日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「MOB(モブ)」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:兵士、脇役、裏取引】


 彼は城下町の兵士である。名前はまだ無い。加えて城下町と言っても、多少横長な中に家
屋が並び、壁で囲まれているだけの比較的小規模なものだ。
 彼は、そんな町の西口の見張りを任されていた。
 いや──生まれてこの方、この役割以外を与えられた試しがないというのが正確な表現な
のだろう。兜を被り、槍を地面に立ててじっとしている。
「ここは、ハルゲニアの城下町です」
 それが彼の仕事だった。話しかけてきた人間に、そう決まった台詞を返すだけの。
 晴れの日も、風の日も、雨の日も雪の日も。
 尤もそんな日々移ろいを旅人が感じることはない。訪れれば常に同じ場所、同じ風景の中
に彼らは立っていて、同じ台詞を返す。中には立てられた旗に応じて違った言葉を許された
者もいるが、元より旅立ちの出発地点であるこの町でそんな役割を与えられた者は稀だ。
(……暇だなあ)
 しばしば永遠のように感じる昼の時間。
 旅人が眠り、その存在すら滅多に表には出ない夜の時間。
 彼は立ち続けていた。じっと、その場から動けずに西口の門に背中を預けている。
 もう何度目だろう? 先日、城に“勇者”が呼ばれた。遥か海の向こうに居城を構えると
いう魔王の討伐を頼まれている筈だ。
 言葉に出すことすらできず、嘆いた。この世界はあまりに窮屈だ。自分達は与えられた役
割以外を演じることができない。そもそも動く事すらままらない。無限にも思えるような毎
日をただ延々と繰り返し、いつか“勇者”が旅を完遂してくれる──その時をじっとここで
待ち続けるしかない。許されていない。
 さて、今回はどんな“勇者”なのだろう? 大雑把か、こまめか。
 個人的には後者がいい。何故ならきちんと自分達一人一人に話しかけてくれるからだ。こ
の役割を果たすことができるからだ。……尤も、それだけである。決まった台詞だけを返し
てしまえば、後は元通り。全くの無である。跳ね返ってくるのは虚しさだと分かっていた。
(俺にも、もっと違った役割さえあれば……)
 もう何度目だろう? ぼんやりと、気を抜けばそのまま薄れて消えてしまいそうな自我の
中で彼は願ってみていた。もっと違った役割が与えられていれば、もっと違った台詞を許さ
れるのだろうか? もっと遠くへ、それは叶わずとももっと自由に歩き回れるのだろうか?
 益体無い。それは解っている。
 でも、ただこうしてずっと棒立ちのままでは──。
『じゃあ、試しに変えてみるか?』
「!?」
 そんな時だ。ふと突然、脳裏に直接何者かの声が聞こえた。慌てて辺りを見渡してみるも
それらしい姿はない。ただ間違いなく、その言葉は自分に向けられたものだ。
(だ、誰だ? 何処から話してる!?)
『何処からって……画面からだけど。いやさ? ちょうど迷ってたんだよね。王道っていう
コンセプトにするにしても、多少独自色をつけなきゃ面白くないじゃん? だから色々と弄
くってみようと思ってさ。試しに動いてみてくんない?』
 突然の事に狼狽する彼とは対照的に、声の主は何というか気の抜けた調子だった。まるで
上から見下ろすように一方的に、そして気ままに告げる。
 そして彼に、新しい役割(イベント)が試される。

「ここは、ハルゲニアの城下町です」
「武器や防具は、装備しないと意味がありませんよ」
「あなたが勇者様ですか? どうかご武運を」
 許された台詞が増えた。話しかけられる度、アトランダムに幾つかの候補から自由に選ぶ
ことができた。目の前に鎧とマントを纏った“勇者”が足踏みしている。まだ新米といった
感じでためつすがめつ、こちらの反応を確かめている。
「──」
 だが、途中で言葉が出なくなった。彼は口を開けようとしたまま固まっている。
 頭の中がふと、真っ白になっていた。文字通り喋るべき台詞が「空白」だったのだ。
 数拍の間。はたっと“勇者”が消えたように見えた。世界が暗転する。あの声の主の呟き
が聞こえた。
『……うーん。案外バリエーションって出ないもんだな。あまり一人にいっぱい喋らせると
他の奴の存在価値がなくなるし……』

「ここは、ハルゲニアの城下町です。北が王の住む城、ずっと北西には初代勇者の墓、南に
はトンネルがあります」
 暗転が消えたと気付いた時には、彼はまた別の台詞を喋っていた。目の前にまた“勇者”
が足踏みをして立っている。彼は頭の中に浮かんでくる文字をそのまま、淡々と機械的に打
ち出すように喋っていた。
 ああ、道案内。彼は喜んだ。自分の中でふいっと世界が広がってゆくような気がした。喋
りながらその地図を頭の中で描いてみる。不思議だ。自身、そこへ行ったという記憶はない
のに、すらすらと口を衝いて出てくるのは何故だろう?
「トンネルを抜けると、ハーベスタの村です。薬草作りが盛んです。ずっと東に行けば、橋
があります。その先は──」
 だが、また途中で言葉が出なくなった。以前同じような経験をしたような気がした。彼は
口を開けようとしたまま固まっている。頭の中がふと、真っ白になった。文字通り喋るべき
台詞が「空白」に差し掛かったのだ。その瞬間、頭の中に広がっていた世界が急激に色彩を
失ってしぼんでゆく。
『……またそこまで地図(マップ)考えてなかったなあ。これは後回しでいっか』
 数拍の間の後、目の前の“勇者”が消えたように見えた。世界がまたしても暗転したよう
な気がする。消え際、またあの声の主の呟きが聞こえた。

「やあ、君が新しい勇者だね? 外は魔物でいっぱいだ。これを持っていくといい」
 そうして次、また気付いた時には、彼は話しかけてきた“勇者”に薬草を手渡していた。
 あれ? 自分ってこんなキャラだっけ……? 口から出てきた調子は何処か余裕ぶったよ
うで、フランクなものになっている。そもそも一体いつから、自分は薬草など懐に忍ばせて
いたのだろう……?
 少なくともこれは新しい役割だ。そう彼は思った。突然の事で戸惑いはあったが、今まで
とは違う台詞が許されたのだ。
 薬草を鞄にしまって去ってゆく“勇者”を見送りながら、彼は内心満たされた気持ちにな
ろうとしていた。ただ、表情には出せない。出すことまでは許されていない。
「ここは、ハルゲニアの城下町です」
 だが……それっきりだった。最初に薬草を渡した後、また話しかけられても、彼の頭の中
に浮かび許されたのはいつもの台詞だった。ついっと、先日の“勇者”が町の中に入って宿
へと向かっていく。それを彼はただその場に棒立ちなまま見送ることしかできない。
「ここは、ハルゲニアの城下町です」
 三度目もそうだった。やはりもう同じ台詞しか出てこない。
「ここは、ハルゲニアの城下町です」
 四度目も、五度目も。彼が再び失望と無気力に襲われるのは時間の問題だった。
『……うーん。いまいちパンチが足りないなあ。無駄にスイッチ使うだけだし。薬草くらい
なら宝箱の中とか、いくらでも用意できるだろうし……』
 虚しさに呑まれていたその時、世界が暗転した。その際で、またあの声の主の呟きが聞こ
えていた。

「あ、ちょっといいですか? 実は南のハーベスタの村に恋人がいるんですが、最近病気に
なってしまったみたいで。でも自分は仕事があるし、中々見舞いに行ってあげられなくて。
もしよければ、代わりにこの手紙を届けてくれませんか? お礼は致しますので」
 或いは、気付いた時にはそう、彼は目の前の“勇者”に頼んでいた。
 いつも通り「ここは、ハルゲニアの城下町です」の台詞を喋った後、もう一度話しかけら
れるチキに許されたのがこの台詞。そういえば……。自分には愛する人がいる。そんな気が
した。頭の中に書きこまれるままに口にした言葉。不安になって仕方がなかった。嗚呼、彼
女は元気だろうか? 苦しんでいないだろうか?
 だが、目の前の“勇者”は手紙こそ受け取ってくれたが、何も答えずそのまま一旦町の中
へと消え、そして出て行った。旅の準備だろうか。しかし彼はやはり、この町この場所でず
っと立ち続ける事しかできない。
「──えっ? 彼女がこれを? ああ、ありがとうございます! ……よかった。大きな病
気という訳ではなさそうですね。今度休みに会いに行こうと思います。ではどうぞ。約束の
お礼です」
 そうして一体、どれだけ時間が経った頃だろう。ふらっとまた“勇者”が町に姿を見せ、
彼に話しかけてきたのだった。
 手には自分が手渡したのとは別の便箋。受け取って読んでみると、彼女から病気は回復し
つつあるという旨と心配をかけてごめんなさいという謝罪と親愛の旨が記されていた。
 ……それで充分だった。悶々と抱えていた不安が一挙に晴れ渡ったような気がした。する
とまた頭の中に新しい台詞が書き足されて、そう今度は懐から小さなメダルを取り出すとこ
の目の前の“勇者”に渡す。
『つーか、めんどい。作っておいて、今日の今日まで忘れてたわ……。要らねぇな、これ。
無しだ無し』
 だが、次の瞬間あの声が聞こえた。随分と疲れていて、不機嫌そうだ。
 すると直後世界は暗転し、彼の意識は消し飛ぶ。晴れ渡ったこの悦びも、瞬く間に嘘だっ
たかのように消え去ってゆく。

「ふはははは、よくぞ我が正体を見破った! 褒美に死をくれてやろう!」
 なのに、また気付いた時には全身に邪悪な力が満ちていた。彼は自分が一体何者か分から
ぬまま、その身体をメキメキと変貌させ、筋骨隆々の悪魔に変わる。
 目の前の“勇者”は、綺麗に磨かれた不思議な鏡を持っていた。この鏡が今し方、自分の
姿をこうも変貌させてしまったのだ。
 戦闘が始まる。しかし町の中の人々はくすんともしない。
 ……許されていないのだ。恐怖しても、驚いても、自分と同じように許された挙動以外を
行使することはできない。のんびりと、何人かがアトランダムに歩いているのを視界の隅に
映せる程度だ。
 “勇者”の剛剣が叩き付けられる。力を奪う魔法、激しい落雷が襲う。
 ……こんなのじゃない。自分が望んだものは、こんなのじゃない。
 彼は意識の底で何度も首を横に振りながらも、魔物として暴れるしかなかった。“勇者”
によって討伐されるしかなかった。
 何度となく叩き込まれた斬撃と、魔法。弱った身体をついに止めの一撃が貫く。
 断末魔の台詞(さけびごえ)すら許されなかった。ただ戦いが終わると音もなく明滅し、
目の前で“勇者”が見た事もない装備を手に入れるのが見える。見えて、彼のその意識は直
後、暗転するよりも早く塵に還ってゆく……。

 ***

「は~……だりぃ。ちっと齧りつき過ぎたかなあ?」
 そこは何の変哲もない、小さなアパートの一室だった。ファンタジーの欠片もないフロー
リングに使い古した絨毯が部分的に強いてあるだけの殺風景な部屋だ。
 その中央に置かれたテーブルの上で、男はノートPCを動かしていた。画面には何やらエ
ディタらしきUIが表示されており、今は横長の小さな町らしきものが映っている。
「……飽きた。やっぱもう少し練ってからじゃないと駄目だなあ。まぁ別に絶対急げって訳
でもねぇけど……」
 どうっ。大きく伸びをしながら男はそのまま後ろのクッションに倒れ、やがて汚く寝息を
立て始めた。寝て起きたら考えよう。そう一旦優先順位を下げ、自分の中のアイデアと運に
任せて明日の己に託した。

『ここは、ハルゲニアの城下町です』

 だが結論から言えば、ここから半年ほどエディタが開かれることはなかった。
 複数の台詞も、薬草やメダルのプレゼントも、ましてや魔物と化す役割(イベント)も。
 全てはなかった事になり、今日も城下町の兵士は同じ台詞を繰り返す。
                                      (了)

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  1. 2017/05/08(月) 00:00:00|
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
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