日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「主観の話」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:破壊、業務用、新しい】


 その春、とある小さな会社に一人の新入社員が採用されました。
 仮にここでは「K」と呼ぶことにしましょう。彼はいつも前向きで自信に満ち、誰に対し
ても物怖じしない胆力の持ち主でした。事実彼は優秀で、ものづくりに携わることに強い意
欲をみせていました。学生の頃から関連分野を熱心に学んでおり、ことメカニズムを理解す
る力は抜きん出ていたのです。
「あの。一つよろしいでしょうか?」
 故に曰く、この機構(パーツ)は××よりも○○な形状の方が効果的ではないかと。
 曰く、この工程は××の前に○○を施しておく方が寧ろ能率が良いのではないかと。
 曰く、この人員配分ではカツカツだと。××の側だけではなく、○○の側も同程度になる
よう振り分けるべきではないかと。
 Kは折につけ、様々な提案をしました。それらは全てこの仕事に関わるものでした。
 同僚──先輩技師達は、そんな彼の分析眼にいつも目を見張らされてばかりでした。特に
社長であり職長でもある親方は、この若い職人の卵を大層気に入りました。
 各種工作機械の扱い方から始まり、一個の製品を仕上げるまでの工程を順繰りに。
 親方の指導の下、Kはめきめきとその技術(ちから)をつけてゆきました。それまで膨大
に詰め込んだ座学から実践へ。元来飲み込みが早く、次々と技術をモノにしてゆく彼に、親
方は実に嬉しそうな表情をしていたものでした。

 ……しかし、その実満たされていたのはこの二人だけだったのかもしれません。順風だっ
た日々は結果的にほんの一時に過ぎなかったのかもしれません。
 めきめきと力をつけてゆくKを遠目に、同僚──先輩技師達は陰で剣呑な眼差しを向けて
いたのです。当初こそただ純粋に彼の情熱、頭脳に感心していた彼らでしたが、日に日に技
術を磨いてゆくKに、その感情は程なくしてどす黒く変わってゆきます。
 一言で言えば、嫉妬でした。或いは保身や焦りといった類の思いだったのでしょうか。
 春に入ってきたばかりの新米の癖に、早々親方に取り入って大きな顔をしている。まるで
リーダー気取りであれこれと注文をつけてくる。それだけでも気に入らないというのに、猛
烈な速さでうちの技術を習得している。自分達が何年もかけて教わり、身につけたことを、
あっさりと。そんな圧倒的な差もあって、どんどん奴の発言力は増してゆく……。
「馬鹿にしてやがる。どうせ俺達なんぞのろまだと思ってるんだ」
「親方も親方だ。この工場(こうば)を支えてきたのは誰か、落ち着いて考えりゃあ答えは
決まってるだろうに」
「それをあいつは……。全部無意味にする気だ。俺達の、数十年を」
「このままじゃいけねえ。せがれさんが街に出て行っちまってる以上、親方の跡目はここの
誰かが継ぐことになる」
「……Kに渡っちまうかもしれねえってことか」
 長年の風雨と火花、金属粉に晒され、お世辞にも綺麗とは呼べない社屋兼工場。
 先輩技師達は、昼休みにその一角に集まり、密かに相談をしていました。意思確認と言っ
た方がいいのかもしれません。工場内の死角になる位置に円陣を組んで顔を突き合わせ、め
いめいに渋面。そんな彼らの怨嗟など気付かず、当のKは工場外の植木の下でのんびりと弁
当を食べています。
 親方──社長は硝子の向こうの事務室で何やら書類仕事をしていました。そんな初老の夫
に妻が、何か声を掛けながらお茶を出してあげています。
『……』
 じっと互いを見つめ合って、彼らは頷きました。共犯成立です。思いは一つでした。一つ
の筈でした。Kという若い脅威に対し、彼らは団結することを強いられたのです。尤もそれ
はひとえにプライドの──ごくごく個人的な感情の集合体ではありましたが。

「これは一体、どういうことだ?」
 事件はそれから程なくして起こりました。いえ、起こされました。
 Kが入社してから季節は一つ二つと巡り、じわりと汗ばむ工場の中。親方はKを含む社員
達を集め、険しい表情(かお)をしていました。元々の体格と強面もあり、ただそれだけで
威圧感があります。
 目の前には、幾つもの歪なまま完成した製品がありました。お世辞にも商品として納品す
るには拙いレベルです。技師達──Kを除く先輩達はじっと黙っていました。まるでギリギ
リまで標的を引きつけるように、密かに息を飲みながら。
「……指示通りに、やってるんですがね」
 そしてそう、ベテラン技師の一人がごちたのが合図でした。彼らはばつが悪そうに後ろ髪
や頬を掻き、油汚れの作業服姿のまま、あくまで自分達に非はないと主張します。
「ナラシの工程の前に、揉みを入れてます。こっちのツマミも、従来より三ミリほど大きめ
に曲げてあります」
「下準備と溶接、面子も同じぐらい──三・三・四で振ってます。それでこうもBが出ちま
うってことは、変えたやり方が拙いって事じゃあないですかねえ?」
 肩を竦めてみせる技師。或いは「参りました」と言わんばかりに結論を相手に振ってみせ
ようとする技師。
 ちらり。そんな彼らの視線は、それとなく一人の同僚に向けられていました。Kです。彼
が以前に提案した諸々の改善策の結果、仕上がりの質が落ちたのだと彼らは暗に主張してい
たのでした。
「うーむ……。理に適っていると思ったんだがなあ」
「それよりも慣れですよ。慣れ」
「俺達はずっとあのやり方でやってきましたからねえ。まだ本調子になれないのかも」
「どうします? 時間を掛ければ或いは、ですけど、納期を考えればそんな悠長にはしてら
れないと思いますが……」
 これが、彼らの“反撃”でした。Kが次々に提案した改善作に則ったつもりでわざと手を
抜き、失敗するように結託したのです。親方は眉間に皺を寄せて参っていました。自身、K
を可愛がっていた手前、これほどの“ミス”と天秤に掛けることに大きな困難を感じていた
からでした。
 当てこすられた当のKも、難しい表情(かお)で思案していました。
 自分の理解・計算ではパフォーマンスが向上する筈だったのに──良かれと思って力を振
るってきたのに、見当違いだったというのか……?
「……確かめてみましょう」
「え?」
「もしよければ、確かめさせて貰えませんか? 皆さんの慣れたやり方と、僕の提案させて
いただいたやり方、どちらが効率がいいのか」
「何を。それは今目の前に──」
「ですから、同時にやってみるんです。僕は僕の提案した方でやってみます。皆さんはこれ
までの慣れたやり方でもう一度」
「ぬっ……」
「おいおい。ねえ、親方──」
「構わん。どうせもうロスしているんだ。ここで一旦比べ合ってみる必要がある」

 結論から言って、彼ら先輩技師達の企みは、これにより失敗に終わりました。
 事実を確かめたい親方のゴーサインにより、Kとその他技師達による同時並行での検証が
行われました。Kはより新しい、効率の上がると思われる方式でもって。他の皆は、従来通
りの慣れた方式でもって。
 結果は……概ね前者の勝利と言って差し支えないものでしたが、確かに先輩技師達の手法
は一個一個を丁寧に仕上げられるものの、Kの捌く速さに比べれば劣ります。何よりKが手
掛けた製品も決して劣るものではなかったため、否定する材料にはならなかったのです。
 これに一層眉を顰めたのは、他ならぬ親方でした。
 やはりKの見る目は間違いなかったではないか。ちゃんと綺麗に仕上がったじゃないか。
何よりも同じ工程なのに、何故さっきと今でお前らの出来がこうも違う──?
 弁明の余地はありませんでした。終ぞ先輩技師らは自白こそしませんでしたが、親方から
の追及──わざと手を抜いたことまでは誤魔化し切れず、その日激しい雷が落ちました。
 しかし、これがどのみち、両者の溝を決定的に深くしたのには変わりません。
 Kを擁護した親方と、その追い落としに失敗してKを──更に親方すらも疎ましがるよう
になった技師達。職場の空気は徐々に悪くなっていきました。暫くはそれでも何とか持ち込
まれる依頼と納期の為に黙々と仕事をこなしていましたが、居た堪れなくなるのは、許せな
くなるのは時間の問題だったのです。

「俺達、ここを辞めます」
「貴方には恨みはないですが……。すみません」
「長い間、お世話になりました」
 終わりの日が来ました。先輩技師達は一斉に事務に苦心する親方の下を訪れ、次々に辞表
を突きつけたのです。「お前ら、一体何を言っているか──」目を見開き、思わず親方は止
めましたが、彼らとてもう我慢と自尊心の限界でした。Kに数十年来のノウハウを否定され
たショックは勿論、その彼を追い落とす為とはいえ自分の仕事に嘘をついたこと、その罪悪
感に耐えられなかったのです。
「どうして……。どうしてですか、皆さん!?」
 異変を聞きつけて、当のKが駆け込んで来ました。以前はまだ着られていた感のあった作
業着も、今ではすっかり身体に馴染んでいます。そんな彼を、先輩達は恨めしいような後ろ
めたいような眼差しで見つめ、呟きます。
「……K。お前がいる限り、俺達はここには居られねぇんだよ……」
 唖然としていました。その左右を、彼らはとぼとぼと通り過ぎていきました。
 親方が、何事かと続いて入って来た妻が見遣りましたが、決裂は起こってしまいました。
ぐらぐらと揺れたKの瞳は、皮肉にもまだものづくりへの熱量が宿ったままです。

 残された三人は、暫くの間立ち尽くしていました。その後この小さな会社は、担い手達が
いなくなったことで畳まざるを得なくなったといいます。

 一体、どちらが正しかったのでしょうか? どちらが悪かったのでしょうか?
 或いは──どちらも「間違って」はいなかったのでしょうか?
                                      (了)

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  1. 2017/08/06(日) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
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