日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「致死毒」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:箱、憂鬱、最初】


(ん……?)
 それは久しぶりに休みが取れ、ネットサーフィンをしていた時のこと。
 ただでさえ疲れっ放しで外出しようなどとも思えず、だらだらベッドの上でスマホを弄っ
ていた中幡は、画面の片隅に見慣れない商品広告を見つけた。
 何となく気になって、タップしてみる。すると画面は自社製と思しき簡素なホームページ
へと飛び、そこには小振りな金属の箱の写真と箇条書きの宣伝文句が貼り付けられていた。
「……コトノハ、フウジ?」
 商品名は、そんな怪しげな語感が漂う片言調。
 書かれている内容は、にわかには信じようもない効能。
『貴方のストレス、解消します』
『日頃溜まった鬱憤や、思いの丈を閉じ込めます』
『今なら初めての方に限り、送料無料!』
 中幡は思わず苦笑した。このご時世、こんな商売も成立してしまうものなのか。
 広告を見て、ふと“王様はロバの耳”の童話を思い出した。確かあれも喋りたいけど喋る
ことができずに、結局穴の中に叫んで一時はすっきりというものだった筈。同じように、人
によってカラオケなどで声を出して発散しているというパターンも珍しくはない。
 初めてこれを見た時、正直本当に効くだなんて思ってもいなかった。
 だが中幡はこの商魂逞しいというか、ユニークな宣伝文句に少し乗り気になっていた。初
回に限り安上がりで済むともあって、試しに注文してみようかと気まぐれを起こしたのだ。
ホームページの通販に記しているある所では、最小一ダース単位。本体価格も送料を無視す
れば、一個百円ほどの低価格だ。
 気軽な気持ちで、中幡はカートに商品を放り込んだ。そもそもカラオケは勿論、発散の為
に外出するという発想が彼には乏しい。
 それにもし、本当にこの程度で解消できるなら安いものだ。

 商品は、三日ほどした後に届いた。
 アパートの部屋に宅配が来た時、一瞬中幡は何だろうとさえ思った。だがサインをして受
け取りを済ませ、段ボールの伝票に書かれていた会社名を見た時、妙に夢と現が繋がったよ
うな気がした。
 段ボールの中には、あの通販ページと同じ小振りな箱が十二個──きっちり一ダース分入
っていた。紙と幾つかのクッション剤で保護され、一個ずつ区分けられたその上に、半ピラ
サイズの説明書が乗せられている。
『この度は当社製“コトノハフウジ”をお買い上げいただきありがとうございます。本製品
はお客様の日々のストレスを吐き出し、閉じ込める事を目的としたものとなっております。
使用上の注意をよく読み、用法・用量を守って正しくお使いください』
 ただ写真から受けた印象とは違い、件の箱はどうやらよくある金属製の箱……という訳で
はなさそうだ。実物を見て触ってみる限り、金属製とも陶器とも言えぬ奇妙な材質で作られ
ている。本当に商品が届いたことも然ることながら、中幡は少し不安になった。
 説明書によれば、使い方自体はとても簡単だ。同封されている小箱の蓋を開け、日頃の鬱
憤やらその他思いの丈を口をつけて中に吹き込むように叫べばいい。後はすぐに蓋を閉じ、
処分すればよい。どうやら一回につき一個の使い捨てのようだ。
『必ず使用後は蓋を閉め、七十五日間保存してから廃棄してください。蓋中央のマークが白
から黒に変わるまでが目印です』
 しかし妙な注意書きが一つある。使用後すぐに捨てないでくれというものだ。
 別に核のゴミでもあるまいし……。中幡は半ば無意識に片眉を上げ、怪訝に思った。見れ
ば確かに小箱の蓋には小さな留め金があり、中央には楕円形の試験紙のようなフィルターが
付いている。タンスの防虫剤を思い出す。
 暫くの間、中幡は小箱の一つを片手にしたまま、中身を広げて座り込んでいた。あの時は
気まぐれで注文してしまったが、やはりとんでもない詐欺商品を掴んでしまったか。
「……」
 とはいえ、折角金まだ出して買ったのだ。このまま使いもせずにごみ袋に放り込むという
のは勿体無い気がする。
 中幡はものは試しにと、説明書通りに一つ使ってみることにした。小箱の留め金を外し、
蓋を開け、日頃自分達に口煩い上司の顔を思い出しながら叫ぶ。
「佐橋の馬鹿野郎ーッ!! 人手が足りないって言ってんだよ! 根性とか努力でどうにか
なるレベルじゃねぇんだっつーの!!」
 怒りが込み上げていた。次から次へと無理難題を持ってくる癖に、自分は責任を取りたが
らないし、人手を増やして欲しいという再三の要望からも逃げている。
 確かにそういうのは人事の管轄だし、自分の一存で決まるものではないにしても、部下の
マネージメントをやらないで何の為の管理職か。その癖に、上の連中に媚を売ることだけは
熱心で……
「──」
 だが何故だろう? そんなイメージと共に感情をこの小箱に吐き出した直後、スッと胸の
中の重みが空くような心地がした。何であんな奴に一々怒っているのだろうと、それまでの
自分が馬鹿馬鹿しく思えて……。
 まさか。中幡は手にしたこの小箱を、まじまじと見下ろす。
 まさか本当に効果が? いや、単純に吐き出す先があるということが大きいのか。事前に
あんな文句が書かれていたから、さも効いているように錯覚しているだけではないのか。
「っと……。蓋しなきゃだったな」
 一瞬、一瞬だが箱の奥に何か黒く澱む煙のようなものが見えた気がした。ただ気がしただ
けで、ぱちくりと瞬きをした次の瞬間には無機質な小さな空洞が見えるだけである。
 あまり深く考えないでおこう。中幡は思い出したように蓋をし、パチンと留め金を付け直
した。手の中に金属のような、陶器のような何ともいえない質感が伝わってくる。はたして
この胡散臭さ全開の商品は何だったのだろう? 念の為部屋の中を見渡した。気配を探って
みた。隣人が壁ドンしてくる様子もない。さっき使っていて思ったことなのだが、この箱は
見た目以上に音を外に漏らさないのか。
「……フウジ、ねえ」
 コトン。閉め直した小箱を段ボールの中に戻した。中にはまだ、残り十一個の同じ小箱が
整然と収められている。

「ありがとうございました~」
 数ヵ月後。アパートにまた例の小箱のセットが届く。
 あれからというもの、中幡はすっかりこの商品を愛用するようになっていた。プラシーボ
効果という奴か、それとも物理的に吐き出す手段であるからか。中幡は以前よりもストレス
を抱え込まなくなったように感じ、表情も明るくなった。気持ちが鬱屈してきたと感じた時
には、買い溜めたこの小箱を使い、発散するようにしている。
「来た来た。これで何週間もつかなあ?」
 初めて買った時は最小の一ダース分。
 だが今となっては、五箱十箱と取り寄せることもざらになっていた。何分一回一個の使い
捨てだ。ストレスを受け、溜め込む機会など今の時代毎日のようにある。消費の頻度が増え
てゆくのも無理からぬことだった。
 段ボールを開けて、ひいふうと数を確認する。
 中幡は密かに、この瞬間が楽しみだった。何というか、明確な個数──残数が分かってい
ると、その数だけ凹んでも大丈夫だという安心感があるからだ。
「──俺は、お前の小使いじゃねえッ!!」
 そうしてまた、彼は早速一つを使用する。慣れた手付きで小箱を開けて口をつけ、この日
溜まっていた不満をぶちまける。
 やはり叫んだ声は、小箱の中に反響して殆ど外に漏れることはなかった。未だにどういう
からくりなのか、この妙な材質のおかげなのかは分からないが、アパート住まいの身として
はありがたい。
 コトン。いつものように蓋を閉じ、留め金をかけて近くの棚に置く。吐き出してすっきり
した自身の解放感を、深呼吸して存分に満喫する。
「は~……すっきりした。やっぱこれでなくっちゃなあ。下手な娯楽(きばらし)よりよっ
ぽど安上がりだぜ」
 送料無料のサービスはとうに対象外になってしまったが、それでも単価が低い──リーズ
ナブルな点は変わらなかった。中幡はテーブルの上のペットボトルのお茶を一口飲み、叫ん
で渇いた喉を潤す。
「……しっかし、このゴミの山、どうするかね」
 ちらっと視線を横に移す。
 そこには部屋の一角に所狭しと積み上げられた、使用済みフウジの段ボール箱がいくつも
鎮座していた。この数ヶ月で、随分と溜まってしまったのである。
「七十五日ねえ。本当にそんなに待ってからじゃなきゃ捨てちゃ駄目なんだろうか。正直も
うこの部屋、いっぱいいっぱいなんだけど……」
 説明書には、使用後七十五日──蓋のマーカーが黒に変わるまでは保管するようにとの文
言が書かれていた。だが今や、この商品の愛用者になった中幡にとって、その期間は消費す
るサイクルとは到底釣り合わない。つっかえてつっかえて、保管のそれは増える一方だ。
「正直もう、どの分まで大丈夫か分かんねえんだよなあ……。確かめるの面倒臭いし……」
 フローリング、カーペットの上に座って見上げる。当初ここまでのめり込む予定などなか
ったものだから、当然使用時期に応じて整理しているなんてまめさはない。
「……まぁいいや。いい加減、少し処分しちまおう」

 その翌朝の事である。とあるごみステーションに、その日もいつもように一台のごみ収集
車が横付けしていた。運転手と助手席にいたもう一人、処理施設の職人二人が慣れた手つき
でステーションに積まれたごみを車の後ろにある破砕機の中に放り込んでいく。
「? 今日は随分と段ボールが多いな」
「通販好きでもいるんだろう。全部同じデザインだし」
 そんな時だ。道の向こうから、一人の壮年の女性が小走りで駆けて来た。
 ま、待って~! その手にはぱんぱんに詰まった市指定のごみ袋。出してくるのが遅れた
らしい。
「はいはい、大丈夫ですよ」
「そこに置いておいてくださいねー」
 心持ち息を切らせて苦笑いする女性。受け取り、後ろも振り返らずに破砕機の中へ放り込
んでいく職員。
 ──次の瞬間だった。ガシャッと、破砕機の中で何か固い物が割れる音が続いたと思った
その直後、傍に立っていたこの職員二人が突然白目を剥いてその場に崩れ落ちたのだ。
 ちょうど踵を返して来た道を戻ろうとしていた女性が、その物音に気付き振り返って血相
を変える。尚も破砕機はスイッチをオンにされたまま動き続け、延々とごみとして出された
ものらを壊し続けていた。
「ちょ……ちょっと、どうしたんですか?! だ、大丈夫ですか!? しっかりして!」
 慌ててこの二人を揺さ振り、必死に声を掛けている女性。
 そんな中、独り動き続ける破砕機の中から、黒い煙のようなものが吐き出され──這い出
て来ようとしていた。
                                      (了)

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  1. 2017/03/02(木) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
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