日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「羊達の夢」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:動物、増える、悪】


『こんにちは! 僕達はラムです。この家で、皆と一緒に暮らしています!』
『僕らのお家は広いでしょ? 僕らはこんなにいっぱい居るのに、全員にふかふかのお布団
が当たるくらいまだまだ余裕があるんだ』
『ご飯も一日三食、毎日ついてくるよ。いつも時間になったらシロフクさん達が扉の向こう
から持って来るんだ』
『……でも正直、毎日毎日同じメニューっていうのは飽きちゃうなあ。あの黄色い粒々の山
を見ていると時々うえってお腹の中が逆さまになりそうになるし』
『そう? 僕はあれ結構美味しいと思うけど』
『栄養もたっぷりらしいしね。この前、シロフクさんが言っていた』
『いや、中身どうこうの問題じゃなくて……。まぁ他に食べるものがないんだからしょうが
ないには変わらないんだけど……』
『僕達の一日は朝のチャイムから始まります。それまで落とされていた明かりが順々に点い
ていって、部屋の中が明るくなるんだ。お家には外まで続く窓がないから、その分たっぷり
光を浴びて貰おうってことらしいよ』
『でもこの明かりって、割と問答無用だよね。いつも眩しくて目が覚めちゃう』
『もっと寝ていたいんだけどね……。まぁそうも言ってられないんだけど』
『その次はお家の中の空気が入れ替えられます。これも直接外まで繋がっている所を見た事
はないのだけど、一晩経つとどうしても篭もってしまう熱やら何やらを逃がしてくれている
みたいなんだ。だからお家はいつでも快適なんだよ』
『シロフクさん達も大変だよねえ。多分だけど、僕らが起きる前から朝の準備をしている訳
でしょう? 僕ならとてもじゃないけど続けられないや……』
『そうだねえ。シロフクさん達さまさまだよね』
『暫く天井のお日様に当たったり、もぞもぞ動いていたりしている内に、最初の朝ご飯の時
間がやって来ます。さっき話したように、シロフクさん達が大きなバケツを運んできて、僕
達のいる部屋に流し込むんだ。お皿も一緒に置かれるから、そこに山盛りになるよ』
『毎日の事だけど、あの光景は凄いよねえ。皆、一斉にがっつくんだもの』
『そりゃあ他にやる事ないし、食べるものないし。それに何でか分からないけど後に取って
おけないんだよね、あれ。気付いたらシワシワの長い筒で吸われていっちゃうから』
『勿体無いよね。もしかしたらシロフクさん達が食べてるのかな?』
『いや……流石にそれはないんじゃない? 僕らに比べてシロフクさん達、小さいし。普段
僕らが食べてる量すら入るかどうかも怪しいよ』
『確かに……』
『まぁその辺りは全部シロフクさん達が上手くやってくれてるんだよ。気にしない。それで
僕達は、その後出られるんだ。と言っても、お家じゃなくてこの部屋から、だけど……』
『凄いんだよ? もうそれこそ部屋の何百倍もあるくらい広いの。それでもってふかふかの
地面と固い地面がごちゃ混ぜになってて、丘になってたり道になってたりするの』
『お昼ご飯までは皆ここで思い思いに過ごすんだ。走り回って遊んでる子もいるし、寝足り
ない子は寝てるし』
『お前は部屋の方をじっと見てるよな』
『うん。だってご飯が楽しみだから』
『……そうやって、たっぷり遊んだらまたお昼ご飯。朝と同じようにシロフクさん達が大き
なバケツを大きな手で挟んでお皿に注いでくれるんだ。でも、気のせいかもしれないけど、
量は朝よりも少し少ないかな? シロフクさん達の話だと“ごたいさんたいに”が一番身体
にいいんだって』
『未だに分かんないだよね。それ』
『うん。シロフクさん達は時々僕らには難しいことを喋ってるよね』
『それも全部、僕達を元気にしてくれる為だと思うよ? お昼を食べたら、また広い部屋に
遊びに行ける。でも中には部屋に戻されて、シロフクさん達に色々と調べられてる子もいる
んだ。変な台に乗せられたり、注射を打たれたり。僕達はたくさんいるから、シロフクさん
達も大変だよ』
『ちゅ、注射は嫌だ……嫌だ……』
『分かる。後で元気になるってのは経験して(わかって)るんだけど、あの太くて硬い感触
が妙に冷やっこいし、痛いしねえ……』
『昨日もいたよね? 何人くらいいたっけ?』
『うーん、よく覚えてないなあ。十人くらいは数えてたけど……』
『そして夜。これも朝や昼と同じでチャイムが鳴るよ。広場で遊べるのはここまで。僕達は
シロフクさん達に誘導されて、部屋の中に戻っていくんだ』
『で、その時にはもう晩ご飯が用意されているんだよね』
『さっきの話でもあったけど、この時も朝に比べると減ってるよね……。気のせい、ではな
いよなあ。動き回った後なんだからもっとくれてもいいと思うんだけど』
『後はもう、寝るだけだよ。明かりはこの頃から少しずつ弱く小さくなっていくんだ。僕達
はそれぞれのお布団に包まりながら、ゆっくりと眠りに入るよ。あと、シロフクさん達の計
らいなのか、落ち着ける音楽も流してくれるしね』
『うん。あれ、僕好き~』
『気付いたらうとうとして……寝ちゃってるんだよね』
『そうして、ぐっすり眠った後は、また朝が来るんだ。最初と同じようにチャイムが鳴って
皆が起こされるよ』

『と、こんな感じで僕らは毎日のんびり気ままに、何不自由なく暮らしている訳だけど』
『実は幾つか不安というか、よく分からないこともあるんだ』
『それは時々、僕らの仲間がごっそり減ってるってことなんだ。見ての通り僕らはいっぱい
いるんだけども、時々それぞれの部屋と部屋の間に分厚い仕切りが降りてきて、お互いの顔
が見えなくなっちゃう。そうして暫くしたら……向こう側にいた子達が一人残らずいなくな
ってしまっているんだ』
『理由は分からない。でも、割と僕らもあまり深くは考えてこなかったんだ』
『気付いたら元に戻ってるからね。空っぽになってた部屋が、次かその次の日になったらま
た埋まってる。僕らと同じ、僕らと同じ子がいっぱい当たり前みたいに暮らしてる』
『まぁそれはそれでいいんだ。まだ子供っぽさの残ってる子の相手とかお世話とか、結構楽
しいしね』
『というか、こうもお互い似通ってると一人ぐらい居なくなっても僕達でも分からないって
部分はあるのかもしれない』
『他にもあるよ。何で僕らの“毛は緑”なんだろう? ってこと』
『シロフクさん達はいつもシロフクだから見え難いけど、大抵は黒とか黄色だもんね』
『なのに僕らの毛は皆全部緑一色。天井の光をいっぱい浴びて、もさもさと日に日に大きく
なるんだ』
『だから、もしかして僕らとシロフクさん達は別の生き物なのかもしれない。その辺りが僕
らをシロフクさん達が一生懸命世話してくれる理由なのかもしれないけど』
『……何だっけ。確か以前、僕らの毛がいっぱいだったからって喜んでたような』
『ああ。覚えてる覚えてる。あの時は普段よりもいっぱい取れたからねえ。でも、何でシロ
フクさん達は僕らの毛で喜ぶんだろう?』
『さあ? 少なくとも僕は毛を刈って貰うのは好きだなあ。サッパリして気持ちいいもの』
『あ~……。分かる気がする』
『それにしたって変わってるよねえ。他人の毛が必要なんてさ?』
『……もしかして』
『うん?』『何さ?』
『僕らは、シロフクさん達の為に此処にいるのかな?』

『た、大変だー! また仕切りが降りて来た!』
『なっ、何だって!?』
『本当だ……。あっち、あっちで仕切りが降り始めてる!』
『おーい! 逃げろー! こっちに来い! 何処かにポイされちゃうぞ!』
『いや、来いって……。もうこっちだって皆でぎゅうぎゅうじゃないか』
『で、でも……。このままじゃあの子達が……』
『畜生! 一体何だってんだよ! 僕らはただのんびりと暮らしたいだけなのに。なのに何
で、仲間をいなくさせちゃうなんてことするんだ』
『またなのか……。また、若い盛りの仲間がいなくなっちゃうのか……』
『これでもう何回目だろう……。次は、僕らなのか……』
『……でも、きっと僕達は忘れる。何日か経てば、何処の誰がいなくなってしまったのかさ
え忘れてしまう』
『くそっ! もう間に──』
『外の世界は、幸せなのかな……?』

 ***

 そこは巨大な研究施設でした。地下深くに掘り下げられた敷地に白一色の壁と機材が整然
と立ち並び、人工以外の何物をもここへ寄せ付けはしません。
 ここはとあるプロジェクトの一つでした。膨大な面積に建てられた幾つもの研究使節群の
一棟に過ぎず、しかし常に互いにしのぎを削り合っています。
 分厚い防護ガラス越しに、完全防備の人々がその進行中の計画を見下ろしています。
 膨大なマス目に区分けられた飼育部屋。そこに一頭ずつ配置された“羊(ラム)”達。
 これが彼らの進めるプロジェクトそのものでした。スーパーラム──遺伝子改造を重ね、
植物と動物の優れた性質を寄り集めた、持続可能な“資源”の生成です。
「──これで、今月の搬出は無事済みそうだな」
「ああ。クライアントの注文通り、二百五十頭。しめてきっかり二万五千キロ」
 彼らはビニールのような分厚くも滑らかな真っ白い生地で手足の先を含めた全身を包み、
更に頭は前面をガラス張りにしたフルフェイスヘルメットで固めています。二重三重に通し
たゴム手袋越しに手元の端末を操り、彼らは互いにやり取りを交わしています。
「供給の余力が落ちてきたな……。かといって余らせてもコストにしかならんが」
「無茶言うなよ。今だってギリギリのラインだぜ? ただでさえゲノムプロダクトってだけ
でゴネる奴らは一定数いるんだ。まだ注文がこれだけある分、マシだと思わねぇと」
「……けっ。資源枯渇(げんじつ)と向き合おうともしないナチュラリストどもが。奴らの
所為で俺達の研究がどれだけ邪魔されているか……」
 スーパーラムは、その体毛を特殊な植物に、その肉や脂を食用や燃料として活用できるよ
う開発された、量産型の“人工資源”です。繁茂した毛は様々な繊維に加工できる他、大気
中の毒を分解する能力を持ちます。肉や脂も、高いエネルギー効果を得られるよう、遺伝子
の段階から数多の調整が施されています。
 そんなスーパーラムを、更にその高い繁殖力──クローンでもって量産し、今や天然資源
の枯渇と環境汚染に喘ぐ人類の救世主にせんと研究しているのが彼らのプロジェクトチーム
でした。この特殊な羊毛や食肉は既に市場に出回り始めており、膨れ上がる人口を賄う大き
な一手として注目され始めています。
 ですが、一方で問題もありました。生命を自ら作り、これを殺して食べること。何よりも
その為に費やしてきた巨額のコストです。
 思わず悪態をついた研究員の言葉も止むを得ない部分ではありました。このプロジェクト
が起動に乗る為に、この大量のラム達を飼育する餌代などに、現在もチームは巨額の費用を
必要とし続けています。
「おいおい。あまりそういう言い方をするもんじゃないぞ。何処で誰が聞いてるとも限らな
いんだし」
「そうだがよぉ……。納得いかねぇな。家畜で食うなんて、そもそも大昔からやってたこと
じゃねえか」
「知らないんだろ。有り難味をさ。ま、いずれ俺達のラムが世界の主食になれば、そういう
連中も食わずにはいられなくなるさ。食わずに勝手に消えれば、それはそれでいい」
 悪態をついた方もですが、一見宥める方も宥める方でした。
 彼らには共通して、焦りがありました。膨らむコストを如何するか? 費用対効果を如何
に高めるか? 此処が研究施設である以上、彼らは常に競わなければいけなかったのです。
そうでなくては、プロジェクト自体が上層部から破棄に追い込まれてしまう……。
「一番のネックはやっぱり飼料だな。もう大分前から、余剰分のラムを使ってるが……」
「そもそもここまで乗せるまでにだいぶ溶かしたからなあ。回収できるのは一体いつになる
事やら」
「おいおい……あんまり呑気に言ってる場合じゃねぇぞ。そりゃあその辺りの細々は経理部
の仕事だが、それも俺達末端の技術屋のタッグあってこそだろう?」
「違いない」
 焦り、それ以上に実際問題としての解決すべき懸念材料はごまんとありました。
 彼らは互いに小突きながら、防護服越しにそれとなく頭を抱えます。頭脳を働かせなくて
はいけない。ゆっくりとジリ貧になってゆくこのプロジェクトを、何とか復活させなくては
いけない……。
「とりあえず戻ろう。搬出も終わったら、今度は次の選別会議の準備だ」
「……ああ。そうだな」
 片方がポンと軽く肩を叩きます。
 酷くこざっぱりとした白く巨大な壁に四方を覆われて、彼らはやがてカツカツと、二人し
て通路の遠く向こう側へと消えてゆくのでした。
                                      (了)

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  1. 2016/09/04(日) 00:00:00|
  2. 週刊三題
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
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