日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「証明(み)せて」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:桜、携帯、最期】


「死ぬ?」
 思い返してみれば、あの時の話がそうだったのだろう。
 いつぞやかの休み時間、教室で。大輔は腐れ縁のクラスメートから、ちょうどこんな噂話
を聞かされていたのだった。
「うん。ボヤッキーとか、SNSをやってると出るんだって。見せろって囁いてくるんだけ
ど何処から聞こえてくるか分かんないの。なのに、身体はどんどん重石を乗せられたみたい
に重くなるんだって」
 短めのポニーテールを揺らしながら、この付き合いの長い少女は言う。
 だが対する大輔は、始めから話半分に耳に入れるだけで意識のメインは手元のスマホに向
いている。とかくこの幼馴染はこの手のオカルトが大好きだ。もう何百何千と聞き飽きた。
それ故経験的に、彼女からの話は軽く聞き流す癖がついてしまっている。
「それで何処だ? 何処なんだって辺りを見回している内に気付くの。そいつはいつの間に
かすぐ自分の背中にぴったりくっついてて、こっちの画面を覗いてるの」
「ふーん」
 馬鹿らしい。
 大輔は時々相槌を打ってやりつつ、脳味噌は休み時間の合間に自身の利用しているSNS
の更新状況を確認することに割かれていた。
 ボヤッキー。手軽にメッセージや画像、映像を投稿し、自身の「今」を発信する事のでき
るツールだ。一回の投稿につき容量制限はあるが、リアルタイムで自他のメッセージが流れ
てゆくため無数の他者と繋がっているかのような感覚を味わえる。
 特にフレンド──お互いにフォローし合っている状態のユーザー同士ではクローズドな環
境でのやり取りも可能であり、連絡用のツールとしても重宝する。
「……で? それの何が怖いんだよ。要するに画面を見せてやりゃあ金縛りも解けるってオ
チじゃねえのか?」
「違う違う。見せろっていうのはね、こっちに“本当の友達かどうか”を見せろっていう要
求なんだって。もし見せられなかったら、自分の為に駆けつけてくるフォロワーがいなかっ
たら、そのままその人はそいつにどんどん重くさせられて潰されちゃうんだって」
「はあ。潰されるねえ」
 ちらりと横目を。
 身振り手振り、妙にワクワクしている彼女の様子を見遣りながら、大輔は正直呆れたよう
に白い目を向けていた。
 要するに品を替えた子泣き爺みたいなもんか。
 そうさっさと頭の中で解釈を出し、されど大輔はすぐにそんな記憶も耳の右から左へと放
り投げるようにしてスマホの画面に集中する。
 自分の為に駆けつけてくれるフォロワー? 実際問題、無理だろ。
 リア友ならまだしも、ネット上で繋がっている人間なんてのはそもそも素性の知れない相
手である場合が圧倒的に多い。女のようで男だったり、男のようで女だったり。混同してし
まってはいけないものだ。
 オフ会なり何なりで顔合わせでもしない限り、基本的にこの画面越しの付き合いはリアル
の何処かに繋がっていても、リアルではない。皆名前を変えキャラを変えて別の自分を演じ
ている。フォローしているのは親身になりたいからではなく、大抵「面白そう」だからだ。
 同好の士だったり、便利な情報元だったり。
 中には時間が経ち過ぎて何故フォローしているのか、されているのか覚えてない相手だっ
て少なくない。そういう場合は知らぬ間に切られているか、単に数打ちゃ当たる目的の広告
系アカウントだったりする。
「くだらねえ。どうせ作り話だろ。大体本当にそんなので死んだらとっくにニュースになっ
てるだろうが」
「むー。大ちゃんはいっつもそうやって否定するー。本当だよ? 実際に被害に遭ったって
人から伝わってきた話だもん」
「へいへい。友達の友達、ね。そいつもよく生きてたもんだな」
「だから、心配して駆けつけてくれたフォロワーがいたんだって。近所に住んでるリア友だ
ったらしいけど……」
「ふーん。そいつは運が良かったな。じゃあ完全にリア友なしのアカウントの時に憑かれた
ら詰むじゃん」
 内心頭の中でぐるぐると考え──持論を回転させ、鼻で笑う。
 この幼馴染はぷりぷりと怒り、反論していたが、もしそんな化け物がいたらそいつはきっ
と自分達のネット使いを知っていて陥れようとする、悪意の塊だと思う。
「馬鹿馬鹿しい。大方、何かのネガキャンじゃねえの? リア友を混ぜないから僻んでる奴
らとかさ」
「むー……」
 結局、真に受ける事はしなかった。幽霊の、正体見たり何とやら。
 ぷくっと頬を膨らませている幼馴染など意に介さず、大輔はついっとそっぽを向いては画
面に流れてゆくフォローした他人(もの)達の言葉を追う。

「──これで半年か。こりゃあマロンさん、フェードアウトしちまったかな……?」
 そんな彼女とのやり取りの記憶さえすっかり薄れ去って早数ヶ月。
 夜、大輔は一人、自室のベッドの上でごろごろと横になりながらスマホを弄っていた。画
面に映っているのはいつもように、ボヤッキーのユーザーページである。
 ベッドの上には読みかけの雑誌や漫画が散らかり、向かいのテレビも点けっ放しである。
 尤も、それは大輔にとって何の変哲もないいつもの光景だ。口煩い親にも邪魔されず、思
う存分だらだらと遊べる一時。漫画からソーシャルゲーム、またボヤッキーと飽きれば次か
ら次へと時間を潰すツールを乗り換えればいい。
 ただ……この日、彼はそんな無数の知人を介するツールの上で小さな違和感に気付いた。
 以前から親しくやり取りがあったユーザーの一人がここ半年近く呟きを更新していない。
彼のユーザーページに飛んでみると、そこには古い日付のまま止まった息遣いだけがネット
の海に漂っている。
 仰向けになっていた体勢からごろん、もそりと上半身を起こし、大輔は半ば無意識に髪を
掻きながら思案していた。
 しかし、この時はまだ、彼は重大などとは考えていなかった。
 不意に誰かがノンアクティブになること自体はよくある。寧ろ──どんなサービスについ
ても言えることだが──アクティブのまま使い続けている人間がはたしてユーザー全体のど
れだけいるものか。
 大方、リアルが忙しいのだろう。大輔はごくごく自然にそう思った。自分だって試験前な
ど物理的に時間が取れない時はどうしたって更新できないし、必要に応じて先方に暫く止ま
ることを知らせるくらいはする。
 ただ……何だろう。この夜ばかりは妙に気になった。フレンド、フォロワーと、手間だが
リストを順繰りに辿って、目の付いたユーザー達の更新状況を覗いてみる。
「あー、結構落ちてる奴多いなあ……。ん? 誰だっけ、こいつ……」
 フォロー関係のリストはこれまでの繋がりの履歴だ。だがページをスライドさせ、過去に
遡れば遡るほど、自身の記憶もあやふやになってゆく。
 相互(フレンド)関係でない相手なら尚更だ。知らぬ間に名義やアイコン、プロフ欄が様
変わりしていて、最早誰が誰なのか分からなくなっているパターンも珍しくない。
 だからこそ、所詮は仮初の繋がり。虚しいものだ。
 だからこそ、その時生まれた縁に誠意を見せたいと思う。
 スライドを現在へと戻し、かねてより作成(つく)ってあるフレンドリストを見る。記憶
を辿りながら、大輔はマロンだけでなく、他の何人かも今はあまりやり取りをしなくなった
なと思い出していた。
「……しゃーない」
 必然、登録(フォロー)数が増えればそうなる。
 どうっと、大輔は再びベッドの上に仰向けになった。ほんの数メートルにある筈のテレビ
の声さえ何処か意識の遠くだ。元々無音よりはマシとBGM代わりにしている程度のもので
しかないのだが。
『──テヨ』
「?」
『ネェ。ミセテヨ』
 ちょうど、そんな時だったのである。ふと間が空いて静かになった自室に、突如何者かの
声が聞こえた。最初、大輔は空耳だろうとばかり思っていたのだが、その呼び掛ける声は妙
にはっきりとしていて、腹の底に響くような重低音の濁声だと分かる。
「だ……誰だ!」
『ネェ。見セテヨ』
 大輔は弾かれたように身体を起こした。だが周りを見渡したって誰もいない。テレビの方
を見ても三流のトーク番組が汚い笑い声をぶちまけているだけで、これを聞き間違ったとは
考え難い。
『ネェ。証明(ミ)セテヨ。君ノ……友達ノコト』
「──ッ?!」
 だから、はたと気付いてしまったのだ。
 見せてよ。友達を見せてよ。姿の見えない誰か。
 まさか……。大輔は傍に転がっていたスマホを取り、また辺りを見渡し始めた。……やは
り誰の姿もない。ごくりと息を飲み、脳裏の奥底にあった記憶が引っ張り出され、その表情
は緊張でどんどんと引き攣ってゆく。
『証明(ミ)セテヨ。君ノ……友達ガ友達ナノカ』
 ズン。直後、身体が明らかに重くなった。まるで見えない何かに纏わり付かれ、猛烈な圧
力を掛けられているかのように。
 マジかよ……。大輔は引き攣った顔のまま、恐る恐ると視線を自身の背後に遣ろうとして
いた。思い出されるのは大分前、幼馴染から聞かされた胡散臭い都市伝説──。
『ネェ。証明(ミ)セテヨ。君ノ……本当ノ友達……』
 存在した(いた)。じっと気配を探ると、確かにそいつは自分の背中にぴったりとくっ付
いていたのだ。左肩に乗っかり、ハアアと不気味な息遣いを響かせ、そいつは現れたのだ。
 肩越しなので確実に見えたかははっきりとはしない。だが全体的に紫色の小人だ。垂れた
両目と牙の生えた口は金色で、全身が包帯で巻かれたように不自然な縞模様を描いている。
しかし不衛生なのか、あちこちの巻きの合わせ目から、菌の芽のようなものが幾つも小さく
顔を覗かせている。
『ネェ。証明(ミ)セテヨ』
 ねっとりと纏わりつくような声。
 その一言一言の度に、大輔に掛かる重さはどんどん増していく気がした。
 嘘だろ……本当に、こんな奴が……。
 だが大輔は悲鳴を上げることさえも、これに抵抗して振り解くことすらもできなかった。
気付いて動こうとした時には、既に“ミセテ”は圧を掛け続けていたのである。あっという
間に身動きが封じられかけていた。正直、スマホを握る腕すら重い。
「うっ……がっ……! 美晴に、連絡、を……」
 よく分からない。何故自分が狙われたのか分からない。
 しかしこの異変の正体に気付いた時、大輔の脳裏に浮かんだのは、以前この都市伝説を話
して聞かせてくれた幼馴染だった。
 あいつなら、何とかしてくれるかもしれない。
 大輔は必死に画面をスライドさせ、彼女に電話をしようとしたのだが……。
(が、画面が替わらねえ!)
 何故か操作が利かなかったのだ。何度も指でページをスライドさせようとしたが、表示さ
れるのは微動だに動かず自身のボヤッキーのままだ。
 甘くみていた。完全に油断していた。
 こいつ、明らかにこちらの手段を奪ってきてやがる……!
『ネェ。証明(ミ)セテヨ』
「く、くそおおおおーッ!!」
 相手のペースに乗らざるを得ない。術中に嵌ると分かってはいたが、大輔は開いていたボ
ヤッキーから助けを呼ぶしかなかった。
 フレンド、フォロワー。誰か連絡の取れる奴は?
 相互じゃなきゃ駄目だ? いや、ここは確率を増やす為にも呟きを……。

『ヤバイのに つかれた 助けに 来て』

 しかしどんどん自由が効かなくなる指先で、必死に打ったメッセージも、多数のフォロー
のいる大輔の画面上からはあっという間に消え失せてしまった。
 絶望する。必死に求めたSOSが、ネットの海に埋もれてゆく。
 次に彼はフレンド達に片っ端からメッセージを送った。悠長な説明は書いていられない。
とにかく来てくれ……。

『おいおい。何の冗談だ?(笑)』
『今寝ようって思ってたんだよー。明日にしてくれよー』
『つーか俺ら、何処に住んでるとか全然知らなくね?』
『知らない知らない(笑)』
『オフの話もあったけど、結局都合合わなかったもんなー』

 だが相応の歳月をやり取りしてきた彼らの中に、彼の危機を真に受ける者は皆無だった。
誰もがイタズラだと思い、自分の都合があり、何より互いの素性など知らず、必死の思いで
発したSOSは塵と消え去った。
「そん、な……」
 頭でなら解っていた。ここに繋がった自分達は、所詮仮初の縁だ。余程の事がないと互い
のリアルを話すことはないし、知ろうともしない。
 だが大輔は、そんな普段の自分達のスタンスをこんなにも呪うことは今夜を除いてはなか
った。彼のアカウントにはリア友はいない。面倒が起き易いからと敢えて接点を持たないよ
う隔離してきた。それらが今、完全に裏目に出たのだ。
『……何ダ。君ノソレモ、ヤッパリ“ニセモノ”カ……』
 ごぶっ!? そして次の瞬間、背後からそいつの声が聞こえた。落胆のような、見下すよ
うな声色だった。
 しかし当の大輔の記憶は、既にその前後で消し飛んでいる。ミシミシッと、直後それまで
よりも更に強い重圧が全身に掛かり、遂に彼の身体は限界を迎えたのだ。
 圧迫され続けた大量の血が、体液が、居場所を失ってその口から鼻から飛び出した。軋み
折れ、本来の器としての形を損った全身の割れ目という割れ目から、同じくその中身は余す
所なく飛び出した。

「大輔! 一体いつまで起き──ひぃッ?!」
 そして二時間後、息子が一向に寝る支度をしないのを不審に思って部屋に入って来た母親
が目撃した(みた)のは、まるで交通事故にでも遭ったかのように全身をバキバキに折られ
て血だまりの中で絶命している、彼の亡骸だったという。
                                      (了)

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  1. 2017/02/05(日) 00:00:00|
  2. 週刊三題
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
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