日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「喰詩」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:闇、野菜、最弱】


 豊かであったのは今は昔。目の前にはただ痩せた大地が茫洋と広がっている。
 とうに実りに恵まれないことは解っていた。鍬の音は虚しく響く。
 それでも大半の非力な──枝葉の者達は、めいめいにその限られた土地に縋り続けるしか
ない。かつてあった豊穣の景色を瞳の中に重ね、彼らは心身に鞭打つ日々をただ耐えること
が常だった。大よその全てだった。
 しかし……そんな幾許もない実りも、積み上げれば腹を満たす量にはなるのだろう。
 今も昔も、上に立つ者達というのはいる。概して枝葉の者達が育て上げた作物を──地中
に根を張り葉を繁らせたそれや、或いは水気を含む果実、か細い穂の絨毯をその力に任せて
取り上げる。吸い上げて、一所へと放り投げる。
 枝葉の者達は、ただ見ていることしかできない。あれはもう彼らの物で、自分達が口にす
ること叶わぬ実りだと。汚れ痩せこけ、それでも身に刻んできた暴力が、彼らへの些細な闘
争心さえも折ってしまって久しい。
 痩せこけた。
 一方で、彼らは肉付きよく肥えを保っている。
 上に立つ者達とは即ち、力ある者達と言い換えることができるだろう。たとえ大地がとう
の昔に枯れの峠を越えてしまって久しくとも、現状自分達の腹を満たす量さえ確保できれば
きっと彼らは考えない。枝葉の者達(しもじも)から搾取する事はしても、彼らの疲弊を改
善しようとまでは踏み込まないでいた。
 それはひとえに、力ある者達同士でも隙を見せる事を大いに嫌ったからである。不必要に
目立てば、デメリットばかりが大きい。それも枝葉の者達(しもじも)を味方にするような
言動を自分一人が取れば、他の者達がその取り分を失うと考えるだろう。そうなれば前提で
ある強者の基盤すら危ぶまれる。そんな打算を──その実表面上の思考だけで浅く撫でなが
ら、かくして力ある者達は吸い上げ続けるのが常だった。
 加えて、大きな理由がもう一つある。上に立つ者達には更に上位の存在がいる。
 即ち“王”だ。彼らが選び、或いはなろうとし、互いに闘った末に生まれた力ある者達の
長の総称である。
 枝葉の者達から吸い上げられた実りの総量は、一所、即ちこの“王”の下へ収められた。
この時代にあっても“王”は高き座から人々を見下ろし、さも自らの産物であるかのように
これらを人々に分配する。その権能があるからこそ、人々は頭を垂れた。力ある者達も従わ
ざるを得なかった。飢えに飢えれば、上に立とうと下々であろうと死ぬのみである。

 今や痩せこけた大地に枝葉の人々はみっちりと縋る。縋り、狂ったように耕す。
 その実りを、一人一人では僅かな実りを、力ある者達がこぞって取り上げる。取り上げて
“王”へと献上する。
 収められたそれらを、最後は“王”が食す。彼に近しい者達が順に、施しを受ける。

 豊かであったのは今は昔。だが上へ上へと、下の者らが上の者らに喰われてゆく構図はま
るで変わろうとはしない。最大限、最善の幸福を願った筈が、時の力ある者達次第でそんな
理想は至極簡単に破れ去っただろう。今を喰い繋げなければ明日はない。だからその為には
誰かを出し抜いても、誰かを踏み台にしてでも、ヒエラルキーの上へ上へと殺到し続ける。
実はそこからあぶれ、知らず、諦めざるを得なかった者達──大量の枝葉の者達があってこ
その闘争であるのだが、概して長く上に立ち過ぎた者はそのことさえ忘却の彼方だ。

『畜生……また持って行かれた……!』
『俺もさ。奴らは、俺達を家畜程度にしか思っちゃいねえ』
『ただでさえ収穫が少ないってのに、根こそぎ持って行かれたら次の種付けさえできなくな
るじゃないか』
『しーっ! あまり大きな声を出すなよ? 何処から聞いてるともしれねえ。命あっての物
種だろうに』
『そうそう。お偉いさんには精々踏ん反り返って貰ってればいいのさ。俺達にはムズカシイ
事なんざ分からねえ。その代わり、まんまを作ってる。それもまた立派な仕事よ』
『そうそう。種を撒いて、苗を可愛がる。出来た子達を存分に誇ろうじゃないか』

 枝葉の者達は、長らくそうして生きてきた。歳月は確実に移ろってゆくにしても、彼らに
は日々を繋ぐことが大よその全てだった。
 慈しみの感じられない力ある者達に、事ある毎に毒気づいてみせる。
 されど一方で闘いそのものを疎み、自らの首に繋がる枷を誇りさえもする。
 適度に発散して、再び痩せ細った荒野へ。毒を吐き合う一瞬一時こそ彼らは一つになった
ように見えるが、その実はめいめいに孤独であった。縋る土地は茫洋でも、細かく境界線を
引いて動き出さぬのは他ならぬ彼ら自身の意思であったのだ。

 ……しかし彼らは、枝葉の者達も力ある者達も、ひいては“王”さえも気付いてはいなか
った。積み重なる総量は何も作物だけではない。じわりじわりと、痩せた大地は再び彼らの
全てに牙を剥く日を待っている。
 毒だった。枝葉の者達が事ある毎に吐き出していた毒は、やがて大地に染み入り、蓄積し
続けた結果ついに害を生むほどの破壊力を得る。最初は一介の枝葉の者だった。はたと作物
が収穫すらできずに枯れるようになり、原因不明の苦しみで死んだ。近隣の者達は大層訝し
がったが、結局終ぞその正体に気付くことはなかった。
 一人二人。その数が百や二百を超えた時には、もう遅かった。大地に根を張った毒は枝葉
の者達だけでは飽き足らず、力ある者達をも次々に倒していった。言わずもがな、彼らが取
り上げて吸い上げた実りを口にしたからだ。
 異変を異変と悟った時には、もう遅かった。既に右に左に同胞らは倒れ、当初の枝葉の者
達もその少なからずが失われて久しい。腹を満たせるだけの量、それさえこの時彼らは確保
しあぐね始めていた。現状足りているから──それが崩れた際に動くべき足。嗚呼、とうに
そんなものはなかった。長らく、本当に長らく使っていなかったから忘れていた。焦り、枝
葉の者達を叱咤することはしても、はたしてその元凶が何処にあるかを悟るだけの頭など既
にあるまい。その間にも、枝葉であろうと力あろうと、一人また一人と倒れてゆく……。
 結末は、更に彼らの上──“王”の死であった。収められた実りを口にし、やはりその毒
気に侵され、酷く苦しんだ末の最期であった。
 医師の見立てでは、その破壊力は他の力ある者達の比ではなかったという。数百数千人を
一絡げに殺せるだけの毒が、たった一人に向けられたのだ。逃れられる術などない。

 毒気が彼らを殺した。始まりはほんの一握りの、力なき枝葉の者達だった。
 それらが時を重ねて積み上がり、痩せこけた大地に染み入る。悪意ある現実を更に人造の
それで塗り重ねたような。枝葉の者から力ある者達へ、力ある者達から“王”へ。連鎖する
害意はやがて頂点に立つ者さえ殺した。言うなれば──枝葉の存在がこれを殺したのだ。

【革命の物語? 違うね。これは、巡り巡って君に返ってくる物語だ】

 さりとて“王”が倒れたことが、即ち残された人々にとっての幸福だったのだろうか?
 往々にして然様な結末を迎えたことは、悲劇だったのだろう。その後に起こったのは上へ
下への大騒ぎに他ならない。力ある者達は次なる“王”を決める為、再び暫しの闘争に明け
暮れた。その間下々──枝葉の者達は置き去りにされたし、それ故心も体も、徒に死んでい
った者達も決して少なくなかったことを忘れてはならない。
 だが何よりも、彼らを最も殺したかの毒だった。“王”を斃した所で濃縮された害意が止
まる理由になどないからである。
 崩れ落ちた“王”から再び毒は大地に染み入った。痩せて貧しい大地は一層に侵され、毒
を無差別に振り撒く。上から下へ、力ある者達から枝葉の者達へ。気付けば循環した毒気は
また改めて人々を襲い、犠牲者を増やしていった。しかし“王”は一向に決まらなかった。
ただ単に折り合いがつかなかったのと、食す実りがなければ戦すらできない。加えてそんな
上に立つ者達の言い分など知った事ではないと、やがて枝葉の者達の一部がついに叛乱の狼
煙を上げた。分断は決定的で──しかしそれはかねてより深刻だった筈で──痩せた大地に
耕すのではなく、明確に傷つける為の刃が差し込まれる。

 はたして、豊かだった大地が痩せ細った理由を自分達はまた繰り返しているのだと、どれ
だけの者が気付いていただろう?
 鍬は槍となり、堆肥は血に替わった。口撃は他ならぬ剣撃となり、文字通り敵とみなした
誰かを殺す。殺せば殺し返し、殺し返せばまた殺し返す。そうして巡り巡った収奪は上下の
区別すら曖昧にし、かつて失望と諦観で包まれていた空気すらもリセットする。めいめいが
望む望まないなどお構いなしに巻き込んで……。

 巡り巡り。
 あれから何度か滅び、何度か立ち直って。そうしてまたこの大地に“王”が力ある者達を
従えている。
 さて、ここで語った時間軸の人々に比べて、この枝葉の者達は幸福だろうか? それとも
やはり相変わらず吸い上げられ、慰みに毒を吐きながら、尚且つ自らに繋がった枷を誇って
いるのだろうか?

 少なくとも、大地に広がった毒は、そう易々とは消えないだろう。
 この先何百回何千回と、弱き者らのそれが、一人の強き者を斃したとしても。
                                      (了)

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  1. 2017/05/14(日) 00:00:00|
  2. 週刊三題
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

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