日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(書棚)感想:福井晴敏『川の深さは』

書名:川の深さは
著者:福井晴敏
出版:講談社文庫(2003年)
分類:一般文藝/軍モノ

元警官と戦士の少年が出会った時、熱い心(ハート)が蘇る──。


今回の感想は、福井晴敏氏の小説です。
『亡国のイージス』『終戦のローレライ』『戦国自衛隊1549』など所謂「軍モノ」系小説を
得意とする作家さんです。最近では『ガンダムUC』が有名ですね。
経歴上のデビュー作は『Twelve Y.O.』ですが、同作はそれ以前に江戸川乱歩賞で惜しくも
落選(しかし絶賛されていたらしい)したものの、デビュー後に刊行された同氏の処女作で
もあります。
大まかな粗筋は、元暴力団担当刑事・桃山がある日傷だらけの謎の少年・保と出会い、彼ら
が背負い込んだ運命とそこに潜む闇に共に立ち向かう……というもの。

これは他にも福井氏の作品を読んだ僕なりの解釈なのですが、彼の作品は全体を通して二つ
のメッセージ性があるように思われます。
一つは、これだと決めた意思を貫き、邁進する情熱。
そしてもう一つは、安穏と漠然と平和を享受する僕らに対する強烈な問い掛け。
特に後者は穿って読むと「ああ、コイツは武装論者か」みたいなイデオロギー的読まれ方を
するかもしれません(正直言うと僕も最初はそうでした)
ですが、それの何処が悪い? 物書きは文章で主張する人間だろ。
今では改めて一介の物書きもどきとして、僕はその真っ直ぐに絞ったメッセージ志向に感嘆
をしています。

元刑事の桃山は仁義の為に組織の意向に逆らい、結果的に退職に追い込まれる事になった人
物です(形式上、暴力団員に味方したため)そんな過去の為か、一介の警備員としての現在
は謂わば斜に構えた、冷笑を装った生活を送っています。
ですがそんな彼の転機となったのが、謎の少年・保との出会い。
傷だらけになりながらも、その年不相応の戦闘能力で孤独な戦いを続ける保。
そこには一人の少女・葵の姿が。
「彼女を守る。それが俺の任務だ」
危なっかしく不器用だけども、真っ直ぐに情熱(と葵への愛情)を傾ける保。
その背後にある尋常ではないきな臭さを感じながらも、桃山はそんな彼との出会いと交流の
中でかつて自分の中にあった熱い心を取り戻していきます。そして不器用な保もまた、戦い
と交流の中で桃山との友情(?)を結んでいくのです。

この、いや福井氏の作品の特徴の一つとしての「邁進する強い意思」
それは始めからそうではなく、共に何かの切欠によって目覚めほとばしる。そんな過程を経
ています。
つまりそれは「成長」の描写であり、桃山にとっては保という存在の出現、保にとっては葵
という、機械的にこなしてきた任務ではなく情熱(愛情)を以って守ると誓うようになった
存在がその中核に当たるのでしょう。
物語の中で彼らは何度となく「敵」からの猛攻に晒されます。それでも何度も立ち上がる事
ができたのは、その腹の中に一本の槍が通っていた──燃え滾る情熱が灯り続けていたから
に他なりません。成長と信念、それらが読者にみせる熱いエネルギー。
単なる軍事的イデオロギーの小説と見るには足りぬと思えるのは、そんな強いメッセージが
あるからではないかと思うのです。

結局、情熱を賭した行動は暗部を揺るがしたものの、世の人々の記憶からは再び風化してし
まうのでしょう。
どれだけ自分達の成す事を“正義”だと言い張っても、人々のコンセンサスが得られなけれ
ばそれは独善でしかなく、往々にして少なからぬ人々を社会を巻き込み衰亡を加速させるだ
けに終わる。そして何よりも……人とは長い目で見た将来に備える節制に従順であれるほど
上等ではないという批判と一抹の落胆。
批難一辺倒に終わらず、著者自身の(?)生の思いも込められているからこそ、彼の物語は
強烈な色彩を持って読者に問い掛けてくるのだと、僕は思います。

それでは最後に、作中で何度も用いられ、同作の奥底を流れることとなる心理テストをば。
『あなたの目の前に川が流れています。深さはどれくらいあるでしょう?
 1.足首まで 2.膝まで 3.腰まで 4.肩まで』
──情熱とは、自身をも呑み込む感情の激流なのかもしれません。


<長月的評価>
文章:★★★★★(ガッツリ大分量。反面、手軽に読もうとすると痛い目を見るかも)
技巧:★★★☆☆(前述の川のイメージを背景に、隠喩などが冴えています)
物語:★★★★☆(情熱と成長、スリリングな展開は美味。ただ軍モノ色嫌いだと辟易?)

スポンサーサイト



  1. 2011/10/29(土) 11:30:00|
  2. 【読書棚】
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<(書棚)感想:伊坂幸太郎『オーデュボンの祈り』 | ホーム | (書棚)感想:石田衣良『うつくしい子ども』>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://higurasisouann.blog27.fc2.com/tb.php/84-ca1d2cb2
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

訪問者累計

最新記事

最新発言

検索窓

月別履歴

09 | 2019/10 | 11
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -

分類/索引

【案内板】 (2)
【小説:短編】 (20)
本の蟲 (1)
硝子野不動産店 (1)
夏の日の幻影 (1)
四番線の彼女 (1)
夢視の宿 (1)
線を曳く町 (1)
炬燵の神様 (1)
三者三盗噺 (1)
色眼鏡 (1)
奴らは攻城戦師 (1)
詰め替える (1)
同じ籠の狢 (1)
二十年後の遺言 (1)
轍の先 (1)
水に流せば (1)
真夜中の御二柱 (1)
いつか見た夢 (1)
神様達の初詣 (1)
白い花束 (1)
丸の代償 (1)
【小説:長編】 (190)
Amethyst League (6)
アンティーク・ノート (3)
ユウキのヒカリ (5)
NIGHT GUNNERS (5)
レディ・ルーン-Bonds of RU'MEL- (6)
ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- (109)
死に損いのデッドレス (5)
Dear SORCERY (4)
サハラ・セレクタブル (47)
【企画処】 (463)
週刊三題 (453)
その他参加物 (10)
【資料庫】 (2)
【落書帳】 (2)
【詩歌帳】 (8)
【雑記帳】 (398)
【読書棚】 (32)
【遊戯倉】 (25)
path. (4)
decide: (3)
ユー録FW(凍結中) (17)

記事録

交友関係

このブログをリンクに追加する

(RSSリンク)

(QRコード)

QR

Tweets by long_month