日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「廃杜」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:森、墓標、テレビ】


 ──自ら考えることを止めた時、俺達はただの獣に成り下がる。最早人ですらない。

 キリヤは常日頃そう考え、自分に言い聞かせて毎日を過ごしていた。目的すらも定かでは
ないこの世界で、辛うじて生き続けていられる唯一の言い訳だった。
 今日も今日とて、送波塔の一角に座っている。窓を開け放っていても内部はどうしたって
埃臭く、複雑な構造故にあまり光も充分には届かない。
 ずらりと目の前に設えてあるのは、巨大な箱型の機械の列。それらは無数の太いケーブル
で互いに繋がれており、アトランダムに各面に付いているランプを緑や橙に明滅させながら
休むことなく働き続けている。
「……」
 これを見張るように、その実ただ居ることぐらいしかできなくて、キリヤは木椅子をいつ
もの位置に引っ張ってきて腰を下ろしたまま、今日も今日とて“文ノ部(ブッカー)”から
借りてきた古書を読むばかりの日々だ。
 本日も、異常なし。尤も何かあったとしても、今の時代の人間(じぶん)達にできること
など限られているのだが。
 ちらり。読書の傍ら、足元に置いてあるバケツの中身を見る。今日はまだ機材に喰わせる
必要はなさそうだ。視線は文面から足元、窓の外へと二転三転し、そこに広がる鬱蒼とした
緑にキリヤは内心嘆息しかでない。

 “杜(もり)”。由来は知らないが、皆がそう呼んでいる。
 もう何百年も前のことだ。人間達は──文明を諦めた。
 ひたすら生産と消費、争いを繰り返し、いずれ衰えて死ぬしかない己が身を憂い、かつて
の有力者達はその活動を捨てたのだという。結果、残されたのは放置された金属や石の建造
物群で、長い歳月を経てそれらには無数の植物が絡みつき、繁茂した。まるでこの時を待っ
ていたかのようにである。皮肉にも、自然は人のそれと反比例して栄華を取り戻した。
 ……だがそれは、残された大多数の人間達にとって、悪夢でしかなかったのだろう。
 統率する者を失った人類。その癖、自分達には彼らの“尻拭い”ばかりがおっ被された。
 最初の内は必死にかつての繁栄を維持しようとしていた人々も、歳月と世代が移ろうごと
にそこには諦めが充満していった。活力ではなく、無気力。かつての有力者達が身勝手に辿
っていった同じ道を辿り、今や多くの人は漫然と生まれ、生きる。
 物作りの“物ノ部(マイナー)”。
 物弄りの“建ノ部(ビルダー)”。
 食料調達班“狩ノ部(ハンター)”。
 教育と福祉を担う“守ノ部(シッター)”。
 そして先人達の文献から知識や技術を発掘する“文ノ部(ブッカー)”。
 成人した者達は、いずれかに属する決まりになっていた。キリヤはこの内の二番目、遺さ
れた建造物や道具のメンテナンスに関わる建ノ部(ビルダー)の仕事をしている。内容自体
は物ノ部(マイナー)と根っこを等しくするが、あちらが体力を費やすことが多いのに対し
て、こちらは知力──ある程度の学がないと務まらない。自身の興味関心からして第一希望
は文ノ部(ブッカー)だったが、あそこはその性質上、今や残された人類を牛耳るグループ
になりつつある。そんな面倒事という意味では、キリヤは願い下げだった。

「先輩~」
 そうぼんやりと古書に目を落としている時だ。ふと通路の向こうから小柄な少女が一人、
駆けてきた。同じ建ノ部(ビルダー)の後輩・コウメだ。
「あ、やっぱりここにあったんですね。“生体金属”。何個か貰っていきますね?」
「ああ。何処かトラブったか?」
「二十七番のC機が元気なくなってきてます。普通に代謝切れだと思いますけど……」
「そっか」
 なら持ってけ。キリヤは足元のバケツ──ぶつ切れの金属片が幾つも詰め込まれたそれを
顎で指して促した。コウメも頷いて、そこから何個が持って駆け戻ってゆく。
 少し離れた、向こう側の機材の一つに、彼女がこの金属片を近付ける。
 するとどうだろう。ずぶずぶと、まるでこの箱型の機械はそれ自体が生きているかのよう
に金属片を呑み込むと、ちゅぽんと表面に波紋を残して大人しくなった。そしてそれまで明
滅の弱かったランプが、少しの間を置いて強さを取り戻す。
 “生体金属”。この時代には欠かせない特殊な金属だ。
 その原料発掘と生産は物ノ部(マイナー)が一手に担っているのだが……ことこの送波塔
の機械達にとってはなくてはならない。詳しい原理は未だ以って不明だが、定期的にこれを
“喰わせて”やらないと上手く働かなくなるらしい。
「中身やケーブルの破損じゃなくて良かった。あれが起こると面倒だからなあ……」
「そうですか? 私は仕事のし甲斐が出来て楽しいですけど」
 にこにこ。残った生体金属の欠片をバケツに戻しに来て、コウメは言った。
 ……お前は若いなあ。キリヤはぎこちなく苦笑(わら)う。無数にある、杜に喰われた建
物らの中で、何故この送波塔だけはここまで人を入れて維持しなければならないのか? 少
なくともその理由を知っている身としては。
「お……?」
 そしてそんな最中だった。通路奥端の階段から数人の男達が登って来たのを見て、キリヤ
は少し顎を上げた。建ノ部(ビルダー)の同僚達だ。向こうもこちらに気付いて軽く手を挙
げて挨拶してきている。
 懐から懐中時計を取り出して確かめた。そろそろ交代の時間のようだ。同じく彼らを肩越
しに見ていたこの後輩に向けてやりながら、キリヤは言う。
「さてと……。コウメ、ぼちぼち外回り行くぞ」
「はいですっ」

 建ノ部(ビルダー)の仕事は、何も室内だけではない。
 キリヤとコウメは交代の同僚達に塔内を任せ、杜の中へ足を踏み入れていた。
 先人達が文明を諦めて以来、歓喜するように無尽蔵に繁茂した緑。通常なら一歩踏み入れ
ただけでも遭難確実なのだろうが、幸い先輩達が繰り返し道を切り拓き、順路の杭印を作っ
てくれているお陰で、そこを外れない限り基本素人でも行き来はできるようなっている。
 二人は生体金属を詰めた籠を背負い、杜の中を進んでいった。時折何処からかスパンッと
小気味良い弓の音が聞こえる。今日も狩ノ部(ハンター)達の仕事は盛況のようだ。一応街
にも畑は作られているが、杜の豊かな自然があれば食料には事欠かない。
「……いた」
 杜を巡り、二人が探していたもの。それは人であって最早人間ではなかった。
『──』
 見た目は二足歩行の人型と思われる。だがその頭部はごっそり歪な箱型の金属に覆われて
しまっており、正面の画面風な硝子質にはザザザと心電図のような波形とノイズが延々流れ
続けている。
 更に、異形なのは頭部だけではない。手足や胴、身体の至る部分に金属化が進んでおり、
彼らは一言も言葉を発する訳でも交わす訳でもなく、ただめいめいにぼうっと立ち、或いは
倒木や大きめの石に力なく座ったりもたれかかったりしている。
 ……これが、かつての先人達、全ての始まりとなった有力者達の成れの果てだ。
 数百年前。全てが磨耗し、飽和し切った世界で、人々は生体金属というこれまでにない新
しい素材を発見した。特に彼らが目をつけたのは、これらが人体を代替しうる物質であった
ということ。
 こと、金に糸目をつけなかった権力者・金持ち達はこぞってこの生体金属を欲した。手に
入れて、自らの身体に埋め込んだのだ。永遠の命──ただその目的の為に。
 従来の肉体は滅んでも、生体金属が自身と同化した状態があれば、自分という人間は半永
久的に持続可能な存在となる。何も憂うことのない、朽ちることのない存在。ただその為に
は定期的に生体金属を補充しなければならない、その一点だけを除いて……。
「相変わらず不気味ですよねえ。何でこんな姿になることを望んだんだか」
 箱型頭の金属人形となったかつての人々の間をぐるりと通り過ぎ、コウメはごちた。
 全くだ。それはキリヤも同じ想いである。だが彼女ほどストレートにその感情を表には出
さないよう努めている。その感情に向き合い続ければ、それこそ自分達が今ここに生きてい
る意味自体が崩れてしまうからだ。
 ……かつての有力者達は、その他大勢の同胞達を置き去りにした。生体金属の産出・製造
方法など必要な知識と技術を後世に残し、その世話を全て彼らに擦り付ける形で。
 送波塔もその主柱の一つだそうだ。大昔から稼動するあの機械群からは、この彼らがめい
めいに最も心地良いと感じる様々な情報──映像や音楽、匂いや触覚などが常時垂れ流され
ているのだという。
 半永久的に朽ちぬ身体と、己が快感のみを貪ることを許された意識(セカイ)。
 発掘された文献にはそう書いてあった。尤もその実、彼らのこの頭部をかち割りでもしな
い限り、事の真偽は分からないのだが。
「……さっさと済ませるぞ。別に新しいルートまで開拓しなくていい。そういうのはもっと
熱心な奴や、狩ノ部(ハンター)達に任せとけ」
 最早人ですらない。
 キリヤはコウメと共に、既に発見されている彼らを順繰りに診て回り、その体表面に生体
金属を喰わせて補充してやるいつものメンテナンスに取り掛かった。尻拭い、である。現在
生まれ、生きている人間達は、もう顔の名前も知らないこの者達の永遠とやらの為に使われ
続けるのだ。
 勿論、そのことに疑問を感じ、反抗する者もいなくはなかった。七十年前は生体金属の製
造拠点の一つがそうしたグループに襲撃されたし、九年前には子供──未来の“奴隷”達ば
かりを狙った通り魔殺人も起きた。どちらとも即刻“殺処分”されたが、この犯人達はあん
な奴らの為に働くことなんてないんだと最期まで叫び続けていた。
 それでも……人は慣れの生き物なのだろうか。崩壊して、また形作られた秩序の中に、多
くの者達は従うことを選んだ。
 或いは無気力、考えることを止めてしまった方が楽だと解っているのかもしれない。意味
なんてものは所詮後付で、生まれたことを悔いても何一つ生み出せるものはないのだから。
 今や文ノ部(ブッカー)が権力者の類に就いていることもあるのだろう。過去から学び、
過去から託された役目があるからこそ存在しえる彼らにとっては、当然の態度か。
 どちらにせよ、人は緩やかに滅びへ向かっている。
 その最大の理由は言わずもがな、生まれてはきても、尻拭いしか意味がないからだ。未来
を繋ぐことが叶わぬからだ。無気力はやがて生殖という生物としての基本行動すらも放棄さ
せがちになって久しくなっている。一人また一人と、広まりつつある。
「あ、先輩。この人……」
「ああ。死んでるな。場所が場所だけに見落とされてたのか」
 そうして暫く杜の中を歩いていると、ふと順路の小脇に一体、げっそりと骨だけが生体金
属に纏わり付かれている亡骸を発見した。木々と朽ちた廃屋が陰になって気付かれなかった
のだろう。元の身体はとうの昔に削げ落ちて頭部の画面もシグナルを失い、ただ歪に散在し
た生体金属の残骸が転がっている。
「コウメ、物ノ部(マイナー)に知らせて来い。面倒だが、こいつは再利用(かいしゅう)
できそうだ」
 二人して、この亡骸だったものの前に屈み込んで。
 キリヤはそう、傍らの後輩に淡々と指示を出していた。
                                      (了)

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  1. 2016/11/20(日) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
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