日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「朝が来るから」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:暁、聖夜、無敵】


“恋人達(おまえら)が奇麗だねと眺めている街の灯りは、社畜達(おれら)が必死こいて
残業しているオフィスの明かりなんだよ──”

 リア充爆発しろ。
 恨みと嫉妬を含んだそんなスラングも、目の前にハードワークが広がっている俺達にとっ
ては、ほざいている暇すらない言葉遊びだ。
 今夜俺は、オフィスに泊まっている。定時などとっくに過ぎ去り、もし明かりが無ければ
辺りは真っ暗な闇一色だったろう。
 他に居残りになった同僚達数名と時折キーボードを叩き、サーバーを監視する。
 今夜はうちが管理・運営するネットゲーム内においてもクリスマス限定イベントが催され
ている。ただでさえユーザーが多くログインする夜だ。何かあった時の為に常駐する社員が
居ないと対応できない、その理屈は解る。
『……』
 自分を含めて、周りの面々の目は死んでいた。
 そりゃそうだろう。何が悲しくてよりもよって、イヴに野郎ばかりで集って寝ずの番をし
なければならないのだ。これが仲の良い連れ同士ならともかく、お互いが普段必要最低限の
やり取りしかしない同僚以上知人未満ばかり。ある意味悪意に満ちた人選ではないかとさえ
疑ってしまう。まぁ実際はそんな意図などこれっぽちもなく、ただ機械的に出て来れる面子
を宛がった結果なのだろうが……。
 なので、この面子の中に彼女持ちはいないだろう。仮にいたら爆発しろ。
 暗がりの中、だだっ広い一室の中だけが妙に明るいオフィス。ゲームのサーバーと繋がっ
た端末を複数並べ、俺達はじっと流れていく処理の数列を眺めている。時々眠気覚ましにと
コーヒーを淹れに行く者もいた。淡々と時間だけが流れていく。明かりを反射して俺達のや
つれた顔を映し返してくる窓の外には、ここぞとばかりに今夜という日にかこつけて浮付く
色取り取りの光が溢れている。

 ……頑張れば、きっと報われる。そう信じて疑わなかったのはいつの頃だろう?
 社会人になる前か。それとももっと若い、何も知らなかった頃か。
 結論から言えば、それ“だけ”は報われない。努力には目的に合った方向(ベクトル)が
ないと駄目だし、そもそも自分を正しく評価してくれる上司に当たるとは限らない。数字の
上での成績よりも、如何に上手く取り入るかで生き残るという戦略も、この世界にはあるん
だと社会に出てから目の当たりにしてきた。
 そういえば、今の会社は何社目だっけ? 少なくとも一つの所に長居してやる義理もない
と斜に構え、何度か転職を繰り返した。それでも当面の生活に困ると抜け出せずにずるずる
と居続け、身体を壊したこともあった。……休んだら、忍耐が足りないんだと哂われた。
 恨みたくもなるさ。愚痴りたくもなるさ。働けど働けど、暮らしが良くなる訳でもない。
目の前に広がる現実は、自分達末端の従業員を使い倒し、金を「稼ぐ」以上に「溜める」事
に執着するお偉いさん方の存在だ。こっちは念の為にと持っておきたいのに、迫られる出費
の度に札に羽を生やさねばならない。
 結局、自分達は惰性で生きている。死ぬ理由がないから生きている。
 そして生きるにはお金が必要だ。俺達は金の為に生まれて、何年も勉強させられて、世の
中に出てゆく。働いて働いて、気付いた時にはヨボヨボの爺さんになっている。
 頑張った分、きちんと分け前を寄越せ──もうそんな要求はしない。ある程度必要ではあ
るが、した所でこの疑問への根本的な答えにはならないから。
 俺達は何なのだろう?
 何故こうも、生きなければならないのだろう?
 その意味では同じだ。こんな日にさえ残業している俺達も、ネットの海で空想の世界に生
きるユーザー達も、ここぞとばかりに街に繰り出し、イチャコラしているリア充どもも。

「……B鯖の負荷が増してきたな」
「ん? ああ、本当だ。確か一番ユーザー数が多いんだっけか」
 管理画面を眺めていた面子の一人が、はたっとゲーム内の変化に気付き、他の皆も次々に
覗き込むようにして周りを囲った。数値上まだ処理能力に余裕はあるが、念の為である。俺
達が互いに顔を見合わせて頷き合うと、予備の機材をこれの回線に追加で繋いで補強した。
 こういう作業と、プログラムの羅列との睨めっことの繰り返しだ。元々そういう職場では
あるが、夜遅くに淡々と時間と精神的な疲労だけが積み重なっていくこの状況は、決して心
地良いものではない。
 誰も、すっかり口数が減ってしまっている。平静のように見えるが、もし何かトラブルが
起きたり誰かがミスをすれば、各々の内に溜まっている苛立ちは一気に顕在化するだろう。
 ……クソッタレが。
 思いはすれど、決して口には出さない。もし漏らしてしまえば少なくとも、場の空気を乱
すことぐらいはこんな馬鹿でも理解はできる。
 恨むこと、愚痴ること。それも諦めた理由の一つはその生産性の無さだが、それ以上に俺
に諦めさせて久しいのはこういう状況になるのが大嫌いだからだ。仕事柄、避けて通る事が
必ずしもできないにしても、何も自分から率先して周りをキレさせる──澱んだ気持ちにさ
せることはないだろうにと……。
 ……逃げだと思うのだ。それは自分だけが「楽」をして、自分だけがスッキリしようとい
う魂胆だ。そのガス抜き自体までは否定しない。一時の慰みでも抜いて自分を騙し騙ししな
ければやってられないのは事実だ。だが、それは所詮一時のものに過ぎない。時間が経てば
またすぐに澱みは溜まってくる。果てなんてありゃしない。何より問題なのは──仮にそう
やって自分だけが「楽」をした事で、周りにどんな影響が出るか? という点である。
 間違いなく、少なくとも良い影響なんてのは無い。仮にそう見えたとしてもそれは単に彼
らの鬱憤と自分の鬱憤が一致していたからに過ぎない。……敵の敵は味方という奴だ。人は
隔たった立場の相手より、同じ感情を共有している相手との方が共鳴しやすい。そしてそい
つらは共通の“敵”に向かって吐き出すのだ。自分が「楽」をする為に。澱んだ気持ちを持
っている自分という自覚から、逃げる為に。
 俺ももっと若い頃は、そんな事よくも考えずに喚いていた。あれが上手くいかない、それ
が上手くいかない、それもこれも○○のせいだ! ……単純で良かったよなあ。正しいとか
正しくないとかそっちのけで、とりあえず生贄さえ見つかれば誰も良かったんだから。
 でも……そうしてハッと我に返った時、俺の周りには暗い眼をギラつかせた奴らばかりが
いた。腕を振り上げて、ずっとずっと同じ言葉を叫んでいた。
 俺のせいじゃない。俺だけのせいじゃない。そう思ったさ、思いたかったさ。だけども現
実に俺が「楽」をして「逃げた」から、俺の中のクソッタレは伝染したんじゃないか? 悪
影響ってやつが、周りの人間を刺激してああさせたんじゃないか……?

 俺達は何なのだろう?
 何故こうも、生きなければならないのだろう?
 金の為に働いている。食って寝て、暮らしを豊かにする為に金はある。
 辞書みたいなことを言えば、万人に共通で保存の効く、物々交換のツール。
 だが、社会に出てもう十年近く。その理屈では俺の暮らしは別に良くなってはいないし、
何より休みの日にじゃあ何をやる? と訊かれても特に出てこないのだ。
 ……無意味じゃないか。
 じゃあ何の為に、俺はずっとがむしゃらに働いてきた? 働いている? 突き詰めれば俺
が俺の為に使うから金を稼いでいるのに、いざそれをやろうとすると何も浮かばない。ぽっ
かりと、俺の中に薄ら寒い空っぽができているんじゃないか? いや元々、俺にはそこまで
の「したい」自体、無かったんじゃないか……?
 だから思う。俺は──俺達は、自分自身の為だけを突き詰めても生きられないのかもしれ
ない。もっとこう、猛烈にやりたいことが見つかればまた違うのかもしれないが、毎日を過
ごすだけでやっとな人間だって大勢いる。そいつらに、もっと欲を出せ、使えと尻を叩いて
も酷く無駄なような気が、俺にはする。
 ……今こうして、俺は同僚達をサーバーの管理をやっている。どうやら機材の追加で負荷
率も下がったようだ。これで暫くはまた仕事といいながらぼ~っと過ごす事ができそうだ。
ああ、そうだった。思考(はなし)の続きだった。つまり俺達は、自分だけが良いだけでは
回り回って幸せになんかなれないんだってこと。

 鬱憤を、周りに構わずぶちまければ、回り回って自分にも居心地の悪い沼──のような世
界に生きざるを得ない。
 それは俺達が働くということ、生きるということも結局は同じなのではないだろうか?
 要するに“他人の為に何かする”ということ。それが回り回って自分自身にも居心地の良
い草むらを作ることになるのではと思う。何だっけ……ジジョ? ああ、互助。助け合いの
精神ってやつだ。だがそれは別に自分を擲って他人に尽くせって意味じゃない。普段から誰
かの助けになるよう振る舞っていれば、それはつまり向こうからも俺──向こうにとっての
誰かの為に、という考え方になる。……まぁ世の中にはそういうのとは真逆の世界で生きて
るクソッタレも結構割といるんだけども。
 俺はこの会社で働いてる。目に見えるモンじゃねえが、ネットゲームという架空の世界で
他の誰かが一時でも普段の「クソッタレ」を忘れて遊んでくれるのなら、俺は自分じゃなく
誰かの為に働いているってことになりはしないだろうか? 別にゲームじゃなくてもいい。
サラリーマンでも、八百屋でも、飯屋でもいい。誰かに俺達それぞれが何かしらの「便利」
を売る。それをそいつが買う。それでいいんだ。それで、俺達のやっていることはちゃんと
意味を成している。そりゃまぁ、中々俺達自身が目に見えて分かるもんじゃねぇけど……。
 俺が特に何を「したい」って思いつかなくても、他の誰かまで同じとは限らないんだ。
 決め付けることはない。くだらないと他人まで一緒くたにすることはない。もし本当に誰
も彼もが一緒なら、本当に俺達の生きているこの世界は、欠片一つ救いなんぞありはしねぇ
じゃねえか……。

「──ああっ、終わったー!」
「眩し……。これでやっと、寝れる……」
「厳密にはあと二時間だけどな。交替の奴がくるまで」
 絶望して、斜に構えて、戻ってきて。
 もしオフィスで黙々と管理画面と睨めっこしていたこいつらにこんなこと話したら、どん
な表情(かお)をされるだろう? やっぱり哂われるだろうか。それとも意味すら理解され
ずに、呆けた表情(かお)を返されるのだろうか。
 どれだけ時間が経ったのだろう。夜が明けていく。それまで只管沈み込んでいた俺達は、
年甲斐も無くオフィスに差してきた朝日を浴びながらぐぐっと身体を伸ばしていた。解放さ
れたと、安堵している奴もいる。一方で、まだ厳密にはシフトが終わっていないと無粋な事
を言う奴もいる。
 ……少なくとも俺は、安堵した側だった。尤もそれは勤務が明けるというより、こいつら
と何もトラブルが無く終わったからという理由だったのだが。
 やけに色付き、溢れていた街の光は気付けば何処へやら消えていた。ビルから見下ろした
通りには、ただ妙に色が剥がれて落ちて薄くなり、浮かれていた分の反動でも喰らったかと
思うほどに活気が失われた痕が在る。
 ざまあみろ。ちょっとだけ俺は思った。でもそんな詮無い思考はすぐに捨てる。折角お天
道様が顔を出したのだから、捻くれ者ながらに顔の一つぐらいは上げておかないとな。
 イヴが終わった。俺達は限定イベントをつつがなく終了させ、ユーザー達はこの空の下の
色んな場所で、色んな仲間と一緒に夜を過ごしたのだろう。……どんな一時があったのだろ
うか? 目に見えたモノじゃあないけれど、誰かというあんたにはちゃんと「便利」を届け
られたかい? イチャコラしていたリア充どももしっぽり楽しんだのだろう。まぁ連中には
また別の人間が「便利」を届けている筈だ。十月十日後に子供が生まれていたら、からかい
半分に祝ってやろう──末永く爆発しろと。

 「自分の為」というスペースに詰まっているものが無い。でも誰かのそれなら埋めてやる
ことはできる。それさえ分かっていれば、そうして日々を生きていれば、俺達はきっと最強
なんだ。気長に待っていれば、自分が二の次なら簡単に絶望はしないし、クソッタレを溜め
込む量も必要性も減る。諦めと言えば聞こえは悪いが、もし究められればこの世界で生きて
死ぬことに関して、そいつは鉄壁の守りを発揮するんだ……。

 朝が来る。光にそっと目を細める。
 祭りは終わり色褪せても、またそれぞれの今日がやって来る。
                                      (了)

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  1. 2016/08/07(日) 00:00:00|
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
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