サウンズ」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:音楽、少年、捻じれ】


 僕は──“雑音”が嫌いだ。
 僕は──“外の世界”が嫌いだ。

 煩わしい。そうはっきりと感じるようになったのは何時のことか。
 覚えていない。だけど確かに現在(いま)僕は、僕の周りにあるこの世界に対して憎しみ
にも似た感情を抱き続けている。
 品性も本心も無い、ただ周りに流されるだけの笑い声。
 どれだけ綺麗事を叫ぼうとも、その逆張りを止められない醜い現実。
 全てが煩わしかった。瞳に映るもの、耳に届くもの全てが僕の神経を逆撫でする。僕が愛
する、静かで完結したセカイへと土足で踏み込もうとし、尚且つそのことを微塵も悪いこと
だと思わない。
『おい、こっちを向け。人の話を聞いてるのか!?』
『そんな言い方はないだろう? おかしいぞ、お前……』
 五月蝿い。
 煩い、煩い、煩い、煩い。
 だから僕は耳を閉じた。視線を合わせない。よほどの必要がなければ見遣ることはない。
 だからヘッドフォンは僕の愛用品だ。寝ている時や風呂に入っている時などを除き、僕は
毎日ほぼ一日中これと共に在る。
 流しているのは僕の好きな楽曲達だ。或いは好きなラジオ番組だったり、落語のCDだっ
たり、朗読音声だったりする。ずっと付けているのが気に食わないのか、しばしば周りの人
間は注意してくるが……構うものか。そもそも、そういった奴らから距離を置く為に使って
いるのだから、そこで応じてしまえば何の意味もない。
 ……そうだ。何の意味も無い。
 僕達の持っている時間は限られている。滾る熱量も、為すことのできるものも。
 それが解っていない筈はないのに、どうして奴らはああも無駄に時間を使うのだろう? 
リソースを割けるのだろう? ただその場、その瞬間の矮小な快適の為にだけに自分を消費
し、取り繕うだけのエネルギー。僕はどうしてもそこに意義を見出せなかった。もっと自分
のやるべきこと、やりたいことに全てを注ぎたかった。……僕は空っぽだ。だからこそ、何
かを為さなくてはならない。だから憧れた。心揺さぶり、癒す音楽を創る者達や、言葉一つ
で真に誰かと誰かを橋渡しする者、笑いを誘い、感動を生み出す書き手達……。
『おーい、角川──』
『止めとけ。どうせ聞いてやしねえよ』
『また何かメモってるな……。気持ち悪い』
『放っとけ、放っとけ。あんな根暗野郎、関わるだけ無駄だって』
 五月蝿いな。全部聞こえてるんだよ。
 ヘッドホンから流れる楽曲、声劇、僕の創作イメージを刺激してくれる全てのもの。
 だがそこへ邪魔を差し挟むのがその外側から覗き込んでくる連中だ。僕が一々応じないの
をいい事に、奴らは好き放題を言う。言って、あからさまに醜いスクラムを晒しながら靴音
を立てつつ歩き去ってゆく。
 ああ。さっさと失せろ。
 どうせ僕の目指しているものに、お前達は理解なんて示さないんだ。やれオタクだとか、
変人のお遊びとか、創り出すことの尊さを知ろうともしない。
 ……尤も、それは無理からぬことかなと思っている。半ば僕自身、諦めてしまっていると
も言えるのだけど。
 大抵の人間にとって、創作物は「必需品」ではない。あくまで「嗜好品」だ。そうした作
品に触れることで感銘を受け、感動し、或いはある種の感情を肯定されて増幅させてくれる
経験は尊いものだけど、人によっては別にそんなものがなくても生きてはいける。或いはそ
ういった代替を、あの矮小なスクラムで済ませているのかもしれないけど。
『……』
 小さく舌打ちをした。何で奴らのことを、僕が慮ってやらねばならない?
 僕はセカイを愛する。物語という名の箱庭を愛する。そこには確かに醜い小悪人も、主人
公達の前に立ちはだかる強敵も──気に食わない奴らもいるが、それは全て物語をより多彩
で深みのあるものに彩る為の装置だ。意味の無いキャスティングはない。だからこそ、その
存在全てで「無駄」を体現するような連中は……大嫌いなんだ。

 どうして。どうしてなんだろう?
 同じなのに、しばしば僕の中では、はたと矛盾する気持ちがざわめき立つ。
 世界は美しい。こんなにも心揺さぶられる物語に溢れているのだから。
 世界は醜い。こんなにも救いがなく、無知で愚鈍な連中が跋扈している。
 “研究”を繰り返す内に、解ってはきていた。そんな連中がこの世界の大多数を占めてい
るからこそ、磨き抜かれた物語達は書ける。生み出すことができる。反面教師、と言えばま
だ綺麗な表現なのだろうか。詰られ、蔑ろにされる闇の中で、ふと差し伸べられる者の手が
あまりにも温かいから、まるで光が差したかのように感じられる。その瞬間だけ、自分は今
生きていることを心から感謝できる。
 ……だけど、だからこそ何とも理不尽だと思う。割に合わないと思う。
 物語は、無知で愚鈍な連中までも巻き込んで“奉仕”しなければならないのだろうか? 
奴らのような存在が無ければ、僕らは──箱庭を愛する少数派達は、もっと容易に生きられ
た筈ではないのか?
 怒りや嘆き、哀しみを源泉とした物語。歌と詞と、経験訓。
 あまりにも遠回り過ぎる。無駄が多過ぎる。僕が届けたいのはもっと僕に近しい誰かであ
るのに、そんな煩わしい大きな集団を掠めなければ届きさえしない。そんな感情を生み出さ
せられた元凶である所の彼らに、何故まだそれらを源泉とした箱庭を投げつけなければいけ
ないのか。凄く……無駄であるように感じる。不毛というか何というか。そこに拠って創り
続けるということは、その限られた感情一本に囚われ続けることになりはしないだろうか?
 走らせるメモのペン先に、思わず力が篭もる。
 インクが滲んだ。ヘッドフォンの両耳から聞こえてくる曲は、ちょうど世の無常を嘆こう
としている。その上ですぐCメロが、されど前向きに生きようと訴えかける。
 ……そう上手くはいかないんだよ。僕は眉間に皺を寄せた。ペンの動きが止まる。余計な
私怨はアイデアを濁らせる、偏らせるとは解っていたけれど、むくむくと湧き上がる憎しみ
を意識せずにはいられなかった。

『何でそんな言い方をするんだ!? お前の考えは間違ってる!』
『そんなことじゃあ、世の中に出たって通用しないぞ?』
『視野が狭い。もっと“開いて”みろ。ずっと色々な経験が出来るから』
『……何だその眼は。だからお前は駄目なんだ!』
『いつまでそうやって遊んでいるつもりだ? そんなこと、本気で世間が許すと思っている
のか!?』

 五月蝿い……。
 煩い、煩い、煩い、煩い!
 何なんだよ。何でお前らはそんなに偉そうに、僕を解ったような口を利くんだ。ちっとも
解っても、解ろうともしない癖に、曖昧で大きな主語を振りかざしているだけの癖に。
 だからお前達は“雑音”なんだ。
 だから所詮、僕の“外の世界”なんだ。
 ヘッドフォンを押さえる。もっと、もっとだ。楽曲を、言葉を、物語をイメージを、誰に
も邪魔されずに増幅する。僕は此処でいい。此処で全てを費やすんだ。此処で全てを捧げて
物語を作り、愛し、小さなセカイを維持するんだ。
 引っ張り出すな。放っておいてくれ。
 僕はただ、この箱庭達を磨き抜きたいだけなのに──。

(あ、れ……?)
 ちょうど、そんな時だった。ザザザと、突如耳に届くメロディ達にノイズが入り始めた。
 僕は思わず目を見開いた。もしかして……。ヘッドフォンの両耳を押さえ、じっとその異
変に耳を澄ませる。……気のせいじゃない。ザザザと、音が途切れ途切れになり始めている
のが分かった。僕は理解した。
(くそっ。ガタが来ちまったか……)
 ヘッドフォンが寿命のようだ。無理もないか。ほぼ毎日一日中使い続けていたのだから。
最早身体の一部というか、無くてはならない物になって久しかったが、この相棒ともそろそ
ろお別れをしなくてはならない。
『──?!』
 なのに、やれやれとヘッドフォンを外した瞬間、プツっと音が途切れた。それまで聞こえ
ていた内側の楽曲と外側の雑音が嘘のように掻き消え、しかも目の前が何一つない暗闇にな
ったのだ。
 何が、何が起こってる?
 突然何もかも無くなって、急に静かに……。
『……』
 嗚呼、そうか。僕は次の瞬間、理解した。
 何てことはない。こうして色々堂々巡りに、悩む必要なんてなかったんだ。暗闇の中で、
全身の感覚が曖昧になってゆく。見つめた両手が指先が、サラサラと塵になってゆく。

 そうだった。
 そもそも僕は、存在すらしt
                                      (了)

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  1. 2017/09/24(日) 00:00:00|
  2. 週刊三題
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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