日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「独々(モノログ)」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:夜、青色、テレビ】


 そういえばここ暫く、太陽を拝んでないな……。ふとそんな事を思った。

 帰って来てからの記憶はない。今日も仕事の疲れが全身に行き渡って、染み込み、重い。
 気付いた時にはぼうっと一人、部屋でテレビを見ていた。尤も点けっ放しだったと言う方
が正確なのだろうが。
 身体と一緒で、頭もぼんやりとしている。似非硝子の使い古したテーブルに片肘をつき、
何をするでもなく座っていた。
 部屋の中は暗い。日はとうに落ちてしまったらしく、天井から下がった照明だけが手元を
中心に集まってゴミばかりの惨状を曝す。一方自分の顔はと言えば、先程から垂れ流しにな
っているテレビの光に当てられているざまだ。元々そんな心算があった訳ではないのに、部
屋の暗がりも重なって目は細まり、瞼の気だるさに拍車が掛かる。
 ……飯、食ったっけ? 風呂は……昨日入ったからいいか。
 どうにも纏まりの利かない脳味噌から記憶を引っ張り出し、やり残した事はなかったかと
自分に問う。
 でも正直な所、気持ちの半分はもう動きたくもなかった。辛うじて昨夜シャワーを浴びた
ことを思い出すとピリオドをつけ、片肘に乗せた頬と体重に力が増す。テーブルの上にまだ
真新しいコンビニ弁当の空箱が広げられているのを見るに、一応食事は摂ったのだろう。
『──! ──!』
 画面の向こうでは、深夜にも拘わらず、ハイテンションな出演者達がトークを繰り広げて
いる。元気だなあ……。脊髄反射的に思い、しかしどうせこれも事前に収録されたものだと
理解してしまえば心は更に冷える。
 寧ろ段々、怒りのような感情すら込み上げてきた。こっちは毎日へとへとになって働いて
帰って来ているのに、手前のそのへらへらした面は何だと。
 むすっとした自分の頬を、ぎゅむっと摘まんで誤魔化した。意味のない感情だ。向こうは
そんな個人の事情など知りようもないし、義務もない。逆にああやって大袈裟に笑ってみせ
ることが、他人に元気を与えるのだと信じている。
 ……心が冷める。
 元より内容など頭には入っていないが、そんな思考にかしかましい彼らの雑音が混ざって
聞こえるだけで隔絶を感じた。ただ漠然とした不快感、虚無感だけがじんわりと反響してゆ
くかのようだった。
 ……あいつらは、恵まれているんだ。
 自分が何年も必死こいてようやく稼ぐ額を、連中は一度や二度の番組に出さえすれば一瞬
で追い抜いてゆく。溜め込んで、そして買い求めたものの大きさを、今度はまた別の番組で
自慢するだけで金が貰える。
 クソッタレが。
 もう当たり前に解っていたことだ。だが脳裏に浮かんでは靄の向こうへ消えてゆくイメー
ジは、否が応にも今の自分というものを意識させられる。
 あいつらは持っていて、自分は持っていない。
 持つ者も持つ者なりの悩みが──。やかましい、そんな言い訳に隠した自慢なんぞは求め
てない。お前達が湯水のように掻き集め、使うその金の欠片一つでも、自分達は血眼になっ
て欲している。欲しているのに、ほぼ百パーセントの結末でそこには届かない。
 疲れた身体を引き摺って、泥のように眠る。目覚めている時に飛び込んでくるのは、いつ
も決まってあいつらの独壇場だ。庶民(ひと)を喰って生きている癖に、その事実を隠して
自分達の味方であるかのように振る舞う。
 ……手前らは、仲間じゃねえ。
 喰う者と喰われる者なんだ。こっちが必死に集めたものを、手前らは掻っ攫い山を築く。
吸い上げられる。どんなに足掻いても埋められない差。絶対の壁。唯一これを覆すには始め
から前者のセカイに立っている必要がある。
 ひっくり返す。恨み、嫉み。
 しかしだからと言って、自分は積極的に向こう側へよじ登って仲間入りしようとまでは思
わない。無理だし、それこそ悩みや苦しみは別の形でもって尽きないからだ。第一檻の中の
珍獣は遠巻きに見ているからこそ自由で、安全だというのに、わざわざ自分からその珍獣に
なろうと思う奴はいまい。
 それに……自分にはその資格さえないと思っている。よじ登る為の努力も、悩みを苦しみ
と膝を詰める覚悟も、自分は何かにつけては怠ってきたのだから。
 普通に学校を出て、技術を身につけ、飛び出していったこの社会。
 だがその後いわゆる荒波──洗礼は手厳しいものだった。たとえ何かしらの技術を持って
いたとしても、その共通点だけなら世の中にはごまんといる。自分ではなくても、もっと別
の──もっと従順で明るく、人好きのする馬鹿を取りたがるのは世の常なのだと知った。
 早い話が、手に職という未来図は早々にどん詰まりになったのだ。
 それは即座に自分を路頭に迷わせる訳ではなかったが、しかし確実に真綿でこの首を絞め
上げる。日々新しくなり、進化していく装置。そもそもの業界のニーズ。何よりも面倒臭い
他人との人間関係。
 こと、自分にとってはこれが最大の理由だった。昔からそう人付き合いが良かったりまめ
な性分ではなく、黙々と機械弄りをしていた方が楽だというタイプだった自分は、気付けば
周りから疎まれ、職場から弾き出されていた。形式上は一身上の都合ということになってい
るが、実際は不要の烙印を押されたのだ。
 心のない部品を抱える義理は無い、といった所か。
 可笑しな話だ。その癖、求めるのは自分達に都合のいい誰かなのに。
 そうやって自分は益々堕ちていった。そこで百八十度転換してコミュニケーションマンに
なろうとはせず、正直なのは機械(モノ)だけだと内に籠もることを選んだ。
 それでも身体は日々疲労する。ならばいっそ、延々と休み続けられればと思ったこともあ
ったが、止めた方がいい。今のこうしたささやかな時間でさえ、常に十字架を背負いながら
暮らさなければならない。二度ほど、そんな時期があった。流石にもう当時そのものは喉元
を過ぎて消えてしまったが、あんな思いは二度と御免だ。
 だからこそ、よじ登ることもできず、しがみ付いている。
 再三にして掴み直せた今の仕事に黙々と汗を流し、疲労をどっさりと背負って帰り、日の
落ちた部屋の中で暫しの休息を取る。
 適当でよかった。少しでも休みたい。飯も、風呂も、掃除も、生きるのに支障が出ないの
なら後回しでもいい。こんな時にすら自分に「べし」の枷を嵌めるのが疎ましかった。それ
が堕落というものなのだろうとは解っていても、余力を持ち帰るのは難しかった。
 だからせめてと、慰める。
 逆に考えよう。自分達が必死こいているから、連中は丸々と太っていられる。自分は奴ら
を生かしてやっているのだと。上下の逆転。……勿論、ただ損と怒りしかないことぐらいは
解っている。解っていても、その都度こうやってちっぽけな自尊心を慰めてやることくらい
しか、暴発する自分を止められないから。
「……」
 気が付けば、テレビの画面は途絶えていた。随分とあさってのセカイを彷徨ってしまって
いたらしい。目の前は砂嵐だ。ザザザと耳障りな音が連続していたように思えたが、それも
不思議と数拍もすれば消え失せたかのように知覚の外になる。
 心が、冷たい。
 いや、そう在れるように何年も掛けて自分を作り直してきたのか。他人びとに露出する、
地位を築くことから離れ、代わりに激しい変化もなく淡々と万事平穏であることを目指すよ
うになって久しいと思う。目に触れるから厄介なのだ。落差があるから辛いのだ。少なくと
も自分が堅く閉ざしてしまえば、被る痛みも与える痛みも最小限で済む。ただそんな静けさ
を愛する心だけを持っていればいい。
 ぼんやりとした意識と疲れの重みの中で、妙に思考だけは饒舌に働く。
 惜しんでいるのだろうか。今日一日、昼間己が前面に立っていないものだから、もっと働
かせろと眠ることを知らないのだろうか。
 ……こんな夜が、もう随分と長い間続いている。記憶にある限り、ここ数年夜にスッと眠
れた試しはない。疲れているし、頭だってぼんやりと靄が掛かっているのだが、最早眠ると
いう行動すら億劫になって久しいのかもしれない。
 ようやく半分倒れかけていた身体を動かし、チャンネルを切った。視界にちらつく砂嵐は
ぴたりと止み、代わりにつるんとした黒い表面に覇気のない一人の男の顔が映り込む。
 ……ああ、俺か。
 そんな当たり前のことを理解するのに、数秒を要した。やはり疲れているようだ。消灯し
た液晶に映った自分の顔は、自分が思っていた以上に青白い。
 ガサゴソ。広がっていたままの弁当箱をとりあえずビニール袋の中にまとめて括り、床に
転がしていた黄色いごみ袋へと捻じ込んだ。いわゆる市町村指定のあれだ。
 腰を上げかけ、横目を遣ったカーテンの隙間からは、少し明らみ始めた外の光が差そうと
していた。思わず眩しくて目を細める。もうそんな時間か。いや、放送が死んでいる時点で
丑三つ時くらいはとうに過ぎている訳で──。
(……寝よう)
 あまり異議申し立てが乱出することもなく、脳内会議は賛成多数で可決された。もう疲れ
が染み渡り過ぎ、押し合い圧し合いするエネルギーすら残っていなかったからなのだが。
 とりあえず、少しでもいいから寝ることにした。流しで軽く口の中をゆすいでから、とぼ
とぼと部屋の中に戻る。灯りを消し、そのままばたりと、万年床と化した布団の上へと倒れ
込んだ。
(そういや、今って何時だっけ? あと何時間寝れる……?)
 まぁいいか。今はともかく寝よう。アラームは入れてあるんだし、ギリギリまで寝てれば
いい。多少オーバーしても、連絡さえしておけば、何とか、なる……。
「──」
 泥のように。許された途端、意識がずぶずぶと深みへ沈んでいくのが分かった。
 忘れて寝過ごしてしまったら? そう端で思いはしたが、もう踏ん張れなかった。沈んで
ゆくがままに、最後の砦(しこう)もとうとう陥落する。

 ……だるい。
 目が覚めたらまた、少しは帳消しになってる(かいふくしてる)んだろうかな。
                                      (了)

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  1. 2016/12/18(日) 00:00:00|
  2. 週刊三題
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
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