日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「輪生歌」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:玩具、観覧車、見えない】


 気付いた時には、君はそこにいる。見覚えはない。何より自分の身体という境界線さえ、
何処かあやふやで消えゆきそうな程に。
 見渡す周りはぼんやりと濃い靄が掛かっている。一方でゴゥンゴゥンと断続的に機械の音
が鳴り、耳に残り続けている。
 すると君の目の前に、ゴンドラが降りてきた。靄の向こうからぐるりと弧を描くように降
りてきた。一瞬だけ、足元が冷たくて灰色の地面であることが分かった。君は誰かに言われ
るでもなく、これにとぼとぼと足を振り出して乗り込んでゆく。
 殺風景な内部だった。金属が剥き出しの内装に、申し訳程度のゴムソファの椅子が左右に
備え付けられている。
 その片側に、木偶が座らされていた。ぐったりと項垂れ、沈黙している。
 だけども君が乗り込んだ次の瞬間、それは動き出した。ぼこぼこと茶褐色の表面が瞬く間
に膨れ上がってゆき、一人の人間の姿へと変わってゆく。
『やあ、ようこそ』
 木偶だったものは言った。君は面を食らって黙っていたけれど、やがて訊ねた。
 ──お前は誰だ?
『何を言ってるのさ。私は、君だよ』
 木偶は答えた。
 ゴゥンゴゥン、直後ゴンドラの扉は閉まって動き出した。君達を乗せた丸みを帯びた箱は
ゆっくりと靄の濃い中空へと昇ってゆく。
 見覚えはない。何より自分という存在の境界線さえあやふやで、はたしてそんなものがあ
ったのだっけと君は思う。
 ──いや、気のせいだろう。これが、私だ。
 でも迷っている時間すら意味を見つけられなかった。
 あやふやで消えてゆきそうになる意識を繋ぎ止める為にも、君は頷くことにする。知らぬ
内に頷いていた。自分の姿形を、定義する。

 回る。廻る。繰り返す。
 それは君がずっと繰り返してきた人生(もの)だ。一生をなぞらえた旅だった。
 ゴンドラは昇ってゆく。特に目的も知らされず、ただ乗り合わせて昇ってゆく。同じよう
な境遇の者達が他にもいるのだろう。時折靄の合間からは、他の無数のゴンドラが遠巻きだ
ったり、或いは案外近い所で廻っているのを見つけることができた。
 特に目的も知らされず。
 だけどそのことをじっと考える暇はやがてなくなっていった。目の前に広がる光景はそん
な思考一つに君を留めておくことを良しとしない。
 登り調子だった。君の心身は活力と希望に満ち溢れ、向かいに座る君もそれにつれてぐん
ぐん成長してゆく。窓の外から見える景色はいつの間にか晴れ間が差して、他の仲間達の姿
がこちらにも気付いて顔を向けていた。手を振っていた。
 その出会いは偶然で、いや、必然だったのだろうか。
 君は次々に他人と出会う。偶々同じリズムで昇り続けていてご近所同士だったからという
のもあるし、或いは途中で相乗りになり、もっと身近に語り明かしたりもした。
 回る。廻る。過ぎてゆく。
 いつかあったあやふやは忘れ去り、君は最強だった。仲間を得て、いつしか君はこんな旅
も悪くないかなと思い始めていた。しばしば、厄介事に巻き込まれて落ち込むこともあった
けれど、それもただ昇ってゆくゴンドラのマイペースさを思えば何てことはない。
 君は最強だった。
 濃い靄も慣れればもう、そんなに恐ろしくはない。自分自身を見つめながら、旅はただ何
を除いても続いてゆく。

 だけどね。いつかゴンドラは頂点を迎えるんだ。そうすれば、後は落ちてゆくだけ。
 君は最強じゃなくなった。いや、そもそも本当に最強だったのかい?
 ギシ、ギシ。君はやがて気付くだろう。ゴンドラを常に煽っているのは、靄の合間を縫う
ように吹き付ける風だと。それ一つ一つは何てことはない小さな揺れであっても、いつしか
それらは君をどうしようもなく痛めさせる。ガタを来させるんだ。
 いつしか晴れ間のあった靄は、また濃くなっていた。時を経て、出会った筈の仲間達も気
付けばまた遠くへ離れていってしまう。或いは自ら身を引いて離れていった。いつかそうな
ると、君は何処かで解っていた筈なのに、実際にそうなるまで考えようともしなかった。
 ──何の為に、ここにいるのだろう?
 猶予期間(モラトリアム)が終わるのを待ちかねた荒波が、これみよがしに君へと襲い掛
かる。夢や希望、甘い言葉で君を最強たらしめていた者達は掌を返し、浸り続けていた君を
罵倒する。
 君は最強じゃなくなった。向かい側に座る君も、はたして成長したという表現はどこまで
正確だったのだろう。
 それでも最強を目指す? 諦めて、無難な着地点を目指す? 或いは──。
 ゴゥンゴゥン。ゴンドラは時折軋みながら旅をする。君を乗せて下り調子に入り始めた旅
を止めようともしない。
 ──止まってくれ。
 願っても叶いはしなかった。そもそも君に操舵の術はない。ただ乗ったら最後、降り切る
まで揺られるだけだ。ちゃんと覚えていれば忘れることはなかったのに、君は、君達は自ら
の意思でそうした。この境目の解らぬ靄の中で、正気を保って笑っていられる為に。
 ──こんな筈じゃなかった。
 ──失敗した。失敗した。失敗した。
 ──早く、もっと違う所へ往くんだ。
 だからなのだろう。君達はしばしば自らゴンドラの扉をこじ開け、靄の中に身を投げた。
その先に何があるのかは分からずに。だけでも今ここに居続けることよりはマシだと、何か
が変わると、逃げ出したいと強く願って飛び出すんだ。
『無駄だよ?』
 ギチチ。向かい側に座る君が、ぎこちなくこちらに首をもたげる。こじ開けられて、ぶら
んぶらんと揺れるだらしない扉の先を見つめている。
『意味なんて、見つからないよ?』
 でも、背中にそんな言葉を投げられた頃には、もう時既に遅しなのだろう。君の姿はもう
ここにはなくて、靄の中に消えて、実際それからどうなったかなんて一々知る術すら持って
いやしない。
『どうせ、繰り返されるんだ』
 ギチ、ギチチ。逆再生するように向かい側に座る君は正面に項垂れて、独りでにぼこぼこ
と姿形が変わってゆく。本来の木偶に戻ってゆくからだ。程なくして君だったものは個性の
この字もない雛形に戻り、ぐったりと依り代を失って次の旅人を待つ。

 ぬっと手が伸びる。靄の中へと、分かりようもない誰かの手が下へ下へと伸ばされる。
 大きな手は、やがて一つの君を拾い上げた。器用にちょこんと摘まんで、灰色に痩せ細っ
た人型だったものを靄の中から持ち上げてゆく。
 試すすがめつ。それは大きな掌の中でこれを見ている。軽く埃を払い、汚れを吹き飛ばし
てから、キュッキュッと力を込めてこれを再起動(リブート)させる。
 意味なんて、ないよ。
 ただ、単純な作業。弄ぶだけの営み。
 どれだけ君が君達が疑い、リタイアしても、彼らは何一つ心を痛めることなく遊び続ける
んだ。ギミックから零れ落ちた駒達を拾い上げ、またそのルーティン上へと配置し直す。
 そうやってまた。或いはゴンドラを降り切って、やつれ細った君を。
 使えそうならまた丁寧に汚れを拭い、修理してそこへ置いてやる。逆にもう無理そうなら
ぺいっと廃棄する。だけども君達はそんなことは知らないし、分からない。大きなそれを、
見上げることを知らないのだから。目が合うことなんて無いのだから。

 ゴゥンゴゥン。目の前にゴンドラが降りて来る。回る。廻る。繰り返す。
 前の君はリタイアした側? それとも何とか完走した側? だけどきっとどちらだったの
かどうかはあまり重要じゃない。使い回せるかどうか、だ。そして使い回せるならそのまま
乗せられるし、回せないのなら人知れず二度と出会うこともない。
 気付いた時には、君はそこにいる。見覚えはない。何より自分の身体という境界線さえ、
何処かあやふやで消えゆきそうな程に。
 見渡す周りはぼんやりと濃い靄が掛かっている。一方でゴゥンゴゥンと断続的に機械の音
が鳴り、耳に残り続けている。君は誰に言われるでもなく、靄の中から降りて来たゴンドラ
に入ってゆく。再起動(リブート)されることで忘れ去っていた。君はもう、君だった頃の
君じゃない。

 回る。廻る。繰り返す。答えすら用意されていないセカイで。
 そういえば、これで一体何度目だっけ?
                                      (了)

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  1. 2016/12/11(日) 00:00:00|
  2. 週刊三題
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
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