日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「バーティカル」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:時流、歪み、眼鏡】


 二×××年。科学は飽和し、されどその度にこれを突き破る者達が現れてきた。
 そんなこの年、満を持して世に放たれた発明がある。カスタム・ギア──ゴーグル付きの
ヘッドセット型デバイスだ。
 基盤部分はちょうど、装着した際のユーザーの後頭部。
 両耳には丸く、しっかりとフィットするやや大きめのスピーカーが伸び、更に観音開きの
要領でこのデバイス専用の特殊なゴーグルも接続されている。
 そう、他でもないこのゴーグル部分がこのデバイスの肝なのだ。これは単に一昔のスチー
ムパンク的なファッションではない。ゴーグル自体がユーザーに情報を与えるディスプレイ
の役割を果たしている。
 大きな要素の一つはVR。ギアを装着して街を歩けば、その都度視界に様々な情報が別窓
になって表示される。加えて同梱されている掌サイズのグリップ・コントーラーを使えば、
パソコンの画面にマウスを這わせるが如く、任意の情報を詳しく閲覧することができる。
 そしてもう一つ。カスタム・ギアが「カスタム」の名を冠する理由は、同デバイス最大の
タグ登録機能にある。
 ショッピングや音楽、芸能、健康、或いは漫画・アニメといったサブカルチャーまで。
 それら自分の興味関心のあるジャンル──更に細かいキーワードを予め設定しておけば、
街ゆく同じユーザーの誰が自分と同様の趣味を持っているか、或いは持っていないかを即座
に判別できるのだ。これにより、リアルの世界を生きながらもより効率的に同好の士を探す
ことが可能となり、人々と繋がれるという訳だ。

 ……だた、新しい技術というものはやはり中々万人には理解され難い。
 カスタム・ギアが発売された当初、巷のメディアはこぞってこれを批判的に扱った。曰く
機械を被ったまま出歩くさまが気味悪い、自分の「好き」だけを選び続けることは人間とし
ての幅を狭めることになる云々。
 要するに、既存メディアやコンテンツ産業がその領域を侵されると危惧したのだろう。た
だでさえネットワークの発達により、各種コンテンツは彼らの専売特許ではなくなってしま
った。本来は違法だが、現実としてこれらの海賊版は巷に溢れており、少なからぬ人々はよ
り安価でより自由な方法でこれらを楽しむという選択をしている。そんな状況で更に、外に
出てまで個々人の「好き」の中に閉じ篭られてしまっては、商売上がったりという訳だ。
 実際、そういった批判は一面で正しかった。
 カスタム・ギアは個人の「好き」を可視化し、同じ仲間達を集わせる。だが一方でその対
極、彼らの「嫌い」を好きとして集まる者達も同じく存在するのだ。
 するとどうなるか? 答えは大よそ単純化され、二極化する。徹底的に避けるか、攻撃せ
ずにはいられないかの二択である。
 文字通り身につけるデバイスではあれ、その本質はSNSに近い。かつて乱立したそれが
呈した様相のように、ユーザー達は白か黒、右か左かに分かれて争い始めた。VR上とは言
いながら目に見えて互いの趣味趣向が判ってしまうことは、同志との結束以上に忌むべき存
在へのより強い敵意を招いた。
 一部のユーザーは、それこそ画面の前だけではなくリアルに立つそのヒト個人に向けて敵
意を露わにした。泥沼の争い、可視化されたインターネッツ。電脳世界でも現実世界でも、
「○○は××主義者」だとのレッテルの貼り合いが横行し、ピリピリとした空気が彼らの心
を支配していった。
 されど一方で、その他の大部分のユーザーは沈黙(きん)を選んだ。カスタム・ギアが実
装した更なる機能、ユーザーブロックにより、相容れなさそうなタグや性質を備えている相
手を見つければ片っ端からブロック──“いないもの”とする。ゴーグル越しに映るのは、
人型でこそあれ風景として溶け込む、自衛的に排除した「その他」達だ。
 故に、ユーザー達はどちらにせよ、自分の眼に映るセカイを“最適化”するのである。

 有識者により、問題は少なからず挙げられた。問題だと問題化された。
 それでも、カスタム・ギアは空前のヒットを飛ばすこととなる。街には携帯端末の代わり
にギアを装着する人々で溢れ、より一層、人間の為に整備された人間による街が形成され、
人々はより自身の興味・関心の中に埋没した。流行とは、個を顧みることなくこれを呑み込
んで前進、消費されゆくものなのである。
 かくして“流行”は“当たり前”となった。今や日常のあらゆるシーンでカスタム・ギア
のユーザーを観ることができる。

「──ええい! 仕事中くらい、外さんか!」
「そう言われましても……。部長の指示は聞き漏らしませんし、やり取りは全てログとして
再確認できます。他の取引先とも、ギア越しにすぐに連絡が取れますしね」
「……ぐぬぬ」
 日常のあらゆるシーンで。それは昼夜問わぬオフィスでも同じだ。
 ギアを装着したままの部下に、装着してない禿頭の上司が顔を真っ赤にして怒っている。
だがこの年下の部下は、同デバイスを使う利点と既に多くのビジネスシーンで使用が前提と
なっていることなどを挙げ、この旧世代の上司を論破していた。
「常識的に考えて、無礼だろう!? 他人の眼を見て話せと教わらなかったのか!」
「見てますよ? こうして面と向かっているじゃないですか」
 嘘だ。この男性は正直この時代遅れの年寄が嫌いで、とうの昔に「ブロック」している。
「形式じゃない、印象の問題だ! 全くどいつもこいつも、機械で顔を隠して平然と……」
 ぶつぶつ。上司は結局、感情論にもってきている。そんなやり方は、もう一世紀以上も前
に否定され尽したというのに。
「社則で禁止、ともなれば別ですけどね……。はたしてそれで他社に勝てますかどうか」
「ぬぅぅ……ッ!!」
 やれやれ。あくまで礼節を以って接しているようで、内心見下して厭わないでいる。
 オフィス内の他の社員達も、一斉に誰からともなくこの二人のやり取りを見ていた。その
全員が、カスタム・ギアを装着して平然としている。
(許さん……許さん、許さん! どいつもこいつも馬鹿にしおって……!)

 だからか、いつの頃からかカスタム・ギアは、ユーザー同士だけではなく愛好する者とそ
うでない者さえも分け隔てるようになった。後者は見た目の不気味さ、こちらへの誠意のな
さを感じて憤るが、前者はとうにそんな自分に“不利益”はゴーグル越しにブロックして受
け流している。未だにネットワーク上では、ユーザー同士の主義主張のぶつかり合いは続い
ていたが、それは一部の者。大半のユーザー達はより自分だけにカスタマイズされた五感に
どっぷりと順応し、心の平穏を確保していた。
 ……しかし、そんなヘヴィユーザーにも悩みはある。即ちギアを外さざるを得ないような
場合だ。
 具体的には入浴時や着替え、特定の服装・防護服などに身を包まなければならないシーン
である。一見すると実に淡々と日常をこなしている彼らだが、中にはこうした行為を避ける
があまり、こうしたシーンに遭うと酷く錯乱してしまう……そんなケースが正式リリースか
ら数年、各地で報告され始めていた。
「いいから入りなさい! 身体が汚れだらけになるじゃないの!」
「嫌だ! 嫌だ嫌だ嫌だ! や、止めてくれーッ! 耳が、耳が潰れるぅぅッ!!」
「……は? 辞める?」
「はい。ギアを着けたままラインに立てないのならば、仕事はできません」
「お、おい。拙いぞ……」
「ああ……。こいつ、ギアぶんどったら勝手に発狂し(しに)やがった……」
「──ではもう、貴方は何年も他人と話していなかったと?」
「そうですね。ベータ版から数えてもう七年になりますか。記者さんとこうして話す以外は
全部、ネットワーク越しのメッセージで済ませていましたから──」
 カスタム・ギアによって、世の中は確実に変容していた。
 長い歴史から見れば些細な、たった一つの変化なのかもしれない。しかし今この時代に生
きる人々、特に若年層以下の世代にとって、ギアは必需品であり、個人の人生そのものであ
ると言ってもよかった。
 ネットワークの海から入手できる膨大な数のコンテンツ。それを誰にも邪魔されず、自分
の目と耳、或いはVRが作る感触さえも合わせて体験できるという事実。
 人々は、見たい景色を見ていた。聴きたい音楽を聴き、話したい相手と話していた。
 ギア開発元のCEOも愛用者の一人だった。機能はユーザー達の要望によって随時拡張・
更新され、どんどん彼らにとって世界はカスタム・ギアそのものになっていく。
『──私はもっと人々が安全に、平穏に、効果的に繋がる世界を作りたかったのです』
 趣味嗜好・主義主張は人によって違う。それは当たり前だ。だがそれを知らぬまま接触し
てしまうから、互いに不毛な時間を消費してしまう。ならば予めある程度判っていれば、避
けられる争いもある筈だ。よりスマートに、クリエイティブに、各々の持てる才能を発揮で
きるよう、そのリソースを凝縮しようではないか。
「意見の異なる相手をブロックすることで、多様な考え方や、議論の文化が廃れはしないで
しょうか?」
『ブロックはあくまで手段さ。既に多様性はある。だからこそ、それ以上貴方が侵略する者
や侵略される者にはならず、より相手を選べるようになればいいと思う。……これは是非皆
で共有しておきたいことだけど、議論とはAとBとを磨り合わせ、最適解Cを作ることだ。
どちらかが勝って、負けならなければならない──そんな前提で行われるものを私は議論と
は呼ばない。決してね。さて、そんなごく理性的で当たり前の態度を、一体どれだけの人間
が守れているのだろう? 相手を選ぶ権利くらい、あってもいいとは思わないかい?』
                                      (了)

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  1. 2016/11/06(日) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
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