日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(長編)ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-〔9〕

 ヒトの歴史とは、争いの歴史と言い換えることもできるだろうと思う。
 聖域・霊界(エデン)より始まったセカイの伸張と神々の乱立、創世の時代。
 神々からの独立を模索し、魔導という力を確立した古種族台頭の時代。
 特権的力となった魔導を人々に開放させしまんとし、争い混乱に落ちた改革の時代。
 混乱の中で成立した、穏健なる「神竜王朝」の勃興とのその滅亡に至るまでの時代。
 あらゆるセカイを巻き込み拡がった覇権を争う群雄割拠、空前絶後の乱世の時代。
 戦乱を統一した「ゴルガニア帝国」とその原動力たる機巧技術の大成、開拓の時代。
 だがそんな強権さゆえに人々の反旗によって滅ぼされ、再び混乱の中に落ちた時代。
 そして──そんな混乱を経て、各世界政府が樹立され今日に至るこの時代。
 どの時代にも、人々の争いがあった。
 旧来の姿に寄り添う者達と、そこから脱皮し新たな姿を希求する者達。
 往々にして彼らは相容れずにその懸隔こそが争いの火種となってしまう。歴史でも、個々
人の事であっても、現実に多くの争いはそうした“溝”が発端となることが多い。
 僕は……思ってならないのだ。
 どうしてヒトは、これほど共存することを難しくしてしまうのだろう。どうして相手の思
うそれらを許し、重んじることができないのだろう。
 何よりも──どうしてそんな現実を変えたいを願うことすら、許されないのだろう。

 僕は妖精族(エルフ)の一部族の集落に生まれた。
 豊かな自然と古き良き伝統の中、僕らは静かに時を過ごしていた。
 でも時折そんな僕らの集落にも、ヒューネスなど他の種族が訪れることはあった。
 勿論、里があるのは天上界の一つ・古界(パンゲア)であり、現在身を置く地上(ここ)
──顕界(ミドガルド)に比べればそう人々の出入りは多くなかったけれど。
 それでも異文化、外よりもたらされる刺激は、歳若かった僕には憧れだった。
 僕らの生きるセカイはこんなにも豊かさに満ちている。そんな未だ見ぬ地を思うだけで胸
が躍った。
 だけど……里の先達らはそんな交流すら快く思っていなかったらしい。
 僕ら里の若者が外からの商人らとやり取りを交わしているのを見かけるだけで咎め、彼ら
を時に力ずくで追い出すことさえあった。
『いいか、お前達。ゆめゆめ“秩序”を乱すな。我らはセカイの要素なのだ。その領分を弁
えず徒にセカイを掻き乱す輩に肩入れすることはあってはならぬ』
 長老らはそう何度も、耳にタコができる程に説教を繰り返した。
 あの頃は、外への憧れと若さでじゃじゃ馬だったのかもしれない。今の自分なら、あの頃
既に周りの同族(なかま)達から白い目で見られていた事にも気付けたかもしれない。
 でも……気付くのが遅かった。もう、取り返しがつかない程に。
 だから僕は故郷を出た。
 これ以上、僕の思いで誰かが傷付くのが怖かったから。これ以上、大切な人達を危険に晒
したくなかったから。
 悔しかったけど……里を捨てるしか、なかった。

 長い旅路だったと思う。
 パンゲアをぐるりと巡っても同志は中々見つからず、やがて僕らは地上界に降りた。
 そこでようやく、僕らは長老達の言葉が指す「負」を知った。
 豊かさ。だがそれは必ずしも皆が幸せになるそれではなかったのだ。
 機械が轟音を上げ、魔導が連発され、精霊達が疲労を訴えている。それでも人々は何食わ
ぬ顔でその犠牲の上に成り立つ限定的な繁栄を謳歌しているように見えた。
 だがそれでも、心が百八十度回ってヒューネスらを憎まずに済む事ができたのは……間違
いなくイセルナ達との出会いがあったからなのだろう。
 冒険者。汚名を着せられても、大義を信じて戦うその姿は眩しかった。
 そして皆と出会い、共に時間を共有していく中で、僕は……ようやく腰を落ち着ける場所
を見つけたように思えた。心の、底から。
 クラン・ブルートバード。
 イセルナを団長に擁き、ブルートの名を冠し、仲間達と共に打ち立てた僕らの居場所。
 十数年。エルフの僕には瞬き程度にしかならない時間の筈なのに、とても心穏やかな時間
であることに疑いはなかった。
 イセルナやダン、ハロルドにリン。そして少々ぶっきらぼうな友・ジークに、団員達。
 皆が、僕に居場所をくれた。里を捨て、居場所を失くした僕に安住の地をくれた。
 だから……守ってみせる。今度こそ僕の手で。
 何とも因果な巡り合わせじゃないか。……そうだろう? 楽園(エデン)の眼。
 だが、たとえ相手がお前達であってでも。
 友(ジーク)を仲間を手に掛けようとしたその所業──決して僕は、赦しはしない。


 Tale-9.旧き者、拓かん者

「団長、皆!」
 ホームの酒場にはイセルナを始め、クランの面々が既に集まっていた。
 サフレらと共にその場に駆けつけたジークは、その焦りと心配の表情(かお)が並ぶさま
を目の当たりにする。
「おぅ、お前らか。……つーことは、ジーク達も知らないのか」
「ええ。俺も初耳ッスよ」
「シフォンさん、どうしたんでしょう?」
「そりゃあこっちが聞きたいよ」
 ジーク達の姿を認めて、ダンはぼやいていた。という事は、彼がホームの何処かにいるの
ではないかという希望的観測は呆気なく崩れたと言える。
 事情を聞こうにも皆が疑問の中で、互いに持ちうる情報は無いに等しいらしかった。
「妙だぜ。あいつはまめな性格してるからなぁ、遠出をするなら誰かに言伝を残している筈
なんだが……。イセルナ、お前も聞いてないんだよな?」
「ええ。依頼にしろ何にしろ、彼が遠出するような話は一言も来てないわ」
 イセルナはあくまで冷静に答えていたが、そこから漏れる気配は有事に皆を率いる団長と
してのそれに満ちていた。
「……シフォンの身に、何かあったのやもしれぬな」
 そして、彼女の肩に乗っていたブルートが皆を見渡して、
「我らが標的にされる理由。皆も見当がついているのだろう?」
 そう怜悧な猛禽類の眼を細めて言う。
「……あの黒ずくめの連中か」
「くっ……。僕ではなく、シフォンさん──外堀から狩るつもりか」
「マスター……」
 眉間に皺を寄せたジークの横で、サフレがぎゅっと拳を握り占めていた。
 十中八九、発端であろう自分を責めているのだろう。そんな主に、マルタは心底心配そう
な表情(かお)で掛ける言葉をすぐに見つけられずにいたものの、そっと寄り添っている。
(チッ。単独行動に気付いた時点で諫めておくべきだったか。しかし、俺はともかく慎重な
性分のあいつが何で……?)
 クラン中核メンバーの行方不明。その動揺で団員らはざわついている。
 そんな中であって、副団長(ダン)は一抹の後悔と疑念を抱き、
「落ち着いて、皆。とにかく探しに行きましょう。三班に分けるわ。私と来る者は街の西側
を、リンと来る者は東側を、ダン達はギルドと中心街をお願い。ハロルドと支援隊の皆はこ
こに残って情報整理と私達との連絡を。急ぐわよ」
『ういッス!!』
 隣の団長(イセルナ)は次の瞬間にはそう、皆を宥め指示を飛ばしていた。
 緊張の中、団員らが重なった声で弾き起きて三班に分かれて散っていく。サフレとマルタ
はイセルナの、ジークはリンファの班に加わる。
「リンさん、もう動いて大丈夫なんスか?」
「ああ。おかげ様でね。完治とまではいかないが、もう十二分に戦えるさ。それよりも今は
シフォンが気掛かりだ。急ごう」
 足早にホームを後にしていく三班。
 ジークも当然その一人として酒場を出て行こうとしたのだが。
「に、兄さん。僕も」
「駄目だ。お前はハロルドさん達と……いや部屋にいろ。こいつは俺達クランの問題だ」
 その後ろ姿を、おずおずとしたアルスが呼び止めようとする。
「で、でもっ……!」
「いいな?」
「……。うん」
 しかしジークは弟の随行を許さなかった。
 それはひとえにもしかしたら危険な事になるかもしれない事態に、一介の学生である彼を
巻き込むまいとした気持ちだった。
 それでも、アルスは間を置いて頷きながらも不服さを隠さなかった。
 ──僕だって、仲間だよ。
 まるでそう言いたいかのように。
「ジーク。そういう言い方は」
「いいんです。行きましょう、時間が惜しい」
「……。分かったよ」
 だがそれでも、ジークはそんな無言の訴えを敢えて振り切るように振る舞っていた。
 思わず窘めかけたリンファを制止するようにして、そう自分達の班を出発させしむ。

 シフォンの姿を求めて、ジーク達クランの面々は暮れなずみの街を駆けた。
 徐々に活動から休息、眠りへと移り変わっていく街並みの中、大人数が時に一挙に通りを
駆け抜け、時に散開して注意力の眼を撒き払う。
「シフォンさーん!」
「何処行っちゃたんですかー!」
 少なくなってきた通行人からの聞き込みや、骨董屋や書店といった彼が好みそうな場所を
中心とした人海戦術。それでも当の本人の姿は見受けられない。
「ブルート、シフォンの気配はする?」
「……少なくともこの辺りでは感じ取れぬな」
「西側(こちらがわ)にはいらっしゃらないのでしょうか?」
「分からぬ。それに街の中にいるとも言い切れぬしな」
「やはり、僕の……」
「責めるのは後でゆっくりとね。今はそれよりも身体を動かしましょう?」
 周囲に散って捜索網を広げていく団員らを見遣りながら、イセルナは不安げなこの新入り
二人を励まし、静かに微笑む。
「シフォン・ユーティリアさん、ですか?」
「おう。ここには来てないのか?」
「姿が……見えないの」
 マーフィ親子らの班はギルドに飛び込むように足を運び、窓口の職員に問い詰めていた。
 レギオンのギルドはその業種の性質上、基本的に昼夜を問わずに門戸を開いている。それ
でもラウンジに屯している冒険者らは昼間ほど多くなく、突然慌てて飛び込んできたダンら
に何事かと迷惑半分好奇心半分の視線を遣っている。
「……利用履歴は二週間前が最後のようですね。依頼の契約状況でも、該当する名は見られ
ません」
 問われて少し面を喰らっていたが、同じクランのメンバーだとの証言とダンのカードの提
示を受けて、暫く照会作業を行った後、職員は目の前のディスプレイを何度か確認するよう
に眺めてから言った。
「そうか……。何処に行きやがったんだ、あいつ」
 ダンはガシガシと髪を掻き毟った。
 少なくとも、個人で受けた依頼でヘマをしたというシナリオは見当違いらしい。尤もそう
であれば、イセルナや自分にその契約の情報は伝わっていた筈だが。
「……その御仁とは、どんな人相だね?」
 そんな時だった。
 どうするか、中心街へ聞き込みに行こうかとしていたダンらに、ふと一人の老練めいた冒
険者が進み出て声を掛けてきたのだった。
 顎鬚の白髪を撫でながら、振り向いてきたダンやミアらを見返している。
「ん? ああ、エルフの青年だ。まぁ実年齢は俺らなんかよりはずっと上だがな」
「確か……二百六十歳くらい。ヒューネス換算で見た目は二十五、六歳くらいだと思う」
「……ほう?」
 すると彼は僅かに小首を傾げて眉根を上げた。
 小さな呟き。その反応にダンらが眉間に皺を寄せると、何か記憶を手繰り寄せるかのよう
に言った。
「お主らの言う同じエルフかは知らんが、少々前に資料室でそんな青年を見かけたぞ。必死
に“楽園(エデン)の眼”について資料を漁っておった。儂は諫めたのだがの」
「……エデンの眼を?」
 その言葉にダンらはお互いの顔を見合わせた。
 シフォンかもしれない。だが、それ以上にその取っていた行動が不思議でもあった。
(どういう事だ? あいつ、一体何を……)
 だが思考で立ち止まっている暇などなかった。
「確証はねぇが、シフォンかもしれねぇな。この事、ハロルドに導話しておいてくれ。俺達
はこのまま中心街の方へ向かうぞ!」
 ダンはコキッと首を揺らし、団員の一人に指示を飛ばして言う。
「シフォン! 何処だー!」
 一方その頃、ジークやリンファもまた街の東側を駆けていた。
 散開して捜索網を広げつつ、円形を維持する。だが通りを進み、彼の行きそうな好みそう
なスポットを巡ってみても一向にその姿は見当たらない。
「……見つからないな」
「ええ。一体、何処に行ったんだか」
 深刻そうに眉根を寄せているリンファに、腰の六刀を揺らしながらジークは頷いていた。
 出発前、ホームでサフレが自身を責めているようだった。
 だが……その重荷を感じるべきはむしろ自分の方なのだと思う。仮にこれが黒衣の一団に
よる反撃攻勢であるとすれば、その狙いのそもそもは自分──いや、腰に下げられたこの六
振りに他ならないからだ。
(……セージョーキ、だったか)
 夕刻のマグダレン研究室(ラボ)で、あの厳つい魔導師(せんもんか)はそう言った。
 本来、一般人が持つことすら叶わぬレア物。対瘴気用の特殊な武具。
 奴らが何故そんな自分すら知らなかった情報を知り、狙ってきたのか。
 じわじわと、しかし確実に粘りつくような重量感を以って、ジークの全身に形容の難しい
悔しさや理不尽さがこみ上げてくる。
「──珍しいな。こんな時間に」
 ちょうど、そんな時だった。
 不意に聞き覚えのある声が道の向こう側から聞こえてきた。
 ジークとリンファ、それと周りにいた団員ら数名と。
「ブルートバードのホウ・リンファとジーク・レノヴィン、ですね」
「ひゃはは! 何だ、おめぇらも宴会帰りかぁ?」
「ヒューイ。君は飲み過ぎだ……」
 振り返ったその向こうから近付いて来たのは、冒険者クラン・サンドゴディマの面々。
「……。随分と慌てているようだが、一体何の騒ぎだ?」
 そしてその頭領である、毒蛇のバラクことバラク・ノイマンの姿で。

 時を前後して。
 クランの宿舎内で、アルスはそわそわと歩き回っては、廊下から酒場──居残った団員ら
が動き回っている様を眺めていた。
「やっぱり、気になる?」
「うん……」
 傍らのエトナがちらとその横顔を覗き込んでくる。
 アルスは僅かな苦笑を漏らしながら、小さく頷いた。
 兄には部屋に居ろ、学生の本分に集中していろと遠回しに言われた。渋った自分を制止す
る、巻き込みたくないという気持ちだったのは分かる。
(でも兄さん。こんな時に勉強に集中できる訳、ないじゃない……)
 それでもアルスは机に向かってじっとしてる事などできなかった。
 これは自分達クランの問題だ。そう兄は言った。
 だが、それはちょっと違う。
 何故ならもう、自分は冒険者でこそないが、クランの皆は仲間だと思っているから──。
「早く見つかるといいんだけど……」
「そうだね……」
 また一歩。アルスは再びゆっくりと、手持ち無沙汰に廊下を歩き始める。
「──大丈夫だよ。シフォンさんはそんなやわな人じゃないもの」
「それはそうだけど……。心配だなぁ」
 そうして何となしに歩いていた最中だった。
 ふとアルスの耳に、進行方向の先から何かしらのやり取りが聞こえてきた。
(……? この声は)
 惹かれるように直進し、ひょこりと顔を出す。
 そこは廊下の中央階段傍にある小さなロビー空間。その一角にレナと、見慣れぬ銀髪の少
女が話し込んでいる姿があった。
「レナ、さん?」
『──ッ!?』
 誰だろう。見かけた事のない人がいる。
 アルスは一抹の疑問を抱きながらも、そうぽつりと声を掛けていた。
 すると弾かれたようにレナと、そして銀髪の彼女──ステラがこちらの接近に気付いて振
り返ってくる。
 虚を衝かれたようにちょっぴり驚いているレナ。だがそれよりもステラの様子の方が普通
ではないように、アルスには見えた。
 驚きという類ではない。咄嗟にレナの陰に隠れ、緊張している様はまるで何かに、いや姿
を見られた事そのものに怯えているかのような……。
「ア、アルス君。居たんだ……」
「ええ。僕も探しに行きたかったんですけど、兄さんに止められてしまって。あの、そちら
の方は? 間違っていたらすみません。僕には見覚えがない方みたいなんですが」
「そ、そうね」「……」
 ぎゅっと。レナのローブの裾を握り締めてステラは震えていた。
 記憶忘れでもしたのだろうか。
 アルスは何だか申し訳ないような、戸惑うような心境の中、苦笑で言葉を濁しているレナ
の様子に小首を傾げる。それは同時に目を細めて注視する事でもあり……。
「……ねぇ、アルス。もしかしてその子」
「うん。僕も今気付いた」
 それまで傍らで漂っていたエトナが逡巡の後に切り出すのとほぼ同じタイミングで、アル
スもまたその事実に気付くこととなった。
「もしかしてさ、レナ。その子……魔人(メア)?」
 ビクッと。擬音が本物になりそうなくらいの怯えだった。
 アルスが訊ねるよりも早く、エトナが代わるようにそう言うと、レナは苦笑を濃くし、傍
らの当人は一層に怯え出す。
「……うん。そうだよ」
 ステラが不安そうに見上げている。
 だがレナは、少し間を置いてからできるだけ柔らかな表情(かお)と声色で答え始めた。
「ステラちゃんはね、以前に瘴気で滅んでしまった村に取り残されていた子なの。でもそれ
を、ジークさん達が保護してうちに連れて帰ってきたの。ジークさんが『同い年の弟がいる
んだ。放っておけない』って言って……」
「……。そうだったんですか」
 語られたのは、かつての出会いとジークを見直したあの日の断片的記憶。
 するとその話を聞いて、アルスはフッと笑顔をみせた。とても、優しい微笑みだった。
 レナもアルスも、エトナも誰からとでもなく微笑んでいる。そんな三人の様子を、ステラ
当人だけはまだ面食らったような戸惑い気味の眼で見比べている。
「……私の事、怖がらないの?」
 だからステラが心持ちレナの陰から身を出してきて問う言葉に、
「ええ。兄さんが助けた人なら、同じ屋根の下にいるなら、皆と同じ仲間じゃないですか」
「だよね~。そんなにビクビクしなくていいと思うよ? あ、私はアルスの持ち霊のエトゥ
ルリーナ。呼ぶ時はエトナでいいからね?」
「えっと、兄さん達からもう聞いていると思いますが、アルス・レノヴィンです。兄さんの
弟です。改めてよろしくお願いします」
 アルス達は一切躊躇いなどなかった。
「う、うん……。こちらこそ」
「ふふっ。よかったね、ステラちゃん?」
「……うん。ホッとした」
 新参者だからといって忌み嫌う事はない。
 それが分かってようやくステラも怯えから開放されたようだった。微笑んで手を差し出し
てくるアルスらと、きゅっと握手を交わしてようやくの対面と相成る。
 レナもその様子に満足し、安堵し、微笑んでいた。
 そんな友にステラも小さく頷いている。魔人である事の負い目さえ除けてしまえば、普通
の女の子とそう変わりはしない。
(そっか……兄さんがメアを。そうだよね。こういう人達こそ、僕らが助けたい守りたいっ
て思ってきた人達なんだもん……)
 エトナと顔を見合わせてアルスも笑う。
 お互いに告げ合った訳ではないが、自分達兄弟の目指す願いが重なって、胸の奥がほっこ
りと心地良い温かみを貰えたような気がした。
「──おわっ。な、何だ、アルス達か」
「レナちゃんにステラちゃんも。そっか……ようやくご対面してたんだな」
 そんな時だった。
 ふと耳に届いてきた上階からの足音。
 アルス達が振り返るのと、傍の階段から数名の団員らが降りてきたのは、ほぼ同時のこと
だった。
「あ、はい。本当ならもっと早く気付いてあげるべきだったのかもしれませんが……」
「いいって事よ。な、ステラちゃん?」
「うん。隠れてたのは、私の方だし」
 一瞬人影があるのに驚いたようだったが、彼らはすぐにアルス達の姿を認め、加えてステ
ラがアルスとエトナに顔出しをしている事にも温かな安堵の眼差しを寄越してくれる。
「あの。どうかしたんですか?」
「ああ……そうそう、それなんだがな」
 いい仲間達に恵まれたんだな。アルスはフッと笑うこの同年代の少女を見て、つくづく自
身の境遇も含めてそう思った。
 そんな中で、レナが面々を代表して先程駆け下りて来ていた彼らに訊ねる。
 団員らは、思い出したようにハッと表情を引き締め直し、言った。
「詳しくは知らないが、侵入者が出たらしいんだよ」
「皆が今、そいつらを取り押さえてる。これから俺達も加勢に行くんだ」

 そのままアルス達は、現場に急行する団員らについて宿舎の階段を降りた。
 アルス達との対面が事なきを得た安堵のままだったのか、ステラもレナの袖を取る形で同
行してきている。
 現場は宿舎を出て中庭の隅、物置が並ぶ建物と建物に挟まれた死角のスペースだった。
「は、離しなさい! 私を誰だと……!」
 そこで他の団員らに取り押さえられていたのは一人の少女だった。
 淡い金髪の、強気な眼差しときゃんきゃんと喧しい叫び声。
 その少し傍では、団員らに囲まれていても特に抵抗せず、どうしたものかと立ちぼうけて
いる大きいのと小さいのの二人組の姿。
「……シンシアさん?」
 その三人には、見覚えがあった。思わずアルスは目を瞬きながら彼女らの名を口にする。
 ピクリと。その少女・シンシアと、傍らの二人組たるゲドとキースははたと顔を上げてそ
の声に反応した。
「ん? 何だ? こいつらと知り合いなのか?」
「え、えぇ……。学院の同級生さんです。隣のお二人はそのお付きの方達です」
 そこでようやく団員らはシンシア(しんにゅうしゃ)達へと警戒を解いてくれたらしい。
アルスが「大丈夫ですよ」と宥める格好で、彼女達は解放される。
 それでも団員らに囲まれている状況は大して変わらない。
 バツが悪そうに目を逸らしているシンシアに、アルスは小首を傾げていた。
「あの、一体どうしたんですか? 別に知らない仲じゃないんですから、正面から来てくれ
れば迎えましたのに」
「うっ。そ、それはぁ……」
 しかしそれでも彼女は言いよどんでいた。
 何故か頬が心なし赤くなっているような気がする。そしてそのまま言葉に窮していると、
ふむと何か思案した様子で従者の片割れたるキースが代弁を始めた。
「いやまぁ。例の入学式の日の件について、今度こそお嬢から直接謝らせようと思ってね。
ホーさんと二人して連れてきたんだ」
「だったら前みたいに、酒場の方に顔を出してくれれば……」
「まぁそれは……さ。何だか立て込んでたみたいだからよ」
「そ、そうですわ。だから他に入口がないか探していて……それで」
「? キース、話が違うではないか。今宵はアルス殿がシンシア様とではなく、別なラボに
所属したらしいという話を確かめ──」
「ひゃあぁぁぁっ!? だ、黙りなさいゲド! 今その話をしちゃ……!」
 キースが言って、シンシアが何処かぎこちなく追随しようとする。
 だがゲドはそんな二人を見てぽつりを呟き、首を傾げかけ──シンシアに制止される。
(ホーさん、察してやって下さいって。俺が口裏を合わせますから。ね?)
(ふむ……? 相分かった)
 またきゃんきゃんと喚き出すこの主を横目に見遣って。
 キースとゲドはお互いにアイコンタクトを交わしてから、先程から頭に疑問符を浮かべて
いるアルス達に繕うように向き直る。
「ま、そういう訳で余計な面倒掛けてすまなかったな。……どうやら今日はタイミングが悪
かったらしいし」
「いえいえ。とんでもない」
 キースとアルスが、互いにコクリと小さく頭を下げ合っていた。
 顎に手を当て思案しているゲドの横で、シンシアはエトナと無言の火花を散らしている。
「……それで。今夜は一体どうしたというのだ? 表の慌てようは只事ではないようだが」
 だがそんな中でも、ゲドはあくまで一介の戦士として冷静だった。
 一先ず侵入者騒ぎの誤解も解けた所で、今度は彼らからの質問が飛んでくる。
「えと。それは……」
 思わずアルス達は顔を見合わせ、戸惑った。
 知り合いとはいえ、彼らは部外者だ。自分達の判断で勝手に話してしまっていいものか。
 皆がそんな懸念に阻止され、答えに窮していた。ちょうどそんな時だった。
「行方不明になっているんですよ。うちのクランのメンバーが、ね」
 顔を上げて視線を向ける。
 すると酒場の裏口の方から、ハロルドと数人の支援隊のメンバーらがこちらに近付いてく
るのが見えた。
 シンシアは「えっ」と短く驚きを漏らし、従者二人組は冒険者としてのその深刻さをすぐ
に把握したのか無言のまま眉根を寄せる。
 話しても大丈夫なのかというアルス達の視線からの問いに「構わないよ」と頷くようにし
て、ハロルドは続けた。
「シフォン──うちの創立メンバーの一人のエルフの青年でしてね。ここ暫く、音信不通の
状態になっているんです。今団員総出で捜し回っているのですが……」
「エルフの……? ああ、あの温厚そうな……」
「? キース、何故貴方が知っていますの?」
「えっ。あ、いや……。俺達もこの街の冒険者みたいなもんですし。ね、ホーさん?」
「……うむ。エルフには珍しい、ヒトに友好的な若者であったな」
 今度はゲドが、思わずあの謝罪に訪れた夜を思い出しボロを出し掛けたキースをフォロー
していた。幸いかシンシアはそれ以上は追求せず、興味の眼を既にハロルドに向けている。
「そうでしたの……。すみませんわね。そんな夜に訪ねてしまって」
「いえいえ。謝る事はないですよ。それに、さっき一つ情報が入ってきましてね」
「……情報?」
 眼鏡の奥の瞳を細め、ハロルドが言う。
 アルス達がその言葉に反応を示すと、彼は一呼吸を置き、できるだけ平常心を保とうとす
るかのように言った。
「ダンから導話があったんですよ。ギルドの資料室でそれらしいエルフが資料を読み漁って
いるのを見た奴を見つけた……とね。しかもその内容が“楽園(エデン)の眼”関連のもの
ばかりだったそうです」
「楽園(エデン)の、眼……?」
 その飛び出したフレーズにアルスは勿論、場の皆に緊張が走った。
 シフォン本人だという確証ではないかもしれない。だが奴らといえば、関わり合い自体が
危険視されている、世界を股に駆けるテロリスト集団として有名だ。
 もし、シフォンがその毒牙に掛かっていたとしたら……?
 クランの仲間として、不安にならない訳がなかった。
「ま、マズイんじゃねぇか? いくらシフォンさんでも“結社”に目を付けられたら……」
「ああ……。でも何で標的がシフォンさんなんだ? 偶々、なのか?」
「知るかよ。だけど何かに巻き込まれた可能性は高くなったかもな。ハロルドさん、この事
は団長達には」
「ええ。先程イセルナやリンファさん、他の捜索班にも連絡を飛ばしました。程なくすれば
皆一度こちらに戻ってくる筈です」
 ざわめき出す面々。ハロルドが淡々と、しかし内心の焦りや悔しさを押し込めながらそう
状況報告を付け加えている。
(シフォンさん……)
 アルスもまた、そんな心配の念に駆られる一人だった。
 同じく不安げに傍らを漂う相棒(エトナ)や、緊張した面持ちのレナ・ステラを横目に見
遣り、事態の思った以上の深刻さを憂う。
「……エデンの眼、か」
 だが、そんな最中だった。
 少しばかり蚊帳の外になりつつあったシンシアと従者二人。そんな中で、ふとキースが顎
に手を当てると、記憶の何処かを手繰り寄せるように呟いたのである。
「どうかしたの?」
「ええ。いやまぁ、今回の件に噛んでるかは分かりませんがね……」
 シンシアを始めとして、皆がそう呟くキースの次の言葉に意識と視線を向けていた。
 神妙な面持ち。一応の前置きをしつつも、彼は、
「……奴らのアジトが一つ、街の外にあるんスよ。もしかたらエルフの兄ちゃんは、そこに
居るのかもしれない」
 そう、自身の密偵業(しょくぎょうがら)からの情報を口にしたのだった。


 何時しか沈み込んでいた意識が、纏わりつくような悪寒によって叩き起こされた。
 それでも瞼は重い。身体も強い疲労や痛みを訴えている。
「んっ……」
 再び沈み込みそうな意識に鞭打つようにして、シフォンは小さく唸りながら目を開いた。
 全身を這う寒気、薄暗い視界、伝わってくる石畳の冷たさ。
 暫くぼうっとその場にへたり込んだまま、彼は何とか今の状況を把握しようと努める。
(……そうか。僕は捕まったのか)
 後ろ手の両手首にずしりと感じるのは、金属製の手枷の重みと冷たさ。
 薄暗い周囲──どうやら牢屋の中であるらしい──を見渡しながら、シフォンはここに至
るまでの記憶を手繰り寄せ直す。
 やはり、あの時ジークとリンファ達を襲った黒衣の一段は“楽園(エデン)の眼”の手の
者であることが分かった。
 何故ジークの剣を? 当然の疑問は過ぎったが、正直自分にとって問題はそこではない。
やっと得られた新しい居場所を、仲間を奪われること、それに対する憤りだったと思う。
 だからこそ何日も掛けて“結社”との関わりを渋る人々から情報を収集して回り、ついに
アウルベルツ近郊に奴らのアジトを見つけたのだった。
 だが……自分とした事が、その時点で冷静さを失っていたことに気付けなかった。
 こっそりと様子を窺い潜入を試みようとしたその矢先、黒衣の集団──結社のオートマタ
兵達に取り囲まれてしまったのだった。
 ──独断専行。
 昔の悔しさに押されて、無茶をしてしまったなと思う。
 何よりも、今頃皆はどうしているのだろう? 拘束されて何日が経ったかは判断がつかな
いが、少なくとも所在が分からないとなれば自分を捜し始めているかもしれない。
(……結局、僕はまた“仲間”に迷惑を掛けてしまったんだな)
 反省するように、自嘲するように。
 シフォンはフッと牢に繋がれたまま独り苦々しい笑いを零した。
 だが先ずは状況把握、そしてどうすれば脱出できるかだろう。
 相変わらず辺りは不気味な薄暗さの中にあったが、シフォンは疲労のたまった身体に鞭を
打ち、最大限に周囲に対して五感を研ぎ澄ませてみる。
 すると、全身の感覚が告げたのは、点在するぐったりとした人々の気配と怯えたような精
霊達の様子だった。
 他にも囚われの人達がいるのか……。
 シフォンは無言のまま眉根を寄せた。自分一人ならともかく、人数を解放させるとなれば
その難度はぐっと跳ね上がるだろう。
(しかし居ると分かった以上、見捨てるわけにもいかないしな……)
 金属の手枷にガチャガチャと抵抗してみながら、シフォンは深く深く思案をする。
 ちょうど、そんな時だった。
「……?」
 ほうっと、不意に空間の奥で灯りが点いていた。
 コツコツと足音がする。耳を済ませてみれば複数人のようだった。
 誰か、来る。
 シフォンは目を凝らし、その人影らを待ち構えるかのように睨み付けていた。
 ゆっくりと灯りがこちらに近付いて来るに合わせて、周りの他の牢の中に繋がれた人々の
ぐったりとした姿が薄闇の中に浮かび上がっては、また溶けて見えなくなる。
「お目覚めのようですね。シフォン・ユーティリア君」
 照らされた灯りの中、牢の格子越しに見下ろしてきたのは一人の神父風の男だった。
 その周りを黒い覆面で人相を隠した数名のヒトの兵士と、黒衣の人形(オートマタ)達が
固めている。
 どうやらこの男がリーダー格らしい。
 シフォンはより一層、睨む眼に殺気を宿らせていた。
「私(わたくし)は楽園(エデン)の眼の“信徒”ダニエルと申します。ようこそ、古き良
き民の方よ。わざわざこのような場所まで足を運んでくださるとは」
「今更上辺だけの丁寧さなど要らないだろう? 歓迎するというのなら、今すぐ僕や周りの
人達を解放しろ」
「それは、できない相談ですね」
 神父風の男・ダニエルは敵意を隠さないシフォンと相対してもフッと笑うだけで、一見す
るとにこやかな表情を崩さなかった。
 だが、シフォンには嫌という程に感じ取られた。
 この男達は……強烈な“狂気”を抱えている。
「驚きましたよ。まさか貴方達からこちらへ乗り込んで来られるとは。……まぁ、できれば
ジーク・レノヴィンも一緒に連れて来てくれるともっとありがたかったのですが」
「やはり、お前達がジークを……!」
「ええ。ですが貴方達は愚かな抵抗をした。加えて放った尖兵も役立たずに終わりました。
人形達も随分と可愛がってくれたようですしね?」
 言葉にならない怒りで、ガチャリと手枷が揺れる。
 尖兵とはサフレの事だろう。しかも人質(マルタ)を取っておいて役立たず呼ばわり。
 目の前の相手が“結社”という事もあったのだろうが、その言動の一々が癪に障る。
「しかし正直言って助かりましたよ。次の手を如何するか、思案していたのです。確か貴方
はジーク・レノヴィンが属するクランの一員でしたね? 今配下の者を放っています。一両
日中にも貴方と彼──いや、あの六振りと交換させて頂く」
「……冒険者(ぼくら)を見くびるな。お前達相手に、取引などに応じるものか」
「愚かな。では今度こそ、貴方達は神の裁き見ることになりますよ?」
「そんな事はさせないッ!!」
 そして何よりも、目的の為には平然と皆を手に掛けようとする事が許せなかった。
 繋がれたまま、それでもシフォンは声を上げて彼らに飛び掛ろうとする。
「──ッ!?」
 だが次の瞬間だった。
 突如として全身に奔る激痛と、内部から侵食されるような感覚。
 黒い血色の奔流がバチバチと唸りを上げ、シフォンの足元で不気味な輝きを放った。
 身体から力が──いや、マナが奪われている?
 ダメージを受けた身体で視線を足元に遣ると、そこには黒血色の光でなぞられた魔法陣が
床一面に描かれているのが分かった。
「う、ぐっ……!」
 ガクリと身体中から力を奪われて脱力する。同時に魔法陣をなぞる光も消えてゆく。
 一見しただけでは何の呪文かは判読できなかったが、どうやらこの上に居る者がマナを使
おうとすると、そのマナを吸収する──魔導師封じの効果があるらしい。
 疲労していた身体に追い打ちを掛けられたようで、思わずシフォンは再びその場に崩れ落
ちてしまった。肩で荒い息をつく彼に、ダニエルはにんまりとしたり顔を見せて言う。
「無駄な抵抗はしない方がいいですよ? お分かりですね? 貴方は一般の“罪人”達とは
少々勝手が違うので、少し特殊な部屋を用意させて貰ったのです」
「……。罪人、だと?」
 だがそんな自身を見下し哂うダニエルらの表情よりも、シフォンはそのごく自然と発せら
れたフレーズに反応していた。
 それは周りの、囚われた他の人々の事だろうか。
 黒衣の兵士の一人が手にして照らしている灯りの照明を通して、シフォンは薄闇の向こう
で力なくうなだれ、或いは生気なくこちらを見ている彼らを見遣りながら思う。
「ええ、罪人ですよ。世界を徒に掻き乱す罪深き者達です」
「……開拓派の人間を罪人扱いして投獄、か。そんな私刑、馬鹿げている」
「分からぬ方だ。貴方も古き良き民(エルフ)でありましょう? 彼らのような輩を野放し
にしておけば世界は掻き乱される。我々はその歪みを正そうとしているのですよ」
「確かに、開拓によって自然が荒されるのは一介のエルフとしては複雑な心境だが……それ
でもお前達のやり方は間違っている。一方的な暴力に変わりはない。そんな事、許される訳
がない」
「何が私どもを許さないのです? 人の法が常に正しいとでも? 我々は世界の理の下、そ
の理想を遂行しているに過ぎないのですよ。大義は……常にこちらにあるのです」
 睨み合う両者。
 シフォンとダニエルらは平行線だった。
 聞き及んでいた通り、彼ら“結社”の掲げる『世界を在るべき姿に戻す』為の暗躍は常軌
を逸していると、シフォンは改めて再確認していた。
 狂信。まさにその一言に尽きるのだろう。
 開拓への邁進に疑問を抱くことは正直自分にもある。だがそれらを力ずくで封じ込めよう
とする、多くの人命の犠牲を厭わないそんな“信仰”を自分達は認める訳にはいかない。
『…………』
 暫し両者は、見下ろし見下ろされる格好のまま、じっと互いを睨み付けていた。
 過去と今、重なり合う敵意の眼と、狂信が見せる一種の陶酔の眼。
 そしてそんな対峙が、どれだけ続いていた頃だったろうか。
「ダニエル様」
 ふと再び奥から灯りが点り、数人の黒衣の兵士達が近付いて来た。
 振り向いたダニエルに、その内の一人が歩み寄り、何やら耳打ちをしている。
 表情こそ貼り付けた笑みのままだったが、何か状況の変化があったらしいことは窺えた。
「……そうですか。では丁重にお迎えしてあげなさい」
「はっ」「お任せを」
 ややあってダニエルがそう言うと、彼らは低頭して承諾し、再び来た道を戻っていった。
 薄闇の中を照らす灯りが、二つからまた一つになる。
「……。残念ですよ」
 やがてダニエルはゆっくりと踵を返すと、
「古き良き民の出自ならば、我々の理想にも共鳴してくれると思ったのですが」
 睨み付けてくるシフォンを、肩越しに狂気の微笑で見遣ってそう言い残し灯りを揺らしな
がら、配下の兵士や人形ら共にその場を後にしていく。

「──ここが結社のアジトなのかよ? 随分としょぼいんだが……」
 暮れなずみの空は、陽の落ちた夜闇に塗り変わっていた。
 思いもかけずキースから提供された、楽園(エデン)の眼のアジトの情報。
 精霊達を伝ってアルスが皆にその旨を報せると、ジーク達は一度ホームに集合し直してか
ら早速そこへ向かってみようという話になった。
「間違いないわ。彼の情報通りならここで合っている筈」
「しかしまぁ、アウツベルツの郊外にこんな場所があったとはな。知らなかったぜ」
 ちなみに、道中への足は(何故かホームに来ていた)シンシアらが自家用の馬車を出して
くれたおかげで確保できている。
 彼女らと団員らの一部を離れた場所に残し、ジーク達は街道から大きく逸れた獣道の中を
分け入っていった。
 やがて姿を見せたのは……夜闇の中にひっそりと佇む廃村。
 魔獣や瘴気にやられたのか、或いは単純に住む者がいなくなってしまったのか。今となっ
ては判断できないが、どの家屋もボロボロに朽ちており、少なくとも長い間放置された場所
である事が窺える。
「……だが、これなら奴らの隠れ家にはもってこいだな」
 そしてブルートバードの面々だけでなく、今この場にはバラクらクラン・サンドゴディマ
の面々も加わっている。
 ジークが街の中を捜索している途中、偶然出くわしたのだ。 
 威圧感に押されて仕方なく事情を話すと、その場で協力を申し出てくれたのである。
「ですね。気を引き締めなきゃ……」
 正直部外者を巻き込むのは戸惑ったが、心強い。
 何せ相手の力が未知数なのだ。味方の戦力が多いに越した事はない……のだが。
「……なぁアルス、エトナ。やっぱりお前らも来る気なのか」
 前衛に立つジーク達の少し後ろ、ハロルドやレナの支援隊に交じって立っているアルスに
ジークは再度確認──いや、説得しようとするように肩越しに声を掛けていた。
「勿論だよ。一大事だからね」
「僕らにとってもシフォンさんは仲間だもん。じっとしてなんて、いられないよ」
「……だがなぁ」
「ジーク、大丈夫。ボクらが守る」
「私からもお願いします。アルス君だって心配なんですよ」
「お前らまで……」
 弟とその持ち霊。本来ならばこんな危険の伴う場所に連れて来たくはなかった。
 それでも本人達が、更にミアやレナまでもがジークにそう懇願の言葉と眼差しを向けてく
る。それ以上強く言えずに言葉を詰まらせる彼に、リンファ達も視線を遣った。
「心配は要らない。アルスも守る、シフォンも救う。そうだろう?」
「弟だものね、心配なのは分かるよ。でも卵だとはいえ、魔導師が戦力に加わってくれるの
は心強くもあるさ」
「……」
 そして今度は目上のメンバー達からも容認の声が出る。
 アルスを仲間として認めて貰っているからだとも、戦略的なプラスだからとも両方共。
 ジークは顔をしかめていた。それでも腰の刀の柄をそっと撫でると、
「……分かったよ。でも、絶対無茶はするな」
「うんっ」「分かってる」
 小さく舌打ちをして数歩、荒い土の地面を歩き、仲間達と共に廃村の奥へと進んで行く。
 敷地の外から眺めている分もそうだったが、やはり不気味なほど人気がない。
 打ち棄てられた家屋が静かに佇み、今にも夜闇の中に溶けてしまいそうだった。
 ただ一同が進む土を踏む音だけが、薄ら寒いくらいに耳に届く。
「本当にがらんとしてるな。アジトらしい建物なんて何処にも──」
「!? 皆、待て!」
「誰かいる……。ううん、いっぱいいる!」
 だが、不気味な探索は長くは続かなかった。
 廃村の敷地、そのちょうど中央辺りまで来た所で、ハッと気配を感じ取ったブルートとエ
トナの精霊二人がそれぞれに皆へ警戒の声を上げたのだ。
 それとほぼ同時に現れたのは、黒衣の戦闘人形(オートマタ)と若干名の黒衣の兵士達。
 どうやらずっと気配を殺して待ち伏せていたらしい。次の瞬間には、ジーク達は廃村の物
陰から次々と姿を見せた彼らによってぐるりと包囲されてしまう。
「チッ。待ち伏せてやがったか」
「アルス君、レナちゃん、支援隊の皆を中央に。私達も円陣を作るわよ」
「俺達もだ。……ブルートバードの連中のフォローをするぞ」
「ま、予想はしていたがな……。団体さんのお出ましだ」
 ザラリと敵味方、お互いの得物が一斉に抜き放たれ、展開された。
 周りを包囲して徐々に距離を詰めてくる黒衣の一団に対峙し、一同は身構える。ジークも
抜き放った二刀にマナを伝わせ、刀身が全身がオーラを纏う。
「……覚悟しろよてめぇら。ダチに手を出されて頭にキテるんだ……加減なんてしねぇぞ」
 そして次の瞬間、内側へと外側へと。
 両者二つの円陣が拡がり──激突が始まった。


 夜闇の中の廃村に数多の金属音が重なっていた。
 黒衣──“結社”の兵らと、二つのクランの合同戦線。互いの得物同士がぶつかり合う。
「らぁっ!!」
 一体、また一体と身体を捻り飛び交いながら、ジークは二刀を振るってオートマタの兵ら
を斬り伏せていく。
 同じく円形の前線を崩さぬように、ダンやミア、リンファ、そしてフォローに入るバラク
達もまた、自分達を捕らえようと迫る黒衣の兵らを戦斧で薙ぎ払い、拳で殴り飛ばし、或い
は剣や槍で斬り伏せ貫き倒しては迎え撃つ。
『──……』
 そんな前線のジーク達を、オートマタらの前線の後ろで銃剣を構えた黒衣の人兵らが狙お
うと銃口を向けるが。
「盟約の下、我に示せ──群生の樹手(ファル・ジュロム)!」
「盟約の下、我に示せ──戒めの光鎖(パニッシュメント)!」
 次の瞬間アルスとレナの詠唱の声が重なっていた。
 アルスの足元からは緑色の魔法陣が展開し、エトナの制御を伴って無数の樹木が触手のよ
うに伸びて兵らを縛り、レナがかざした掌に展開された金色の魔法陣からは、無数の光線が
放たれ、逃げようとした兵らを捉えるとぐるりと輪っか状に可変しその動きを封じ込める。
「ヒトの兵士達は任せて!」
「皆さん、援護します!」
「おう。ありがとよ」
 オートマタはともかく、いくら結社の手の者とはいえヒトを斬るのは正直躊躇があった。
 ジーク達は後方のアルスやレナ、支援隊らの補助をありがたく受けると、改めてワラワラ
と向かってくる傀儡兵らを斬り伏せ、撃ち倒してゆく。
 だが……その数は一向に減る気配がなかった。
 むしろ時間を経るごとに増えているような気がする。オートマタ故に多少の傷なら問題な
く動けるという事もあるのだろうが、思ったより向こうの余剰兵力は膨大であるらしい。
「ったく、キリがねぇな」
「アジトの真っ只中だからな。何処かに出撃口があると思うのだが……」
「しかしこう囲まれていては進むも退くもできませんよ?」
「元からそのつもりなんだろう……よッ! そう簡単に、奥まで進ませてはくれねぇさ」
 突き出してくる鉤爪を刀身でいなし、半身を捻って二刀の一撃をお見舞いする。
 それでも次々と立ち上がり、加勢が増えていく傀儡兵らにジーク達は流石に焦りを見せ始
めていた。
 流れるような動きで斬り伏せていくリンファの剣の軌跡をなぞるように、起き上がりかけ
た彼らをサフレの槍が薙ぐ。
 少々押されている気がする前線。
 サフレが後方で丸く固まっている支援隊──いやマルタを見遣りながらそう焦りを零して
いると、ダンは言いながら戦斧を振り下ろして、また一体とオートマタを叩き斬っていた。
「……だが確かに、このままでは埒が明かないな。イセルナ」
「何かしら?」
 するとそんなやり取りを聞いて、バラクが背を預けていたイセルナに声を掛けた。
 サーベルを一振りし、迫ってきたオートマタを斬り伏せると、彼女は肩越しに反応する。
「お前ら、先に行け。ここで人形どもと遊ぶのが目的じゃないだろう?」
「それはそうだけど……大丈夫?」
「心配される筋合いはない。道を作ってやるから、先を急げ」
 戦いの中であるのにあくまで穏やかな返答をする彼女に、バラクはふんと鼻を鳴らして哂
っていた。
 そしてちらりと、キリエやロスタム、ヒューイら自身のクランの面々に視線を送る。
 するとそれを合図に彼らは傀儡兵らを一旦弾き飛ばし、同時にジーク達を含むバラクの後
方に位置する面々が大きくわざと円陣を崩すように退いた。
 ぐぐっと、バラクがマナを滾らせた酸毒爪甲(ポイズンガトレット)の右腕を引く。
 オートマタ達は、その動きを見て大技が来ると察知し後退しようとしたが……遅かった。
「──消え失せろッ!」
 次の瞬間、バラクが大きく振り抜いた空間から真っ直ぐにごっそりと、強烈な酸の津波が
オートマタ達を飲み込んでいたのである。
 身体を溶かされてもがく傀儡兵。
 そんな同胞らを見て思わず動きを止めてしまう傀儡兵。
「行けッ!」
 そうしてできた隙と突入口を、ジーク達は見逃さなかった。叫び促すバラクに視線で礼を
返すと、イセルナとブルート、彼女らが冷気を放ち作り出したの氷の道の上を安全地帯に、
ブルートバードの面々が一気に駆け抜けてゆく。
 包囲網を抜けて、廃村の奥へ。
 おそらくアジトの中枢はそこにある。
 やがて隊伍を立て直す黒衣の一団らに、バラクらサンドゴディマの面々は、今度は凹レン
ズ型の陣形で以って対峙した。
 脚甲を纏い、沈着冷静に白い髪を夜風に揺らしているキリエ。
 六本腕それぞれに銃を握り、静かに目を細めているロスタム。
 身の丈近い大矛を肩に担ぎ、戦いに嬉々としているヒューイ。
 そんな血の気の多い部下達を従えて、バラクは魔導の手甲を握り締めると言い放つ。
「……さぁお前ら、存分に暴れろ。鼠の一匹もここを通すな」

 一方、廃村最寄の街道の一角で。
「ひゃぁぁっ! な、何ですの、こいつらは!?」
 乗ってきた馬車の一団と共に待機していたシンシア達もまた、夜闇に紛れた黒衣の一団か
らの襲撃に曝されていた。
「大方“結社”の手勢でしょうね。何せすぐそこにアジトがある訳ですし」
「なぁに。心配なさるな、シンシア様。私どもがおる」
 運転手らと共に馬車の中へと身を隠して慌て惑い、きゃんきゃんと声を上げるシンシア。
 その主の声に若干面倒くさそうな声色を返しながら、キースは手品のようにサッと両手に
何本ものナイフを取り出してみせると錬氣を込める。その傍らの地面を蹴り、ゲドが得物の
大槌を振り上げ黒衣の兵らに飛び掛っていく。
「この程度の敵襲、何なるものぞ!」
 叫びながら振り抜かれた大槌。
 そのインパクトの瞬間、目に見えない衝撃波が黒衣の兵らを吹き飛ばした。
 震撃の鎚(グライドハンマー)。ゲドの扱う鎚型の魔導具である。
 次いで、吹き飛ばされ隊伍を崩された彼らに、シンシアらの警護の為に事前に宛がわれて
いた二つのクランの冒険者達が追撃に掛かる。
「ふははは! 貧弱貧弱ゥ!」
 それでも幾人かのオートマタらは馬車へと迫ろうとしたが、それらは皆カルヴィンの豪腕
と鉄色の焔によって阻まれ、駆逐されていた。
 だが……それでも兵力の差は如何ともし難かった。
 こちらが戦えるのはせいぜい十数名程度。しかし“結社”の手の者達は傀儡兵を主力とし
て次から次へと夜闇の中から現れてくる。
「うっ!?」「がぁっ!」
 前線のオートマタが数の力で押し、遠距離から人兵が銃で狙う。
 だがその陣形を許さぬように、彼らの額に手に、次々と正確無比なナイフが飛んでくる。
 構えた銃を思わず緩めて短い悲鳴を上げ、ぐらりと揺らめく黒衣の兵士達。
「──……」
 その背後に、キースが音も無く忍び寄っていた。
 瞬間、次々と跳ねられ、或いは両腕で捻り折られる首。
 彼らが反撃攻勢に出る間もなく、その場があっという間に絶命した人兵らの墓場と化す。
(……これで、結社の人間の方は片付いたみたいだな)
 べっとりと血のついたバタフライナイフを片手に、キースはそんな即席な骸の山を見下ろ
していた。
 少し離れた、馬車の近くでは未だオートマタらがクランの冒険者達やゲドの大槌に吹き飛
ばされては何度となく立ち上がり、襲い掛かろうとしているのが見える。
 ──やはり人間じゃない分、あいつらも“殺し”に忠実なんだな。
 倒れた兵士の服の袖でナイフを拭ってしまいながら、キースは何とも言えない胸糞悪さを
覚えていた。
 自分のように暗部を渡る人間は何時の時代もいる。
 そしてそうした者を使う側は、より余計な私情を持たない“人形”を欲しがる。
 自分達の命令に忠実な、戦闘用オートマタ。或いはキジン。これほど都合のよい存在はな
いのだろう。だからこそ自分はこうも静かに苛立っている……。
(……さてと。密偵は密偵らしく、奴らの出所を押さえ──)
 小さく舌打ちを一つ。それでもキースはそんな“要らぬ”感情を抑え、再び夜闇に紛れて
行動を開始しようとする。
 ちょうど、そんな時だった。
「深闇に潜み解ける紫霊よ。汝、その姿顕し静謐を妨ぐ者らを蹂躙し給え。我は、闇すら友
とし仇討つことを望む者……」
 それは魔導の詠唱だった。
 不意に馬車の一つから紫色の光が輝き、大きく魔法陣が展開される。
 遠巻きのキースもオートマタらも、彼らを相手にしていたゲド達やシンシアも、何事かと
その光の方向に思わず目を遣っている。
「盟約の下、我に示せ──陰影の眷属(シャドウサヴァント)」
 そして詠唱が完成した次の瞬間、魔法陣から何かの黒い群れが一斉に飛び出してきた。
 キースは目を凝らす。
 またオートマタ達か? いや違う。あれは……影?
 結論から言えば、それらはキース達の味方だった。
 何者からか現れた影の軍勢。下半身から黒い靄のような軌跡を残しながら、その無数の眷
属達は一斉にオートマタらに突撃し、その身体を破壊し始めたのである。
 容赦なく黒い凶刃で以って壊されていく傀儡兵たち。それでも立ち上がろうとする者も少
なくなかったが、それらにすら影の眷属らは追い打ちを掛けるように群がり、徹底的に粉微
塵にしていったのだった。
(……。何なんだ?)
 やがて、敵の気配が止んだ。
 ポカンとしているゲド達に、キースも夜闇の中から恐る恐る小走りで近寄ると合流する。
「あれって、魔導……だよな?」
「シンシア嬢。もしかしてあんたが加勢してくれたのかい?」
「ち、違いますわ……。私はずっとここにいましてよ」
 ゆらゆらと中空を漂い、やがて夜闇に紛れて消えていく影達。
 待機兼護衛の冒険者らが問うたが、馬車からこっそりと顔を出すだけのシンシアは自身の
魔導ではないと言い切っていた。
「そうよの。我らの得意とするのは火門(かもん)の魔導。闇門(あんもん)ではない」
「じゃあ、誰が……?」
 腕を組み言うカルヴィンは、じっと先程魔法陣が見えた馬車の方を凝視していた。
 キース達を始め、皆の視線が一様に合流し、そこにいるであろう何者かを待つ形になる。
「……うぅ」
 それからたっぷりと数分。
 何やら躊躇いと葛藤があったらしく、やがてこそ~っとその馬車から姿を見せたのは。
「えっと……。皆、大丈夫?」
 銀色の髪に黒いローブを纏ったウィザードの少女──引き篭もりな筈のステラその人で。

 ジークの一閃が、また一体傀儡兵を斬り伏せていた。
 包囲網を抜けても、黒衣の一団はワラワラと散発的に湧いては襲い掛かってきた。
 前線にジークやダン、ミアらが立って向かってくる彼らを薙ぎ倒し、その後ろにはアルス
やレナ、マルタといった支援向きの面々。そして殿にはリンファとイセルナ、サフレらがそ
れぞれに控えて対応する。
 抵抗が激しい。だがそれは即ちアジトの中枢が近いことを意味している。
 暫くして、ジーク達は廃村の奥、その広場らしき空間へと辿り着いていた。
「……何だ? 急に連中の姿が見えなくなった……」
「アジトが近いんだろう。下手に出入り口を守らせれば、僕らに中枢を教えてしまうような
ものだからな」
 ガランと。急に黒衣の兵士らの気配が遠退く。
 ジークは二刀を構えたまま眉根を寄せたが、その横を通りながらサフレは冷静な口調で辺
りを見回しつつその出入り口とやらを探そうとしている。
「でしょうね。皆、散開して怪しい所がないか調べてみましょう」
「だが油断はするなよ? 何処に奴らが潜んでいるか分からん。必ず複数人で行動しろ」
『ういッス!』
 そしてイセルナらの指示の下、ジーク達は周囲に点在する廃屋を一つ一つ調べ始めた。
 朽ち果てた元・民家や商店、集会場。
 点在する家屋は辛うじて何の建物だったかの判別はできたが、それでも一様に囲いとして
の役目は果たせそうになかった。
 何が、この村にあったのだろう? 
 今では知る由もない過去への疑問を脳裏に過ぎらせつつ、ジーク達は幾つかのグループに
分かれてそんな廃屋の中を検めていく。
「……しっかし本当に何もないな。こんな所にアジトなんてあるのかよ」
「でもさっきまで黒ずくめの兵士さん達が湧いてたんですよ? 何もないとは思えません」
「そうなんだよなぁ……」
 だがそう簡単に手掛かりが見つかる事はなく。
 団員ら、そしてレナと一緒に廃屋を回っていたジークはガシガシと髪を掻きながら、そん
な行き詰まり感を前に眉根を寄せた思案顔になる。
「皆~、ちょっと来て~!」
 表から皆を呼ぶエトナの声が聞こえてきたのは、ちょうどそんな折だった。
 ジーク達が顔を出してみると、エトナが表に出て皆に手招きをし、全員を一旦集めている
最中のようだった。
 レナらと顔を見合わせ、ジーク達もその集合に加わる事にする。
「何か手掛かりでも見つかったのか?」
 そこは、他のそれと同じく朽ちた家屋──教会跡だった。
 既に中には皆が集まっており、何があったのか、その報告を待っていた。
「うん。これを見て」
 そんな皆の中心にいたのはアルスだった。
 ジーク達も合流し、そう問われると、アルスは皆に目の前のそれ──杖を手にした何者か
の像が安置された台を指差す。
「……彫像だな。これがどうかしたのか?」
「ええ。さっき辺りの家屋を一通り回ってみたんですけど、他にも似たような像が設置され
ていたんです。ここを含めて、十二体分」
「十二体……?」
 そういえば見かけたような、なかったような。
 互いの顔を見合わせる皆を眺めてから、アルスとエトナは続ける。
「妙なんですよね。これだけ劣化の激しい廃村なのに、この像達だけは比較的新しい」
「だからこれは、後から“結社”の連中が作った物なんじゃないかって考えたわけ」
「皆さん。ここにプレートがあるのが分かりますか?」
 示されて目を凝らしてみる。
 すると確かに、その一角に何かしらの文字を刻んだプレートが複数枚、台座と一体化した
枠の中に収まっているのが確認できた。
「……何て書いてあるんだ? 読めねぇぞ。つーかこれ、本当に文字か?」
 しかしその文字が何なのか、ジーク達にはまるで分からない。
「そりゃあ兄さん達には読めないよ。これは詠唱言語(スペルランゲージ)、魔導を使える
人じゃないと知らない、精霊族の言語だから」
「そのようだね。しかし……見る限り、特に意味のある文字列には見えないけれど」
「ええ。このままだったら」
 苦笑するアルスに、ハロルドら魔導の心得のある者らが目を凝らしていた。
 それでもプレートに刻まれた文字は特に何かの単語を成している訳でもないらしい。
 するとアルスは、ついっと再び台座の上の像を見上げる。
「さっきも言いましたが、この像は廃屋の中に十二体ありました。そしてそれぞれの像の位
置関係と像の姿から考えると……これは全て十二聖を象っているようなんです」
「十二聖って、志士十二聖か?」
「うん。そして、今この場に置かれている像──魔導師の青年の彫像は、他の像との位置関
係から考えて十二番目。つまり、その身を犠牲にして次代を繋いだ天才魔導師……」
 訥々と、台をプレートを撫でながら推理するアルス。
 その眼は知性を宿すそのもので。兄のジークですらただ時折目を瞬いてその様子を見守る
ことしかできずにいて。
「──“精霊王ユヴァン”」
 アルスは、言ってプレートの内の幾つかをぐっと奥へと押した。
 その押された精霊文字を辿ってゆけば、それは「ユヴァン」の名をなぞる綴り。
 するとどうだろう。次の瞬間、その操作に呼応するかのように、台の上の魔導師の像が何
かの機械仕掛けよろしく独りでに動き出し、九十度向きを変えたのである。
 同時に、すぐ横の石材の床タイルがスライドし、そこに地下への階段が出現する。
「……これって、隠し階段?」
「おおっ! やったな、アルス」
 ジーク達は一斉に歓声を上げていた。
 兄がよくやったと褒めると、アルスは静かに笑い、何処か恥ずかしそうにそっと頬を赤く
染める。傍らのエトナも、我が事のようにふふんと胸を張っていた。
「おそらくこれが、アジトへの入口なんだと思います」
「なるほどな。十二ヶ所もあれば、あれだけ人形どもが湧いてきた経路にも説明がつく」
「……行きましょう。皆、くれぐれも気を付けて」
 イセルナのトーンを落とした真剣な声色に、団員ら一同はしっかりと頷く。

 ハロルドの魔導が、エトナが纏う緑色のオーラが、薄暗い地下への階段を進む皆を照らす
灯り代わりとなってくれた。
 じめっと、薄暗い足元に注意しながらジーク達は階段を降りていく。
 するとやがて一行は、地下の広い空間に出ていた。
「……ここは」
 ハロルドが、レナが、魔導の灯りを照らして周囲を確認し始める。
 視覚情報は断片的だったが、どうやらここは円形の広間であるらしい。
「──皆?」
「その声……シフォンか!?」
 そして、薄闇の中から聞こえてきたのは、間違いなく捜していた友の声。
 ジークが思わず目を凝らしながら声を上げる。
 ハロルドが灯りを声のする方向へ向けてみると、そこには牢の中で鎖に繋がれたシフォン
の姿が確認できた。更に左右の周りにも牢は幾つも設けられており、それらの中にも、人々
がぐったりとして囚われているのが見える。
 どうやら円形の内部の外周に沿うように牢屋が並んでいるらしい。
「待ってろよ、今助けに……!」
「ま、待つんだ。これは」
 ジークは居ても立ってもいられず、その姿を目の当たりにした瞬間、シフォンらを救い出
そうとずんと一歩を踏み出そうとしていた。
 だがそんな友の、仲間らの歩みを、何故かシフォンは止めようとする。
 次の瞬間だった。
 ガシャンと、突如として背後に鉄格子が降りてきたのだ。
 そして思わず振り返った皆のその動きに合わせるように、不意に室内の照明が点灯する。
「……お待ちしていましたよ、ジーク・レノヴィン。そしてその御仲間の皆さん」
 そして今度は前方、別の通路の方から声がした。
 向き直ると、そこには神父風の男──ダニエルが、黒衣の兵士や傀儡兵らを伴ってジーク
達の前へとゆたりと歩いてくる姿があって。
 反射的にザワッと、警戒心を隠さない一同の身構えた様子に、ダニエルはフッと哂った。
「ようこそ、我がアジトへ。……私どもは貴方達を歓迎しますよ」
「歓迎だ? 笑わせんな」
「全くだ。……お前が、マルタを」
 ジークはくすりともせず、今にも刀を抜き放ちそうになっていた。
 それを隣に立ったサフレが制止するも、彼自身もまた、自分達を嵌めた張本人を前にして
沸き立つ怒りにぐっと眉根を寄せる。
「そうだぜ。大体、こんな鉄格子くらい錬氣でぶっ壊せば……」
 その背後で団員の一人が剣にマナを伝わせ、退路を封じに掛かってきた鉄格子を壊そうと
していた。
 大振りに振り下ろされた斬撃。
 だが刃が鉄格子に触れようとした次の瞬間、バチッと目に見えない奔流が彼を押し退けた
である。よろめき、目を瞬かせる団員、仲間達。
「これは……まさか防御結界? 駄目ですっ、物理的な攻撃じゃあ壊せません!」
「何ぃ!?」
「じゃ、じゃあ本当に俺達、退けなくなったのか……?」
「ふふ。言ったでしょう? 私どもは“歓迎”しますとね」
 この団員らも、鉄格子に張られた結界を見抜いたアルスも、ジーク達も一同は再びこの目
の前のリーダー格を睨み付けた。
 彼ら越しの向こう側、牢の中ではそんな仲間達を心配そうに見守る、衰弱したシフォンの
姿が見て取れる。
(こいつは参ったな……。この分だとおそらく、シフォン達の方にも結界が張ってあるか)
 ジークは鞘に手を掛けたまま、内心で焦りを感じていた。
 結界自体はアルスを始め魔導を使える仲間が何とかしてくれるかもしれない。だが、そん
な暇をこの似非神父どもが許すとは到底思えなかった。
 しかもこのまま奴らと戦えば、牢の中のシフォンに、囚われた人々にそのとばっちりが降
り掛かる可能性がある……。
 明らかに「敵」が目の前に現れたのにすぐに攻撃できなかったのは、そのためだった。
「少々予定は狂いましたが、手間が省けました。取引をしましょう、ジーク・レノヴィン」
「取引だ?」
「ええ。簡単な事ですよ。貴方の剣六本を私どもに差し出してさえ下されば、そこの御仲間
は解放致しましょう」
 するとダニエルはそう持ち掛けてきた。謂わば、人質交換。
「……断わる。人攫いと交渉する理由なんざねぇよ」 
 だが、ジークは睨む眼をより深めただけでその言葉をあっさりと跳ね返す。
「よく言った、ジーク」
「ええ。私達はシフォンを助けに来たのだもの。貴方達の口車に乗る為に来たんじゃない」
「その通りだ。もう騙されはしない。シフォンさんも、周りの者達も……皆、解き放つ」
「ははっ、元からそのつもりだがなぁ? ……てめぇらまとめて、ぶっ倒してやんよ!」
 それが合図だった。
 “結社”に媚びる必要はない。一同は今度こそ臨戦態勢を取って得物を抜き放った。
 牢の中のシフォンも、正直そんな仲間達にホッとしたように苦笑している。
「……愚かな。所詮罪人の片棒は罪人、ですか」
 しかしダニエルはそんなジーク達をむしろ侮蔑の眼で見ていた。
 何やら魔導具らしき腕を嵌めた左手をそっと持ち上げ、パチンと指鳴らしを一つ。
 変化は、その瞬間だった。
「──ひっ!?」
 ダニエルのその合図と同時に、牢の一つ、円形に沿って並ぶ牢屋の一番遠い端の天井から
突如としてどす黒い靄(オーラ)が噴き出し始める。
「あれは……!」
 その正体は、冒険者でなくても明らかだった。
 素人にも見えるほどの高濃度の瘴気。その死の毒素が、鉄格子の結界によって実質の密室
となっている牢の中に充満し出したのである。
 手枷に繋がれ動けない牢の端の囚われ人。
 そんな彼を、瘴気は漂い、もがき苦しむ様子など微塵に気にする筈もなく蹂躙し──やが
て絶命させてしまう。
「……ふむ。一人目は失敗ですね」
 だがそんな様子をダニエルは平然とした様子で横目に眺めていた。
 端が満杯になると、壁の一角の通気口が自動で開き、隣の牢へと瘴気が移動してゆく。
 阿鼻叫喚の図だった。
 次々と牢に囚われた人々のもがき苦しむ声が重なっては、絶命して消えてゆく。
 しかしその一方で、中にはそのまま魔獣へと変異してしまう者もいた。
 醜悪な容貌をした巨人の魔獣・ジャイアント、下半身が蜘蛛で上半身が爛れた人の姿をし
たアラクネー、最早ヒトの姿すらなくなった肉塊と触手と無数の眼球から成るルーパー。
 牢の中で、死人と死せずに魔と成り果てた者らが混在する。
「大体四割という所ですか……。まぁ上々でしょう」
「ッ! こんのぉッ!!」
 怒りの沸点が振り切っていた。
 ジークは激情に任せてダニエルに飛び掛ろうとするが、すぐに彼を守るように黒衣の兵士
達が間に入り、十数人掛かりでそのがむしゃらな斬撃を受け止める。
 滾るジークの殺気の眼。
 だがダニエルはそんな彼の姿すら、侮蔑するように見下して哂う。
「光栄に思うことですね。世界を掻き乱す罪人を、我らは魔獣(かんしょうざい)として転
生させているのですよ? これは我ら結社の、人々への慈悲なのです」
「ふざける、な……ッ!!」
 ジークは無理やり力押しで黒衣の兵士らを突破しようとしていた。
 イセルナらもまた、何とか瘴気に当てられていく人々を救おうと動こうとするが、その行
く手を同じく黒衣の兵士らに妨げられる。
「こんなの……こんなの、酷過ぎるよ……」
 アルスは、泣きそうになっていた。
 なまじ魔導師としての知識があるからなのだろう。この人為的な“魔獣製造”の一部始終
を目の当たりにするには、彼もエトナも、あまりに優し過ぎた。
 レナやマルタは思わず口元に手を当て、ミアやサフレも胸糞悪く眉間に皺を寄せている。
「こん、のぉ!!」
 何とかジーク達は突破しようとした。
 だが黒衣の兵士らが傀儡兵らが邪魔をして、思うように助けに向かえない。
「……神の裁きを受けなさい。罪人同士の粛清を!」
 そしてダニエルが掌に藍色の魔法陣を展開させると、変異したばかりの魔獣達が空間転送
されジーク達の前に立ちはだかった。
 血色の双眸を光らせ、狂気の息をついている元・人間達。
 流石にすぐに剣を向けることを躊躇ったジーク達に、ダニエルはにんまりをほくそ笑む。
「さぁ、浄化の遣い達よ。今こそ我らの信仰の敵を──」
 だが……それまでだった。
「どわっ!?」
 意気揚々と命令を下した筈のダニエル。
 しかし次の瞬間、魔獣の攻撃の矛先は、何故かそんな彼らに向けられていたのだった。
 隊伍を崩され、黒衣の兵士もまとめて薙ぎ払われる“結社”の面々ら。
「……な、何だぁ?」
 やられるとばかり思っていたジーク達も、急に背を向け振り返って彼らに襲い掛かり始め
た魔獣らをただポカンと見遣ることしかできない。
「な、何故だ? 何故制御が利かない!? 魔導具の術式は完璧な」
「無駄だよ。その程度じゃ、私の方が強いから」
 左手に嵌めた魔導具(魔獣を操る為の代物だったらしい)にマナを込め直し、何度も手駒
にしようと試みるダニエル。
 だがそんな焦りの声を、抑揚の低い声色が遮っていた。
 ダニエルら、そしてジーク達もその声のした方向──背後の鉄格子の向こうを見遣る。
 すると聞こえてきたのはコツコツと近付いて来る複数人の足音と、揺らめき漂う、紫色を
したマナのオーラで。
 その人影は鉄格子の前に立つと、そっと手をかざした。途端に結界の魔力が乱れる。
「──!」
 そしてその結界の弱体化を逃さず、別の巨躯の一薙ぎが鉄格子を破壊して吹き飛ばした。
 目を見開くジーク達。
 それは何も塞がれていた鉄格子をあっさり壊してくれた事ではなくて。
「……やれやれ。外道だとは聞いていたが、ここまでやるとはな」
「ヒャッハー! 俺、参上!」
「……五月蝿いよ。耳元で騒がないでくれ」
「遅れてすみません。表の人形達を片付けるのに、少々手間取っていました」
 それは何も一歩を踏み出し、姿を見せたのがバラクとその部下らだったからではなくて。
「よかった……。何とか、追いつけたみたい」
「お、お前。何でここに……?」
 それはバラクらと共に姿を見せ、照明の中に現れた銀髪の少女だったからで。
「遅くなってごめん。でも、もう大丈夫。……助けに来たよ」
 魔人(メア)の証である血色の眼を発現させたまま。
 彼女は、ステラは驚く仲間達にそう呼び掛け、静かに微笑んでいたのだった。


「ステラ……お前」
「もしかして、ついて来ていたの?」
 思いもかけない援軍(ステラ)の登場に、ジークもレナも皆も驚きを隠せないでいた。
 瘴気により滅んだ村に取り残された魔人(メア)の少女。
 その烙印故に外の世界に怯え、長らくホームに閉じ篭った日々を送っていたのに……。
「ごめんね。でも、私だって心配で……」
 だが彼女の方へと視点を変えれば、この行動力もあり得ない訳ではないのかもしれない。
 救われた者にとって、その居場所や仲間達は精神的にとても大きな存在であろうから。
「謝るなって」
 だからこそジーク達は、次の瞬間にはふっと優しい笑みを返していた。
 それは戦況を変える加勢が来てくれたこと以上に、彼女自身が己の中の怯えと葛藤してで
も今回の出撃に紛れ、駆けつけて来てくれたことが嬉しかったからに他ならなくて。
「……よく来てくれた。これで、奴らをぶっとばせる」
 ステラが頷き、はにかみを返すのを見届けてから。
 彼女達を守るように再び前線を張り、得物を構えて、一同は再びダニエルらを見据える。
「何故です? 何故魔人(どうし)が──“選ばれし者”である筈の貴方が彼らのような罪
人どもに与するのです?」
「同志? 違う。私はあんた達の仲間なんかじゃない」
 ステラを──魔人を見てダニエルは確かにそう戸惑いを零した。
 それはまるで、魔人という存在を信仰の対象としているかのように。
 だが当のステラはきっぱりと彼の言葉を撥ね付けていた。
 血色の両眼、魔人が興奮状態になると見られるその症状を呈したまま、彼女は言う。
「私は……死んだも同然だった。メアは魔獣の親戚みたいなもの。だからもうヒトとして見
られないって思ってた。でも……ジークは、ブルートバードの皆は、こんな私でも受け入れ
てくれた。生きてていいんだよって、言ってくれた」
 それは出会いの時からずっと、自分の中に掻き抱いていた想いだったのだろう。
 ジークが、仲間達が、肩越しにちらりとその感情に震える表情(かお)を見遣っている。
「だから私は生きる。こんな身体になったって。だからこそヒトを駒みたい使うあんた達の
事は許せないし、認めない。仲間を、ヒトの生命を弄ぶような奴は──大嫌いだ!!」
 そして彼女が叫んだ瞬間、再び魔獣らが動いた。
 一斉にダニエルらに──いやその背後の牢に向けて攻撃を仕掛け始めたのである。
 防御結界が張ってあったものの、魔獣のパワーの前には為す術もない。
 ぐわんと一瞬魔力が歪むような波紋を見せて、牢の鉄格子は次々と破壊されていった。
「大丈夫カ、ニーチャン?」
「!? 君達、まだ理性が……」
 逸早く魔獣らによって解放されたのはシフォンだった。
 不意に声を掛けられ驚く彼に、姿こそ怪物と化した彼らはフッと笑って答える。
「アア。アノ子ノ声ノオカゲデ正気ヲ取リ戻セタミタイナンダ」
「サァ早ク外ヘ。瘴気ガ迫ッテ来テイル」
「……ああ。ありがとう」
 おそらくは魔獣の狂気を、その亜種たる魔人の彼女が制御したという事なのだろう。
 シフォンは一度深く頷いてから、衰弱した身体を引き摺って、彼らにエスコートされるよ
うに牢の中から脱出を始めた。
「よしっ! これでシフォンの方は何とか……」
「皆さん、今の内に他の人達の救助を! さっきの様子からして、流れている術式を乱せば
結界の効力は弱まる筈です!」
「分かった。おい、魔導師連中は俺と来い、結界をぶち破るぞ!」
「僕らも加わります。マルタ、狂想曲(カプリチオ)を」
「はいっ!」
 そしてジーク達も、この隙を逃がしはしなかった。
 魔獣らの再度の一撃でダニエルらが体勢を崩されている隙を突いて、バラクらとアルス、
サフレ・マルタや支援隊の面々らが人々が囚われている牢へと駆け寄っていく。
「──……♪」
 ハープ型の魔導具を取り出して、マルタが調べを奏で始めた。
 聞く限りは、不協和音ばかりの奇怪な音色。だがその調べに乱されるかのように、周囲の
牢の結界達は不意にぐわんと魔力の揺らぎを波紋として見せたのだった。
「今です!」
 その変化を目に映し、アルスが叫んだ。
 そして次の瞬間、バラク達はそれを合図に一斉に鉄格子に攻撃を叩き込んでいった。
 するとどうだろう。それまで武器を通さなかった筈の結界が押し負け、次々と鉄格子への
直撃を許したのである。
 こうなればこちらのものだった。バラクらは錠を中心に攻撃を繰り返して鉄格子を破壊し
手枷を切り離すと、中に囚われていた人々を大急ぎで救出にかかる。
「レナ、皆さん。僕らは浄化を」
 その傍で、ハロルドらは牢から牢へと漏れてくる瘴気を防ぐべく詠唱を始めていた。
 エルリッシュ父娘と、支援隊の面々。何人分もの金色の魔法陣が展開される。
『盟約の下、我に示せ──聖浄の鳥籠(セイクリッドフィールド)!』
 彼らから延びてゆく無数の光の金糸。
 それらは重なり合って巨大な細かな目の網となり、漂ってくる瘴気を捉え、ジュワジュワ
と無色透明──本来のマナへと浄化させてゆく。
「こちらは大丈夫です! あとは連中の確保を!」
「ええ!」「うむ」
「おうよ。言われなくてもだ!」
 形勢は、完全に逆転していた。
 イセルナ、ダン、リンファのクランの中核メンバーとジークやミアら団員。そしてステラ
やシフォンを搬送してきた今は彼女によって制御された魔獣達。
 すっかり配下の兵も削り取られたダニエルを、ジーク達はじりりと追い詰めようとする。
「くっ……! わ、私は“信徒”なのに、選ばれし者なのに……。こ、こんな所で敗れる訳
には……!」
 だが彼はあくまで抵抗しようとした。
 残った僅かな傀儡兵らを差し向け、ジーク達が迎撃する間を縫って詠唱を完成させる。
「盟約の下、我に示せ──審判の光雨(ジャッジメント)!」
 中空にかざした手、その先に金色の魔法陣が現れる。
 するとそこから、無数の鋭い切っ先を持った光が雨霰と降り注いだ。
「うおぁッ!?」
 決して充分とは言えないスペースに降り注ぎ、爆音と共に破壊され石畳の粉塵を上げる目
の前の光景。
「……ははっ!」
 傀儡兵すら巻き込んでいても、ダニエルは乾いた笑い声を漏らしていた。
 何としてでもこの場を生き延びる。
 私は、こんな者達に負けることなど許され──。
「……は?」
 だが、頭の中にイメージされた殲滅の光景は、そこにはなかった。
「随分と、無茶をするじゃない」
 代わりに粉塵が晴れたその渦中には、ドーム型の障壁を展開して仲間達を守ったステラの
姿があった。笑おうとしていた顔が引きつり、ダニエルは目を細めているこの魔人の少女の
威圧感に唖然とし、無意識の内に後退る。
 それは恐怖だった。
 いつもなら魔人(かれ)らを“選ばれし者”──その身を以って瘴気を慰む御遣いとして
信仰している“結社”の人間も、その力を直接自分に向けられれば畏敬よりも肌を伝う感情
が畏怖となるのは仕方ない事だったのかもしれない。
「ぬぅっ……!」
 もう恐怖心に駆られる形で、ダニエルは再び詠唱を始める。
 足元にはぐったりと動かなくなった傀儡の兵らが散らばっている。だがそれでも、ジーク
達は先の魔導を防御しようとした格好のまま、斬り込みには行かなかった。
 いや、敢えて任せたのだ。
 自分達の前に立ち、やや遅れて同じく静かに詠唱を始めるステラの後ろ姿を見守って。
『盟約の下、我に示せ──』
 金色と紫色、二人の魔法陣が展開していた。
 魔導の打ち合い。そしておそらくこの一撃が勝敗を決める。
「天印の光(ディヴァイン)!」
「……黒闇の叫渦(ミィルトーム)」
 巨大な光の塊と、綯い交ぜに吹き荒れる暗闇の突風がぶつかり合った。
 インパクトの瞬間、光の塊が弾けて無数に放射する光となる。だがそんな眩い光撃すら、
ステラの放った闇はいとも容易く飲み込むと、一斉にその勢いを押し返してゆく。
「そ、そんな……! 私の魔導が、こんなにあっさり……」
「当然よ。聖魔導と冥魔導は相反関係にある同士。互いにぶつかれば、あとは力の大小で優
劣が決まる。貴方は外道とはいえ人間、ステラちゃんはメア……。常人より遥かに高い導力
を持つ彼女に、貴方が勝てる理由なんてない」
 自身の放った魔導が打ち破られていく。
 その事実に目を丸くするダニエルに対して、イセルナは静かに呟いていた。
「ぎゃはっ!?」
 やがて、ステラの冥魔導がダニエルのそれを完全に押し潰した。
 途端に押し寄せる暗闇の突風。声なき者らの叫びにも似たその威力をまともに受け、彼は
激しく叩き付けられながら地面を転がる。
 受身を取る余裕もなく、その身体は壁際へと押し遣られていた。
「ぬ、ぐっ……。逃」
「逃がすかよ」
 しかしそれでも這いつくばって壁伝いに進もうとするその首元に、次の瞬間、ジークが刀
の切っ先を突きつけていた。
 見上げてみれば、既にジークを中心に面々が自分を見下ろし取り囲んでいる。
「……年貢の納め時だぜ。似非神父」
 ジークは抑えながらの怒りの下で言い放った。
 頬に冷や汗を伝わらせながら、ごくりと息を呑むダニエル。
 もう逃げられない。誰もがそう思った。
「……いえ。おさらばです!」
 しかし次の瞬間、ダニエルはそう苦し紛れに哂うと、どんっと背後の壁を叩いていた。
 すると不意にその壁の一部がぐるりと横回転し、彼の身体を壁の向こう側へと送り出す。
「なっ!?」
 文字通りの、どんでん返し。
 流石にジーク達は驚き、その壁に殺到した。
 だが既に向こう側からロックを掛けられてしまったのか、同じように叩いてみても壁はも
う微動だにせず、回転することはなかった。
「くそぉっ! 待ちやがれっ! このまま逃げるなんざ、絶対許さ──」
「落ち着け。ジーク」
 この卑怯者。
 そうとでも言わんばかりに叫び、何度も拳を壁に叩きつけるジークの手を、ダンははしと
取って制していた。
「気持ちは分かる。俺達だって悔しいさ。だが……俺らが優先すべきことは別だろうが」
「そうね。今は深追いする事よりも、シフォンを、皆さんを助ける事の方が先でしょう?」
 振り返ると、ダンとイセルナ──クランのトップ二人がそう自分に言い聞かせてくれてい
た。しかし彼女達もまた、同じく悔しさを堪えているのが分かる。
 ジークは静かにぎゅっと拳を握り締め、唇を結んだ。
 複雑そうな表情を浮かべるステラと、そんな彼女に寄り添うようにミアやリンファが立っ
ていた。その背後ではレナやハロルドの支援隊、そしてアルスらが慌しく、助け出した皆の
救護活動に当たっている。
「……分かり、ました」
 そして暫くそんな皆の様子を見つめてから。
 ジーク達は踵を返すと、加勢の為にゆっくりと仲間達の下へと歩いてゆく。

 地下アジトを出て、ジーク達は犠牲者らの遺体を浄化し、廃村の一角に丁重に埋葬した。
 即席の墓標らを前に、元神官のハロルドが失われた生命達へと祈りや言霊を捧げ、静かに
弔いの儀式を執っている。
 本来なら一人一人遺族を探すべきなのだろうが、そんな余裕もネットワークもない。
 そうしている間にも遺体は腐敗していくだろうし、何よりも……浄化を施したとはいえ、
身内だとはいえ、瘴気に中てられた遺体を引き取りたいと願い出る遺族がどれだけいるもの
か。哀しいかな正直分からないという点も大きかった。
「……これで一応の弔いは済みました。あとは、彼らが次の世で良き生に恵まれることを願
うばかりです」
 やがてハロルドが皆にそう振り返っていた。
 哀しみ、悔しさ。そうした想いが入り混じった静かな苦笑。
 そしてそれは、ジーク達も、助けられた者達もまた同じく抱いていた想いでもある。
「……すまなかった。僕の所為で皆をこんな目に遭わせてしまって」
「謝るなって。水臭いこと言うなよ、仲間(ダチ)じゃねぇか」
「そうですよ。シフォンさんも皆さんも、助けられて良かったです」
「ああ……。だから私達からも礼を言わせてくれ」
「ありがとうよ。あそこに繋がれたままだったら、きっと俺達全員が死んでいた筈だ」
 シフォンは責任を感じていたのか、ぽつりと呟いて頭を下げていた。
 しかしそんな弱った彼に肩を貸していたジークが何ともないと答えると、アルスや助け出
され生き残った人々からも慰みと礼の言葉が返ってくる。
 仲間達は静かに笑っていた。シフォンが戻ってきた。それだけで充分だと言うように。
「……うん。こちらこそ、ありがとう」 
 暫くぼうっとそんな皆を眺めていた彼だったが、やがてゆっくりと表情を緩ませると、控
えめな返事を漏らして再び小さく頭を下げる。
「だが、当の主犯格には逃げられたんだぞ? よかったのか?」
 その一方で、サンドゴディマの面々を束ねるバラクは淡々とその事実を逃さなかった。
「そうね。でも私達の目的はシフォンを捜し出す事だったから。……相手は統務院ですら手
を焼いている組織なんだもの。正直、私達だけじゃあ手に負えないわよ。とりあえずは、皆
さんを送り届けてから、街の守備隊に届け出ておくという所かしらね」
「ああ、そうだな。妥当な判断だろう」
 寸前で逃がしたジークや、利用されていたサフレらは彼のその言葉にしかめ面を見せてい
たが、当人はそんな視線を歯牙にも掛けず、イセルナの応答に頷いてから空を仰ぐ。
「……。問題は、こいつらだな」
 言いながら見上げた視線。
 夜空を背景に立つのは、先刻まで味方についてくれていた魔獣──囚われの人々だった。
 ジーク達もまた、彼の視線に追随するように、姿こそ異形だがまだ心はヒトのそれを保っ
ているこの彼らを複雑な表情で見遣って押し黙る。
 死んでしまったのなら弔う事はできる。
 だが、魔獣をヒトに戻す術など存在しない……。
「……悩ム事ナンテナイサ」
「殺シテクレ」
「えっ……!?」
 しかし当の彼らは、確かにそう告げた。
 ステラが銀髪を揺らし、明らかな動揺を見せる。ジーク達も、身を乗り出したり無言で眉
根を寄せたりと様々だったが、一様に躊躇いを零していた。
「そんな……。だって皆、こうやって普通に話せて……」
「アア。オ嬢チャンノオカゲデ、心マデ怪物ニナラズニハ済ンダヨ」
「ダケドサ、自分達ニモ……分カルンダ。コノ正気モ、長クハ続カナイッテコトクライ」
「それ、は……」
 ステラは俯いて返答に窮する。だがそれは彼らの言葉の肯定に他ならなかった。
 動揺で瞳を揺らしながら、ジークはアルスら魔導を使える仲間達に振り返ったが、その憂
いを認めるように、弟達は心底悔しそうな表情で力なく頷いている。
「だ、駄目だよっ! せっかく生きてるのに!」
「仕方ネェサ。モウ……ヒトニハ戻レハシナインダロウ?」
「タトエアンタ達ハ見逃シテクレテモ、魔獣ッテノハイズレ狩リ殺サレル。ソレハ俺達ガヒ
トダッタ頃カラズット、冒険者(アンタタチ)ニ丸投ゲシテキタ事ナンダカラサ……」
「頼ムヨ。ダッタラセメテ、アンタ達ノ手デ終ワラセテ欲シイ。……完全ニ魔獣ニナッチマ
ウ前ニ、セメテ人トシテ死ナセテクレ」
 それでも魔獣達はそう頭を下げて懇願してきた。
 そんな死の覚悟を決めた彼らに、ステラは大粒の涙を瞳に溜めて、ふるふると言葉が出ず
に首を横に振っている。
「……分かった」
 だが、仲間達はその願いを受け入れようとした。
 ぼろぼろと涙を零すステラの肩をぽんと叩きながら、ダンがジークが、皆が真剣な面持ち
で一歩彼らの前へと進み出てくる。
「みん、な……?」
「……察してあげて。ステラちゃん」
「このまま彼らを解き放っても、待っているのは……人々の忌避と迫害です」
 イセルナらはゆっくりと振り向くステラを横目に一瞥すると、静かにそう諭していた。
 その横顔は、何処までも真剣で……辛くて哀しそうで、悔しそうで。
 だからこそステラはそれ以上何も言えなかった。視線を移した先のレナやミア、マルタら
友らも同じく苦渋の決断にじっと耐え忍んでいる様が見て取れた。
「アリガトウナ」「頼ンダヨ」
「……ああ」
 彼らが──魔獣達がそっと身を屈め、首を差し出してくる。
 首を跳ねれてしまえば、魔獣であっても大抵は息の根を止められるから。
「……。すまなかった」
 ダンとイセルナを中心に。
 ジーク達は自分の中のざわつく感情を堪えながら、ゆっくりと武器を抜き放って──。

「──はぁっ、はぁっ! はぁっ……!!」
 地下アジトから逃走路を抜けて、ダニエルは一人廃村郊外の森の中を走っていた。
 何度か振り返ってみる。どうやら追いかけては来ていないようだ。
 激しく息切れする身体を休ませるべく、彼は肩で大きく呼吸を整えながら両膝に手をつき
その場にへたり込んだ。
(とんだ誤算だった。まさか、彼らにメア様が味方しているなど……。兵らに調べさせた情
報にはなかったのに……)
 あの邪魔さえなければ。ダニエルは思った。
 ショックだった。何よりも、自分達“結社”の者にとって魔人とは瘴気を緩衝する人の盾
であり尊ぶべき存在なのである。そんな魔人当人が、自分に攻撃を向けてきたのだ。
 個人的には彼らに敗れた事よりも、その所為で“信仰”が揺るがされたことの方が衝撃が
大きかったと言ってもいい。
「だがまだだ……。ようやく“信徒”の号を得られたのに、このままで終わる訳には」
「だよねえ?」
 そんな時だった。
 ダメージでボロボロになった服の汚れを拭いながら呟いたその声に、返答があったのだ。
 思わずハッと我に返り、ダニエルはその声のした方向──夜闇に溶ける森林の中に目を遣
り目を凝らす。
「やあ。散々だったみたいだね」
「ざまぁねぇな」「あはは。ボロボロ~♪」
 やがて夜闇に紛れて姿を見せたのは、三人の人影だった。
 一人は隆々とした体格の、いかにも荒っぽそうな大男。
 一人は継ぎ接ぎだらけのパペットを抱えた、一見すると幼い少女。
 そして一人は、青紫のマントを纏ったキザな言動の青年で。
「おぉ……! これはこれは“使徒”様方ではありませんか。わざわざ御足労を頂かれたな
ど、何と申し訳ない……」
 するとダニエルは彼らの姿を見るや否や、傅くように大仰に駆け寄って跪いていた。
 アジトでジーク達に見せた余裕など何処へやら。
 その様はまさに従属する者のそれで……。
「あぁもう、纏わりつくなっての。堅苦しい」
「ふふ。まぁいいじゃないか。信徒達(かれら)を束ねるのも僕らの仕事だよ?」
 大男は面倒臭そうに顔をしかめていたが、青年はむしろそんなダニエルを微笑ましく──
いや、嘲笑に近い表情(かお)で見下ろしていた。
 ばさりとマントを翻し、青年はそのまま跪く彼の前にしゃがみ込む。
「……信徒ダニエル。さっきこのままでは終わりたくない、そう言ったね?」
「は、はいっ! 勿論で御座います!」
 期待の眼差し。ダニエルは道が開けた、そんな解釈してバッと顔を上げていた。
 だがむしろ、対する青年の微笑みは不気味な“悪意”に類するものだった。
 彼はそっと自身の掌を持ち上げ、このすがり付いてくる狂信の徒へと告げる。
「ならば君に新たな任務を与えよう。……“最期”の任務を、ね」
 そう呟いたその掌からは、濛々とどす黒いオーラが立ち上っていた。

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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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