日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「憧れ」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:闇、矛盾、残念】


 標的になったのは、何処かダウナーな雰囲気漂うごく普通の少年だった。
 学生服の両ポケットに手を突っ込み、鞄を担ぐようにしてとぼとぼとと一人、人気の無い
高架下に差し掛かる。日は差しているんいふっと暗くなった。呑気に欠伸をしつつ、彼は眠
気眼を細めてぼうっと向かいの出口を眺めている。
「……?」
 そんな時だ、そこに見知らぬ影が立っているのに気付いたのは。
 他の通行人か。思ったが、直後そんな当たり前の思考など何の役にも立たず、吹き飛ばさ
れてしまった。
 ──怪人だった。二足歩行の、蟷螂をそのまま人間サイズにしたような化け物が彼の行く
手を塞ぐように立っていたからである。
 眠気が引き剥がされ、少年はギョッとなった。ゆるゆると進んでいた歩が止まり、背中が
まるで引力に吸い寄せられるように後ろへ、後ろへと傾こうとする。
 それを怪人は、ニチャッと円形に開く口を開けながら見ていた。彼とは対照的に一歩また
一歩とこちらに近付いて来、大鎌状の両手をゆっくりと持ち上げる。
 片方の鎌は、高架下の壁にこすり付けられていた。ガリガリガリッと、歩を進める度に刃
はコンクリートの壁を抉り、横一線の跡を残してゆく。
 ひっ……! 少年は途中で尻餅をつき、転んだ。蟷螂の怪人が近付いて来る。
 絶体絶命。もう駄目だ。
 何故ここで? 何故自分に? 頭の中でガンガンと響いてきた疑問に答えなど返って来な
いまま、怪人の鎌が彼に向かって振り上げられて──。
「……?」
 なのにその肉を裂く、首が飛ぶ痛みは一向に訪れなかった。少年はその間を不審に思い、
おずおずと思わず瞑っていたその目を開き、顔を上げてみる。
「やれやれ。次から次へとスポットを開拓してくるな、貴様らは」
 ヒーローがいた。鍛え上げられた身体に貼りつくようなボディスーツを纏い、少年の眼前
を真っ白なマントがはためている。この主──ヒーロースーツの男性は片手一つでこの怪人
の一撃をいつの間にか間に入って受け止め、平然と呟いていたのだ。少年がまた別の意味で
唖然としている。それを、男性はニッと肩越しに見遣りながら言った。
「大丈夫か? 怪我はないか? すぐに片付けるからな」
 それを不敵な挑発と受け取ったのだろう。蟷螂の怪人は怒号のような奇声を上げ、握られ
た自らの右手が千切れるのも構わず大きく飛び退いた。
 裂けた腕の傷口から紫色の体液が飛び散っている。だが怪人はそんな痛みにも構わず、大
きく口を開いて牙を剥き、背中の羽をヴヴヴ……と振動させ始めた。
「……」
 男性が大きく深呼吸をする。握り取っていた怪人の手をぞんざいに放り投げ、ゆっくりと
右拳に添えるように気持ち身体を丸めていく。少年は見ていた。その集中せんとする動作の
最中から、彼に茜色の眩いオーラが滾ってゆくのを。
 地面を蹴り、怪人が飛びながら襲い掛かってきた。少年はハッと顔を上げ、しかし危ない
の一言もいえずにその場にへたり込んでいる。だがニッと、男性はその横顔で嗤ってすらい
た。拳に込めた茜色のエネルギーは大きく球となって煌々と輝き、薄暗い高架下をこれでも
かと言わんばかりに熱量ある場所へと変えている。
 奇声。残された左手の鎌を振り上げ、怪人が男性に向かって攻撃を仕掛けた。その大きく
空いた胴の隙を、彼は見逃さない。
「サンライト……ブロー!!」
 はたして、次の瞬間だった。叫びながら突き出された拳は、巨大な茜色の衝撃波となって
眼前に迫っていた怪人をいとも容易く巻き込んだ。猛烈な風圧が襲う。だが、思わず身を強
張らせて目を細めた少年は確かに見たのだった。この力──ヒーローの一撃によって粉々に
消滅していく、怪人の姿を。
「──」
 肩越しに覗いた不敵な笑み。文字通りの正義の味方。
 それは、少年にとって、初めて自ら経験したヒーローとの出会いであった。

 ***

 この世界の異変が始まったのは一体いつからなのだろう。
 記録を辿ればある程度絞れるのだろうが、厳密なそれは分からない。だが少なくとも、各
地で“怪人”とでも形容できる変異生命体が現れ、一部の人類に異能──天賦(ギフト)が
顕れ始めたのは、東部合衆国と北域連邦による十日戦争が終わったその後の時系列である。
 放射能を始めとした種々の廃棄物質を詰め込んで作られた長距離弾道ミサイル。開戦の最
初期に両陣営が撃ち合ったそれは、距離にして地球の半分を網羅し、そして互いに迎撃し合
ったことでその大多数が広く大気中に散っていった。
 もし、変異生命体──怪人の出現例が報告されなければ、十日戦争は二十日三十日、或い
は一年二年と延びていったのだろうか。
 歴史のもしもはない。だが事実として、この想定外の異変が人間同士の諍いを取り止めさ
せた大きな枷にはなったことは最早誰も異論を差し挟みはしないだろう。最初はぽつぽつと
しか報告もされない、都市伝説・陰謀論の類でしかなかったが、実際に怪人達によって無差
別に人が襲われ始めたことで、世界は否応なく変貌を余儀なくされることになる。
 人類が、自ら招き入れた厄災。
 だがその一方で、同じ人間にもまた異変が起こり始めていた。後に天賦(ギフト)と総称
される異能力を発現する者が各地に現れ出したのである。
 原因は、やはり十日戦争で飛散した汚染物質だった。その意味では怪人と同様、人間もま
た変異に晒されただけなのかもしれない。しかし人類の強かさとはこういう時に発揮される
ものである。人々はこの異能力者達の力を借り、その数を増す怪人達を討伐する任を与えた
のである。
 これが現在に至る“ヒーロー”の誕生だった。彼らはその力を人々を守る為に使い、だか
らこそその力が故に不当に差別されることもない。多くの凡人にとって、憧れの存在となっ
た。大多数の都合に敵えば、相手が人間でなければ、百を殺しても英雄だった。
 故に、一時に比べてこそその数は減ったが、今日も怪人退治とその他諸々の治安活動──
既存の警察には手に負えない犯罪から人々を守る為、ヒーロー達は引っ張りだこだ。やがて
各国は国策として異能力保持者──ヒーローの素質のある者達を集め、育てる専門の学校を
作り上げる。国がヒーローを管理する時代が幕を開けたのだ。
 今や彼らは、この世界になくてはならない存在となっている。それでいて、人々は彼らが
いれば安心だと、かつてほど怪人の存在に怯えなくなった。
 丸投げの安寧。
 それでも、能力者が能力者として生きられる道が用意されている今の世の中は、まだマシ
なのかもしれない。加えて現在では天賦(ギフト)自体の解明も進んでいる。故に今日では
専用の施術を受ければ、イーブンながらも人工的に異能を発現させることもできるようにな
った。ヒーロー達もまた、新しい世代になろうとしているのだろうか。

「──梨田コーキ……」
 見せられた数十人分の履歴書を捲り、サンライトはふと記憶の端に引っ掛かるものを感じ
た。名前は知らないが、その貼り付けてあった写真の青年に彼は何処か見覚えがあったから
である。
 第二十七期、ヒーロー学院。
 この春から入学してくる異能力者、ヒーロー候補生達だ。そのリストを渡され、現役プロ
ヒーローであり、学院の講師でもある彼は書類を捲る手を止めていた。着慣れぬスーツの下
から隆々とした体躯がさっきからずっと自己主張している。
「? お知り合いですかな?」
「いえ……。何処か見覚えのある顔だなと思いまして。もしかしたら、以前何処かで会った
ことがあるのかもしれません」
 小柄な好々爺とでも形容できる学院長に訊ねられ、サンライトは苦笑した。少し記憶に引
っ掛かっただけだ。自分はもう現役を続けてきて二十年近くになる。これまでに救ってきた
人々は数多に渡るのだ。一々全員を詳しく覚えている訳ではないのに。
「ああ、彼ですか。私も読みました。志望理由の欄、見てみてください。『昔、怪人に襲わ
れた自分を助けてくれたヒーローに憧れて』とあります。もしかしたら、昔貴方が助けた誰
かなのかもしれませんなあ」
「そう、なのでしょうか。正直……照れますね。彼の年齢からすれば、まだ私も駆け出しの
頃だった筈です。……そうか。ちゃんとあの時の私は、ヒーローをやれていたんだな……」
 再び履歴書をぱらぱらと捲っていき、一通り目を通し終わる。彼らは今年自分が受け持つ
生徒達だ。自分が導いてやらねばならない。異能を持ったことに絶望せず、溺れず、正しき
道にその力を使って欲しい。
 そうしている内に、チャイムが鳴った。そろそろ新入生も含めた生徒達が登校してくる時
間だ。リストをしっかり頭に叩き込んでから、彼は出席簿を小脇に抱えて踵を返す。
「今年も宜しく頼みますよ。佐渡先生──いえ。S級ヒーロー、Mr.サンライト」
 はい。
 肩越しに、彼はニカッと太陽のような笑みで笑う。

「ほお……。それが君の能力か」
 結論から言えば、梨田コーキは学院長の予想通り、幼き日にヒーローに救われた経験から
自らも同じ道を志したらしい。
 担当クラスの面々に挨拶と自己紹介を互いに済ませた後、サンライトは実習棟へと彼らを
案内した。その性質上、他人に見せたがらない者もいるだろうが、それでも担任としていち
ヒーローとして、後人の持つ能力はできるだけ把握しておきたい。
 炎を操る者、爪を刃のように変形させられる者、特殊な音波を操る者、五感を常人の何倍
にも高めることのできる者、色んな才能の候補生達がいた。
 そんな中で、コーキは一風変わった異能の持ち主だった。右手に金色に光る外骨格を形成
したまま、彼は何処かダウナーな苦笑いのまま、言ったのである。
「ええ。あんまり、怪人退治には向いてないですけど」
 一言でいえば治癒能力だった。彼のこの金色の手に触れたものは、どんなに激しく傷付い
ていてもたちどころに再生してしまう。それを、彼自身は戦闘向けではない──地味だと評
していた。
「そんな事はないさ。ただ傷付けることが力じゃない。きっと、君はとても優しい子なんだ
ろう。その力で、仲間達を大いに助けてやってくれ。それも、立派な貢献だ」
 刃の異能の候補生がついハッスルして開けてしまった壁の穴を、彼はその右手で瞬く間に
修復してしまったのだ。クラスメート達が「おお……」とめいめいに驚いたようなざわめき
でこれを見遣っている。サンライトも優しく宥めるようにこの力を褒めた。直接攻撃系の能
力を持つ子らは少し複雑な面持ちをしていたようだが、彼らも彼らでまた直接人々を怪人の
魔手から守ることができる。立派な才能だ。
「それで、その異能には何か名前は付けているかい? まぁすぐにでなくてもいいんだが、
カリキュラムをこなして、正式にプロヒーローとして活躍するとなれば、その辺も呼び名く
らいはあった方がいい。私の“生命礼賛拳(サンライトブロー)”のようにね」
 言ってぎゅっと拳を軽く握る。本物のS級ヒーローとあってか、生徒達の少なからずが既
に羨望の眼差しでこちらを見ている。
 ポリポリ。コーキは照れ臭そうに後ろ髪を掻きながら、少し躊躇った。
 しかし他ならぬサンライトと、周りの皆の期待して待つ様子には抗えず、答える。
「……そうッスね。“天使の右手(エンゼルハンド)”とか、どうでしょう」


 だから今年は、有望な生徒達が揃っていると思っていた。サンライト自身、希望に満ちて
いた。自分たち講師、先達の現役ヒーローが、次の世代に正義の心をしっかりと継承させて
みせる。そう心の中で強く意気込んでいたからだ。
 なのに、入学後暫くして、事件が起きた。候補生の一人が謎の死を遂げたのだ。
 最初は怪人にやられたのかと思った。だが基本、見習いレベルであるF級が実戦に駆り出
されることはない。許可なく勝手に出動したのか? 無茶な事を。
 サンライトは、内の哀しみを努めて堪え、残されたクラスメート達に能力者だからと怪人
を侮らないこと、何より自身の力に溺れないことを切々と説いた。それがはたしてどれだけ
彼らに届いたのかは定かではないが、総じて暗い顔で俯いていたことから追悼の意くらいは
持ってくれていたのだと思いたい。
 なのに、被害は一人また一人と、月を重ねる毎に増えていったのだ。
 最初は候補生、F級の生徒達。実習棟でのガイダンスで意気揚々とその力を疲労してくれ
た炎の能力者・クリムゾン三谷や爪を鋭い刃とするブレイドマンこと白岡、音波で敵を気絶
させたり眠らせたりできる少女・優衣や、強化した五感による剣術で戦う硬派な少年・西嶋
もその犠牲者達の中に含まれた。サンライトや学院関係者は狼狽した。一体誰が? こうも
異能者を集中的に狙う怪人が今までにいただろうか?
 更に姿なき犯人の襲撃は続く。F級ではもう満足できなくなったのか、被害に遭って死亡
するヒーローは上級生になるE級やD級、C級へとエスカレートしていったのだ。
 最早偶然ではない。何者かが、間違いなくヒーローを標的にして殺戮を繰り返しているの
だ。学院は数段飛ばしで警戒体勢を敷いていった。これまでにない用意周到な怪人なのかも
しれない。市中のパトロールであっても必ず二名以上のコンビで行動することを義務付け、
不測の事態に備えさせた。
 何より、このヒーロー内部の動揺が市民に伝わるのは避けたかった。安心安全の象徴であ
る自分達がこうも次から次へとやられていくことは即座に人々の不安に繋がるし、もしこの
内情を知的レベルの高い怪人などに知られれば、その暴れ方次第で深刻な被害を巻き起こさ
れる危険性だってある。
 にも拘わらず、被害は止む所か寧ろ増す一方だった。標的となったヒーロー達もとうに現
役であるC級以上に及び、第一線で活躍している筈のA級でさえ、その数名がこの犯人の餌
食になってしまった。
 通達の例に漏れず、複数名で行動していたにも拘わらず、だ。
 彼らのは皆身体をぐちゃぐちゃに引き裂かれ、辺りに血の海を撒き散らしながら絶命して
いた。犯人は、一度襲ったら決して生き残りという者を許さない。徹底的に、殺し尽くす。

『き、危険じゃ! いくら貴方がS級ヒーローの、トップであろうとも!』
『いえ。もう私が出るしかないでしょう。A級ですら止められない犯人……よほど手の打ち
ようのない力を持っているのか、奇襲の天才なのか……』
 そして遂に、サンライトが動いた。学院長ら上層部には止められたが、一度正義の炎が点
いた彼を止められる者は誰もいなかった。
 一人、ヒーロースーツを身に纏った姿で人気の無い路地を歩く。言わずもがな、犯人を誘
い出す為だ。同行者を連れて巻き込んでしまうのが惜しいというだけではない。彼自身、こ
の卑劣な連続殺人犯を許せなかったのだから。
 カツン、カツン。やたらに足音が響くコンクリートで囲まれた周囲。
 サンライトは全神経を集中させながら歩いた。来るなら、来い。
「──ッ!」
 はたして、そんな時だったのだ。小一時間ほどだったろうか。一人路地裏を縫って進んで
いく最中、はたと迫って来る殺気がサンライトの五感を駆け巡る。
 咄嗟に彼は素早く身を捌いた。かわした、筈だった。得意のサンライトブローを充分チャ
ージできないでも、即座に撃ち返すくらいの気概は持っていた筈だった。
「ぬぅっ……」
 左腕が、消し飛んでいた。身を捌いたと思ったのに、それよりも速く敵の攻撃が自身の半
身を食い破っていたのだ。
 痛みはやや遅れてやってくる。だがそれに追従している暇などなかった。だばっと血が溢
れ出る、吹き飛んだ左腕の残骸が地面に落ちるのを聞きながら、それでも彼は今襲ってきた
犯人の姿を確かめようと目を凝らし──絶句する。
「梨、田……?」
「──」
 そこに立っていたのは、間違いなくコーキだったのだ。だがダウナーで苦笑いの瑞々しい
普段の姿は何処にいったのか、彼は酷く狂気に包まれた眼をしていた。或いは苛まれていた
のならまだ救いはあったのだろうか。しかし彼は、その狂気をさも当たり前であると、自分
そのものであるとでも言わんかのように受け入れてそこに立っていた。
「お前、だったのか。何故だ! 何故こんな事をする!?」
 裏切られた。サンライトは素直に即座にそう思った。あの時の苦笑いは、自分に憧れてこ
の道を選んだという言葉は、嘘だったのか? コキ、コキッと、なのに当のコーキは面倒そ
うに首の骨を鳴らしながら、何か思案顔をしながらこちらにゆっくりと歩いてくる。
「うーん。流石に一撃じゃあヤれなかったか。やっぱS級って凄いな。でも、一本は取った
よ。その出血じゃああまり長くはもたないよね」
 質問にはすぐ答えなかった。コーキはぶらんと両手を下げたまま近付いて来る。
 そうだ。何故こんな事ができる? 彼の異能は治癒の力だった筈だ。
 天使の右手(エンゼルハンド)。金色に光る手に触れたもの全てを、再生させる──。
「先にネタばらししておくよ。俺の能力は、二つでワンセットなんだ」
「な、に……?」
 すると言って、コーキはそれまで解除していた能力を再び発動させた。
 右手に光る金色の外骨格。
 それだけではない。加えて左手には、禍々しい黒に染まった外骨格が現れていたのだ。
「“悪魔の左手(デーモンハンド)”。こっちは右手とは違って、触れたものを何でもかん
でもぐちゃぐちゃに壊す。ま、俺にしちゃあこっちが本命で、右手はついでみたいなものな
んだけど」
 サンライトは愕然とする。だばだばと出血が止まらない左腕の裂け口を手で塞ぎながら、
それでも目はこの少年の真の異能の姿に釘付けとなっている。
「何でって、言ったか? 寧ろ俺が聞きたいよ。何であんたらは俺が“ヒーローに憧れて”
この道を選んだと思ったんだ? 違うよ。俺はあんたの“力に憧れて”能力者になりたいと
思ったんだ。だってそうだろう? あんな冗談みたいな力があれば、このクソつまらない毎
日がきっと面白くなる。どんな邪魔者だってぶっ飛ばせる。その為に俺は天賦(ギフト)の
発現手術を受けたし、毎日の鍛錬も欠かさなかった。強くなりたかったんだ。そしてそれを
実感・証明する為には、同じ力を持つ奴らに勝てばいい。同級の奴らから始めて、順繰りに
階級を上げていってさ」
「……」
 つまり、始めから彼自身は一連の凶行に走るつもりだったのだ。
 憧れたのは、ヒーローじゃない? 力そのものに? 何てことだ。自分はこの少年をまる
で見間違えていた。溺れていたのだ。彼はヒーローになる以前に、堕ちていたのだ。
「それで、遂には私か。まさか、かつて助けた命に噛み付かれるなんてな」
「いんや? 俺は感謝してるよ? そもそもあんたがあの時現れなければ、俺も能力者にな
ろうなんて思わなかった。手術だって能力者になれるかは半々だったし。そこで駄目だった
らまた別の方法を考えてたかもしれないけど」
 ズズズ……。禍々しい悪魔の左手が蠢いていた。コーキ自身はあれこれと話していたが、
この左手はまるで別の生き物かのように、早く目の前の人間を壊したくて堪らないとでも言
わんばかりにヒクついている。
「そうか。なら尚の事、私はお前を──」
 止めなければならない! だがその台詞を、サンライトは叫び切れなかった。次の瞬間、
コーキの姿が消えていたからだ。見れば彼は霞む速さで自分の左側に移動し、拾い上げた左
腕の断面を傷口にくっつけている。右手の……天使の右手(エンゼルハンド)を使って。
(速い。まさか、能力による強化は何も両手だけのことではないか)
 この自分が姿を終えなかったことがショックだった。いや、それよりも彼の取った行動が
一瞬不可解だった。何故間合いに来る? 何故右手なのだ? それでは、私の腕が……。
「ほい。これで繋がったよ。どう? もう神経もばっちり繋がってると思うけど」
 言われてまたハッとなった。彼の姿はまた一瞬にして霞み、距離を取り直していた。目を
見張って立ち尽くしてから、恐る恐る戻って来た左腕を検める。軽く回してみる。痛みは一
切なくなっていた。文字通り完璧に再生されていた。
「右手(こっち)はさ、こういう為に生まれてきたんじゃないかって思うんだよ。どんなに
強くても、ぶっ壊したままならその一回お終いだろ? でもこの右手があれば、また治して
また壊せる。我ながらグッドアイデアじゃん?」
「……」
 狂っている。サンライトは思った。異能の習得は意識的にできるものではない。となれば
発現時に彼自身の内包された願望を反映したのか。……性質の悪い冗談だ。救う為ではなく
壊す為。その壊す理由も、只々自分が退屈なのだからだ。
「さてっと……。じゃあぼちぼちヤろっか。簡単にやられないでくれよ? S級の、しかも
現在進行形でトップの伝説のヒーローなんだからさ。衰えた、なんてシケた言い訳はよして
くれよ? 最強を倒さなきゃ、意味がないんだから」
 轟。右手の金色と、左手の漆黒が一層力を増して強く輝き始めた。
 ……そうか。やはり本質としては私達は似ている。サンライトは思った。肉体の強化、方
向性を指定したエネルギーの制御、放出。戻った左腕とでゆっくり拳を握って力を溜める。
茜色のオーラが身体中から湧き上がり、眩い輝きとなって拳へと集まっていく。
(衰えた、か。そうかもしれんな。君と出会った頃の私ならこうも先手は取られなかった)
 金と黒、茜色のオーラが互いに押し合い圧し合いをして強く強く輝く。

 私の責任だ。私が、止めなければ。

 ……じりっ。
 二人の蓄えた力が、やがてその限界を迎えて。
                                      (了)

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  1. 2016/08/01(月) 00:00:00|
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
します。

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