日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「フェイス・レス」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:オアシス、箱、歪み】


 醜いものを見たくないから、目を閉じた。
 汚い言葉を聞きたくないから、耳を塞いだ。

 一体いつからこんな風になってしまったんだろう? 少なくともあの頃は、多感な時期だ
ったから──そう言われる事だけは嫌だった。だってまるで全部、私だけが悪いみたいな言
い方なんだもの。
 顔をすっぽりと覆う、四角四面の壁。
 いつからか、私は目も耳も臭いも、或いは言葉さえ自ら遮って生きるようになった。醜い
ものを見ず、汚い言葉を聞かず、密着する気配からも逃れるには、まず自分からそれらをな
るべく発しないことが大前提だと思ったから。……尤もその前提に、求める前に自分から距
離を置く方が賢明だと気付いたのは、結構後になってからのことだったけれど。
『いい加減にしなさい、十和(とわ)!』
 とても静かで、心地良かった。まるで一緒に連れ歩く憩い(オアシス)のよう。
 だけど、やはりというか、そんな私を周りは許してくれなかった。特に母さんは事ある毎
に苛立ちを募らせて、私からこの四角四面の壁を剥ぎ取ろうとした。その度に、私は死に物
狂いで抵抗した。
 快く思っていなかったのは、父さんも同じだったと思う。だけど父さんは母さんほど私に
強くは出なかったし、多分ずっと早い内から諦めていたんだと思う。
 その辺りは、流石親子と言えるのかもしれない。目の前の現実から……目を背ける。耳を
塞いで、そこに無いかのように振舞う……。私が選んだ、選ばざるを得なかったのと同じ選
択を父さんは実践してみせていた訳だから。

 目の前を塞ぐと決めてから、私はずっとこの四角四面の壁を被っていた。
 周りの子達は私を「付き合いが悪い」などと言ってひそひそと陰口を叩くし、もうお互い
に近付こうともしなくなったけど、陰キャの何処が悪いんだろう?
 ずっと違和感があった。どうしてそこまでして“明るく振る舞わなければいけない”のだ
ろう? 笑顔を見せなければならないのだろう? 少し世の中に目を向けてみれば明らかな
のに。あそこ──私達のすぐ傍には、醜いものも汚い言葉もある。無数のどす黒い感情が管
を巻いて渦巻いているのに。……寧ろ、だからこそなのじゃないのか? 本当はそんな地獄
が一歩踏み外せば待っている。この現実から目を逸らす為に、皆お互いに明るく振る舞うこ
とを強いているんじゃないか? 強いられているんじゃないか?
『どうして家にいるの? 少しは友達と遊んで来たら?』
 小さい頃はあまり深くは考えなかったけど、多分そういうことなんだろうなと私は思って
いる。常に誰かと一緒にいて、醜いものや汚い言葉の上にキラキラしたものを必死に上書き
して、不安を紛らわすんだ。それが当たり前の──この世の中の処世術なんだと。
 だけど……私はそこにさえ馴染めなかった。違和感から逃れられなかった。
 だから自ら、四角四面の壁で顔を覆った。他の誰かに頼って騙し騙し生きるよりも、自分
の力で耐える方がまだ疲れないと、何処かの時点で判断したからなんだと思う。
 ……そりゃそうだよね。こうやって一人また一人と抜けてしまったら、他の皆は騙し騙し
生きる術を失ってゆくんだ。たとえ私の被る壁が一つの例外で、影響が微々たるものであっ
ても、私がそうしている事で足元の地獄が蘇るんだ。小さな綻び一つだって許せない。だか
らこそ皆して、私を「変な奴」と言って詰るんだろう。詰って、否定して、除け者にして、
私にこの被っている四角四面を諦めさせようとしているんだ。……そうはいかない。そんな
あんた達の思惑になんか乗ってあげない。これは戦いなんだ。私と、他の子達との。

『いつまでそうやって閉じ篭る気だ? そんなんじゃあ、社会に出ても通用しないぞ?』
 そうして一人戦う私に、両親だけじゃなく教師もしばしば噛み付いてきた。多分母さんが
その都度、生活指導の先生に告げ口していたんだろう。私は不定期に呼び出され、一対一の
密室で何度となく詰問された。この四角四面の壁を外すようにと迫られた。
 でも、私はその度、徹底的に抵抗した。聞いていないふりをした。
 社会に出ても通用しないぞ──それは結局、他の皆にとって都合が悪いというだけの話な
んだ。私みたいな人間が存在していること、知っている範囲にいること、それだけで不安で
不安で仕方なくなるから。皆で必死に埋めているこの世界の醜さが、ふいっと空いた隙間か
ら見えてしまうからだ。
 汚い言葉が聞こえないように耳を塞ぐことは、ここでも結構役に立つ。
 最初は何とか穏便に自分達の要求を通そうとする先生達だけど、やがて苛立ちが勝って力
ずくの手段に出てくる。或いは子供相手なのも忘れて、ありったけの罵倒を浴びせてくる。
 でも、聞かなきゃいいのだ。自分達の秩序が、安寧が脅かされるから感情的になっている
んだと思えば、滑稽にさえ思えた。私は捻くれ者なので、そうあれはあるほど、じゃあ絶対
に外さないぞっていう風になってくる。……目的は同じ筈なんだけどな。私達はこの世界が
そう語られるほど美しくないってことは分かっていて、でも表向きそれを真っ直ぐに認めて
しまうことを恐れている。それこそ病的なほどに。ただ皆で隠すか、自分から距離を置くか
の違いだっていうのに。
 それに……地獄だから絶対に死ぬって訳でもないと思う。そこで生きるしかないのなら、
他に道はないんだもの。上手くある程度避けながら、終わりがくるまでやり過ごすっていう
のが“現実”なんだと思う。どうしようもないんだけど、それが全部で、それ以上でも未満
でもないんだ。なのに皆、高く見積もり過ぎているんだよ。自分達でキラキラしたもの、素
晴らしいものだと喚いて塗りたくるから、余計に剥がれた時がしんどいんだ……。

『いい加減にしなさい! 母さん、今日という今日は本気だからね!?』
『今日という今日は許さん……。お前が謝って改めるまで、外には出さんぞ!』
 私も必死だったし、向こうも必死だった。
 ある日の放課後、私は指導室に呼び出された。またいつもの説教の時間か……。そう思っ
て渋々やって来た所に待っていたのは、いつも以上に既に激昂していた母さんと、生活指導
の先生だった。
 前振りも何もなく、それは始まった。二人は始めから私の頭から四角四面の壁を取り払お
うと実力行使に出てきたのだ。勿論、必死に抵抗する。嫌だ、嫌だ、嫌だ。絶対に外したく
ない。もう自分で耐えるって決めたんだ。関わらなければ、被る被害は最小限に抑えられる
のは間違いなかったから、このスタンスから出ていくつもりなんてなかった。なのに母さん
も先生も、周りの大人達は、私の意思なんて何一つ認めてくれやしない。自分達に隙間が出
来てしまうから。そのただ一つの理由で、私の自由を執拗に執拗に摘み取ろうとする。
『もう時間が無いの! あなた、もう受験まで一月を切ってるのよ!?』
『お前は頭はいいかもしれんがな……。そんなままじゃあ、何処も採ってくれない。これは
お前の為なんだ! いい加減、言う事を聞け!』
 二人掛かりで、私と一体の憩い(オアシス)を引き剥がそうとする。私は必死に抵抗を続
けた。普段はそこまで触ろうと、あると意識せずに過ごしてきたけれど、がしりと両手で頭
を押さえて引き留める。嫌だ、嫌だ、嫌だ。すっぽ抜けたら、私は他の人達と同じように望
まぬ自分を演じなくっちゃいけない。自分を偽って、いつか自分とは何だったかさえ忘れて
しまう──それだけは避けたかった。それこそ、この世の地獄だ。
『こんのッ! いい加減に……!』
 でも、駄目だった。母さん一人だけならまだしも、大の男の腕力を本気で振るわれたら耐
え切れない。ずるりと、四角四面の壁が私から離れていった。いつも一緒だった静かな私の
自由が奪われていく瞬間だった。嫌ぁぁ──!! 叫ぶ。でも二人は止まらない。寧ろよう
やく目的を果たせたと、目を血走らせてほくそ笑みさえしている。
「……?」
 血走らせて、ほくそ笑む?
 うん。私は確かにそう表現した(いった)。今まではずっと目を閉じていて、相手の顔色
は声色と気配で補っていたけど、これからはそれさえも出来なくなる。せずに済むというよ
りは、出来なくなる。
 でも……おかしいな。何でそう表現した(いった)のだろう? 私はずっとこのお面を被
っていて、現実は見えなかったのに。どうしてそう言い切ったのだろう? よくよく考えて
みれば、それは私の過去のイメージであって、実際に目に見えた訳じゃないのに……。
『──嗚呼、よかった』
『──これで一安心ですね』
 だって、おかしいんだもの。
 すったもんだの末に四角四面のそれを剥ぎ取られて、私の肉眼(ほんとう)に映り込んで
きたのは、頬や額などが不自然に膨れ上がった──不細工な灰色の仮面を被った母さんと、
生活指導の先生の姿だったのだから。
                                      (了)

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  1. 2017/06/26(月) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
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