日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「フェアリィテイル」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:妖精、伝説、見えない】


 Title:帝国暦九百五年・○月△日(現地の暦で狩人の月と二十日)

 この国に滞在するようになって、今日で半年になる。入国以来折に触れてこうして記録を
残してきたが、それもおそらくこれが最後になるだろう。

 帝国領南端線より更に南、原始に近い広大な密林と複雑に入り組む河流によって、この国
は長い間外界から半ば隔絶された世界を作り上げていた。
 しかしそれも、我が国や周辺列強の技術力の前には無力だ。数十年前、幾度の探索を経て
祖先達がこの地を見出して以来、この国は開国以外の道などなかった。限定的ではあるが、
現在は他国との交易区画を設けて国を開いている。独特の色彩で飾られた織物や陶器などは
既に少なからぬ帝国の民に恩恵を及ぼしている筈である。

 私の見解で言えば、この国は十中八九後進国──未開の民だ。各種文明レベルは我が国や
周辺国のそれに比べ二百年から三百年は遅れているし、製鉄の技術もまだまだ粗が目立つ。
主な産業は農業と漁業。周囲の豊かな自然をそのままそっくり切り出し、適宜必要な分だけ
利用するという原始的な暮らしがその大半を占める。
 とはいえ、この地の者の気質は総じて素朴で温和だと思える。尤も、ただ単純に科学知識
の類や論理的思考に乏しいだけなのかもしれないが。
 日が昇る頃に起き、沈む頃には寝床に入る。自然を神と同一視し、その恵みに感謝と畏怖
を並立させるという概念は、我ら西部大陸の信仰よりも東部平原の諸民族らのそれに近いと
考えられよう。ごつごつした石垣で区切られた都市の中を散策していると、そこかしこでじ
っと地面に跪き、祈りを捧げている者を確認できる。多くは中年以降の年配世代だ。この点
は我が国の中央協会の信者分布とも類似する。或いは──責める心算は毛頭ないが──我々
が開拓団を率いて交易を始めさせたことで、現役の若年世代に意識の変化が現れているのか
もしれない。これは本稿にても、帰国後の検討課題としても列挙するものとする。

 当初、私はこの国の者達を(良くも悪くも)純朴だと考えていた。初めてこの国を訪れた
時、出会った現地の民の殆どは異国人である私を警戒した。しかし手土産にと持ち込んでい
た菓子などを目の前にするとコロリと態度を変える。珍しかったのだろう。確かにこの国を
見渡す限り、科学的な調理というものは皆無だ。素材を煮たり焼いたり、或いは粉にして挽
くことが主だった手法となっている。ハンハというこの国における主食は、農地で栽培もさ
れている大振りの黍(きび)の粉を焼いたものだ。味はブレッドよりも薄い。どうやら果物
などの他の食材と併せて食べるのが基本であるらしい。
 私の事は、珍しいものを持ってきてくれる学者という認識で通っているようだ。それを聞
いてか子供達には毎度菓子をせびられるし、掌を返したように大人達は私を歓待する。彼ら
の生活を聞き取りしようとこの半年、何度か各地の宴に顔を出した。
 彼らはとにかくよく食べ、飲み、笑い、円座を作って一つになる。おそらくは連帯を確か
める目的も兼ねているだろう(彼ら自身に自覚は薄いようだが)長らく閉鎖的な世界に生き
てきた彼らにとって、集団のひびは即ち個々人への生活へと跳ね返ってくる。

 ──さて。此処からが今回の記録の重要な部分なのだが、彼らには一風変わった慣わしが
存在することが確認できた。いや、彼らというよりこの国自体の根幹を成す、とでも言った
方がいいのかもしれない。
 それは『妖精』の存在だ。彼ら曰く、妖精とは古くから森に住み、自分達と共に歩んでき
た自然の使いだという。スピリット、アニミズムに近い概念だと思われる。妖精達はこの国
の至る所に棲み、しかし常人の眼には決して捉えられない。
 守り神の類か? だが私のそんな最初の仮設は掻き消される。私は見たのだ。財布──と
言っても、中身は価額と国長の印が描かれた皮の札だが──を失くした男が、次の瞬間ある
言葉によってその損失を“諦めた”のを。
『ああ、妖精が持って行ったんだ』
『ああ、妖精か。なら仕方がない』
 大よそこんなやり取りだ。財布がなくなっているのに気付き、懐を探っていた彼に一人の
老僧がそう言うと、彼はそのままコロリと諦めて笑みを返し、道の向こうへ歩き出してしま
ったのだ。
 そんな場面がこの半年間の滞在で何度もあった。ある者は物をなくし、ある者は人に暴力
を振るう。その全てがふと誰かがやって来て『妖精だ』と言うと、皆が皆さもそれが当たり
前のように納得し、追及の手を止めてしまうのである。
 現地の民──特に古老に類する者達に聞き取り調査をした。彼ら曰く、妖精達は使いであ
るが、同時に悪戯好きでもあるのだという。だからある程度の悪さには目を瞑り、代わりに
この地はしっかりと守っていただく。そういう約定が古来より在るのだそうだ。
 ……では後者は? 私は訊いた。他人に暴力を振るい、場合によっては殺してしまいさえ
する罪を、この国ではどう裁いているのかと。
 古老達は言った。先ず裁きとは何か? 裁きとは人ではなく、神がするものだ。妖精達が
悪戯で済むのは、その身体がとても小さいからだ。しかし何かの拍子に人間に憑いてしまう
ことがある。そうなるとその人間──妖精達のしでかす行為は、元々のそれよりもずっと大
きなものに成ってしまうのだと。
 我々が同胞(はらから)を断ずることはない。だが妖精に憑かれてしまった者は、神官達
による祓いの儀を受けることを義務付けていると。それで起こった事件は「終わったもの」
になるのだそうだ。
 長らくの疑問が解消した。彼らに、この国に法治の概念は存在しない……。

 今私は、ある種の怒りをもってこの記録を残している。
 異国だから、異文化だからと何処か諦めていた節があったが、やはり彼らは蛮族だった。
彼らは他人の財産を盗もうが、生命を奪おうが、その責を全て妖精などという架空の存在に
擦り付けて今日まで暮らしてきたのだ。勿論私も、同胞の現地人らも、彼らのいう妖精なる
者達の実在を確認してはいない。見えるのは神官達だけだそうだ。酷い欺瞞である。
 彼らは、悪を裁き正義を実現するという、人として当然の使命から逃げ続けてきたのだ。
前述のように、彼らはこの広大な密林と大河に閉じ込められた世界に籠もり続け、外界へ進
出しようという気概さえなかった。それは現在の交易が未だ限定的なものである点からも明
らかである。だが私はここで主張する。彼らにおける妖精信仰とは、自身らのコミュニティ
に瑕疵が出た際、誰も傷付かないよう用意された架空のスケープゴートに過ぎないのだと。
(財産を盗まれた者もいた筈だ。大切な人を奪われた者もいた筈だ。それをこの国は、この
地の民は、因習に則って当然の想いすら禁じてきたことになる)

 ……私は、彼らのこれを恥ずべき「怠惰」だと断定する。それを罷り通らせた因習・風土
こそがこの地を未開のまま、蛮族のままにせしめた大きな要因だと結論付ける。

 ***

 帝国海軍戦略司令部サージェンス中将へ。同局嘱託調査官アズラエル准尉より。
 私はこの国への、本格的入植を進言します。そして徹底した科学教育と上記信仰の撲滅を
推し進めていただきたく。後日、正式な報告書にも明記するものとしますが、このまま緩慢
な交易を続けていても彼の国が我が国の市場として開かれる可能性は低いでしょう。場合に
よっては武力行使も含め、強固な介入を我々は支持します。

 是非、御英断の程を。
                                      (了)

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  1. 2016/09/01(木) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
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