日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「イデアの為に」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:オアシス、犠牲、脇役】


 ──話をしましょう。

 とある時代、とある所に小さな隠れ里がありました。
 外界からの客はごく稀で、知る人ぞ知る。この里はそんな環境ゆえ、長い間独自の文化・
芸術を育み、次の世代へ次の世代へと伝えてきました。
 彼らの生き方の根底にあるのは、思うままに在ること。とにかく物事を愉しむこと。
 面白いことがあれば笑い、面白くないことがあれば何としてでも面白くする。その為なら
ばどんな労力だって厭わない。何故なら、俯いて過ごすことは彼らにとって損失だから。
 何より特徴的だったのは、彼らはそんな自分達の日々を、培ってきたものを惜しげもなく
書物にしていった点です。
 それは里の教えを次代に伝えるという意味合いもありましたが、それ以上に個々人が、自
分達の誇る文化について一家言持っている──大なり小なり話したがりな性質を持っていた
からだと云われています。
 ……結論から言うと、そんな性質が彼らの命運を決めてしまったとも言えるのですが。
 とにかく彼らは、小さく決して恵まれた土地でもないこの里で、代々まったりと、面白お
かしく日々を過ごしていたのでした。

 しかしある時、転機が訪れます。この隠れ里へ物々しい客達がやって来ました。
 曰く、この里を含む広大な領土を持つ皇國よりの使者だといいます。
 ですが対する里の人々は、当時「国」という概念すらあまりありませんでした。かねてよ
り外界を知らず、また知る必要もなく自分達で完結できていた彼らにとって、それ以上の何
かを求める必要はなかったのです。
『証拠ならば揃っている。ここがかの蛮族の里に違いないな? 一人残らず首を差し出せ。
我々は貴様らを掃討する為に派遣された!』
 にも拘わらず、使者を名乗る者達──軍勢はのっけから高圧的で、攻撃的です。
 曰く、彼らにとって、里の思想は極めて野蛮で危険なものだというのです。こんな者達を
野放しにはしておけない。故に今回、大規模な討伐隊が組まれたのだと。
 皇國──そう語るこの国は、近年周辺各国との争いを戦い抜き、急速に勢力を増していた
強国でした。
 その国是は皆々が一致団結して、各々の御役目に奉仕すること。
 いわば、隠れ里の培ってきた文化・芸術とはまるで正反対の考え方でした。
 皆が“真面目”に生きる中にあって、ふざけて掻き回すような人間は言語道断──皇國の
上層部はある時この里から出た書物を知り、これを将来人々を堕落させる危険因子と判断し
たのでした。
 ──滅びを招くものは、たとえそれが小さな芽であっても事前に摘み取る。
 彼らには固い“正義”がありました。脅威と思う以上に、正しいことと信じて疑わなかっ
たのです。
『いきなりそんなことだぁ、言われても……』
『俺達が、何したっぺー?』
 しかしそう突きつけられて、困り果てたのは里の人々です。これまで皇國を始めとして他
の国と付き合いなどなかった彼らにとって、この突然の敵意は受け入れ難いものでした。
 里の入口に集まって、困惑しながら次々に溢れ出す不満。
 ですがそんな雑音(こえ)すら気に入らないのか、軍勢らはガチリと槍先で迫ります。
『んー。失礼だがぁ、あんたらの頭は誰だっぺー?』
 そんな時です。皆の前に立って出たのは、里の長老でした。
『……私だが?』
 敬語すら使えぬ。やはり野蛮な劣等種──。言葉にこそ出しませんでしたが、軍勢を率い
る指揮官は馬に乗ったまま、こののほほんとした背の低い老人を見下ろしています。長老は
彼をぷるぷると震えながら見上げ、言いました。
『すまんなあ。おまーさんらがどんな人だぢかは分かんねーけども、儂らの書きモンが気に
障ったーなら謝るべー。元々余所に出すつもりはなか。これからは気を付けっから、そげな
物騒なこと言わんでくれんかのー?』
 そうだ。そうだ。
 里の人々は彼らと戦う力もなければ、そもそも戦う気もありませんでした。あくまで話し
合いで済ませようとする長老の言葉(たすけ)を受け、里の若者達もずいずいと数にものを
言わせて詰め寄ります。
『……我々は貴様らを討ち取るべしと命令された。言う通りにすると思うか?』
『ああ。ああ、分かっとる』
 ですが使者達は退きはしませんでした。あくまでじろりと、彼らを排すべき“異物”とし
て見続けます。皆が心配する中、長老は深く、深く頷きました。
『儂の首さ持ってくがええ。ぞの代わり、他のモンには一切手ぇ出さねえでくろ。そうして
ぐりゃあ、儂らも書きモンをおまーさんらの里には入れねえがんよ』
 そんな!? 長老!
 駄目だ、何であんた一人が!
 何一つ兆しのなかった声色からのそんな提案に、勿論里の人々は反対しました。政治的な
難しいことは分かりませんが、大切な仲間が自らを生贄にしようとしていることぐらいは分
かります。
 しかし長老は、最期まで首を縦には振りませんでした。彼は言葉通り里の皆を守る為に自
身を差し出し、悩んだ末に軍勢の指揮官もこの取引に応じたのです。
 ……かくして隠れ里は、辛うじて焼き討ちに遭うことなく、生き延びました。処刑した長
老の遺体を荷車に載せ、軍勢は去ってゆきます。
 いつも笑っていた里の人達は、この日ばかりはわんわんと泣き腫らしました。
 そして誓います。二度と自分達が、外界と関わってはいけないのだと。

 ですが、長い時の流れと人間の止められぬ性が、一度は保たれた均衡を崩しました。
 隠れ里のことが、彼ら独自の文化と芸術が、近隣諸国の人々の間に知られるようになって
きたのです。
 切欠はやはりあの書物でした。どんな経緯がその内容は人から人の手の渡り、複製され、
徐々に共感の声を増やしていたのです。また彼らが作り出す独特な美しさに惚れ込み、一部
で熱狂的なファンさえ生まれていました。
 人知れぬ里が、いつしか一人また一人と外界からの旅人によって明るみにされていったの
です。気付けば隠れ里は、彼らの文化・芸術を愛好する人々にとっての聖地となりました。
小さな里には一年を通して多くの旅人が訪れ、両者の関係を大きく変えていってしまうこと
になります。
『困ったもんだ……。関わっちゃいげねぇって教わってるのに……』
『んでも、向ごうから来るモンは仕方ねーんじゃねえが? 荒っぽく追い返してまた軍隊が
来たらどうしようもねーべ』
『いいっぺいいっぺー。旅人ざん達に悪気はねーんだがら。うちも儲かっていいことずくめ
だきー』
 当初は、先代・先々代からの教えの手前戸惑う者が殆どでしたが、その内里に落ちるお金
にこれを容認する者が現れるようになりました。特に、この人の波をまっさらな感覚で受け
た若い世代には顕著な傾向でした。
『いかん! いかんいかんいかん! おまーら、ホントにわがっとんか!? 約束を破りゃ
あ、今度は俺らの長の首が飛ぶかもしれねぇんだど!』
 その一方で、幼い頃から里の過去を教え込まれてきた年長の世代達は、大きな焦りと共に
この流れに否定的でした。現在の長老だけではありません。もしかしたら、今度は自分達も
また、あらぬ烙印を押されるかもしれない……。
『そりゃあ昔の話だんろ? 今はまた事情が違うべ。向こうから来てるんだがら、こっちに
非はねーだべさー? 考え過ぎだっぺ? 面白くなるんならそれでいいっぺよー』
『それとこれとはまた別だき! 俺らは、隠れなきゃいげねーんだ! 日陰者が日を浴びた
ら死ぬんだで!!』
 しかし互いの主張は噛み合わず、その感覚は次第に温度差が大きくなります。
 若い里の人々は、やがて積極的に自分達の文化・芸術を発信していくようになりました。
その供給に外の愛好家達は喜びましたし、一見何も問題はないように思われました。

 ──いえ、何も変わってはいませんでした。それは致命的だったのです。
 結局は一部の理解に過ぎなかったのです。隠れ里から端を発した享楽は世代を変えても各
国にとっては都合が悪く、その“普通”においてこれらは異端の文化として認識されていま
した。
 ──いえ、その言い方は適切ではないのでしょう。彼らはただ気に食わなかったのです。
 享楽に身を浸して自分達を省みない人々を量産すること、その不都合以上に彼らはそんな
思想があること自体を許さなかったのです。
 許せなかったのではありません。許さなかったのです。どんな論理も方便もかなぐり捨て
れば、只々彼らにとっては忌むべきものでした。この世から抹殺しなければ気の済まない異
物でした。
 王達は、競うようにこの書物を“不適切”として手に入れることも読み解くことも禁止し
ました。違反した者は厳しく罰せられ、取り締まられ、彼らの社会において一生洗い流す事
のできぬ烙印を押されるようになりました。当初はまだやり過ぎでは? と疑問を呈する者
もいましたが、縄を掛けられる人数の桁が増えるにしたがい、やがてその越えも異端として
息をしなくなります。
 次いで各国はこの思想への規制を、当たり前としてそれぞれの属国、国交のある他国にも
求めるようになりました。
 皇國もいわずもがな。実はかつて一度戦で大敗し、支配されていた経験のある同国にとっ
て、つけ入られる口実は何としても避けたいものでした。加えて取り締まるべき仕事が増え
れば、増強してきた軍隊もその存在理由の口実がつきます。何事も守るよりも、壊す方が簡
単で且つ対外的に効果的だとも知っているからです。
 各国は競うように隠れ里の思想を封殺していきました。それでも尚、この文化を愛好する
者は後を絶たず、その度に王達はより厳しい触れを出すことになります。
 いたちごっこのようでした。ですが確実に、その憩いの機会は狭まってゆくでしょう。

 里では、このような事態に陥ったことについて、年長者達は激しく怒りの炎を燃やしてい
ました。その矛先は他でもない、同胞である筈の里の若者らです。
 それみたことか。領分を弁えないから、自分の首を締めるんだ。ただでさえ自分達は許さ
れなければ生きられないのに、その場の快楽に流れるから……。
 老害が。何故そこで闘おうと思わない? 何故認められようと努力しなかった? 里の外
でも理解してくれる人達はいる。そんな化石みたいな考え方に籠もっておいて、元々あった
教えすら守らなくなった癖に……。
 先に生まれた者と、後に生まれた者。
 中にはその年齢とは逆の立ち位置を選ぶ者もいましたが、深く溝を作ってしまった隠れ里
にあっては少数派です。どれだけ言葉を、書物を起こそうが、聞く耳を持つ誰かは限られて
います。

 皇國でも、異変が起きていました。あまりに締め付け続けられる政治に、ついに人々が我
慢の限界を超えて蜂起したのです。
 かねてより隠れ里が生み出した生き方に呼応していた人々だけではありません。その思想
自体とはそう近しい訳ではないながらも、皇らのやり方に不満を募らせた人々までもがこの
闘争に参加し始めたのでした。
 かくして皇國は、その歴史に類をみない激しい内乱へと錐揉みしてゆきます。権力の側も
國民の側もぶつかり合う中で疲弊し、或いは途中で興醒めして──そもそも最初から傍観を
決め込んだ人々の増加によって、先の見えない暗闇に堕ちてゆきました。
 そんな皇國(くに)の隙を、他国が見逃す筈もありません。内側から、外側から侵略の魔
の手は伸び、数十年という歳月の末、周辺国の勢力図もまた変質してゆくことになります。

 日の光を浴びた者達は、旧き同胞を捨て、いずれ光の側にいる者達に喰われるでしょう。
 日の光を嫌い、頑なに避け続けた者達は時代に置き去りにされ、益々屈折するでしょう。
 正しさと己が心証を同一視する者達は、他人びとを掻き乱し、最たる悪となるでしょう。

 いっそ交わらなければ良かった(どうすればよかった)のか。
                                      (了)

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  1. 2017/01/08(日) 00:00:00|
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
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