日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「足りないもの」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:音楽、ロボット、終末】


 有り体に言えば、その世界は一度滅んでいた。
 今となってはその切欠も分からない。文明活動が環境を汚染し続けたとか、その昔大きな
戦争があって破壊されてしまったからとか、色々な話を聞くが、どれも証拠はない。少なく
とも残された書物すら、今では何の価値もない紙切れとなってしまった。
 大地は酷く荒廃している。不毛という言葉が相応しいだろう。見渡す限りの地平には焦げ
ついたような赤茶色の土が剥き出しとなり、生命の気配というものには縁遠い。代わりに在
るのは無数の、ゴツゴツした岩と時折吹き抜ける砂風くらいものものだ。
『~~♪』
 そんな荒れ果てた大地を、一人の人影が進んでいる。いや、人影と表現することすら厳密
には正しくない。
 それは機械の人形だった。円筒の身体にドーム状の頭部。両脚は角の丸い三角形のキャタ
ピラで、胴から生えているアームも辛うじて掴むことができるC字型の簡素なものだ。
 ここでは仮に、この機械人形を“NT”と呼ぶ事にしよう。
 彼はエンターティナーだった。作りは安っぽいが、その中には古今東西の様々な楽曲が収
録されている。体内に設えられた幾つもの演奏装置で、彼は人々に一時の安らぎを与えるこ
とを使命として作られた。生まれてきた。

『アノ、音楽ハ如何デスカ?』
「ああ? オンガク? 何だそれ」
「何だっけ……。音を色々並べてそれっぽくする奴だったような」
「音? 何だよ、食えねぇのか」
「そんなんじゃ腹は膨れねぇっつーの。シッシ、どっか行った行った」
 だが荒廃したこの時代に、彼を必要とする人間達は皆無だった。
 それでもNTは果てのない荒野を往く。道中で人を見つければ声を掛け、一曲どうかと伺
いを立てる。しかしボロ布を着、日差しに焼けながら眼をギラつかせる彼らにとってそれは
何の価値もなかった。そもそも娯楽や藝術という概念すら彼らは忘れつつあった。口々にす
るように、この時代において多くの人々はそんな“余分”に費やす“余裕”など無かった。
今日明日食い繋げるか、それが何よりも大事で唯一の関心事だった。

『コンニチハ、音楽ハ如何デスカ?』
「……」
『アノ、音楽ハ──』
「五月蝿いな。無駄に体力使うだろうが。寝てるのが分かんねぇのか、てめぇは」
『……申シ訳ゴザイマセン』
「分かりゃいい。しかし、今日び機械人形なんざ珍しい。まぁお前をバラした所で何の得に
もなりゃしねぇよなあ。一応金はあるけど、もう誰も使おうなんて思わんし……」
 ある時は荒野の岩陰にぽつんと建っていたあばら屋を覗き、人が寝ていると分かるとその
使命を果たそうとした。しかし当の住人は、実に面倒臭そうに寝返りを打つと、やはり憎々
しげな眼でNTを睨み返した。
 食えぬのなら成る丈動かないで過ごそう──ささやかな生存戦略である。だがそれは結局
怠惰であり、状況が好転する訳ではない。ただぼうっと、日がなだるさを伴う身体を茣蓙の
上に転がしたまま、たなぼたやこの世界への恨みを募らせるだけである。

『スミマセン。音楽ハ如何デスカ?』
「な、何だお前! ……もしかして、機械人形か?」
「へえ……珍しい。今も動いてる奴がいたんだなあ」
『ハイ。私ハ皆サンニ様々ナ音楽ヲオ届ケスルコトヲ使命トシテイマス』
 またある時は石を詰んで泥で塗り固めた砦──のような場所にも行き着いた。正面の石坂
を上っていくと粗悪な鉈や棍棒を持った男達が警戒した(でむかえた)が、NTが自身をそ
う説明すると彼らは物珍しさが勝ったようだ。奥から一人また一人と外の様子に気付いてや
って来ては、こちらの説明を余所にぺたぺたと触っている。
「なあ、お前戦ったりできねぇの? 武器とかさ?」
『イイエ……。私ニソノヨウナ機能ハゴザイマセンガ……』
「ちえ。無いかあ。うちの戦力になるかなぁと思ったけど……」
「戦闘用じゃねえみたいだな。こんなご時世に、ご苦労様なこって」
「おーい、リーダーから命令だ! そいつをバラせ。金属の塊なら武器の十や二十にはでき
るだろうって」
『ッ!?』
 だからやがて、NTは逃げ出した。後から伝令にやって来た男の言わんとする意味をすぐ
に理解したからだ。
 壊(バラ)してスクラップにする──自分を、殺す気だ。
 あ、おい! 隙を突かれて男達が一斉に顔を上げるのを振り返ることもなく、NTは大慌
てでその場を逃げ出して行くのだった。

 出会いは、そんな報われぬ旅を幾度もなく繰り返した先でのことだった。
 一人荒野を往くNTの前に、見慣れぬ建物が見えた。白い半透明の皮で骨格を覆った、細
長いドーム状の建物だ。中には人影があり、何やら仕切りの向こうで作業をしている。
(アレハ確カ……ビニール、ト云イマシタカ)
 自身に遠い昔にインプットされていた情報を引っ張り出しつつ、NTはこの建物の方へと
向かってみた。今までのあばら屋や洞窟砦とは明らかに違う住処だ。少なくとも人が住んで
いるのなら、自分のやるべきことは一つである。
『スミマセン。音楽ハ如何ガデスカ?』
 最初の一声はよく聞こえなかったようだ。中では幾つもの機材──仲間がゴウンゴウンと
ゆっくり羽を回して動いている。スミマセン……。NTはもう一度間を置いてから言った。
するとハウスの奥で作業していた男性がやっとこちらに気付き、近付いて来る。
「おや? これは珍しい。機械人形か」
『ハイ。コチラノ主殿デショウカ? 私ハ音楽ヲ演奏シマス。一曲如何デショウカ』
 すらりとやや高めの、しかし日々力作業をしているからか引き締まった身体。
 この男性、青年はこれまで出会った人間達とは大きく違っていた。こちらを見て最初は驚
きつつも、次の瞬間にはにこやかに微笑(わら)って迎えてくれる。NTも頭部のランプ眼
を瞬かせながら、この新鮮な反応に内心驚き──嬉しさを覚えていた。
「お、いいねえ。じゃあお願いしようかな? ゆったりとこの子達がのびのびできるような
曲を頼むよ」
 青年に案内され、NTはキャラピラの脚を転がしながらハウスの奥へ往く。
 そこにはビニールの皮と間仕切りの内側に設えられた、濃い土色と青々とした植物が規則
正しく生息していた。
 栽培……。NTはまたもや遠い昔の情報を引き出して眼を瞬く。彼自身も、こんな光景を
長らく目の当たりにすることはなかった。
『主殿。コレハ……』
「うん? ああ。僕の農場だよ。曾爺さんの代からの研究でね。ここ最近、ようやく土壌も
安定してきたんだ」
 曰く、彼らはこの荒廃した大地を再生させる研究を先祖代々行っているらしい。勿論最初
は不毛の土をなど夢物語だったが、長年粘り強く実験を繰り返した結果、自分の代でようや
く作物が育つレベルにまで持ってこれたのだという。
「まあ、それもこのハウス──機材を総動員して環境を整えてやっと、だけどね。それでも
これだけ育ったんだ。あと二週間ほどもすれば収穫できると思う」
 NTは何だか嬉しかった。自分を快く迎え入れてくれたこともさる事ながら、諦めずに進
もうとしている人間を目の当たりにして。
 必要とされた事が嬉しかった。音楽など何の飯にもならない、腹が膨れない。この身体を
分解しても、人と人が傷付けあう道具に転用されるだけだ……。
「頼めるかい? 半分は迷信だと思うんだけど、ほら、音楽を聞かせたり褒めやったりする
と育ちがよくなるって云うじゃない」
 コク。NTはにこやかに頷いた。尤も、機械である彼に表情らしい表情はないのだが。
 リクエストに応え、かつての名曲クラシックを選択する。体内の演奏装置をフル稼働させ
て、ハウス内に格式高い音色が響き渡ってゆく。
「あら……? これは、音楽……?」
「あ、お人形さんだ。ママ、お人形さんがいるよ!」
 そうしていると、ハウスの反対方向から一人の女性と、彼女に手を引かれた幼い男の子が
音色を聞きつけて顔を出してきた。青年の妻と子だそうだ。挨拶をし、この幼子に物珍しく
ぺたぺたと撫で回され、しかし一度体内で奏で始めた音楽は止まらない。
「……いいものね。あなた」
「ああ。長い事、忘れていたよ」
 機械仕掛けの回路がホコホコと熱を帯びて、喜びを伝える。
 NTは嬉しかった。使命が果たせた──作られた意味が自分にはあるのだと感じた。

 ……しかしである。思わぬ出会いと、そして別れはそんなに長くは続かない。こちらがさ
も永遠を望めば望むほど、遠くへ引き離されて消えてゆくものである。
 青年とその妻子との出会いから二週間ほどが経っていた。NTはハウスの作物達の為にも
協力して欲しいと頼まれ、彼も快くこれを引き受けた。
 明日には皆で収穫をしようという話になっていた。だが事件は、あたかも狙い済ましたよ
うに起こったのである。
「ここがそうか」
「ええ。間違いないッス。どうやったのか分かんないですけど、ここに住んでる奴が、食い
物を作ってるって」
 武装した荒くれ達だった。錆びの付いた剣や斧、長棒や棍棒を握り締め、総勢三十人近い
一団がこのハウスへ夜闇に乗じて乗り込もうとしていたのだ。
「盗み聞きした話じゃあ、明日には取っちまうようです」
「ああ。つーことは食べ頃って事だよな。よしお前ら、全部かっぱらって来い。肉がねぇの
は惜しいが……それでも久しぶりのご馳走だ」
『へい!』
「あ、リーダー。そういや中に女も一人いるそうですけど……」
「好きにしろ。ヤっても疲れるだけだし、俺はいい」
「いやっほう!」
「流石はリーダー! 話が分かるぅ!」
 かくして荒くれ達は一塊の暴力となってハウスへと乗り込んでいった。武器を振るってビ
ニールの皮を破り、外目を遮る間仕切りを砕き割り、一目散に農場へとなだれ込んでいく。
『ナ、何ヲシテイルンデスカ! 止メテクダサイ!』
「あん? 何だ、あの寸胴……」
「機械人形だな。珍しい。もしかして食い物を作るのに使われてたのか」
 外からやってくる多数の生命反応と騒々しい破壊音。NTは逸早く飛び出し、この狼藉の
現場に駆けつけていた。しかし荒くれ達はちらっと少し物珍しさに横目を遣るだけで、農場
から作物を引っこ抜いていくことを止めない。乱暴に、片っ端から引き抜き、この葉野菜や
根菜を見て互いに嬉々としてハイタッチしている。
「や、止めろォ! それを作る為に僕やご先祖様がどれだけ苦労して……!」
「お? あいつがここの人間か。おい、あいつを捕まえろ。上手くいけばこの先も安定して
飯にありつけるかもしれん」
「アイアイサー!」
「リーダー、奥に女がいました! 好きにしていいんスよね?」
 次いで血相を変えて飛び出してくる青年。しかし荒くれ達は一言も耳を貸さず、寧ろ彼が
使えると踏んで取り囲みに掛かった。加えて別ルートで侵入していた仲間達が彼の妻を羽交
い絞めにして引き摺りだして来、リーダー格に確認した。後ろでは二人の幼い子が必死にな
って男達に縋り付いているが、それもお前に用はないと言わんばかりに何度も足蹴にされ、
それでも「ママ、を……放せ……」とボロボロになりながら喰らい付こうとしている。
「っ!? メアリ!」
「あなた!」
「うん? ああ、もしかしなくてもお前の女か。チッ、いいよなあ。飯も自分でも作れて、
女もいる……。嗚呼羨ましい、羨ましい……」
 だが言葉とは裏腹に、荒くれ達はニヤニヤを笑っていた。今や絶対的な優位にあると確信
しているからだ。青年も妻が人質に取られてしまっては迂闊に動けず、彼らに取り押さえら
れて捕まってしまう。幼子は何度も蹴飛ばされ、遂にはぐったりと床に突っ伏したまま動か
なくなってしまった。二人が我が子の名を泣きながら叫んでいる。しかし荒くれ達には、元
より奪いに来た者達の耳には届かない。
『ソ……ソノ手ヲ放セェ!』
 回路内のエネルギーがゴウンゴウンと迸って赤く熱を帯びる。おそらくこれが、人間で言
う所の怒りなのだろう。NTは捕らわれた二人を助けようと猛然と突っ込んだ。
 しかし元々戦闘用でもない彼に、暴力に躊躇いのない荒くれ達をどうにかできよう筈もな
かった。抵抗あり。男の一人が先ず金属の棍棒で彼の胴をフルスイングし、吹き飛ばされた
所を残りの面子が寄って集って叩きのめし、斬り裂き、メシメシッと切っ先を捻じ込む。
「……ったく。屑鉄の分際で人間様に逆らうんじゃねぇよ」
 NTは、二度と動かなくなった。ランプ眼の光は数度のショートと共に消え、後はただの
ひしゃげ破壊された寸胴になる。
「リーダ、リーダ!」
「ああ、分かってる。ずらかるぞ。お前ら、獲るモンは全部獲ったな?」
『応!』
「じゃあ撤収だ。この二人もアジトに連れて帰るぞ」
「リーダー、そこのガキは?」
「殺せ。ガキとはいえ、後々で俺達を付け狙うようになるかもしれん」
 へい! ごくごく当たり前のように鉈を肩に担ぎ、荒くれの一人が倒れ伏したままの幼子
の前に歩み寄る。
 青年と妻は、それぞれに羽交い絞めにされたまま後ろ手にされた両手と脚、口を縄で縛ら
れ、連れて行かれた。彼らは無惨に破壊されたハウスと機械仕掛けの友を肩越しに向き、何
かを言おうとしていたが、結局その言葉は聞き取れなかった。

 人々は、やがて滅んでゆくのだろう。
 世界は、それでも粛々と続いてゆく。
                                      (了)

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  1. 2016/09/11(日) 00:00:00|
  2. 週刊三題
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
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