日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「ダスト」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:黒色、正義、剣】


 その世界は、無数の災いで満ちていた。
 火災、水害、地震に嵐。或いは強烈な寒波が猛威を振るう地域もある。
 だが何よりも深刻だったのは、争いだ。妬みや嫉み、或いは利益。人々の心の隙間に彼ら
は巧みに入り込み、その内に抱えた闘争心を掻き立てる。争わせる。
 ──魔物。人々は、そう彼らのことを総称した。
 明らかに人ではない異形の者達。その異質の姿と人外の力は常に人々の脅威となってきた
が、やはりそれ以上に恐れられたのは、彼らがこの世のありとあらゆる災い──その化身で
あるという点に尽きるだろう。
 それ故、人々の歴史とは常に魔物達との戦いでもあった。
 街を維持するにも、新たな土地を切り拓くにも、人々は無尽蔵に湧いてくるこの歩く災い
達を掃いながら進む他ない。
 狩人(ハンター)──武器を手に取り、魔物退治を専門に請け負う者達が現れ、不可欠な
存在になっていったのも、ある意味必然であったのだろう。尤も狩人(ハンター)になれる
ような人間は腕っ節の強さが求められ、往々にしてトラブルの種にもなる荒くれ達が担う場
合が多かったのだが。

 そんな中にあって、彼は寧ろ少数派であったのだろう。
 青年は真面目に剣の道に打ち込み、魔物蔓延るこの世界を憂いた。彼は狩人(ハンター)
の一人として日々、人々の依頼に応えながらも、一方でもっと根本的に魔物をこの世から撲
滅できる方法はないものかと研究も怠らなかった。
 そして数多の古い書物を読み解く中で、見つけたのである。
 かつて魔物達を掃い、国を建てた先人達が用いていたという“魔物喰らい”の力を。
「──お前が、かの“喰らいの魔物”か?」
 今ではすっかり廃墟となってしまった古い都市の跡。
 その一角に、青年が探し求めていた力の一つがあった。彼は単身この人のいなくなった古
都に足を踏み入れ、呼び掛ける。その視線の先には、積み上がった瓦礫の上に座る、ぼうっ
と霞む影のような何かが佇んでいた。
『私達を何と呼んでいるかは知らないが……。私の理解が今も通じるのなら、確かに私はお
前いう種族の者だ』
 ゆらり、ゆらり。実体の希薄なその影──喰らいの魔物は、まるで青年を値踏みするよう
に、じっとこの瓦礫の山の上からそう応えた。青年はごくりと喉を鳴らす。通常、魔物とは
言葉も伝わらない獣のようなものだが、こうしてやりとりができること自体、自分が相対し
て狩ってきたどの魔物達とも違うと分かる。
「僕は狩人(ハンター)のサウル。魔物達の脅威から人々を解放すべく、お前の力を借りに
来た。……文献で調べたんだ。お前達のように“魔物を食べる魔物”がいると。僕に力を貸
して欲しい。僕は皆を守れるし、お前も好きなだけ食べられる。お互いにメリットがある話
だとは思わないか?」
『ほう。久しいな、私をそれと聞いてわざわざ会いに来る人間とは。だがいいのか? 私と
契約を結べば、お前は戦いから逃げられなくなる。私の為に、一生戦い続けなければならな
くなるんだぞ?』
「……構わない。今までだってずっとそうしてきた。剣を学んだのだって、魔物達から皆を
守りたかったからだ。でも、ただ闇雲に戦っているだけじゃ埒が明かない。だから色々な文
献を調べて、ここに辿り着いたんだ」
 青年は、改めて意を決して呼び掛けた。
 彼の願いはそれだけだった。当座の金の為ではない。果てしなく続く魔物との戦いに、何
とか終止符を打つ為に力を求めた。義の人だった。
 瓦礫の上の影、喰らいの魔物は不敵に笑う。ゆらゆらと、試すように言葉を選ぶ。
『覚悟はある、ということか。ふふ。人間とは何とも矛盾に満ちた生き物よなあ。いいぞ。
力なら貸してやろう。存分に私の腹を満たせ。尤も、お前の願いが叶うとは思えんがな』
 契約成立だ──。そして言い、喰らいの魔物はふわりと中空へ跳ぶと、黒い靄を引きなが
ら一振りの漆黒の剣となった。重力に従い、刃はザクッと吸い込まれるように深く石畳へと
突き刺さる。
「……」
 少し逡巡して、しかし青年はこれに近付き、引き抜いた。ざらりと、見た目に反して手に
馴染んでくるその刃を見つめながら、彼はこの瞬間、自らが英雄になろうと歩き始める。


「──魔物が巣を作っちまったんだ!」
「頼む! ぶっ壊してくれ!」
 それからというもの、青年は狩人(ハンター)としてこの黒剣と化した“喰らいの魔物”
を片手に、世界各地を渡り歩いた。
 西に魔物の巣窟があると聞けば遥々足を運び、東に街が魔物に攻められていると聞けば危
険を顧みずこの討伐に手を挙げた。
 一言でいえば、まさにその働きは一騎当千である。喰らいの魔物を味方につけた青年は、
まさに魔物達の天敵とも言える存在になっていた。
 志を持ち、幼少の頃から地道に鍛え続けてきた剣の技は、並みの相手では間違いなく苦戦
を強いられる。こと大半が獣の如き本能のみで動く魔物達など、彼にとっては文字通り狩り
というレベルの戦いであった。
 何よりも、その手にした黒剣である。もしその一太刀でも身に受けてしまえば、魔物は例
外なく、瞬く間に黒い塵のように分解されて吸い込まれてしまうのだ。
 これが“喰らいの魔物”の食事風景。
 その一部始終を目の当たりにした者達に対し、青年はこれを「封印」と説明していた。

『人間。お前はどうも勘違いしているようだから教えておいてやる』
『私達──お前達人間が魔物と呼ぶ存在は、別段“悪”ではないのだよ。お前達にとっては
邪魔であるかもしれんがな』
『いわば余剰の産物だ。この世界が抱える自然、生命達の膨大なエネルギー。その吐き出さ
れた滓(かす)が集まって生まれたものが我々なのだ』

 黒剣を振るう勇者の噂は、たちまち国から国へ、大陸から大陸へと広がっていった。
 ただ青年は力を振るう。求められればどんな辺境へも足を運び、魔物を屠る。人々の生活
を脅かすその存在を根絶することが、彼らの幸せになると信じて。
 だが実際、当の人々はどう思っていただろうか。
 求めに貴賎を設けなかった青年を、彼らは飛びつくように使った。それ故青年の下には依
頼の手紙がひっきりなしに届いたが、徐々にその文面は横柄としたものになってゆく。

『炎に水、大地に風。或いは雷雲や冷気。あぶれ行き場を失ったこの世界エネルギーは何処
へ向かえばよい? 吐き出してしまえばいい。表舞台に立たせてやればいよいのだ。魔物と
は他の獣と本質的には変わらぬのだよ。確かに、縁る力の元がより根源に近い故、他よりも
強力になりがちではあるがな』
『……それだけではない。人間も多大な生産者だ。憎しみや嫉妬、様々な欲望──お前達は
他の生き物達よりも優れた知能を持っているからこそ、内在するエネルギーは膨大だ。魔物
達はそのエネルギーの残滓からも生まれる。……何を驚いている? だから別段“悪”では
ないと言ったではないか。その証拠に、獣型の魔物は自らお前達を攻撃しようとはしないだ
ろう? 違う? 何を言っている。棲み処に土足で踏み入られ、追い出されれば、獣とて怒
らぬ訳がないだろうが』

 結論から言えば、体よく使われていたのだった。人々は青年のことは大層力のある、便利
な狩人(ハンター)というぐらいにしか思っていなかった。元より狩人(ハンター)自体へ
の認識が、その程度のものだったからではあるのだが。
 何よりも、彼の登場で内心面白くなかったのは同業の狩人(ハンター)達である。
 なにせ、仕事が取られる。流石に実際、彼一人で捌ける仕事の量には限りがあったが、そ
れでも人々が先ず指名しようとしてくるのは彼だった。必然、他の同業者達にとっては迷惑
な知名度である。今日、彼らの多くは荒くれで、青年のような義で戦っている者は少数派だ
った。多くその目的は日銭──当座の食ってゆく為の金であったのだから。

 そしてある時、事件は起きる。
 かねてより青年の振るう黒剣を怪しんでいた者達の一部が、遂にその正体──喰らいの魔
物についての情報を知ってしまったのだ。
 誰が言い出したかは分からない。地道に調べたのか、誰かから聞いたのかは分からない。
 だが少なくとも、その話が人々の間に広まった時、彼らはそれまでの依存から一転、青年
を「魔物の手先」として猛烈に批判し始めたのである。
 ある者は言う。騙されたと。
 ある者は言う。きっと魔物を喰わせて何か企んでいたんだと。
 特に同業者(ハンター)達からの敵意は凄まじかった。かねてより目の上のたんこぶだっ
た青年の“落ち度”に、彼らはこぞって寄って集り、その資格を奪えと訴えた。
 そして国から国へ、大陸から大陸へとその情報は拡散し、ある時とある大国がこの青年に
対して大規模な討伐令を出す。
 罪状は──反逆罪。魔物と手を組み、その力を独占していた彼を、国々は危険視したのだ
った。尤もその考えと行動に舵を切る切欠を作ったのは、他でもない市民達だが。
 各国の正規軍やかつての狩人(ハンター)仲間達。様々な刺客が青年を追い、襲った。
 それでもすぐには討たれなかったのは、ひとえに青年の剣の腕なのだろう。だが黒剣はあ
くまで魔物に対して敵なしであって、人間相手にはただの黒光りする剣に過ぎない。戦いが
起こる度、巻き込まれる度、青年は少しずつ傷を負っていった。確実に消耗し始めていた。
「──追い詰めたぞ! 観念しろ!」
 はたして、そうやって戦って戦って、どこまで来たのだろう。
 青年はとある平原の、滅びた都市の跡地にいた。繰り返し繰り返し退いてはまた頭数を補
充して追ってくる軍勢達に取り囲まれ、絶体絶命のピンチに陥っていた。
 全身は癒え切らぬ傷が無数につき、頬は繰り返された極限の中で痩せ細っている。その瞳
にはかつての優しい、志に満ちていた色はなく、ただ状況が許すがまま生き延びただけだ。
「……」
 それでも彼は黒剣を杖のようにし、肩で息をしながらこの軍勢を睨んでいた。
 こんな筈じゃなかった。こんな戦いをする意味なんてなかった。
 戦うべきは人々を脅かす魔物(あく)だったのに、人々を蝕む苦しみだったのに。
 なのに何故、何故貴方達は僕に剣を向ける……?
「言葉も、出ないか」
 完全に包囲されても尚、立ち続ける青年。その姿に指揮官は内心戦慄すら感じた。
 おそらくは長年染み込んだ狩人(ハンター)──剣士としての本能なのだろう。だがそん
な彼を、他ならぬ同じ狩人(ハンター)出身の友軍らが「とどめを」と促す。確かにこのよ
うな者を野に放っておくのは脅威だ。魔物の力を持っているという話も含め、ここで仕留め
なければ我々人類にとって大きな災いとなる……。
「総員、一斉攻撃!」
 小さく頭を振り、だが指揮官は言い放った。ガチャリと甲冑や剣、弩が立てる音が一つの
大きな害意となって現れる。

『尤も、お前の願いが叶うとは思えんがな』

 嗚呼、そうか。
 本当の敵は、倒すべき悪は、僕らの外にいたんじゃないんだな……。

 その次の瞬間である。軍勢は、この時青年の腕や頬へと黒い染みが迫って来ていることに
気付けなかった。ただ虚ろながら倒れぬその眼を見て、早く早く倒さねばとばかり思ってい
たのだった。
 ゆらり。彼らが動き出すその寸前に、青年は手の中の黒剣を目の前に構えた。
 斬り込むそれではない。まるで祈るように、真っ直ぐに立てて掲げたそれ。
 それは感情だったのだろう。音もない激情だったのだろう。その意味では彼も、彼を取り
囲む目の前の軍勢も、同じ力によって突き動かされていたと言えるのかも知れない。
『──』
 閃光。深く黒い光が刹那、辺りに奔った。
 その意味を軍勢は理解しない。何故ならその時にはもう、彼らの意識は肉体は、バラバラ
に消し飛んでいたからだ。
 眩むことすら許されない深い闇の色。視界を覆う一面の黒い何か。
 魔物だった。青年は自らが討たれようとするその瞬間、これまで黒剣──喰らいの魔物に
食わせていた魔物達の力を一気に解き放っていたのである。
「……」
 刹那、脳裏の端でニタリと嗤う影の男──喰らいの魔物の口元が視えた気がした。
 だが後悔してももう遅い。その力は、選択は解き放たれてしまった。
 青年は瞬間、憎んだのだった。悔い改めようともしない人々に、正しさは自分達の側にこ
そあると、その都度その都度信じて疑わぬ人々に。……何よりもそんな者達に奉仕すること
が最善だと信じた、自分自身に。
 廃墟は、また廃墟になった。魔物の──災いの爪が駆け抜けていったその轍には、もう街
の痕跡すら残らない。ただ抉られて自然(せかい)そのものになった浅い草地と土色だけが
広がっている。

 行き場を失ったエネルギー。周囲に蠢く黒い影達。
 この日青年は、何人目かと知れぬ魔物を率いる者(まおう)になった。
                                      (了)

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  1. 2017/01/22(日) 00:00:00|
  2. 週刊三題
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
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