日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「汚染源」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:紫、井戸、声】


 その日、とある村に冒険者の一団がやって来ました。快活そうな戦士の青年と神経質そう
な魔道士の青年、その妹である神官服の少女と、ボーイッシュな弓使いの少女の四人です。
 そこは辺境にある小さな村でした。痩せて乾いた土地に僅かばかりの緑が茂り、見渡す視
線の中に点々と粗末な家屋が建っています。
「ここが、依頼のあった村か」
「うん。地図通りだとここで間違いない筈なんだけど……」
 リーダー格の戦士の青年が呟いて村の中を見渡し、弓使いの少女が応えます。
 ですが、四人が到着してまず感じたことは、この村全体を覆う陰鬱な空気。
 それは決して裕福とは言えない村の有り様なのか、はたまたもっと別の理由なのか。
 魔道士の青年は眼鏡の奥を光らせて目を凝らし、じっととある一点を見つめていました。
村のほぼ中央に掘られている井戸の周りで、住人らしき女性達が数人、こちらを遠巻きに見
つめてはひそひそと何やら話しています。
「あー、すんません。俺達、こういう者なんですが。今回依頼を出されたアクイワ村で間違
いないですか?」
 その一方で、戦士の青年は慣れぬぎこちない笑みを見せながら彼女達に近付きます。懐か
ら冒険者としての身分を示すカードを取り出して見せ、更に神官服の少女がちょこんと、そ
の隣でギルドから発行された依頼書を示します。
「村の水が急に毒になってしまったということで……。誰か、詳しいお話を聞かせては貰え
ないでしょうか?」
 羊皮紙には依頼の内容と、受注を証明するギルドの印。
 神官服の少女がおずおずと、しかし丁寧に訊ねてきたので、露骨に邪険にはできなかった
のでしょう。井戸に集まっていた女性達は、互いに顔を見合わせながら眉間に皺を寄せてい
ました。大きくため息をつき、やがて内一人の恰幅のよい女性が代表して応えます。
「……ああ、困った事にね。だが本当にギルドなんかに依頼を出すなんて……。話なら自警
団の若いのに聞きな。私達は関知してないからね」
「は、はあ」
 戦士の青年はつい流され、曖昧に相槌を打ちました。魔道士の青年がじっとこれを観てい
ます。どうやら自分達は歓迎されていないようです。尤もこの仕事は総じて“荒くれ”とみ
なされ、倦厭されることも珍しくありません。少なくとも今回の依頼は、村の一部有志によ
って出されたもののようでした。
「ディック、行こう。その自警団の人達が依頼主なら」

 四人は村の中を歩き、自警団の詰め所として使われている小さな小屋を見つけました。扉
をノックして身分を告げ、依頼を請け負いに来たと申し出ると、今度は丁寧に迎え入れられ
ました。
「ようこそ、遠路遥々お越しくださいました。私はこの村の自警団を任されています、エド
ウィンと申します」
 きゅっと引き締まった身体に剣を下げ、同じ冒険者と言っても通じそうな青年でした。他
にも戦いの心得がありそうな青年らが何人か同席しています。四人は改めて依頼書を見せる
と、詳しい話を聞き始めました。
「い、いえ。こ、こちらこそ、よろしくお願いします」
「それで……。村の水が毒になったって聞いたんですが」
「はい。半月ほど前のことです。村の井戸から汲んだ水が、急に毒をもって飲めなくなって
しまいまして……。バタバタと腹痛で倒れる者や、そのまま病気になって寝込んでしまった
者も出てしまったものですから、今は隣村との境にある川まで汲みに行っているんですが、
なにぶん遠いですし、隣村との兼ね合いもありまして……」
 井戸。そう聞いて先ず、四人は村に入った時最初に女性達が囲んでいたあの井戸を思い出
していました。陰鬱なのはやはりそのせいだったのでしょうか。しかし、その割には彼女ら
は自分達を歓迎してはくれませんでしたが……。
「ああ、もしかして彼女達に会いましたか? すみません。実は、自分達以外の村人にはま
だ、依頼を出すことには反対されたままなんです。なにぶん小さな村ですからね。余所者に
村のことを任せるというのが気に食わないんでしょう」
 団長エドウィンはそう苦笑(わら)って先回りしていました。
 ですがそれは、彼の言葉以上の難しさを孕んでいる筈です。井戸端にいた彼女達や、家の
中に隠れていた他の村人達は、決して自分達には好意的ではないのだと。
「……」
 魔道士の青年は、黙って耳を傾けていました。
 この村を覆っている陰鬱な空気。それは何も毒水による害だけが原因ではないようです。
「皆さんにお願いしたいのは、その井戸に巣食っている原因の駆除です。一度は自分達で何
とかしようとしたのですが、あんな巨体ともなると手がつけられなくて……」
「? 巨体? 中に何かいるんですか?」
「ええ。魔物が一体。おそらくあれが、村の水を毒に変えている元凶だと思われます」
 弓使いの少女が目を瞬き、四人は思わず顔を見合わせました。てっきりもっと地道な泥浚
いなどではと思っていた依頼が、魔物退治だったとは。なるほど、それで自分達の方へ依頼
が来たのだと。
「……このこと、他の人達には?」
「はは。言える訳ないじゃないですか。井戸に近付かせないようにはできるかもしれません
が、徒に混乱させてしまうだけでしょうし。ですから……こっそりとお願いしますね?」

 決行はその日の夜でした。村の皆が寝静まったのを見計らって、エドウィン達と共に四人
は井戸の底へと潜ってゆきました。
 べたりと、湿っぽいぬめりが足元にまとわり付きます。鼻を刺す異臭が漂っていました。
持ってきた松明をめいめいに掲げ、中を照らすと、はたしてそこには毒水の元凶が居座って
いたのです。
『──』
 巨大な、見上げんばかりのスライムでした。毒々しい紫の身体の中には複数の核が目玉の
ように不規則に浮かび、四人以下この侵入者をじっと見下ろしています。動きは鈍重でした
が、冒険者としての勘が大音量で危険を知らせていました。剣を抜き、矢を番え、杖を構え
て即座に戦闘態勢に移ります。
 ぬうっと、大きな触手が振り上げられ、襲い掛かってきました。これを四人と自警団員達
は慌てて飛び退いてかわし、内部に激しい水音を立てます。
 ジュウジュウ。触手──肥大化したスライムからは既に有毒な何かが溢れていました。や
はりと言うべきか、あまり長居しては拙いようです。
「こんの……化け物め!」
 剣を大きく振り上げ、戦士の青年がこの触手に向かって刃を叩き付けます。
 しかし手応えはイマイチでした。力を込めた一撃は半固体の身体に吸収され、逆に刀身ご
と持っていかれそうになります。弓使いの少女が咄嗟に核の一つに向かって矢を放ち、逃れ
る隙を作ります。
「すまん。助かった」
「もう、しっかりしてよ? あんたは何でもかんでも斬ろうとし過ぎなんだって」
「お気を付けて。この魔物は、物理攻撃が通用し難いようなんです。なので、我々だけでは
手が付けられなくて……」
 一度距離を取り直し、一同はこの肥大化スライムを囲むように構えました。エドウィンが
四人を援護するように仲間達を率いながら、松明を掲げて叫んでいます。
「うーん。じゃあ俺やヴィーダはあまり役に立ちそうにないな……。アストン!」
「ああ。セシリア、いくぞ!」
「う、うん……!」
 その情報、実感を受けて、戦士の青年は一旦弓使いの少女と共に退きました。代わりに魔
道士の青年が眼鏡のブリッジを触りつつ、緊張気味な神官服の妹と共に前へ出ます。互いに
捻じれ木の杖と、金属製の杖を掲げ、詠唱を始めます。
「火柱の呪文(フレイムプラー)!」
「浄化の呪文(ピューリファイ)!」
 次の瞬間、肥大化したスライムの巨体を紅い火柱が包みました。炎は轟音を上げ、井戸の
底から地上へと噴き出していきます。高熱にその巨体が焼き剥がされ始めました。次いで彼
女の神聖魔法が、毒々しいその体色をどんどん透明へと変えてゆきます。
 戦士の青年や弓使いの少女、エドウィン達が暫くこの様子を見守っていました。肥大化し
たスライムは自身の巨躯ゆえ交わすこともできず、格好の的です。兄妹による魔法攻撃は確
実に、みるみる内にこの魔物を小さく小さく削り去ってゆくようでした。
『……ヤア、ネ』
「!?」
『何処ノ、誰ト、モ、知ラヌ……』
『ヤア、ネ……』
『何、デ、アンナ奴ノ、為ニ……』
 そんな時でした。
 毒色を消し去られ、その巨体も今まさに消し炭になろうとしていく最中、この魔物はそう
確かにたどたどしくも人間の言葉を発したのです。

「──もう、あの村の依頼は受けない?」
 四人の冒険者達は、その後一晩泊まってから、村を後にしました。街への帰路に就く中で
そう戦士の青年が、魔道士の青年に問います。
「ああ。お前も聞いただろう? あの魔物が人語を喋ったのを。村に漂う魔力からまさかと
は思っていたが、あれで確信した。間違いないだろう」
 眼鏡を静かに光らせ、彼は言います。リーダー格たる戦士の青年は、弓使いの少女は頭に
疑問符を浮かべていました。一方でそんな兄の横顔を、神官服の少女は何処か哀しげに見つ
めています。
「言霊という概念を知っているか? 一種のエネルギーだよ。実際俺達魔法使いも、呪文と
いう魔力を込めた言葉でもって魔法を発動させる」
「……。それが、何だってんだよ?」
「結論から言おう。あの村の魔物を生み出したのは、他ならぬ村人達だ。俺達が村を訪ねた
時もそうだったが、彼女達は井戸端でひそひそとこちらを見て話していた。……決して良い
言葉ではなかったろうな。自警団長も、今回の依頼は他の村人達には反対されたままだった
と言っていた。閉鎖的な環境なのだろう。悪意を込めた言葉は、滞留する」
 戦士の青年が、弓使いの少女が、神官服の少女がそれぞれ彼の呟きを聞いていました。や
や俯き加減で眼鏡のブリッジを触り、語りながら整理しているように。その表情は決して朗
らかとは言えません。
「あの魔物は、そんな村人達の“呪”を受け続けて変異した個体で間違いない。そもそも、
スライムがあんな巨大になるなんて普通じゃ考えられない。それ相応のエネルギーが外部か
ら供給され続けでもしない限りはな」
「言われてみれば……。ていうかアストン。そこまで解ってたなら、何でエドウィンさんや
村の人達に話さなかったの? もしあんたの話が正しかったら、あの村は──」
「ああ。遅かれ早かれ、あのような変異型の魔物はまた発生するだろう。彼らが自身の村に
日々“呪”を撒き続けている限り」
「っ、だったら……!」
「俺達がその都度、助けに行けと? 冗談じゃない。エドウィンさん達ならともかく、この
事実を話して彼らが納得すると思うか? 自分達のせいだと言われて、はいそうですかと受
け入れるようなクチか? ……俺は思えなかったな。十中八九こちらに難癖をつけてきて、
面倒が増えるだけだ。なら他のパーティーにくれてやった方がいい。あいつらが自分達で気
付くまで、尻を拭き続けてやる義理なんてないだろう?」
 弓使いの少女は少し苛立っていました。神官服の少女は、そんな意地っ張りな兄を不憫な
眼で見ていました。
 当の魔道士の青年は、あくまで淡々と応えます。魔道士として、今回の原因が理解できて
しまったからこそ、彼はその愚劣さが許せなかったのです。
「んー……。まぁいいや、難しいことはお前に任せる。要するにこれからもあそこには仕事
のクチがあるってことなんだろ? いいんじゃねえか? 俺達冒険者は依頼がなきゃ、明日
の飯にも困るんだし」
 一方で、リーダーたる戦士の青年は笑っていました。深くは考えず、ただ在るがままに。
皆で分け合えるパイがあるのなら、それに越した事はないだろうと笑っていました。
「さあ、早いとこ街に戻ろうぜ? 報酬が入ったらパーッと一杯やろうや」
 仲間達よりも一歩、二歩先へと進み出ると振り向き、彼はそう白い歯を見せて笑います。
                                      (了)

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  1. 2017/04/24(月) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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