日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「ディガーズ・ハイ」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:砂、機械、無敵】


 見渡す限り広がっているのは、辺り一面果ての見えない荒野。
 だがこの時代の人々にとり、それはもうありふれ過ぎて当たり前となって久しい世界の姿
でもある。
 かつて世界は、他ならぬ人の手によって滅んだ──そんな伝承も、今となっては古い昔。
 実際には人々は絶えはせず、荒野の広がるこの世界で生き残った。過去に囚われず、過去
より引き続いたもの達を貪欲に使い、今日もまた変わらずに生きている。
『ぐぅ……! 固いなあ。こりゃあ拙ったぜ。岩盤にぶち当たっちまったかもしれねえ』
 その日も、荒野の一角で彼らは作業に汗を流していた。無味に凝り固まった砂粒と岩の塊
を根気よく掘り起こしながら、大きな穴を空けている。
『ちゃんと調査票を見ろ。少しズレれれば土はまるで変わってくるぞ』
『わーってるよお。……ったく、本当にここにあるんだろうなあ?』
『代わって。僕がやってみるよ。薄い所があればそこから破れると思うし』
 大地を穿った大穴。そこに数機、二足歩行型の“作業機(ワーカー)”が入っている。
 仲間達の苦戦する様子を互いの無線で聞き、シュウはこの彼の方へと歩み寄った。ガシン
ガシンと音を立てながら、退いて貰ったそこを、軽く何度か左右のアームで叩いてみる。
『……うん。やっぱりだ。ここだけ反響が違ってる。右腕をドリルに替えよう。ここの一点
から崩すよ!』
 作業機(ワーカー)は、現在の人々にとってある意味欠かせない代物だ。
 その起源を辿れば遥か昔、世界を一度滅ぼした旧文明の産物だと言われているが、現在は
主にこの広大な荒野を掘り起こし、かつての遺物達を発掘する作業に使われている。
 鉄屑でも出れば、多少なりとも金になる。
 もう旧文明の頃に掘り尽くされた場合が多いが、鉱脈が出れば万々歳だ。
 彼ら発掘屋(ディガー)は、そうやって生計を立てている。お世辞にも安定した収入とは
言えないが、一発当たればかなりの大金が手に入る。自分達門外漢にはさっぱりだが、中に
はこうした遺物を大層重宝がり、いくら積んでも厭わないような物好きもいるからだ。
 シュウは一旦穴から出て、基本のシャベル型からドリル型へと、ワーカーの片腕を交換し
て貰った。コックピットの中で両手を突っ込んだ箱型のレバーをぐんと引き、それに合わせ
てワーカーの腕が自在に動く。レバーの押し具合で装備したアームの出力を調整、足元の三
つのペダルで前進と後退、ブレーキを使い分ける。
 コックピット部分と胴体、二つの箱型を組み合わせた本体に、交換自在な両手足。シュウ
は仲間達が見守る中、先程微妙な差を見分けた一点にドリルを押し当て、掘り始めた。高速
で回転する錐はややあって固かった岩盤を撃ち抜き、がらりと柔らかめ土層に到達する。
『おお……。やっぱシュウは上手いなあ。俺達が苦戦する所を何なくこなしちまう』
『……大地と、会話しているんだ。あいつは、才能がある』
 そうしている最中だった。ふとシュウのドリルが一瞬手応えをなくし、反射的にレバーの
押し込みを離す。
 空洞が見えた。岩盤の向こうに、何かしらの別空間があるようだった。シュウはドリルを
引き抜いて機体を屈め、じっと映像をズームさせながら目を凝らす。
『あった! 向こうに明らかに人工の場所がある! ナツ、イズミ、皆に知らせて。もしか
したらジャンクが残ってるかもしれない!』
 ぱあっと、コックピット内のシュウの表情が明るくなった。
 無邪気に。ただ純粋のワーカーの操縦と一体化しているかのような。
 同席していた仲間達──二人の友人にそう告げて、無線越しにシュウの若干興奮した、嬉
しそうな声が聞こえてきた。
『おっ? マジか? いやっほう! 久しぶりの手柄だぜ!』
『……他の班と、親方にも知らせて来よう。お前達はその間に進入口を作っておいてくれ』


 結果として、シュウの掘り当てた空間はその昔何かしらの生産プラントであったらしい。
 長い年月で大分侵食は進んでいたが、内部はシェルターのように地下に鋼とコンクリート
で覆った広間となっており、ざっと見ただけでもかなりの数の放置資材や、中古のワーカー
が並んでいた。
 大成功、お手柄だった。シュウとナツ、イズミは年長組の面々に──やっかみも含めて揉
みくちゃにされ、本格的な回収作業は午後からということになった。シュウ達は一旦現場近
くに張った自社のキャンプに戻り、昼食を摂ることにした。腹が空いては何とやらだ。
「はい、どうぞ。……お手柄だったみたいだね、シュウ君?」
 シュウとナツ、イズミらが座るテーブルに、料理を運んで来てくれる少女が一人。
 名をユキ。シュウ達が所属するこのディガー会社の社長──親方の娘だ。ただ何でも厳密
には血の繋がりはない養女らしいが、彼には実の娘のように可愛がられ、シュウ達は勿論社
のワーカー乗り達にもマドンナ的な扱いをされている。この辺りでは珍しい印象的な白銀の
髪と、遥か昔、北の地でしばしば降っていたという白い雨が、その名付けの由来だそうだ。
「はは。その割には、随分皆に“歓迎”されたけどね」
「いいんだよ。胸張ってりゃあ。お前にはそれだけ技術と勘があるんだ」
「……ナツ、あまり大きな声で言うな。周りの奴らに聞こえるぞ」
 決して豪勢でもなく、清潔でもない。だがきちんと職場で食事が出る分、このご時世では
まだマシな方だ。
 使い回しの量産型の皿にパンとベーコン、サラダにコンソメのスープ。如何せん荒地ばか
りで作物には誰もが苦労し、出来上がってもパサパサな見た目と食感が多いのだが、空腹の
身体にはそれでも美味に感じる。イズミが受け取るや否や、いつの間にかもきゅもきゅと頬
張っていた。彼の言う通り、キャンプ内の周りの同僚達──こと年長組の面々からは時折恨
みがましい視線が向けられてきている。
「ちぇっ。この仕事に若いも何も関係ねえだろうが」
 声量を抑えながらも、ナツがそう不満げに同じくパンごと乗せたベーコンを齧る。
 ディガーだけに限らないが、肉体労働の類は大抵が出来高制だ。大口を掘り当てればその
利益の多くは発見したメンバー優先して振り分けられるし、だからこそこんな博打要素のあ
る仕事をやっている。
 だけども、それでも嫉妬や羨望があるのは人間の性で……。もしかしたら自分達があそこ
を担当していれば見つけられたかもしれないという思いが、往々にして互いの関係をぎすぎ
すさせてしまう。かといって均一の工賃にしても、採算が取れないし、皆のモチベーション
はいずれ枯渇するだろう。
「……」
 当のシュウは、そんな友人や少し遠巻きの先輩達の様子を見て、気持ち気配を殺しながら
パンを齧り、スープを啜っていた。何かヒットがあると、いつもこうだ。
 それだけの技術と勘。確かに他人から見ればそういう表現になるのだろうか。
 だがただ、自分は割り当てられた通りその日その日の現場で最善を尽くしているだけだ。
ワーカーがこれだけ普及しているのも、その操作が慣れればかなり自在に操れる利便性があ
るのと、何より人力では到底及ばない作業量をこなせるためだ。実際、操縦技術など上を見
れば幾らでもいるだろうし、だからこそ──。
「あ。始まったみたいね。今日の試合」
 そんな時だった。キャンプに置かれていた小さな古式のテレビ画面に、ザザッと次の番組
が映った。人工的に設えられたスタジアムに多くの観客が詰めかけ、その中央には雑多に設
置された物陰にめいめい隠れ、銃器らしき装備を抱えるワーカー達の姿がある。
「お? 始まった始まった。えーと、今日は」
「オリオンズ対グリフォンズだね」
 画面の向こう。ゴングが鳴らされた瞬間、二者に分かれたワーカー達がその銃器──ペイ
ント弾を撃ち合って駆け回る。
 ワーカー・バトル。文字通り競技用にカスタマイズされた専用のワーカーを駆り、互いに
勝敗を競うイベントだ。痩せた荒野で生き、娯楽の少ない人々にとって、ワーカー・バトル
は最大級のそれであり、且つ憧れの的だった。
(……いいなあ。僕も、いつかはあんな風に……)
 そして他ならぬシュウも。そんなワーカー・バトルの選手を夢見て、幼い頃からワーカー
に乗るようになった生粋のワーカー乗りの一人である。
「ふん。くだらん。所詮はガス抜きの戦争ごっごじゃないか。ほら、ぼさっと観てないでさ
っさと食っちまえ。午後からまた忙しくなるぞ!」
 だがそんな夢見心地を、遠慮なく叩き割ってくる者がいる。
 シュウ達の所属するこのディガー会社の社長──親方だった。彼はいつの間にかカツンと
キャンプ内に入り込み、テレビを囲んで試合を観ていた面々を鼻で哂って急かす。社長とい
う肩書きではあるが、そのいでたちは油まみれのつなぎにブーツ、ゴーグルといった徹底し
た現場主義である。
 へーい……。不満はあったが、一同はどやされるままにめいめいの席へ散ってゆく。
 シュウ達も同じく皿を両手に戻り、残りの食事を掻き込んだ。どうやら親方は一足先に食
べ終わったようだ。キャンプ奥の炊事場に足を運んでいき、空になった皿やコップを給仕員
に渡している。
「……ごめんね? またお父さん、あんな乱暴なこと」
「ううん。いいんだよ。親方がああなのはいつもの事だし」
「本当、あの人って軍用ワーカー大嫌いだもんな。まぁ何にせよ、メンテや資材の調達やら
は全部俺達みたいなのに回ってくるからなあ。親方にしてみれば、娯楽の為に資源を食い潰
すなんてナンセンスって考えなんだろうよ」
「それは、そうかもしれないけど……」
「……職人気質、だからな」
 ユキが苦笑いでそう養父(ちち)の頑固さについて謝る。尤も彼のそれはシュウ達も最早
慣れっこのことだった。ナツの嘆息、イズミの割り切り。それでも内心シュウは何だか寂し
い気持ちになる。

『──ここが、そうですか』
『はい。調査の結果、ほぼ間違いないかと』
 故に知る由もなかった。
 一方その頃、発掘現場を少し遠巻きから眺め、佇むワーカーの一隊の存在を。


「なるべく似た資材は一ヶ所に纏めろー。地上(うえ)に戻っても整理するような場所も暇
もないぞー」
 昼休みを挟み、面々は早速午前中にシュウが掘り当てた生産プラント跡から使えそうな金
属やワーカーを運び出す作業に取り掛かっていた。持ち込んだ大型の鉄箱にワーカーを使っ
て同じようなもの同士に分別し、忙しなくピストン形式で搬出していく。
『ったく。見つけたのは俺達だっつーの』
『はは。いいじゃない。どうせ僕達だけじゃあ運び切れないんだし』
『……シュウだと親方も把握している。大丈夫だ』
 そんな同僚達、こと年長組らの様子を横目に当のシュウ達三人もまた作業をしていた。ま
るで我が物顔で現場を指揮する彼らにナツは不満げだが、そのくらいはさせてやらないと自
分達に向けられたやっかみなどは帳消しにできないだろう。
『手前のスペースはもうあっちに任せて良さそうだな』
『うん。この部屋は……何だろう?』
 そして三人は、プラントの更に奥にある大扉で仕切られた部屋の前に立った。めいめいが
乗ったワーカーがきょろきょろと辺りを見渡す。
『開かないな。通電していないのだから当然だが』
『どうしよう? 無理やりにでもこじ開ける?』
『いんや。もし警報でも動いちまったら面倒からだな。ちょっと待っててくれ。ロックを解
除してみる』
 扉は固く閉ざされていた。ワーカー達の腕力をもってすれば捻じ込めそうではあったが、
ナツはその提案を却下して一人自機から降りると、携行型の端末を持って扉横の制御装置に
これをコードで接続、数値の配列を無数に表示させながら暫く画面と睨めっこしていた。
「……よし! 解除成功だ。開いたぜ」
 どうやら上手くいったようだ。扉はロックの解除を合図とするように自動で開き、シュウ
達を出迎える。……中は暗い。そもそもプラント内部が通電してないのに、何故勝手に開く
なんてことができたのか。
「……何だ、これ」
 室内に入ってシュウとイズミもワーカーから降り、追いついてきたナツと三人で思わずこ
の中にある代物を見上げる。
 ワーカーだった。それも自分達が使っているものよりも一回り二回り以上も大きく、見た
事のない形状。コックピットの上部──おそらく頭部らしき部分の両側に飛び出したL字型
の角と光を失った眼が印象的だった。
「多分ワーカー、だよな? 随分変わった形してるけど」
「……どうやらここだけ電源が独立しているようだな。さっき扉を開けたのもそのためか」
「これも、持って行っていいのかなあ? 随分と厳重そうだけど……」
 その巨大なワーカーは、まるで室内に安置されるように佇んでいた。
 半円形の室内には見慣れない装置が左右にずらりと。加えてそこから伸びた無数の配線が
この機体に繋がれ、まるで鎖に捉われた囚人のようだ。
 シュン達はごくりと息を呑む。その重々しい佇まいに圧倒されていた。
 暗がりの中でようやく目が慣れてくる。その大きさは勿論、このワーカーは全体が赤褐色
や統一されていた。着けられているアームは両方とも五指、通常用。手足などの関節部分は
黒いまた少し特殊な素材が使われているようで、長い年月地下に眠っていた筈なのに汚れや
劣化がまるで見受けられない。
「先輩達、呼んで来ようか?」
「あー。あいつらより親方じゃね? どうせ自分達の手柄にしようとするぞ?」
 そんな時だった。思いもかけぬ物が眠っていたことで、シュン達には手に余っていた。
 ナツがそれでも向こうにいる年長組達への不信を勝らせている時だった。ふとこの部屋の
中へともう一人、足を踏み入れてくる人影があったのだ。
「わっ! な、何これ……」
「? ユキ?」
「どうしたんだ。わざわざこんな所まで」
「あ、うん。ねえ、お父さん知らない? お昼終わった後から姿がなくって、探してるんだ
けど……」
 ユキだった。普段は給仕員と一緒に皆のサポートに撤している筈の彼女が、今日に限って
珍しく現場まで足を運んできていたのである。
 シュウ達は互いに顔を見合わせ、しかし首を横に振った。自分達も彼と顔を合わせたのは
午後の作業に出る前だ。
「いや。俺達は見てねえぜ?」
「向こうの皆には訊いてみた?」
「うん。でも知らないから、こっちに行ったシュウ君達に訊けって言われて……」
「ああ……」
 だとすれば、誰も知らないのか。
 シュウ達は近付いて来たユキを迎え入れながら、再び互いの顔を見合わせる。
 少し妙だ。あの現場百回の人が、こんな書き入れ時に出てこないなんて。
「事務とか客で立て込んでるんじゃねえの?」
「なら誰かが見ている筈だろう。親方が全部やっている訳ではなし」
「うーん。そうだよなあ」
「……ねえ。さっきから気になってたんだけど、あれって、ワーカー?」
 だがそれよりも、彼女は目の前に鎮座する巨大ワーカーに興味が移っていたようだ。
 ああ。シュウ達が、されど内心困ったように頷き、同じく見上げる。それこそ親方に連絡
が取れれば、このデカブツをどうすればいいか訊けたのに。
「多分ね。でもこんな大きくて変わった形の機体、見た事ないし……」
「……」
 ユキは見上げる。この巨体の足元で。
 そしてやがてその眼は、あるものを捉えていた。機体の額に小さく刻まれた、暗号のよう
な奇妙な文字列──。
「第六十一柱(シリアルナンバー・シックスワン)・ザガン……」
「えっ?」
 その、次の瞬間だったのである。室内が、いやこの地下プラント全体が突如して大きく揺
れ動いたのだった。
 轟音。爆音と言っていい。直後部屋の外、向こう側で何人もの断末魔の叫び声が響いた。
同僚、先輩達だ。開けっ放しにしていた室内に爆風が吹き込み、一瞬にして無数の瓦礫が入
口を塞いでしまった。乗ってきたワーカーも一緒にぺしゃんこになり、その下へ。シュウ達
四人は一瞬にして逃げ道を断たれてしまったのだった。
「なっ……!?」
「……何が起きた」
「もしもし! もしもし! こちらシュウ。爆発が起きました! 何があったんですか!?
瓦礫が転がり込んで来て、そっちに戻れません!」
 慌ててシュウは作業着の胸元に点けていた無線機に叫び、呼び掛けた。しかし脳裏に過ぎ
った予想と同じく、通信の向こうは沈黙していた。ただ耳障りなノイズだけが断続的に聞こ
えてくるだけで、誰の返事もない。
「な、何なの?」
「崩落、か? でもそれにしちゃあピンポイント過ぎねぇか? まるで入口から纏めて吹き
飛ばされたみたいな──」
 怯えるユキ。眉を顰めるナツ。そしてその思わず口走った言葉が、期せずしてこの状況を
説明する答えとなっていた。
「……誰かに攻撃された?」
「こ、攻撃って……」
「そっ、そうだよ! 大体俺達を狙って何の得があるってんだよ!?」
 先週からここは、うちのシマだぞ──。沈黙の後、イズミが呟いた言葉に、シュウ達は戦
慄した。ナツが頭を掻き毟って混乱した自身を必死に宥めようとしている。無線機を握った
まま、シュウはゆっくりとこの背後の巨大ワーカーを見上げていた。
『──おい、聞こえるか!? 生きてるか!?』
 そんな時である。ふと無線の向こうから、聞き慣れた声がした。
 親方だった。どうやら向こうの無線機から現場(こちら)に向かって送波してきているら
しい。四人はハッとなってシュウの握るそれに集まり、口々に叫ぶ。
「生きてます! 何とか生きてますけど……」
「一体何があったんですか、親方? 今こちらが爆発に巻き込まれました」
「お父さん、今何処にいるの!? さっきいきなり──」
『おお……ユキか。よかった。何故かは知らんが、そこにいるんだな……!?』
 だがその声色は、いつにも増して硬く厳しく、尚且つ余裕のない様子だった。にも拘わら
ず、自身の養女(むすめ)の声がした次の瞬間には、何故だか酷く安堵したような風にも聞
こえた。
「こちらシュウです。彼女なら、ちょうど親方を探しにこちらへ……。一体どうしたんです
か? そっちで何か、あったんですか?」
『……軍だ。東部連合が俺達を──ガッ!?』
『おやおや。お喋りをしている暇があるとお思いですか? 先ずはご自分の身を心配したら
どうです?』
 様子が変だ。そう悟り、呼び掛けるシュウ。
 だが次の瞬間、無線の向こうで一発の銃声と親方のくぐもった悲鳴が聞こえた。誰かに撃
たれたのだ。どうっと音がし、代わりに今度は聞き覚えない声がこちらに届く。
『どうやら要らぬ鼠達が交じっているようですね。もう一度攻撃した方がよさそうですね』
『ぐっ……! 止せ! あの子達は何も関係な──』
 パァン。再び叫んだ親方を、もう一度銃声が襲った。今度こそ大きく倒れる音。無線の向
こうの見知らぬ男は、あくまで表向き丁寧な物腰を保ちながら続けた。
『残念です。シキ大尉。いえ、今はもう元大尉ですか。一時は同じ組織にいた身であるのな
らば、あれの価値はよくご存知でしょうに』
『……知らなかったよ。まさかあんな場所に埋まっているなんてな』
 親方ことシキは、現場から少し離れた彼らのベースキャンプにいた。先の一発、その前の
一発で両脚を撃ち抜かれており、傷口から流れ出す血の多さもあってもうまともに立つこと
さえできない。
 少佐? シュウ達はその単語に思わず眉根を寄せた。あれだけワーカーが戦うことを嫌っ
ていたというのに。
『交渉など無意味です。我々はあの力を回収してくるよう厳命されている。貴方が知ってい
ようといまいと、関係ないのですよ。“厄災機”──かつて世界を滅ぼしたというその力が
我々の手中に収まれば、これ以上ない抑止力となる』
『……その為に、うちの社員達を口封じ(ころ)したってのか』
『残念ですが。要らぬ漏洩があってはこちらとしても困りますので』
『ふん。だから俺は、軍(てめえら)が嫌いなんだよ……』
 無線の向こうでやり取りされるシキと、襲撃を主導した軍人。
 シュウ達は一体何故どうして、このような事態になったのかは掴み切れなかったが、それ
でも今自分達が“始末”されようとしていることだけは解った。
「お、おい。どうすんだよ!?」
「親方が元軍の関係者……?」
「助けなきゃ! お父さん、もしかしなくてもさっき……」
「うん。でもそれよりも、急いでここから逃げるんだ! この口振りだと、また奴らがここ
を攻撃してくる筈だ。そうなったらお終いだよ!」
「いや、でも逃げるって……」
 振り向いたシュウの言葉に、ナツが困惑する。自分達のワーカーは、もう瓦礫の下敷きに
なって使い物になりそうにないし、そもそも引っ張り出すこともできない。
 それでもシュウはじっと皆を見ていた。まさか……。ややあって、三人はゆっくりと後ろ
に振り返り、背後に佇んでいるあの巨大なワーカーを見上げる。
「あれに乗ろうというのか?」
「他に方法がないじゃないか。同じワーカーなら、動かせるでしょ?」
「でしょって……。あのなあ、今の奴と大昔の旧式を一緒にすんなって」
 目を瞬くユキの手を取り、シュウ達はこの巨大ワーカーのコックピットへとよじ登った。
ナツが抱えていた携行型端末でロックを解除し、中に入る。流石に二人三人と一緒に入ろう
とすれば窮屈だったが、身を寄せれば出来ないことはない。引き続いて端末をコックピット
内の機器に繋げ、動作させようと試みる。
「何だこれ。見た事のないシステムだ。項目が多過ぎる。いや、だが、とりあえず起動さえ
させることができれば……」
 流石にナツは苦戦していたが、それでもアクセスを続け、コックピット内の画面に様々な
インターフェースがポップし始めた。グウゥゥン……と、機体にエネルギーの巡る音が聞こ
えてくる。そんなシュウ達の様子に、無線の向こうのシキや一見紳士の軍人らが血相を変え
始めていた。
『まさか……。今、格納庫の中にいるのか?』
『っ! 総員に告ぐ! 直ちに第二波攻撃を開始せよ! 繰り返す、攻撃を開始せよ!』
 すると、それまで沈黙していた頭部のランプ眼が点灯し、金色の三つ目が蠢き始めた。コ
ックピット内では操縦席に座ったシュウが、機器にアクセスしていたナツが第一段階を突破
したことでニッと笑おうとする。
『──基本シークエンス起動。……コア・メイデンを認識。確保します』
「えっ?」
 その時だった。ギロリと金の三つ目が機体の二の腕に登っていたイズミ、そしてユキに向
いたと思った次の瞬間、抑揚のない機械音声がひとりでに手を伸ばし、彼女を掴んでしまっ
たのである。
『ユキ!?』
「っ! おい、何を──」
 更にコックピットの下、胸部の装甲が大きく三方向に観音開きした。その中には無数の配
線が繋がった円柱の水槽のような装置が設置されており、この巨大なワーカーは器用にも自
らの手でユキをこの中へと沈めたのだった。キュインと、これもまたひとりでに円柱の上蓋
が回転しながら閉まる。
『起動シークエンス完了。これより操縦者により制御に切り替えます……』
「おい、おい! どうなってんだよ!? ユキが中に入れられちまったぞ!?」
「わ、分からない。僕も何がどうなってるんだか……」
「シュウ、ナツ、来たぞ! ワーカー達の音がする!」
 当然というべきか、シュウ達は混乱していた。かれこれ三年近い付き合いにもなる仲間の
少女が突如としてこの巨大ワーカーに囚われ、しかもそれが“起動完了”などとのたまるの
だから。だが一方で、東部連合の刺客達は近付いていた。機体の外にいたイズミがそのけた
たましい音を聞きつけ、二人に知らせる。
「くっ! こんな時に……!」
「訳分っかんねえけど、今は逃げるしかねえぜ。イズミ、お前も乗れ!」

 シュウ達のディガー会社が発掘を続けていた現場。そこは既に、第一波の攻撃によってさ
も惨状を荒野に晒していた。
 大地に雨霰と刻まされた無数の銃痕。それと共に粉々にされ、散り散りとなったキャンプ
のテントや機材、或いは真っ赤に沈んだ肉塊。
 シュウ達がいた地下空間も同じだった。砲撃が打ち込まれ、文字通り崩壊したそこにはぐ
しゃぐしゃに瓦礫と共に潰されたワーカー達や、まるで具材のようにサンドイッチされて動
かないかつての同僚らの姿も垣間見える。
 ベースキャンプから通信が飛び、更なる攻撃を加えようとしていた時だった。突如として
自分達が今し方攻撃した筈の地下から、赤褐色の大型のワーカーが背中にブーストの炎を巻
き上げながら飛び上がって来たのである。
「……酷い。なんてことを……」
「間違いねえ。ありゃあ軍用のワーカーだ。ひい、ふう……十機はいるな。何でまたこんな
所に出張って来るんだよ」
「無線(むこう)の親方が話していた内容と、関係がありそうだが……」
 ぎゅうぎゅう詰めになったコックピット内で、シュウとナツ、イズミは眼下に広がるこの
惨状に絶句していた。或いはその主犯達が軍の手の者であると改めて確認し、静かに分析し
て、義憤(いか)る。
「このまま逃げれそうには、ないな」
「ああ。許さない……許さないぞ、お前ら!!」
 急上昇から急降下、シュウ達は敵陣の真っ只中に着陸し、機銃や斧を構えるこの軍用ワー
カー達の一体に睨みを利かせた。ガシン……。思わず後退りする彼らだが、ここでおいそれ
と逃げ惑うほど軟弱ではないらしい。
『こちらアルファ! 目標地点より大型のワーカーが現れました!』
『全身赤褐色の角付き金色の三つ目……おそらく例の“厄災機”です!』
 何てこった……。部下達の通信を受け、一見紳士の軍人が目を見開いて頭を抱えていた。
それは相対していたシキも同様で、その表情は更に絶望に近い気配を宿している。
「……何故だ? 何故よりにもよって、あの子と一緒に……」
 彼のイメージの中に去来するのは、記憶。かつてユキと、自身の養女(むすめ)と出会っ
た頃の記憶だ。
 まだ自分が軍のワーカー乗りだった頃、荒野の遺跡で保護した色白過ぎる銀髪の少女。
 彼女に記憶はなかった。自分が何者で、何故こんな人気のない場所の、しかもカプセルの
ような装置の中で眠っていたのか、誰も答えを出してくれる者などいなかった。
 “厄災機”について詳しいことを知ったのは、もっと後になってからだ。
 コア・メイデン。あの怪物を動かす為に作られた人工の生贄。
 真実を知った時、彼はもうワーカーに乗ることができなくなっていた。自分達が生活の為
に駆り、或いは祖国を守る為と駆って戦っているそのルーツが、そんな無数の犠牲の上に成
り立っていたなんて。
 普通に生きて欲しかった。それがたとえ自分本位の我がままだったとしても。
 忘れて欲しかった。お前がそもそも、厳密には人間ですらないことも……。
『撃て! 撃て撃て撃てーッ!!』
 ワーカー隊が焦り、しかし取り囲んだ格好になったのをいい事に一斉に攻撃を始めた。普
通なら建物一つ軽く粉々にできるワーカー専用の機銃を四方八方から撃ち込み、濛々と硝煙
と砂塵が上がる。
『──』
 だが、シュウ達の乗る巨大ワーカーは傷一つ付いていなかった。
 ギロッと光る金色の三つ目。対するワーカー隊はその姿に恐れをなし始める。
『くっ……! この、化け物があああ!』
 それでも蛮勇というべきか、自棄糞というべきか、内一機が腰から高振動する斧を取り出
して斬りかかる。
「……五月蝿い」
 しかし、この一撃も全く通用せず。
 軽く片腕を挙げただけ。にも拘わらずこの巨大ワーカーは斧の刃を傷一つなく受け止め、
尚且つ次の瞬間、その刃をかち合っただけの衝撃で粉々に砕き潰す。
 なっ──? パイロットの驚きは刹那、シュウはその返す手でこの機体を殴り飛ばすと、
そのまま上半分が消し飛んでいた。
「す、すげえ……」
「厄災機、か。どうやら俺達はとんでもない物を起こしてしまったようだな」
「……」
 左右の操縦桿に挿した手を握る。それに合わせて、この巨大ワーカーも同じように何度か
手を握っては開きを繰り返した。その内部、胸部の円柱水槽の装置には、ぼうっと意識が遠
退いてゆきながら浮かんでいるユキの姿がある。
「……待ってて。すぐに終わらせるから」
 聞こえている訳ではない。だがシュウは半ば無意識に呟いていた。
 厄災機ザガン。かつて人が自ら開発し、その滅びを招いた古代兵器の一つ。
 ヴォオオオ……ッ!! まるで操縦桿を握る彼の意思に応えるように、ザガンは金の三つ
目を光らせる。次の瞬間、周囲の大地がまるで影響されるように激しく震え、ワーカー隊達
を隆起した無数の岩槍で吹き飛ばした。
                                      (了)

スポンサーサイト
  1. 2017/02/26(日) 00:00:00|
  2. 週刊三題
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<(雑記)何度だって繰り返すから | ホーム | (長編)サハラ・セレクタブルⅡ〔22〕>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://higurasisouann.blog27.fc2.com/tb.php/842-100be576
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
します。

訪問者累計

最新記事

最新発言

検索窓

月別履歴

09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -

分類/索引

【案内板】 (2)
【小説:短編】 (20)
本の蟲 (1)
硝子野不動産店 (1)
夏の日の幻影 (1)
四番線の彼女 (1)
夢視の宿 (1)
線を曳く町 (1)
炬燵の神様 (1)
三者三盗噺 (1)
色眼鏡 (1)
奴らは攻城戦師 (1)
詰め替える (1)
同じ籠の狢 (1)
二十年後の遺言 (1)
轍の先 (1)
水に流せば (1)
真夜中の御二柱 (1)
いつか見た夢 (1)
神様達の初詣 (1)
白い花束 (1)
丸の代償 (1)
【小説:長編】 (150)
Amethyst League (6)
アンティーク・ノート (3)
ユウキのヒカリ (5)
NIGHT GUNNERS (5)
レディ・ルーン-Bonds of RU'MEL- (6)
ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- (88)
死に損いのデッドレス (5)
Dear SORCERY (4)
サハラ・セレクタブル (28)
【企画処】 (344)
週刊三題 (334)
その他参加物 (10)
【資料庫】 (15)
【落書帳】 (6)
【詩歌帳】 (6)
【雑記帳】 (323)
【読書棚】 (30)
【遊戯倉】 (24)
path. (4)
decide: (3)
ユー録FW (16)

記事録

交友関係

このブログをリンクに追加する

(RSSリンク)

(QRコード)

QR

@long_month からのツイート