日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「SWITCH」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:廃人、パズル、新しい】


 その日、とあるプロジェクトが満を持してプレスリリースされた。会見に集まった報道陣
や関係者達を前に、まだ年若い一人の研究者が壇上でプレゼンを開始している。
「それでは皆様、お手元の資料をご覧ください」
 語り始める彼の瞳には、希望が溢れていた。
 飾らない質素なズボンとワイシャツの上に白衣を羽織り、その瞳を奥にするのは薄眼鏡。
ふんわりと切り整えられた髪型も合わさり、清潔感のある好青年といった印象だ。もしこの
ような場にいなければ、学問世界の住人とさえ思われないかもしれない。
 同僚の一人がプロジェクターを操作する横で、彼はそっと半身を退いた。壁から下げられ
たスクリーンには、太字で彼らが今回提供する新システムの名称が掲げられる。
「職業適性診断プログラム──SWITCH(スウィッチ)。この度我々が開発しました、
最新鋭の新型AIを搭載した支援ツールです」
 会見に集まった記者達はカメラのフラッシュを焚き、或いは慣れた手つきで正面を見つめ
たまま、手元のメモにペンを走らせている。
 事前に面々へ配られた資料には、この診断プログラム・スウィッチについての詳細な説明
が記されていた。少し厚めのパンフレットといった感じである。所々に図を用いてなるべく
易しく解説しようと心が砕かれていた。筆者の若さが反映されている。
「今日、この国では就業に関して多くの人々が困難を抱えていると言われています。近年、
政府統計ではようやく失業率が三パーセントを切ったとされていますが、実際には企業の倒
産や傷病、更には個人的な理由により、社会の経済活動からドロップアウトしている方々が
少なくありません。原因は多岐に渡りますが、その中でも特に我々は企業側と労働者側との
間のミスマッチに着目しました」
 壇上に両手を置いて。真っ直ぐに前を──未来を見据えて。
 少なくとも彼は本気で考えていた。自他から聞き及ぶ、この国の現状を憂いていた。
 自分に出来ることはないか? 政治的な、利害の絡まり合いの中でしか着地点を見つけら
れないような応急処置などではなく、もっと根本的な。自分達の研究者としての、その持て
る技術でもって、等しく人々を救う術を作れないだろうか……?
「スウィッチは各種経済指標は勿論、過去から現在に至るまでの皆さんの就業履歴をデータ
ベース化し、個々人の経験と能力に応じてよりきめ細やかな職業適性を弾き出します。また
これら膨大なデータを随時分析することで、将来の経済規模・産業構成などをある程度予測
することも可能です」
 記者達がざわついていた。画期的なシステム、というよりは、自分達の過去が既に把握さ
れているらしいという事実に動揺しているのだろう。
 だが彼はプレゼンを進めていた。スクリーンの頁は切り替わり、今し方話したスウィッチ
全体の基本設計が大きく図解されている。
 メモ帳を片手にしながら、カメラを握ったまま、記者達は互いに顔を見合わせている。席
に着いているプロジェクトチームの関係者達とはある意味対照的だ。不安にさせるであろう
ことは彼自身、予測はしていた。だからこそ次の言葉は、そんな目の前の彼らを安心──説
得する為のロジックが並ぶ。
「ご心配なく。スウィッチ本体のサーバーは原則外部からのアクセスが不可能な環境で厳重
に管理されています。各種データも、今回プロジェクトに協力いただいた各関係省庁より提
供された、極めて信頼性の高いものです」
 ずいと身を乗り出す。彼にとっては寧ろこれからが本題だ。自らが敢えてこの社会問題に
焦点を当て、解決に向けて挑んだ意味がそこには在る。
「……世の中には、様々な技術や知識、才能を持った方達がおられます。ですが残念な事に
その大多数は認知すらされず、誤ったレッテルを貼られ、長らく不本意なまま社会の影に潜
むことを強いられてきたように思います。かつてはそんな認知不足も相まって、彼らは文字
通り社会のマイノリティに甘んじてきました。しかし彼らを、我々社会が無視してしまって
いいのでしょうか? 断じて否です。そもそも社会が認知せずとも、彼らは常に時代時代に
おいて、ある種の層として存在してきたのですから」
 だからこそ、記者達の顔色は悪くなる。何だか“臭い”気配を感じ取ったからだ。
 彼は若かった。だからこそ真っ直ぐで、その志に燃えていた。或いは自らが研究者という
大よそ“世間一般”とは隔たれた世界に生きてきたからこそ、妙な親近感と切迫感をもって
このテーマに挑んだのかもしれない。
「居場所を失ったのなら、また探せばいい。用意すればいい。ですが、そこが求めるものと
彼らが備えているものが合わなければ、そう遠くない将来、彼らは再び居場所を失ってしま
うでしょう。これは大きな損害です。人一人の就業意欲が、他ならぬ我々によって活かせず
損われているのならば、これほど自らの首を絞めている行為はありません」
 そこで説明は、最初に戻る。
 新システム・スウィッチは、言うなれば膨大なケースバイケースの集積だ。活かせる能力
とその能力に合致した職種・職場。両者をその蓄積した大量のパターンに当て嵌め検証し、
より持続的・友好的なマッチングを目指す。これまで何となく、支援者個々人のノウハウで
行われてきたそれを、より効率的により大規模に処理しようという試みだ。
「勿論、我々が示すのはあくまで可能性です。最終的に判断するのはご本人達ですが……。
それでも、このスウィッチを駆使すれば、これまで社会の一員として参加することも難しか
った人々がその輪に加わることになるでしょう。ひいては社会全体の、より多くの人々の幸
福へと繋がってゆく筈です。……失敗を経験しようが、ハンディキャップを持っていようが
そこで終わりにすべきではないのです。誰もがそこから、先の人生を生きている。私はこの
スウィッチが、より多くの方にとり、毎日に意義を見出す切欠になってくれることを心から
望んで止みません」

 はたしてこのプレスリリースを兼ねた会見は、即日ネット上にも記事として掲載された。
 曰く画期的な最新鋭マッチングシステム、曰く三年を目途に、行政レベルでの導入・整備
を検討。
 ……しかし、彼の熱意とは裏腹に、当のネット上の反応は冷ややかだった。日々行き交う
他の様々な記事の例に漏れず、この挑戦的プロジェクトは大いに切り取られて報じられる所
となった。
 実際の声は、以下のようなものである。

『まず安月給を何とかしろと』
『あと池沼な奴を引き入れてくんなと』
『まさにそれ。仕事の合う合わないって大体、金と人だしなあ』
『そもそも仕事は手段って割り切らなきゃ。やりがいとか言い出したらそれこそブラックな
連中の餌だぞ』
『自宅警備員達が必死ですねwww』
 そもそも問題に対する認識がズレていた。彼は個々の能力がきちんとマッチングすれば、
企業にも労働者にも“利益”がある筈だとの前提だったが、既にこの時世、多くの人々──
尤も常習的に書き込みを行う人間はごく一部なのだが──は労働というものに対する過度な
幻想(あこがれ)からすっかり冷めてしまっている。
『というか、この兄ちゃん誰よ?』
『調べてみた。ストレートで博士号も取ってるし、エリートだね。根っからの研究者って感
じだと思う。奇を衒って労働問題に切り込んでみました、的な?』
『なる。そりゃあエリート様には俺らの本音なんて分かりませんわなあ』
『エリートでイケメンで……。何この上から目線』
『嫉妬乙』
『だがまあ実際、余計なお世話と言いたい』
『安月給(ry』
『池沼(ry』
『どれだけデータを引っ張ってきても、お役所が出元じゃなあ』
『むしろそうじゃなきゃ把握できなくね?』
『俺らのプライバシーガバガバでワロタ』
 程なくして、ネット上の人々の興味関心はこのプロジェクトを率いた彼についての詳細へ
と移る。難関の国立大学を卒業後、そのまま院に進み、研究者の道へ。これまでも共同で多
くの成果を挙げてきた、若き情報工学のプロだ。
『原文読んできたけど、盛大にガッツだけで空回りしてるなあって印象』
『やろうとしてること自体、ぶっちゃけ国民総番号みたいなもんだろ?』
『別に金を取る訳でもないけど、知らない間にこっちのこと把握されてるのはあんまりいい
気分じゃないよな』
『軽く言ってくれるが、才能にもピンからキリがあってだな……』
『おい、止せ。泣きたくなる』
『そもそも全員が全員、求められてる才能やら何やらを持ってる訳じゃないからハブられる
んでねえの?』
『それを少しでもなくそうっていう感じでFA?』
『お前らを押し付けられる企業が可哀想だなwwwうぇwww』
『↑ここまで 自宅警備員』
『おう。巻き込むのやめーや』
『活かせる能力って何なんだろうな?』
『その辺りも結局は上が決めるんだから、永遠に解決しない』
 上がってきた事物に対して、冷笑を向けるのは最早この界隈の茶飯事なのだろう。
 だが何となく彼らの声が辛辣なのは、画面の向こうで各々が苦戦する、現実(リアル)そ
のものへの干渉だからなのだろう。求めるような、件の彼が主張するような根本的な解決に
はならない──少なくともその点だけは、不特定多数の彼らの意見は一致していた。
『偽善者も、ここまで清々しいと憐れだな』
『某マラソンするチャリティーよりはマシじゃね?』
『どうだろう? 政府とタッグ組みそうな辺り、余計性質悪そうだが』
『つ やらない善よりやる偽善』
『まあ、やって欲しいことをやらないで、頼んでもいないことをやりたがるのは、こういう
手合いの習性みたいなものだし』
 有り体に言えば、散々だった。
 尤も彼らが“褒める”ことはあまりないが。あっても常に、笑いが伴わなければ表に出さ
ないというような節さえ在る。
『俺、手帳持ってる一人だけどさ。久しぶりに画面の前でキレたわ』
 そしてそんな中、ふと新しい一件の書き込みがそれまでの流れを変えた。
『障害者だからって有意義じゃないみたいな言い方、結局こいつは見下してるんよな』
 暫くの数レス間、この人物なる手による書き込みが続いた。他の沈黙は、ログをつぶさに
確かめるほど、まるでその言葉に聞き入っているかのように見えた。
『社会に参加(仕事)しなきゃ損害だとか、才能を活かせないと不幸だとか言うけど、それ
ってやっぱりこいつを含めて“役に立たない奴は要らない”の裏返しだろ?』
                                      (了)

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  1. 2017/09/10(日) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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