日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(書棚)感想:伊坂幸太郎『オーデュボンの祈り』

書名:オーデュボンの祈り
著者:伊坂幸太郎
出版:新潮文庫(2003年)
分類:一般文藝/エンタメ

逃亡した筈の男。しかし目覚めたそこは、奇妙な人々が住む閉ざされた島だった──。


『重力ピエロ』や『ゴールデンスランバー』など、映画化もされた作品を輩出するシュール
とユーモア、そして技巧を誇る伊坂幸太郎氏の小説。同作はそのデビュー作に当たります。

最初に読み進めていて素直に思ったのは「……何ぞこれ?」という奇々怪々な世界観。
目覚めたら見知らぬ場所にいた、というのは物語の書き出しとしては決して珍しい訳ではな
いのですが、何せ出てくる登場人物らの個性の強いこと強いこと(滝汗)
妙に人懐っこく能天気な(案内役的)青年・日比野。
主人公・伊藤を誘った島唯一の船乗り・轟。
「看取る」女性・百合と、彼女を溺愛する郵便配達員の夫・草薙。
太り過ぎて市場の席から動けなくなった快活な女性・ウサギ。
嘘(反対の事)しか言わない変人の元画家・園山。
「島の法律」として殺人を許された男・桜。
鳥好きな、足の不自由な男・田中。
そして何よりも……人語を操り、未来を見通す島の守護者・優午(※但しカカシである)
物語は先ず、目覚めた伊藤が日比野に連れられ、長らく「鎖国」状態である島の中を案内す
る所から始まります。出てくるわ出てくるわ、奇人変人のオンパレード。
僕は「一体何が始まるんです?」と唸りつつ必死に先の展開を読もうとしたのですが……。

そんな中、島を揺るがす大事件が勃発します。
伊藤が目覚めたその翌日、島の守護者であるカカシ・優午が何者かに殺されて(壊されて)
しまったのです。
警察という仕組み自体はあっても、折につけ処刑人の桜が「悪人」を始末しており、何より
優午の未来予知の力に頼りきっていた為、犯人探しすらままならない。
伊藤はその直前までの“ある事情”から島を出て行く気にもなれず、そのままなし崩し的に
優午の死(カカシに生死というのも変だが)を調べることになります。

終始、意味があるような無いような、シュールな風景とやり取り。
しばしば見られるウィットに富んだ会話と、奇妙な「謎」が淡々と綴られていきます。
それでもやがて一つに繋がっていく、解けていく謎多き人々の真相。そして“未来を知る事
できるのに死を回避しなかった”優午が伊藤に、島の人々に残したかった想い。
おぉ……。と思いましたね。
よくできている。パズルがカチンと綺麗に組み上がるように、巧みでスマートなギミックが
読後感をほこほこと楽しいものにしてくれたのです。
のちも、僕は他にも同氏の小説を読みましたが、思った通り彼は技巧の人でした。
一見すると脈絡のない登場人物たち。
視点がコロコロと変わる群像劇的なスタイル。
しかし、それらがやがて〆に向かって繋がっていく心地良さ。それでいて「どうして?」と
いう静かな思索の切欠も与えてくれる。文面自体は割りと淡々としていますが、エンタメと
して読む分には良書であると言ってしまっていいと僕は思います。

頼られること、先が見通せることは良いことだと人は言う。
だけど……果たして本当にそうなのだろうか?
もし、もしも実際に「未来が全て分かってしまう」そして見えていても「起こるだろう未来
を変えられない」のだとしたら?
疑うのはその未来? 嘆くのは自身の力か可変に難い運命か。もしかしたら見えてしまう己
の存在自体に嫌気が差してしまうのかもしれない。
だから、心を持ち未来を見据えたカカシは皆にメッセージを残した。
最期の予言の集まり。それらが彼の願った小さな未来を変えてくれると信じて。

「この島に欠けているものは何だ?」

それは読者(ぼくら)という現実世界への問いかけかもしれないし、そうではないかもしれ
ない。現実感と超現実感(シュール)が互いに絡むようで絡まない曖昧さの余韻。
技巧が紡ぐ芳醇さとは、こうも豊かになれるものか(歓笑)


<長月的評価>
文章:★★★☆☆(あっさり淡白で読み易い……が、重厚志向には物足りない? 分量は中)
技巧:★★★★★(シュールだけど、スマートで巧みな構成は美味しゅうございました)
物語:★★★☆☆(読後感良好。でも少々曖昧とした理屈な気も。論理じゃなく粋の文?)

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  1. 2011/10/29(土) 11:30:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

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