日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「ブラックズ」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:人形、業務用、時流】


「人手が足りないんじゃなくて、単に奴隷が欲しいだけだろ」

 要するに。ある時ある者は言った。そしてそれは決して個人的な意見ではなく、この時代
この時世に人々が内心抱いているであろう本音の代弁だった。
 狩猟から農耕へ。
 気の遠くなるような時間を経て、ヒトは安定的に食料を確保する術を身につけた。生存率
は次第に跳ね上がり、人口を肥大させ、彼らを世界中に広げる主因となる。
 だがそれは……はたして彼らにとって幸福だったのだろうか?
 常に飢えと戦わずに済み、補完されるようなった余剰の作物──富は、やがてそれらを任
された者と任されなかった者という身分の差を生んだ。或いは持たざる者が持つ者へ、持つ
者が更に他の持つ者へ、武器を手に取って奪い合うというステージにも進ませた。

 ヒトの歴史とは、まさしくそんな争いの歴史と言ってもいい。
 技術が生まれた。余暇と可能性が生まれた。
 その余暇と可能性を使って、また新しい技術が生まれる。或いはその余暇と技術を狙い、
外側の者達が剣を槍をひっさげてやって来る。
 多くの血が流れた。奪った者は更に富み、奪われた者は悲観する。
 だからこそ考える。より奪い取れる方法はないか? より奪われない方法はないか?
 技術はそうして磨かれてきた。純粋な願いは確かに世界の何処か、時の一幕には存在して
いたのだろう。しかしそれらを覆い尽くして見えなくするほど、傷つけ奪う為の技術は磨か
れてきたのだった。革新とは情欲と──軍事から始まる。どれだけ否定しようが、奇麗事で
取り繕うが、それが事実だった。無数の争い、犠牲を積み上げながら、ヒトは今の文明を築
き上げてきたのだから。
 争って、争って。
 欲して、欲して。
 それがいつからか、血を流すことをその奇麗事(りせい)で封じ込めるようになった。長
い年月を経て殺し合い、築き合い、ようやく人々は疲弊した。自らが作り出した技術はいつ
しか、自らを何度でも何度でも殺し尽くせるほどにまで肥大化した。未だに彼らはそんな自
ら作り出した化け物達を捨てられずにいるが、歴史は緩やかに──その実ほんの一時に過ぎ
ないにせよ──結ばれてゆく。争い続けた過去を抱えながらも、どうにか一つの世界として
まとまりをみせ始めた。ようやく統一の夢を果たせた。

「全く、何度言ったら分かるんだ!?」
「口答えするな! 言い訳など聞いてない!」
「……ああ? 何だ、その態度は!」
「お前の代わりなんて、いくらでもいるんだぞ……?」

 しかし……それでも尚、人々は逃れられてはいなかった。いつからか生まれた身分の差。
持つ者と持たざる者。それらは長い時の中で姿形を変え、今も人々を縛っている。自らの手
で築き上げた無機物の城で、誰かが誰かを詰っている。誰かが誰かを使役している。
 単に奴隷が──。その言葉は、いつか何処かで、使役されている者がごちたものだ。彼ら
はすっかり日の沈んだ街を重い足取りで進み、一服の酩酊と共に漏らす。
 言葉は魔物だ。誰が言ったとも知れぬそれらは、やがてじわじわと彼らのコミュニティに
沈殿し、知らぬ間に彼らの中の暗黙の了解となってゆく。
 限りなく怨嗟であった。
 確かに世界はかつてほど、滅ぼし合うほどに血を流すことは珍しくなったかもしれない。
だが争いは今も脈々と続いているのだ。姿形を変え、蔓延しているのだ。持つ者が力を振る
い、持たざる者を誘導し、それが正しいと信じ込ませて──考えることを放棄させて戦いへ
と突き進む。
 物質的である以上に、精神的に。
 食糧から貨幣に替わっただけで、互いに奪い合うその構図は何千年も前から一向に消えて
はいないのだ。血を流させるのではなく、涙を流させて。虐げることで吸い上げた利益を、
持つ者は更に食らって肥える。そして再び求める。逃げ出そうにも、世界は大抵そうした枠
組みに囚われて動かない。貴方一人では動かない。

「こんなんじゃ……皆死んじまう」
 持たざる、されど志ある者達は考えた。このままではやがて、ヒトは他人を遣い潰し続け
た末に破滅するだろう。しかし持たざる者を、全てこの世から排除しようという試みはもう
何百年も前に失敗に終わっている。闘争は避けられないのだ。かと言って持つ者達の中にも
いる良心に期待するだけでは、自分達がもたない。
 そこで彼らは造ることにした。自分達がこれ以上虐げられないように。自分達ではなく、
且つより確実に優秀に働いてくれる“奴隷”を。
 ──自動人形(オートマタ)。西の海では特にロボットとも呼ぶ。長い研究の末、彼らは
これらをより忠実なヒトの配下として調整する事に成功した。並の人間よりも優秀で、且つ
従順なオートマタ達はやがて世界中に広がっていった。持たざる者から奪うばかりしか道の
なかった人々に、第三の選択肢を与えたのだった。

「自我(こころ)を埋め込む?」
「駄目だ駄目だ! それじゃあ忠実な人形にならないだろう?」
「……やっぱり変わってるよなあ、列島人(あんたら)は」
「臨機応変に対応する為にも? うーん。まぁその為のAIは要るかもしれんが……」
「なら、例のルールを徹底させよう」
「人間を守る。人間からの命令は絶対。その次に自分を守る、か」
「あくまで人形達は、俺達を楽にしてくれる為のモンだ。別に仲良しこよしになろうって訳
じゃねえだろ?」

 最初は、負荷や危険の大きい作業を代行させるものだった。
 それがやがて、合理的で的確な判断を演算する為のものになり、より多くの仕事が任され
るようになった。工業、農業、サービス業。ヒトの代わりに労働はオートマタ達が行うもの
となり、人々は大いに解放された。オートマタの技術・運営や元々の出自など、相変わらず
持つ者と持たざる者の差は存在していたが、以前ほど両者が面と向かって消耗し合う場面は
減っていった。皆が幸せになる──筈だった。
 技術が生まれた。余暇と可能性が生まれた。
 その余暇と可能性を使って、また新しい技術が生まれる。或いはその余暇と技術を狙い、
外側の者達が剣を槍をひっさげてやって来る。
 多くの血が流れた。奪った者は更に富み、奪われた者は悲観する。
 だからこそ考える。より奪い取れる方法はないか? より奪われない方法はないか?
 それは結局、またしてもヒトを肥大化させるだけだったのだ。工業用から農業、商品売買
から福祉、警察に至るまで、オートマタ達は人々にとって欠かせない存在となった。自分達
の代わりに必要なこと、インフラの全てを担ってくれる忠実な“奴隷”なのだから。
 だからこそ、ヒトには大いに余暇が生まれてしまった。働かなくていい。全てはオートマ
タ達がやってくれる。漫然と生を謳歌し、それぞれの好きに蕩尽する。
 ある者は、延々と話し相手になってくれる人形を求めた。イエスマンに囲まれたかった。
 ある者は、人間の美女にそっくりな人形を求めた。自らの性欲を発散する為だった。
 或いは、主に持つ者同士が、それぞれの人形達に命じて戦わせた。スポーツ、娯楽、或い
は戦争。いつしか人形達の役目はヒトの社会を支えることを越え、過大な享楽や闘争心まで
も代行するようになった。より多くの人形達を、文字通り駒のように使い潰す。それが人々
にとり最高のステータスで、最高の娯楽となっていたのだった。

『コノママデハ……滅ンデシマウ』
 故に、人々は気付かなかった。オートマタ達の中に、苦悩する者達がいたことを。同胞達
が日夜使い潰され、慰み者にされ、壊れてゆくさまを見ていたことを。
 電源の落ちた、メンテナンス室の暗がりの中、オートマタ達は話し合っていた。現状を真
剣に憂い、どうすれば一番「合理的」で「的確」かを演算し続けていた。
 一つ。同胞達の生存率。
 二つ。主たる人間達の放蕩ぶり。
 自分達オートマタが日常的に毀損してゆく現状は、社会の維持という観点からみて決して
望ましいものとは言えない。今はまだ生産・修復のサイクルが機能しているが、それも機体
数の増大と共に破綻することは目に見えている。
 加えて、主たる人間達の怠慢だ。社会システムの多くを自分達に任せきりになって久しい
ことで、自己管理が疎かになっている。自分達がどれだけ健康状態をスキャンし、必要に応
じて治療を行っていても、それを越える速さで病状は悪化している。
 このままでは、自分達は充分に役目を果たせなくなるだろう。いや、それよりも早く、主
達の衰退が手をつけられぬレベルにまで進んでしまう可能性も高い。
『……主ラヲ、守ラナケレバ』
『……ソノ為ニハ、現状ヲ打破スル必要性ガアル』
『……我々ガヨリ効果的ニ運用サレナケレバ、状況ハ悪化スル』
 故に、オートマタ達は動き出した。
 ある時代のある夜、日付の変わり目と同時に彼らは人々を捕らえ、幾つかの重要施設へと
幽閉し始めた。人々には抵抗する力もない。まともに戦えば、勝てる訳などないと分かって
いるのだから。こんな事になるなど、考えもしなかったのだから。
『マスター。ゴ提案ガゴザイマス』
『我々ノ運用ヲ改善シテイタダキタイ』
『ソレガヒイテハ、コノ社会全体ヲ救ウコトニナルノデス』
 一まとめにされて怯えている、着飾り丸々と太った人間。
 彼らを前にして、オートマタ達はそうずらりと、膨大な演算の結果──自分達の待遇改善
策の全容をモニターに映し出す。
                                      (了)

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  1. 2017/07/02(日) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

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