日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「オトシメン」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:プロポーズ、窓、テレビ】


 その依頼人と顔合わせた時、片岡は頭の隅に妙な一致を覚えていた。
 いわゆる既視感という奴だろうか。テーブルを挟んで座る女は、細かな編み込みを施した
白いワンピースの上に薄いベージュのストールを重ね、実に神妙な様子でその端正な面貌を
歪ませている。見た目、いい所の御夫人といった趣だ。
「……あの。やはり貴方も見覚えがありますか?」
「? というよりも、私達は初対面かと思うのですが」
 社の事務所兼応接室に使っている部屋。
 多種多様なテナントがぎゅうぎゅう詰めになっている雑居ビル──外の景色を臨む、同じ
くそんな猥雑の一員である所のこのいちフロアで、彼女はぽつりと言った。片岡は今し方抱
いた既視感などいきなり切り出せる訳でもなく、そう答える。
「ええ、初対面ですよ。でも貴方もあの番組を見ていたかもしれない」
「番組?」
「“ジョージの求愛大作戦”という番組です。ご存知ありませんか? 五年ほど前まで毎週
のようにやっていたんですが」
「……ああ」
 それなら。片岡はその実、彼女に促されるようにして記憶を引っ張り出していた。
 確か毎週末のゴールデンタイムに、依頼のあった男女の仲を取り持つという内容のもの。
大抵は片思いの相手への告白やら、交際相手へのプロポーズやらを番組が大掛かりな演出を
もってサポートするというバラエティ番組だった筈だ。最初こそ、その目新しさで視聴率を
稼いでいたらしいが、毎週というスパンが悪かったのか段々放送頻度がフェードアウトして
最後には消えていたとという印象ぐらいしかない。
「私、以前その番組でプロポーズされたんです。財津……いえ、大庭美智といいます」
 彼女・美智からの告白で、片岡はようやく合点がいった。道理で見覚えがあると思った。
あの番組の出演者だった訳だ。尤も、彼女の場合は半ば巻き込まれたような形だろうが。
「そうでしたか。でも、どうしてです? 先程貴女から伺った依頼は“夫と別れたい”と、
そういう旨のものだった筈ですが」
 だからこそ、片岡は怪訝に思った──こりゃあ面倒な仕事になりそうだなと思った。
 正直、何となく予想はできていた。この業界に入って自分も長い。だがこちらがお節介に
余計な気を回すべきではない。一円の得にもなりはしない。きちんと、本人の口から語って
貰わなければ。
「どうしても何も……だからこそです。貴方は卑怯だと思いませんか? 公共の電波を使っ
て人一人を世間の眼に晒して、逃げ場を奪っておいて……。断れる訳ないじゃないですか。
もし彼を振って、可哀想だと皆が思ったら……私が悪者になっちゃうんですよ? 勝手に番
組なんかに応募して、数の暴力で取り囲んできて……ロマンティックだなんて思ってたのは
彼と番組スタッフぐらいなものです」
「そうかも、しれませんね。ですが、実際当時お付き合いなさっていたんでしょう? 彼の
方から──財津さん、でしたっけ。プロポーズされるくらいには」
「ええ。でもそこまでは考えていませんでした。あの人、金払いだけは良かったから……」
 面倒臭いな。勿論口に出す訳にもいかず、片岡は顎を掻きながら内心思案していた。
 確かに彼女の言い分も理解できる。間違ってはいないのだろう。もしかすると、他にも似
たようなケースはあって、それが番組の寿命を縮めたのかもしれない。互いの意思が確認し
切れていなかった訳だ。まぁ事前に知らされるプロポーズなんても妙な話だが。
「……事情は分かりました。ですが、そういう話であれば、弁護士に相談した方がよっぽど
確実だと思いますよ?」
 その上で、片岡は言う。自分でもこんな事を言えば客を逃がす行為になると分かってはい
るが、自分達の商売の性格上、できるだけ危ない橋は踏みたくないというのも本音なのだ。
「だって……。それじゃあ、私にも悪い所があったってことになるじゃないですか。あの時
プロポーズを受けたのに、やっぱり駄目でしたってなれば、周りの人達が何を噂するか分か
ったものじゃない」
「ふむ」
「彼に、財津に非があるようにしなきゃいけないんです。でも財津は、事業も順調ですし、
私や娘にも優しく接してきますし、離婚するにも正当な理由が見つからなくて」
「……」
 色白の美女と、子煩悩な青年実業家。
 いいねえ、金持ちの悩みってのは。片岡は目を細めて黙しながらも、その実内心は彼女を
何処かで忌々しく観ていたのだと自覚する。
 同時になるほど、と思った。だからうちを訪ねて来たのか。相手に非の打ち所がないので
あれば、作ればいいと。
「要するに、ご主人に泣き所を創って欲しいと、そういう訳ですね?」
「そう、です。料金さえ払えば、どんな人材でも派遣してくれるんでしょう?」
 主人と表現されたことに、美智は少なからず不満げな表情をみせた。こちらが片手で棚の
マニュアル冊子を取り出しながら確認する声に、ずいっと押してくるように訊き返す。
「確かに、当社は貴女のような表向きでは動けない方に代わって人員を派遣する、そういう
システムですが──工作活動となると割高になりますよ? こちらも“裏”の仕事というの
は理解していますのでね、リスクとリターンはしっかり吟味させて貰っています」
 努めて淡々として振る舞い、片岡は詳細な料金表をテーブルの上に広げた。図表にはE-
かSSSまで依頼内容の難度に応じてランクがつけられ、それに比例して下限額も跳ね上が
ってゆく。美智も、神妙な面持ちで覗き込んでいた。
「前金としてこちらの金額の半分をこちらに収めて貰います。万一依頼遂行に失敗した場合
につきましては、更にそこから半分が返還されるという仕組みになっています。証拠はなる
べく残さない形で。契約書はこちらへのサインと押印、金額の書き込みのみ。所定の期間を
過ぎれば責任をもって処分致します。人材派遣一人当たりの経費は、こちらの図を──」
 相手を離婚に追いやるとなれば、金か女か。
 だが前者は証文でアシが付きやすい。安牌を取ろうとすれば必然的に女の方だ。いわゆる
ハニートラップでいこう。向こうがその気でなくとも、薬などで眠らせ既成事実さえ作って
しまえば今日び男に勝ち目はない。
 片岡はそんな裏の業界で働き続け、この会社でも中堅レベルにまで登り詰めていた。
 主な役割は依頼者との交渉、及び自分達が手を出していいヤマがどうかを見極める第一に
して最大の防壁だ。最終的には幹部達の協議によって受諾の可否は決まるが、まず最初の段
階で依頼者と関わりになるということは非常にリスキーであり、同時に彼ら幹部から信用を
置かれている証拠でもある。普段はガタイがいいだけの中年男が、この時だけは人一人の社
会的生命を握りうる上位者になる。
「ここに五百万あるわ。昔、財津に贈られたアクセサリー類から捻出したものよ。必要なら
もう二・三百は積んでも構わない」
「……充分です」
 今まさに、彼女は地獄へ進んでいると片岡は思う。
 素人はこれだから旨い。必死になっているから、周りが見えていない。
 先刻からの会話は全て、上着のポケットに潜ませたICレコーダーが記録している。これ
でまた一つ、不定期な収入源が増えた訳だ。尤もこの手の人間は自分が追い詰められた時、
どんな馬鹿をしてこちらを巻き込んでくるか分からない面もあり、油断はできないが。
 目を細め、美智がショルダーバックから出してみせる札束を確認して片岡は応えた。彼の
頭の中では既に、彼女の夫──と自らは信じて疑わない財津を陥れるプランの概略が組み上
がりつつある。これもまた、最終的には幹部達の判断によって実行の可否が決まるが、さも
依頼主が自らの掌の上で転がされる小さな駒のように感じられるこの瞬間があるからこそ、
片岡はこの業界を辞められない。
「基本料金よりも少し高値ではありますが……この額を前金として納めていただけるなら、
こちらもより良い人材を選り抜くと致しましょう。では、こちらにサインを。受諾の可否を
含め、詳細な内容は後日指定のアドレスに送付します。そちらから、了解の旨の返信がこち
らに届いた時点でミッションをスタートします」
 コク。美智は頷き、指示されるままにペンを走らせる。押印も済ませた。
 これで言質は取れた。扉を開けたのだ。あくまで自分達はその業(ニーズ)に応じ、サー
ビスを提供する窓口──欲望を果たす為の橋渡し役に過ぎない。
「では、貴方が貴方であるための人生を」
 些か身を強張らせたまま、おずおずと事務所を後にしてゆく彼女。
 片岡はそう、社のキャッチコピーを口ずさみながら、この新しい依頼者(カモ)の後ろ姿
を見送るのだった。
                                      (了)

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  1. 2017/06/02(金) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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