日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(書棚)感想:石田衣良『うつくしい子ども』

書名:うつくしい子ども
著者:石田衣良
出版:文春文庫(2001年)
分類:一般文藝/ミステリー
 
殺人犯は十三歳の弟!? 十四歳の兄の孤独な戦いが始まる──。


本屋で手に取った理由は何よりもその帯のコピーでした。
「え? 犯人言っちゃったらミステリーの意味なくね?」
そう思わずツッコミを入れながらも手に取ってしまいました。お買い上げでした。

ですが、これも著者・出版社側の戦略だったのです;
一応分類的にはミステリーなのですが、この作品はその帯コピー以上に、主人公である兄の
成長に重きを置いて描かれた物語であると言えるでしょう。
描かれているのは十三歳の少年が幼女を手に掛けたというセンセーショナルな「外面」より
も、その外野のざわめき、そして感情的な彼らの“迫害”に晒され翻弄される、主人公ら加
害者家族の変遷にあります。
物語は突然殺人者の兄となってしまった主人公の青年・ミキオと、報道の側の人間として、
しかしながらセンセーショナルに事件を、当事者や関係者らを書き立てる自分達に疑問を抱
き続ける若き新聞記者・山崎の両方の視点から描かれています。
時に当事者の目線──内側の眼から。
時に報道側の目線──外側の眼から。
淡々と、しかし残酷に巻き起こった少年犯罪を取り巻く人々の(苛烈な)レスポンスがどれ
だけ当事者達を苦しめているのかが、序盤を中心に描かれています。

正直僕は、その始めの内の状況描写でげんなりとした気分になってしまい、読むスピードが
落ちてしまったものです。
ですが中盤になってからその毛色は徐々に、しかし確実に大きくシフトしていきます。
「弟が何でこんなことをしたのか、理由が知りたい」「どんなに逃げたってぼくは兄だ」
主人公・ミキオがそう混乱する周囲の嵐の中で決意し、自分なりの調査と戦いを始めた頃か
ら物語はぐぐっとそのスピードを加速していくのです。
相変わらず周囲の人々からの“攻撃”は止まず、むしろエスカレートし、数少ない協力者に
対しても謎の魔の手が忍び寄る──。うん、ミステリーしてますね。
それでもミキオ達は諦めず、真実に近付いていきます。
そして……やがて明らかになっていく真相と、その元凶との対峙。
しかし、その元凶すら「悪」だと言い切れない背景がそこにはあって……。
もしかしたら何よりも恐ろしいのは、目に見えるような悪意ではなく、何の気のない人々や
近しい者による“押し付け”であるのかもしれません。
押し付けていた側も、押し付けられていた側も、それに気付かずやがては歪んでいく。
それでも、最後の最後にその事に気付き、悔いるシーンがあったのは真犯人にとっては救い
だったのかもしれません。
……尤も、それが成された時にはもう全てが遅過ぎたのですが。

ただ“罪人”を攻撃することがどんなに残酷なことか、脊髄反射なことか。
この小説を読んで僕は改めて考えさせられました。
罪を憎んで人を憎まず、なんて言葉もありますが、現実は哀しいかな「悪い奴は批判されて
当然。糾弾するのがむしろ正義」なんて風潮が否めません。
でもそれでいいの? 著者はそう思ったのかもしれません。
だからこそ、犯罪者をただ攻撃すること、分析することを描写の重きに置かず、むしろ事件
の渦中の人々(ミキオ達)を軸に物語の世界観を構成したのだと僕は思います。

確かに物事は理屈だけじゃ割り切れない。人は(所詮は)感情の生き物なのでしょう。
ましてやしたり顔で分類してみたり、持論だけで全てを把握できる筈もない。
だからこそ、もっと僕らは相手が誰であれ、その「外面」ではなく抱えている「内側」へと
目を遣り、必要ならば周囲の眼を臆することなく寄り添えうことさえやってやれる。

「悪人」として「異質」として弾き出すのではなく、先ずは自分なりに受け止めてみる。
犯した罪を無罪放免にしろとまでは言いませんが、本来求められるべき「正義感」とはむし
ろそういう“柔軟さ”をもつ類ではないかと思うのですよね……。


<長月的評価>
文章:★★★★☆(ミキオの一人称と山崎の三人称の交互方式。分量は並)
技巧:★★☆☆☆(小手先のギミックではなく、物語や人間で魅せるタイプ)
物語:★★★★☆(罪と罰に対する良き思索の種となります)

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  1. 2011/10/28(金) 20:30:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

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