日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「ダンタリオン」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:本、剣、最強】


 その日が来るまで、この世に“悪魔”がいるなんて信じていなかった。そんな妄想に時間
を費やすよりも、現実はもっと残酷だったから。
 僕は弱い。身体も同じ年頃の奴らよりも小さくて、力だって弱い。
 僕は弱い。だから馬鹿にされる。いつも腕っ節が強いだけの奴らに玩具にされて、見下し
た哂い声を向けられるんだ。
 ……いや、何よりも弱いのはこの心だ。ただ相手の方が大きいから、自分に力が無いから
と諦めて、奴らのされるがままになっている今の自分自身だ。
 悔しかった。多少の怪我ならまだいい。それよりも大切に貯めておいた小遣いや、母さん
が出してくれた部活の遠征費さえも無理やりぶん取られて……涙が止まらなかった。
 こんな筈じゃない。僕は、こんな仕打ちに遭う為に生まれてきたんじゃない。
 自分にもあればと思った。力さえあれば、あんな荒事にしか能のない馬鹿どもなんて簡単
にあしらえる。自信もつくだろうし、もっと幸せになれる筈だと思った。

『お前の願いは何だ? 俺が叶えてやろう』

 だからあの日、裏山の石碑から現れたあいつに訊ねられた時、僕は真っ先にそんな願いを
思い浮かべていた。
 夢だ、幻だと疑っていたかもしれない。でもあの時僕が目の当たりにした光景は、掛けら
れた声は間違いなく本物だった。実際その後、僕は「願い」を叶えたのだから。
「……強くなりたい。あいつらに負けないくらい、強い力が欲しい」
 自分でもまだ、やっぱり夢の中にいるんじゃないかと思った。だけど次の瞬間僕は、そう
まるで心の中を開けられてしまったかのように答えていた。
『了解した。これで契約は成立だ。お前の願いは叶う』
 石碑から現れた悪魔──不気味な顔の形をした黒い靄は言った。ニヤリと、器用に口元を
歪めて笑う。
『ただ一つ条件がある。まぁそう難しくはない。そうだな。対価としてお前の──』


 世の中に“悪魔”なんてものがいるのなら、それは他ならぬ人間のことだ。
 とまぁ、少し前まではそう思っていた。そんな風に嘯いて、この世知辛い現実をのらりく
らりと何とかやり過ごしていた訳だ。
 だが……人生ってのは何が起こるか分からないとはよく云ったもので、俺は現在その悪魔
とやらに取り憑かれている。尤も普段過ごしている分にはそう実害はないのだが、如何せん
要求されたもののハードルが高過ぎて──面倒過ぎて困っている。
「はあ。だるい」
 その日も俺は、特に目的地がある訳でもなく街に出ていた。少なくとも人の波へと足を運
ばねばどうにもならないのが今のご身分。はっきり言ってこのクソ暑い時期に出掛けるなん
て、わざわざ人混みに揉まれにいくなんて憂鬱でしかないのだが、やらなければ近い未来に
ジ・エンドとなってしまうんだからしょうがない。こうして寝惚け眼を擦りながら、見渡す
限りアスファルトとコンクートのジャンクルのクソ暑い中を歩いている。
「もー、そんな事言ってる暇があったらちゃんと探すー。こんなにいっぱい人がいるんだか
ら、事件の十や二十なんてゴロゴロしてる筈でしょ?」
「……さらっと物騒な事言うなよ。達観し過ぎだろ」
 そんな俺の横を、一人の少女がてくてくと付いて来ている。
 小さめのポニーテールをちょんと結わった、中学生くらいの女の子だ。既に夏の日差しで
参っている俺とは対照的に、やる気満々だ。若いっていいなあ。まぁ単純にこいつの場合、
妙な正義感と好奇心が勝っているんだろうが。
 ちなみに弁明しておくと、いわゆる事案ではない。確かに彼女とは知り合いだが親戚関係
にある訳でもなく、全く他人だ。実際今日ここに来るまで、二度警官に職質された。辛い。
どちらも彼女が上手く誤魔化してくれたので難を逃れたが、そろそろこの辺りで“狩る”の
も潮時かもしれないな……。
「大体なあ、恵美留(えみる)。別について来なくていいんだぞ?」
「ふふん。そう言ってまだ手柄を独り占めしようとするー。私なら大丈夫。今はちょうど夏
休み中だもん。そういう綸太郎(りんたろう)こそ、単位とか平気?」
「……死ぬよかマシだろ」
 どうにでもなる。それとなくこの何ちゃって助手を追い返そうとしてみるが、案の定こち
らの意図を汲んでくれる筈もなく。
 俺はポリポリと髪を掻き、呟いていた。実際もう、大学で落ち着いて勉強なんてしてられ
ないからな。……別にその辺りは以前から変わらないけど。
 掻いた右手にゆっくりと視線を落とし、その掌を見つめた。
 静かに眉間に皺が寄る。そこには、単眼をモチーフにした気味悪い文様(ルーン)が貼り
付いている。
 嗚呼。恵美留ほど物好きじゃないが、さっさと終わらせてぇなあ。
 何処かにターゲットが転がってはいないか。これだけゴミのように人がいれば、一人や二
人は俺と同じようなヘマをやらかした奴も混じっていそうなものだが……。
『綸太郎』
 ちょうど、そんな時だった。俺の懐の中から、妙に野太く暑苦しい声が聞こえた。
 言った傍から出やがったか。そんでもって恵美留、目ぇ輝かせるな。
「……どの辺だ?」
『そこの路地だ。同胞の臭いがする』
 示されて、俺達は大通りから急激に狭くなってゆく路地の一つに視線を向けた。
 日差しが辛い。日除けもかねて、早速こんな真っ昼間から暴れてやがる輩を探しに行く事
にする。


「ま、待ってくれ! 命は、命だけは!!」
 手に入れた力を、僕は早速憎きあいつらに試してみることにした。
 ……これは凄い。はっきり言って、負ける気がしない。
 悪魔(バスタド)がくれた力は、この身体を刃に変えるものだった。今僕は右腕と肩、右
上半身を赤い骨格で覆っている。目の前では大谷が──今まで散々僕を苛めてきた三人組の
リーダー格が腰を抜かして許しを請うていた。残り二人、小森と中村はそのすぐ周りで縦や
横に真っ二つにされて血溜まりの中に沈んでいる。
「今更許すと思うか? よくも今まで、散々いたぶってくれたな。取られた金だってどうせ
遊びに使い果たしてるんだろう? ならお前の命で償えよ」
「ひぃッ!!」
 ぞくぞくした。今まで生きてきてこんな高揚感、味わった事がない。
 力が漲る。全身から力が溢れてくる。
 いつものようにたむろっていた大谷達を見つけ、声を掛けざまにこの力を使った。二人が
あっさり死んだのは勿体なかったが、終わってしまったことは仕方がない。特に罪悪感なん
て湧いてこなかったし、寧ろ清々した。冷静な分、余計な思考や感情はどんどん遠くに置い
ておくことができて、只々目の前のこいつを始末することしか考えない。
 でも……やっぱり勿体無いな。二人をあっさり殺ってしまった分、こいつにはたっぷりと
自身の行いを後悔して貰わなくっちゃ。
 思い、持ち上げかけた右腕ではなく左手で大谷の頭を掴み、先に事切れた小森と中村の死
体と血溜まりの中へと押し込む。一瞬で五感に広がった感覚と、生々しい死の臭いで咽返っ
て泣き叫んでいたが、関係ない。全部お前のせいだ──上っ面だけではなく、魂の髄まで分
からせてやるべく、何度も何度も押し付ける。
 こちらは骨格が発現して(でて)はいないが、やはり全身にバスタドの力が作用している
のだろう。嬉しくなった。願いは叶えられたんだ。僕はもう弱くない。最強だ。もう誰も、
僕には逆らえない。
「や……げほっ、げほっ! 霧尾、君……。止め、て……ぐだ、ざい……ッ」
「五月蝿いなあ」
 でもあんまり抵抗するものだから、ついぶんっと右腕を振っていた。僕としては軽く一発
のつもりだったのに、それだけで大谷の左腕が吹き飛んでいた。
 血飛沫を上げ、馬鹿みたいに悲鳴を上げて転がり回る大谷。そんな姿に、段々と僕は興が
醒めていくのを感じた。
「……はあ。いいや、もう」
 実際になってみると分かる。一方的というのは、こうにもつまらないものなんだな。
 それだけバスダドから貰った力が、優れているということだ。さっさと目下の敵は始末し
て、明日からはまた色々と試してみることにしよう。……そうしよう。うん、何だかまた楽
しくなってきた。
 巨大な刃と化した右腕を、大きく振り上げた。大谷はそんなこちらの構えにも気付かず、
まだ泣き喚いている。
 ため息が出た。もうこいつらには価値はない。さっさと終わらせて、次の“玩具”を探し
に行こう──。

 ***

「そこまでだ」
 異形と化した少年が刃を振り下ろそうとした、次の瞬間だった。他に目撃者もいなかった
筈のこの路地裏に、一人の青年が立っていたのだ。……いや、厳密には隣にもう一人中学生
くらいの少女が控えている。こんな凄惨な現場だというのに、妙に目をキラキラさせて何や
らこの彼に次から次へと捲し立てていた。
「ねぇねぇ、綸太郎。スプラッタだよスプラッタ! いいねえ。こう、見るからに悪人です
って感じの相手!」
「他人事だと思って悠長だなあ、お前は。っていうか普通、こういうのを見たら悲鳴上げる
か吐くかするモンだぞ?」
「綸太郎だって平気じゃん」
「慣れさせられたんだよ! お前らのせいで!」
 両手をワキワキッと広げて、この青年──綸太郎は全力で突っ込んでいた。この異形と化
した少年、目の前の非日常を丸っきり無視して、この二人はかしかましく騒いでいる。
「……何だ、お前ら?」
「ほら、向こうもキレ気味じゃん。分かったら下がってろ。見張りくらいはできるだろ?」
「はーい。もう、子供扱いしないでよ……」
 対する少年・霧尾は、赤い骨格に覆われた刃の右腕を構え、ゆっくりとこちらへ近付こう
としていた。口封じしなければならない。そんな順当の思考すら当人にとっては曖昧で、殆
ど本能のままに動いていた。
「僕の邪魔をするなら……殺す!」
「あー、まぁそうだろうなあとは思うけど……。ただまぁ言っとく。別に俺はお前の事情に
は微塵も興味がねえ。大人しくその物騒なモンしまってくれねえかなあ?」
 綸太郎が言う。だが霧尾に撤退の動きはない。
 はあ。駄目で元々とはいえ、綸太郎はため息をつかざるを得なかった。恵美留はこういう
自分達の戦いを“正義の味方”だのと思っているようだが、とんだ勘違いだ。
「あいつ、今どういう感じか分かるか?」
『典型的な、力に呑まれてしまったタイプだな。自我が無くなりかけている。大方“良心”
辺りを喰われたのだろう。元には戻せぬぞ。ああいう手合いはお前達人間を単なる消耗品と
してしか見ておらん』
 呼び掛けて、声が返ってきた。妙に野太くて暑苦しい、仰々しい感じの男の声だ。
 だよなあ……。綸太郎は小首を傾けつつ呟いていた。にじり寄ってくる霧尾──だった赤
い骨格の異形は徐々に、その侵食の範囲を右腕から右半身、左半身から顔面へと拡げ始めて
いる。
「……悪く思うなよ。俺も、文字通り“命”が掛かってるからよ」
 そして、綸太郎はキッと面持ちを切り替えた。懐に手を伸ばし、右手から一冊の古びた本
を取り出す。厚みは小型の辞書サイズ。表紙には褪せた緑色に単眼をモチーフにした模様が
描かれている。
 遠く後ろに避難していた恵美留が、ワクワクといった感じでこれを見つめていた。綸太郎
もそんな背中に浴びせられる視線には気付いているが、小さく嘆息する程度でこれといった
レスポンスは寄越さない──もう慣れっこで、一々応えてやるのも面倒臭い。
 ぽん、とこの古書を左手に持ち替え、彼はそっと右手を開いていた。掌には表紙と同じ、
不気味な単眼をモチーフにした入れ墨らしきものが貼り付いている。
「いくぜ、ダンタリオン」
『うむ。食事の時間と相往こう!』
 するとその右掌から、彼が念じるのに合わせて一本の鍵がせり上がって来たではないか。
綸太郎はこれを握って古書──ダンタリオンと呼んだ“悪魔”の封印用の鍵穴に差し込む。
 掌ごと捻って解かれた鍵は無数の銀の鎖を彼の腰に巻き付け、ややあって文様(ルーン)
がびっしりと刻まれたバックルへと変じた。同時にダンタリオンが、まるで仮初の姿から抜
け出るかのように古書の殻を破り、金属とも陶器ともつかぬ材質のそれへと姿を変える。
 ガチリ。これを綸太郎は、三度持ち替えて片腰から下がるホルダーに据え付けると、素早
くこの変じた古書から扇状に展開するカードの内二枚を抜き取った。牛頭の怪物と鳥型の怪
物をそれぞれ象ったカードである。
「変身!」
 これを綸太郎は、バックル中央の左右に刻まれた溝(リーダ)へと通した。同時に読み込
まれた情報(データ)が再生され、有機的とは言い難い音声が発生する。
『DARKNESS』
『HURRICANE』
 はたして、彼もまた変貌したのだった。バックルの中央から合流した黒い靄のような闇色
と鮮やかに輝く緑が入り混じり、彼の全身をまるで嵐のように渦巻いてゆく。
「──っ!?」
 霧尾だったもの、バスダドが思わず刃の両手で庇を作り、踏ん張っていた。そして次の瞬
間現れたこの男の姿に暫し言葉を失ったのである。
 同じ、異形の姿だった。額に一対、側頭部に二対の角らしき突起を持ち、胸元には件の単
眼の文様。その印を中心とし斜め左右へ右手と脇腹、右脚が緑に、左手と左脇腹、左脚が黒
のパワードスーツに変わっている。
 頭部を含めた全身が外骨格で覆われている。その点では霧尾──バスタドと同じだ。だが
彼とこれが何処か根本的に違うような気がするのは……気のせいだろうか。
『……なるほど。貴様も契約者だったか』
「そういうこった。俺もお前らと“同類”だよ。尤も、こっちは不可抗力でだが」
 完全に霧尾少年の心身を乗っ取った“悪魔”バスタドは言う。ふん、漆黒と緑のランプ眼
のフルフェイスに包まれた下で綸太郎は小さく笑う。とん、とん。今度は彼が一歩二歩と前
に進み、バスタドが後退る番だった。すっかり威勢を削がれたバスタドが、ハッとなって刃
先を指し示しながら叫ぶ。
『だが待てよ。今、ダンタリオンと……。まさか、あの“強欲の大書魔”か!?』
『ほう。我輩を知っておるか。臭いからして雑種と思うたが、これは少しは期待しても良い
かもしれんな』
 ダンタリオン。今は変身した綸太郎の右腰に下がっているカードデッキ。
 ようやく目の前で対峙している相手の正体を知り、バスタドは明らかに戦慄していた。
『さあ、刮目せよ。粛々と受け入れよ。我が夢の糧となること、光栄に思うがいい!』
「てめぇの情報(すべて)──喰わせて貰うぜ?」
 そして、ビシッと片手で彼を指し示して。
 知識欲の悪魔に魅入られた青年は、かくして命がけの食事(たたかい)を宣言する。
                                      (了)

スポンサーサイト



  1. 2017/09/01(金) 00:00:00|
  2. 週刊三題
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<(企画)週刊三題「精神の部屋」 | ホーム | (企画)週刊三題「ダブルウィッチ」>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://higurasisouann.blog27.fc2.com/tb.php/905-844083f7
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

訪問者累計

最新記事

最新発言

検索窓

月別履歴

07 | 2020/08 | 09
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31 - - - - -

分類/索引

【案内板】 (2)
【小説:短編】 (20)
本の蟲 (1)
硝子野不動産店 (1)
夏の日の幻影 (1)
四番線の彼女 (1)
夢視の宿 (1)
線を曳く町 (1)
炬燵の神様 (1)
三者三盗噺 (1)
色眼鏡 (1)
奴らは攻城戦師 (1)
詰め替える (1)
同じ籠の狢 (1)
二十年後の遺言 (1)
轍の先 (1)
水に流せば (1)
真夜中の御二柱 (1)
いつか見た夢 (1)
神様達の初詣 (1)
白い花束 (1)
丸の代償 (1)
【小説:長編】 (205)
Amethyst League (6)
アンティーク・ノート (3)
ユウキのヒカリ (5)
NIGHT GUNNERS (5)
レディ・ルーン-Bonds of RU'MEL- (6)
ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- (116)
死に損いのデッドレス (5)
Dear SORCERY (4)
サハラ・セレクタブル (55)
【企画処】 (510)
週刊三題 (500)
その他参加物 (10)
【資料庫】 (2)
【落書帳】 (2)
【詩歌帳】 (9)
【雑記帳】 (419)
【読書棚】 (32)
【遊戯倉】 (25)
path. (4)
decide: (3)
ユー録FW(凍結中) (17)

記事録

交友関係

このブログをリンクに追加する

(RSSリンク)

(QRコード)

QR

Tweets by long_month