日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(書棚)感想:有栖川有栖『ダリの繭』

書名:ダリの繭
著者:有栖川有栖
出版:角川文庫(1993年)
分類:一般文藝/ミステリー

“現代の繭”の中で見つかった名物社長の遺体。
不可解という名のパズルに、推理作家と犯罪社会学者のコンビが挑む──。


今回の感想は『月光ゲーム』『孤島パズル』『双頭の悪魔』などの代表作がある推理作家、
有栖川有栖氏の小説です。
本作は「作家アリスシリーズ」或いは「火村英生シリーズ」と称される作品群の一つでもあ
ります。著者と同姓同名の推理作家・有栖川が相棒の火村に対するワトソン的な立ち位置で
語り手を務めているのが特徴です。
僕が浅学なだけなのかもしれませんが、著者が作中に出てくる小説という態自体がおっ?と
思わされて少々新鮮でした。そしてワトソン的立ち位置という按配も分かってるなぁと思う
のです(仮に“名探偵な主人公”として登場する無双ゲーなお話であれば、読者からすれば
作者の自慰的な文章と取られかねないのですから……)

サルバトール・ダリに心酔する名物宝石チェーン社長、堂条秀一。
そんな彼が別邸に設置していたフロートカプセル(瞑想用のカプセル装置。中に特殊な溶液
を張って全裸で浮かび、外界と遮断された環境の中で眠って瞑想するもの……だそうです)
の中で遺体で発見されたことから事件は始まります。
一体、犯人は何処から来て去っていったのか?
何故、堂条の遺体はフロートカプセルの中に入れられていたのか?
そして何故、彼の代名詞でもあった「ダリ髭」が無くなっていたのか?
一見すると不可解な要素だらけの殺人事件。
その捜査に以前より警察に協力(本人曰くフィールドワーク)している犯罪社会学者・火村
と語り手である推理作家・有栖川が挑む……というのが大まかな粗筋です。

捜査を続ける中、見えてくるのは堂条家の腹違いの兄弟らの存在、秀一の秘書でもある美貌
の女性・鷲尾を巡る三角関係。そして世間的にはワンマン社長と見られていた秀一の抱えて
いた癒し難い不全感や内面の苦悩。
警察が、そして火村と有栖川が、関係者らに聞き込みを続ける度に容疑の目は次々と移って
いきます。そしてやがて疑いの眼は有栖川の元・同僚でもある吉住に向いて──。

推理小説の多くがそうなのかもしれませんが、基本的に展開は事件→捜査→何かしらのアク
シデント→捜査(と取っ掛かり)→真相へというチャートがあるように思いました。
次々と入れ替わり立ち替わり、時にその当人に視点を変えては捜査の眼を浴びる人々。
一読するだけでは皆怪しくもあり、しかして彼が犯人だという決定打もない。
推理モノに得意というほどそう頭が柔らかい訳でもないというのもあるのですが、僕は終始
「分からん……。誰が犯人なんだ?」と、各々に無実を訴える登場人物たちと有栖川・火村
のやり取りを読み進めていました。
ですが、その時点で僕は「罠」に嵌っていた訳です。
事件の真相もそうですが、作者によるページを捲らせる技巧──展開の巧い先延ばし方に。

展開と共に二転三転の様相をみせてゆく捜査状況。
それと共に明かされていく、登場人物たちにとっての“繭”──安息の場所。
それは何も堂条社長のようにメカニカルな装置に籠るだけではないのかもしれません。
ある者は「日常」を離れた別な自分にそれを求め、ある者は「分からない不安」を導いてく
れる他者に求める。
作中ではっきりと言及されている訳ではありませんでしたが、この物語の中で著者が込めた
かった思いとは、漠然とですが“人には誰しも逃避場所(シェルター)になる何かがある”
といった旨ではないかと考えています。
──物書きだってそう。きっと僕も文章を書くことが自分にとっての“繭”となっている。
だけど、それは果たして他の誰かに受け入れて貰えるものなのだろうか……?
繭に籠って心地いいのは誰しもだけど、その感触を他人と共有するのはきっと難しいから。

でも著者はそんな作中の彼らの「おかしな繭」に対する哂いは一切込めていません。
むしろ「理解しようとしない」相手への落胆があるのだろうか?と思うのですよね……。
押しつけがましい説教や独断・偏見、他者の嗜好への無理解、或いは咎人そのものを「悪」
だとして当然とするようなヒステリック等々。
このように作中においても、人物同士の意見の相違やすれ違いは随所に見られます。
そして事件の真相も──ネタバレになるので具体的には言えませんが──自分なりに解釈を
しようとすれば“理解して欲しい”“受け入れて欲しい”といった想いがすれ違ってしまっ
たが故に起こされた過ちであり、悲劇であったと言えるのかもしれません。
(シリーズ群でもあるので、機会があれば他作からも分析・吸収をしてみたい所です)

想いは、伝わらない。
それらはきっと交わるよりも多くが平行線だったり拗れてしまったりで。
だけどそれでも。僕らは己の“繭”を出入りしながらも彷徨う他ないのかもしれませんね。


<長月的評価>
文章:★★★★☆(文章のリズムは良好。長い台詞部分などをもっと崩せば尚良しか)
技巧:★★★☆☆(トリックよりも理屈を押し固めた感? でも真相への二転三転さが美味)
物語:★★★☆☆(基本的に聞き込み&調査シーンの繰り返しな感。推理モノの宿命?)

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  1. 2011/11/06(日) 13:30:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

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