日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「永遠(とわ)」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:竜、可能性、ヒロイン】


「俺はさ。もっと世界を見てみたいんだ」
 しばしば彼女の所へ遊びに来ていたその少年は、そう目を輝かせて語っていた。
 彼の名はリク。人間(マイノリー)の子供だ。セレイネスは書に塗れた自身の庵の中にあ
って、じっと横目でこれを見つめている。
 まるで無邪気な子供のような──いや、実際子供だったのだが──輝く瞳だった。
 最初は鬱陶しいとばかり思っていた。長い長い時間を生き、もう他人との関わりにエネル
ギーを費やすことを止めてしまっていた自分が、竜族(ドラグーン)が珍しいだけだったの
だろうと。
 なのに彼は彼女が村の外れに隠居して(すんで)いると聞くと、ほぼ毎日のように一人訪
ねて来ては話をせがんだ。彼はまだ幼い。生まれ故郷であるこの村と周辺の田園風景を除い
ては世界というものを知らない。
 気まぐれだったのだろうとセレイネスは思う。ある程度好奇心を満たしてやれば、その内
飽きて帰っていくだろうと。発作みたいなものだ。邪険に追い返しても懲りずにまたやって
来るのだから、半ば諦める形で彼女はこれまでの人生経験を語ってやった。
 ……もしかしたら、心の底ではこうして誰かに語ることを望んでいたのかもしれない。
 ずっと孤独だった。孤独に生きてきた。
 自分は竜族(ドラグーン)。幾つもある種族の中で最も強く、最も長い時を生きる。知っ
てしまったからだ。懇意にする相手ができればできるほど、必ず来る別れにこの胸は引き裂
かれるのだから。いつも逝ってしまうのは向こうで、自分は遺される。こうしてまだまだ長
い時の中を生きている……。
「いいなあ。セレーはそうやって色んな国を旅してきたんだね」
 ニコニコと。リクは言う。
「そうでもないんだけど……」
 セレイネスは苦笑、自嘲めいていた。確かに並みの者よりは多くのものを見てきたのかも
しれない。だがそれはあくまで種族として持つ寿命のアドバンテージが長いだけで、はたし
てそのどれだけを心に刻み込んできたものか。
 寧ろここ三百年ほどは忘れよう忘れようとしてきたくらいだ。知り合い、親しくなった友
はどんどん老い、死んでゆく。……耐えられなかった。だから知るものは人ではなく物から
であるように努め、書物と共にこの辺境の地に籠もった。期せずして、それは同族達の多く
が辿ってきた道でもある。
「勿体無いなあ。それだけ時間があるなら、もっと有効に使おうよ」
「……」
 なのに、この少年は無邪気に残酷な事を言う。ニコニコと笑い、もう数十年来の友人であ
るかのような振る舞いでキコキコと逆向きに座った椅子を鳴らしながら言う。
「どうせ皆いなくなるのよ。関わる意味なんて──」
「ある! そうじゃなきゃ何でセレーは生きてるんだよ!」
 だから嘆息をつき、いつものようにそれとなく追っ払おうとした次の瞬間、リクは彼女の
言葉を遮るように叫んでいた。
 真剣だった。
 とても真っ直ぐな、濃密な強さを湛えているように思えた。
「誰かに出会うってことは、自分とその誰かにお互いが出会った証が残るんだ。それは宝物
になる。それまで分からなかったこととか、知らなかったこととか、色んなものに気付かさ
れて俺達はおっきくなるんだ。俺達はその為に生まれてきたんだと思う。もっといっぱい出
会って、いっぱい仲良くなって、この世界を豊かにするんだ」
「……豊か」
「うん。そりゃあセレーに比べて俺は外の事を全然知らない。でもそれって凄い楽しみな事
じゃないか。俺が一歩踏み出せば踏み出せるほど、世界はどんどん広がるんだぜ?」
「……」
 セレイネスは静かに目を丸くしていた。呆れというか、驚きというか。
 何て、瑞々しい。何故理解しない? 竜族(ドラグーン)の自分が出会いは別れとワンセ
ットであると何度も語ってやったのに、それでも彼は出会いを求めている。出会いは自分を
無限大に豊かにし、生きている意味を与えてくれるのだと。
 そんな風に考えていたのは、一体いくつの頃だっただろう?
 ずっと昔には、自分もそうやって能動的な未来に希望を見出していた。しかしそれも幾度
となく目の前に広がった死別によって色褪せ、ならばいっそ出会わなければよかったと思う
ようになった。……なのに、この我が庵に入り浸るようになった少年は言うのだ。
「無駄なんかじゃない。少なくともセレーが出会った人達はあんたのことを覚えてる。覚え
てて、色んな人との思い出があるからおっきくなれて、生きられたんだ。俺だってそうさ。
忘れない。セレーが外の世界のこと、何だかんだで話してくれたから、俺はやっぱり村の外
に行こうって思えたんだ」
 ニッ。少年リクは笑う。そんな彼の姿を見て、セレイネスは戸惑いもしたし、しかし胸の
奥がじわじわと温かくなるのを自覚していた。
「……俺、成人の儀が終わったら村を出て世界中を旅したいんだ」
 そして彼は手を指し伸ばす。
「セレー、一緒に来てくれ。一緒に行こう。あんたの知識が、俺には必要なんだ」
 只々真っ直ぐに。彼女という知識と存在(とも)を求めて。

 言葉通り、成長したリクは村を出て旅人なった。その傍らには彼の熱心な説得を受け、旅
の相棒として同行することになったセレイネスがいる。
 世界は広かった。色んな種族がいた。

 広大な赤茶色の大地には、点々と各地に集落を形成する獣人族(イヤード)達がいた。
 彼らは腕っ節──狩りの腕と義を何よりも重んじ、当初余所者だったリクと凶悪な大型獣
を退治したことにより友情の杯を交わした。特に彼を気に入ったイヤードきっての剛の者・
ヴェルフは、最初の旅の仲間となり、終生の武の好敵手(ライバル)として友情を育むこと
になる。

 赤茶色の荒野を越えて山岳地帯へ。その中に形成されていたのは小柄ながらも卓越した技
術力を持つ巧人族(ドワーフ)の都市国家だった。
 これまで見たことのない技術、道具の数々。リクは勿論、それまで書物でしか外の情報を
仕入れていなかったセレイネスにとってもこの国で刺激は大きかった。
 しかし三人はやがて知る事になる。彼らの作った武器が、人間国の戦争の為に輸出されて
いるという事実を。リクは静かに憤った。こんな豊かな世界を壊そうなんて、間違ってる。
セレイネスも彼らに訊ね、諭した。しかしドワーフ達は技術こそ持っていれど、それを買い
上げる商人や外の世界の事にまで興味を持たない。
 そんな同族達の中、技師見習いの少年・コルトが新たな旅の仲間に加わる。もの作りの質
ばかりに拘り、外の世界を見ようとしない大人達に反発しての申し出だった。

 山脈を越え、リク達は更に魚人族(ウンディネ)の王国と、北の辺境に住む女ばかりの種
族・白女族(メイデン)の里を訪ね歩く。
 そこには二つの、セレイネスにとってはやきもきする出会いがあった。
 一つはウンディネの姫・アリアの誘拐事件。一つは人間の“狩り”によって絶体絶命の危
機にあったメイデン達の里。リクはその訪問先で立て続けに起きた事件を剣と、優れた発想
で解決し、海王からは娘アリアとの縁談、里の首長の娘・シロツメからは求婚を持ちかけら
れる事になる。……結局その時はまだ冒険を続けたいと態度を保留したものの、アリアから
はいつでも待っていると頬を染められ、シロツメは惚れたがあまりこっそり旅についてくる
というストーキング──大胆さを発揮され、彼の持って生まれた女難が開花し始めた一件で
あった事は否めない。

 海を渡り、次に一行は信仰心厚い翼人族(セラフ)達の国へ。そこで世界はかつて一つだ
ったという伝承を知り、リクは内心思いを馳せる。信者達を束ねる教主・ソールベルクとの
出会いは、世界に迫る戦乱の波を否応なく意識させ、かつてドワーフの街で大量の武器が人
間国に流れていたのを思い出させる。
 美麗な空中都市。リクは仲間達に言った。こんなに奇麗な街を、世界を壊そうなんて間違
ってると。もっと皆が仲良くできないものかと。
 セレイネスは暫く黙してから答えた。
『……難しいわね。色んな国が、色んな思惑で以って自分達の利益ばかり考えているから』

 大陸を更に奥へ奥へ。岩窟に掘られた巨大な神像と太陽を崇めるのは巨人族(トロル)の
王国。森深くに都市を築き、自然と共に生きるのは、余所者を好まない妖精族(エルフ)の
一族であった。
 トロル達は石を積んだ神殿を前に祈りを唱え続けていた。各地で人間国がその領土を広げ
るべく戦争を仕掛けている。だがそれは単なる野心だけではなく、かつて“楽園”から追放
された罪の仔──他の種族と比べて非力で、豊かな土地にも恵まれぬが故の「欲しければ奪
うしかない」戦いでもあると教えられた。
 では、皆で施せば戦いは止められるのではないですか? リクは問うた。しかし事実上の
首長である座主・グレゴリオは静かに首を振る。与えても、蓄積された彼らの妬み辛みは消
えぬだろう。そもそも人間(マイノリー)を見下し、助ける事すら嫌う者達も少なくないの
だと。
 その筆頭が、妖精族(エルフ)だった。事前に聞いていた通り、彼らは長く受け継がれて
きた伝統を何よりも誇りに思い、重んじ、余所者を受け入れない。人間(マイノリー)に対
しても神が与え給うた大地を穢す罪深き者として忌み嫌い、リクにすら剣を弓を向けてきた
ほどだ。
 しかし希望はあった。妖精国の次期当主・エミリアとエドウィン姉弟がリクの戦争を止め
たいという想いに共鳴してくれたのだった。二人は渋る父王らを粘り強く説得し、リク達の
旅に加わる事となった。同国の名代として、人間(マイノリー)が巻き起こす戦火を手を取
り合って止める為に。

 頭に力を蓄える角を持つ魔族(ホーン)。同じ痩せた大地で暮らす人間(マイノリー)と
の戦いの最前線に立つ彼らの下を訪ねた一行は、暴力と憎しみの連鎖が想像以上に雁字搦め
になっていることを思い知らされる。
 欲しがった。渡さないなら力ずくでも奪うだけ。
 そうして失われた命に哀しむ遺された人々は弔いの為に武器を取り、そしてまた喪い哀し
む誰かを出す。……最初の頃の目的などとうに薄れていたのだ。あるのは蓄積した“損失”
を埋める為に何としてでも「勝つ」と血眼になっている人々。最早言葉で争いを治めるのは
絶望的なのだと悟った。
『戦いを終わらせたい? なら一緒に戦って。それだけの種族の連合があれば、私達はきっ
と奴らを打ち負かせられる』
 出会ったのはホーンの女将校・メア。今や各地で冒険譚を紡いできたリク達一行は多くの
人々が知る所となり、知らず知らずの内に大きな期待が寄せられていたのだった。
 リクは迷う。戦いは止めたい。だがその為に戦うというのは、矛盾していないか?
 リクは苦悩した。こんな心算じゃなかった。ただ俺は、世界をもっと見たくて……。
 しかし仲間達は──セレイネス、ヴェルフ、コルト、シロツメ、エミリア・エドウィン姉
弟はそんな崩れそうな彼を必死に支えた。
 ……だって恩があるから。友情があるから。
 もう関わるまいと思っていた世界への無知を知り、美しさを豊かさを知り、この旅につい
て来て良かったと思った。或いは友情、愛情、正義と使命に則った志。
 迷っている暇はなかった。その間も人間(マイノリー)軍は次々に各地へと侵攻を続けて
いる。現地で物資を奪い、調達しながら膨れ上がっていく。同じ人間なのに……。しかしも
うリクに躊躇いはなかった。誰であろうと、この奇麗な世界を壊させる訳にはいかない。
 青年から英雄へ。
 彼は、剣を掲げた。

 期せずして世界中の種族・勢力とのコネクションを持っていたリク。そして彼が対人間国
の連合軍を率いると決まった時、世界は大きく動き始めた。
 盟友(とも)の決心とあらば。ヴェルフを通じて各地から獣人族(イヤード)の戦士達が
集まった。
 貴方様の頼みとあらば。魚人族(ウンディネ)の姫・アリアは約束の通り強力な海軍を率
いて合流し、白女族(メイデン)の里からも多くの術師・戦士が送られてくる。
 巧人族(ドワーフ)達も連合軍側についた。コルトの出奔以降、吸い取られるばかりの自
分達の立場に不平不満を募らせ、反抗したことで手痛い目に遭ったことを切欠にそれまで作
り出した品の行方に無頓着だった彼らの意識にも変化が訪れていたのである。
 翼人族(セラフ)の教主・ソールベルクは陰ながらリク達を支援した。武力ではなく、信
者という精神的な数の力によって人間軍にプレシャーを掛けていった。巨人族(トロル)は
更に直接的だ。座主・グレゴリオが率いる僧兵軍団がその傘下に加わる。妖精族(エルフ)
の軍勢もエミリア・エドウィン両王女王子を将に集結した。こちらは元より人間に好意的で
はなかったのだから、当然の結果だったのかもしれないが。
 ……何より、最大の援軍は各地に散り散りになっていた竜族(ドラグーン)達であろう。
 セレイネスはリクが戦争を止めたいという願いを抱き始めた当初から、伝手から伝手へと
辿ってその助けを請うべく何百人何千人分と手紙をしたためて送っていたのである。今だと
思った。この知識は、知恵は、今こそ振るわれるべきだと。

 そして戦いは始まった。人間軍と多種族連合軍。その戦況は当初から後者の圧倒的有利で
進んだ。元より惰性で続いていた侵略だったのである。求めて獲た経験は次への欲望のスイ
ッチとなり、同時に正比例的に失われるもの達の為にという「大義」によって彼ら自身でも
止める術を持たなかったのだから。
 大義は、完全に人間国からは失われていた。時代は、リク達率いる連合軍にこそ傾いてい
たのである。
 戦いは一方的に進んだ。しかしリクは勝利を喜ぶ事はなく、逃げる者・捕らわれた者を厳
罰に処さぬよう繰り返し繰り返し軍に厳命した。
『俺達は、殺し合いをする為に戦ってるんじゃない。皆仲良く一緒に暮らせる国を作る──
きっとそれが、俺なりの答えなんだと思う』
 それはとても難しいことだ。失われたものへの悲しみと憎しみは、綺麗事では洗い流せは
しない。あるとすれば時の流れだろうか。しかしそれでも記憶は受け継がれ、実害なき過激
な敵意となるだろう。
 ……だから、リクは徹底して人々の福祉に心血を注いだ。誰もが衣食住に困らず、誰も犠
牲にしない。それが出来ぬなら、皆々に推薦された意味がない──。
 戦の後、リクは王として祭り上げられた。歴史上稀にみる、全ての種族を統一することに
成功した偉大な王として。
 その傍らには全幅の信頼を置く参謀にして妻、セレイネスがいた。
 英雄色を好むというか、彼個人の女難というか。それでも結局妻は彼女だけでなく、ウン
ディネからはアリア、メイデンからシロツメ、エルフからはエミリア、ホーンからはメアと
それぞれの種族との融和を象徴する意味でも迎えられたのだが。
 かつて旅を共にした、出会った仲間達は、皆々の推挙によって新生連合国の礎となった。
 ヴェルフやメア、エルヴィンのように武人として秀でた者もいたし、セレイネスやアリア
のように賢者として王に仕えた者もいる。千年王国──やがて英雄リク王が治めたこの国は
そう呼ばれるようになった。
 都市を整備し、様々な制度を整え、何より民に奉仕する。
 建国以来、その精神は初代リク王から徹底して受け継がれて……。

 ***

 長い、長い歳月が経った。
 かつての英雄、リク王はもう既にこの世にはいない。というよりも、王という概念自体が
彼の死後、大きく変えられたのだ。
 彼はその遺言で、自分の跡継ぎは世襲にはしないと明言した。それはこの国であっても血
を血で洗う争いが起きうるのだと分かっていて、それを避ける為であったし、何よりも大事
なのは「誰が治める」かではなく「如何治めるか」であったからだ。
 以降、王とは全国民の投票によって選ばれる代表の為政者を指すようになった。またその
王を補佐する幹部達は、この選ばれた為政者によって任命される。
 最期の最期まで、彼は理想の人であったのだ。
 あの旅の中でも、それが如何に難しい事かを彼は身を以って思い知らされていた。だから
こそ諦めず、一人ではなく皆で決めることが一番だと、仲良しが何よりも大切なのだと後世
にも伝えたかったのだろう。

(……本当、馬鹿が付く位のお人好しなんだから)
 セレイネスだった。その容姿はあれから更に五百年近くが経ち、流石に肌に皺も見え隠れ
するようになっている。
 それでも彼女は生きていた。最強の、長命の種族・竜。今は王国の第一線から退き、悠々
自適な隠居生活を静かに送っている。
 長い、長い歳月が経った。
 リク王は勿論、あの頃の仲間達は殆どいなくなってしまった。まだ一応生きているとすれ
ばエミリアとエドウィンくらいか。しかしそれでも妖精族(エルフ)の寿命は自分のそれに
は及ばず、二人ともかなりの老人になってしまっている。
 皆、逝ってしまった。
 やっぱりどうせこうなるんだから、いっそ関わりなんて──もしあの時彼に誘われるまま
に旅に出ていなかったらそう愚痴るだけの人生だったのだろう。しかし今は違う。確かに失
われた友は多くいるが、それでもこの人生に悔いはない。そう思う。
 バルコニーから除く眼下には、数百年経っても色褪せぬ王都の美麗な街並みがどこまでも
広がっている。
 ここに、種族や信仰の区別はない。ここでは皆が互いを尊重し、共に生きている。自分達
が選んだ王による善政に安堵し、ゆったりとした時間の中に身を委ねている。
 セレイネスはギシッと、腰掛けていた白い椅子から顔を持ち上げた。自然と微笑みが漏れ
てくる。あれだけ不可能だと言われていた理想の国が、少しずつではあれど実現したことに
今でも内心驚きが隠せない。
 ……これが、彼の言っていた“おっきくなる”ことだったのだろうか。
 皆が仲良く穏やかに暮らせる世界。彼はそれを本気で望んでいた。その為に自らの出自で
ある所の旧人間国を滅ばす、戦いを挑む結果にはなったが、今こうして眼下に広がる平穏を
見ていると何てあの人は偉大だったんだろうと思う。
 諦めず、広がる世界に希望を持ち続ける。それは凄く難しいことだ。
 だけども彼はやってのけた。本人はまだまだ途上だと言っていたが、少なくも彼という一
人の人間がみせた可能性を、自分はこれから先もずっと忘れないだろう。
(……ありがとう)
 そっと胸元に手を当てて祈る。かつて友となり、やがて愛した人を思い浮かべながら。
 そうしている時だった。ばたばたと忙しない足音がし、扉を開けて小さな子供達とその親
らしき一団が顔を見せた。
 玄孫達だ。「こんにちは、大婆様」自分の子孫である数組の夫婦も微笑んでいる。
 セレイネスはすいっと視線を向け、そして優しく破顔した。わーい! と駆けて来る子孫
達をそっと手を広げて迎えてあげ、ぼすぼすとその温かい小さな命を感じ取る。
「ふふ。よく来たわねえ。いっぱい遊んでいきなさいね」
『はーい!』
 胸元に抱きかかえて、子供達の元気な声を聞く。
 彼女は幸せだった。もしかしなくても、この先この国が道を失って傾き、滅んでしまうと
しても。せめて自分が生きている間はそうはさせまいと誓った。あの人の為。老いぼれが国
の中枢に延々居座るのもどうかとは思うけれど。
(……忘れないよ)
 千年王国。白亜の美麗を宿し続ける街で。
 たとえ死しても、受け継がれる想い(もの)はきっと在る。
                                      (了)

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  1. 2016/06/19(日) 18:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
します。

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