日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(長編)ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-Ⅵ〔73〕

「……今、何て」
「本気(マジ)かよ。あの教団を敵に回すって事だぞ……?」
 導信網(マギネット)を通じて、ブルートバートとクリシェンヌ教団の対立は現在進行形
で人々の知る所となった。
 据え置き或いは携行型の端末、画面の前。世界のあちこちで期せずしてこの前代未聞の瞬
間を目の当たりにした人々は思わず手を止め、目を疑い、ジークがエイテルに向かって言い
放ったその姿を何度も確認するように見つめている。
『き、貴様……! 今自分が何を言ったのか分かっておるのか!?』
『ミュゼ、ダーレン、ヴェスタ! そやつを捕えよ! 我らが信仰の敵ぞ!』
 当然ながら、画面の向こうの枢機卿達は怒り狂った。絶対優位であった筈の、優位でなけ
ればならない自分達の思惑が導信網(マギネット)に曝され、何よりも出自は皇族とて今は
一介の冒険者でしかないこの青年からの宣戦布告──プライドが傷付かない訳がなかった。
『止しなさい!』
 しかし叫んだ枢機卿と、弾かれたように駆けようとしたミュゼら現地ホームの神官騎士達
を止めたのは、他ならぬエイテル教皇であった。
 一触即発。イセルナ、ミア、リオを始めとしたクランの面々が来るなら来いと得物に手を
掛けて構えたままの格好だった。ぴしゃりと大きな声で窘められ、両者は寸前で睨み合った
まま硬直している。
『……人々が見ているのですよ? 激情のまま傷付け合ってどうするのです』
「教皇様……」
「で、ですが……!」
『武器を収めなさい。先ず祈るべき我々神官が、力に頼ってしまってどうするのです』
『……っ』
 ぐうの音も出ないようだった。画面の向こうで枢機卿達が苦虫を噛み潰したような表情で
めいめいに視線を逸らし、ミュゼ達も武器をしまい直して一歩二歩とその場から退く。こう
なるとイセルナ達とて攻撃できない。同じく、いやようやくその臨戦を緩めることができ、
武器をしまって初めて二・三、安堵の息が漏れる。
「……」
 それでも、当のジークはじっとエイテル達を睨んだままだった。指差した手はもう下ろし
ていたが、その眼は敵意──レナを幾度となく苦しめた咎を許してはいない。
『ジーク皇子。発言を撤回するのなら今ですよ。お互い、感情的になり過ぎたのでしょう』
 たっぷりと間を置き、見つめ、エイテルが言った。
 つまりは彼女がそれだけ冷静であり続けていたということだ。誰がどうやってまでは分か
らないが、ブルートバードの側でこの非公開の会談が漏れてしまったのだ。教団という威光
を借りて水面下で取ろうとしていたマウントを、強硬策を、人々は知ってしまった。今この
まま当初の作戦をごり押せば、自分達に対する心証は最悪に近い失墜を招くだろう。
 だがジークは、そんな相手方の内心・思惑を解っていたのかいなかったのか、結局首を縦
には振ろうとしなかったのである。
「そっちこそ、もうレナにちょっかい出さねぇって約束しろよ。大体、何で俺が謝るような
真似しなきゃいけねぇんだよ。先にこんな面倒事持ち込んできたのはてめぇらじゃねぇか」
『っ、貴様……!』
『お止しなさい。……あくまで、我々と敵対するのですね?』
「ああ。そうやってこっちの質問をはぐらかし続けるってんなら、な」
 周りの枢機卿達を抑え、エイテルは少々淡々としている程に落ち着き払って訊ねていた。
ジークもジークで、腰の剣唾をそっと親指で持ち上げながら、当て付ける。
 暫くの間、両者はじっと睨み合っていた。枢機卿や神官騎士達、クランの面々やディノグ
ラード邸の仲間達、セイオン・ヨーハンらもその様子をそわそわと、或いは一言一句見逃さ
ないように視線を微動だにせず注ぎ続けていた。
『……。覚悟はできている、という事ですか……』
 そして先に沈黙を破ったのは、エイテルだった。枢機卿や画面の向こう、ホーム現地の神
官騎士達を見遣り、呟く。
『神官騎士ミュゼ、ダーレン、ヴェスタ。一旦聖都(こちら)へ帰還しなさい。宣戦布告さ
れたからには備えなければ。我々とて、信徒の皆さんを守護する義務があります』
 いいですね? 彼女はミュゼ達に念を押し、そしてずっとそれまで控えていたリザにも小
さく訊ねて了解を得る。
 ざわざわ。ホーム現場の神官騎士達は動揺していた。こちらが退いてしまうのはプライド
が許さないのではないか?
 しかし、さりとて組織のトップからの命令だ。リザも頷いて促すので従わない訳にはいか
ない。ミュゼやダーレン、ヴェスタ達はやがて部下達に命じて撤収を始めた。落ち着いて考
えれば今ここで“蒼鳥”や、下手すれば巻き込んでしまった形でディノグーラド家──七星
の一角とやり合い、敵に回すのは得策ではない。
『……』
 尤も三人の隊長格の中でも血の気の多いダーレン、そして気高いヴェスタなどは、この撤
退命令にも正直不服だったようだ。去り際、あからさまに怨念や敵意の籠もった瞳でこちら
を睨んでは、ガチャガチャと防具の音を鳴らして踵を返していく。
 そうして、史の騎士団は一人残らずいなくなった。本山と繋がる通信・映像もぷっつりと
消えてなくなり、ただ場に残ったのはホームとディノグラード邸、双方の半ば呆然とした仲
間達の後ろ姿だったのである。
「……やれやれ。とんでもない事になったわい」
 ジークが尚も、こちらに背を向けたまま先頭で立ち尽くしている。
 たっぷりと間を置いて嘆息をつき、やがてそうガラドルフが、誰にともなくごちた。


 Tale-73.彼女という起源(ルーツ)(前編)

 レノヴィン兄弟による反転攻勢──クリシェンヌ教団に対する事実上の宣戦布告から数日
が経った。
 当初この事件は導信網(マギネット)を通じて世界中の人々が知る所となったが、少なく
とも此処梟響の街(アウツベルツ)には殊更の混乱はなかったようだ。守備隊が睨みを利か
せてくれたこともあったが、それは十中八九、両者のやり取りの中でそもそもの発端が教団
側にあったと明らかにされたことが大きいのだろう。
「──いやぁ、よくやった! スカッとしたぜ!」
 そうしてジーク達が古界(パンゲア)より戻り、ようやく団員全員が合流を果たして。
 ホームの宿舎では、件のジーク本人を中心に、ダンが呵々と笑いながら彼の背中をバシバ
シと叩いてた。痛いッスよ……。ジークは苦笑いで為すがままにされていたが、それはそれ
として仲間達に囲まれるさまは止んでくれない。
「いやまぁ、そりゃあ溜飲は下がりましたけど……」
「これからどうするんスか? 結局啖呵切ったのは変わらないんでしょう? 教団と本格的
にやり合うとなりゃあ、面倒な事になりますよ」
「……すみません。僕が勝手なことをしたせいで」
「あ、いや」
「別にお前らを責めるつもりはねぇよ。実際、ああでもしないとどんどん向こうは付け上が
ってくるままだったろうしな」
「そうね……。道中端末で状況は見せて貰っていたけど、ジークとアルス君があの時連携し
ていなかったら、私達はあのまま不本意な譲歩を余儀なくされていたでしょうし」
 アルスがレジーナ達に連絡を取り、あの公開(いって)を打ったと知ったのは騒動が一通
り過ぎ去った後のことだった。
 ばつが悪そうにアルスが改めて謝ろうとする。
 だがそれを遮ったのは団員達で、何より団長・イセルナもこれを擁護した。ダンのように
あからさまに表に出す訳ではなかったが、やはり彼女も教団の一連の強引さにはかなり頭に
来ていたらしい。
「うう。でも、元はと言えば私のせいで……本当に──」
「気にするな。お前のせいじゃない。奴らの本質など昔から分かっていた」
 だが誰よりも憤っていたのは、間違いなくハロルドであっただろう。後ろめたさに駆られ
再三レナが皆に頭を下げようとしたのを止め、言う。団長不在、団員分断の状況を狙った卑
劣さも然り。何より養女(むすめ)を何度も泣かせたという怒りも然り。
「ああ、レナちゃんはなーんにも悪くない」
「そうだよ。信者やってるレナには悪いけどさ……今回の一件で教団に対するイメージ、大
分変わっちゃったもんね」
 団員達が、ステラがふんすと言う。レナは何処か哀しげな苦笑いで、その綺麗な金の髪先
をくるくると弄っていた。ジークもぼりぼりと髪を掻き、ばつが悪そうになっていく。
「……まぁ、あれだ。俺もついカッとなってって所もあったからさ……」
「いえ。私こそ。皆さん私の代わりに、怒ってくれて……」
「はいはい。謝り合いはその辺りにしておきましょう? もう教団と拗れてしまった事実は
変わらないわ。私達が今考えるべきはこれからどうするか、でしょう?」
 なので、このままだと延々ループしそうだった。そんな皆を見遣ってイセルナがぽんぽん
と手を叩く。一同は向けられた視線に頷き、互いに顔を見合わせて神妙な面持ちを取り戻し
ていった。
「だな。どのみち特務軍として教団の持ってる聖浄器も回収しねぇといけねえし……。その
意味じゃあ手間が省けたっちゃ省けたか」
「かな? 話し合いで譲って貰うに越したことはなかったんだろうけどね」
「十二聖ゆかりの組織だからなあ。そういやハロルドさん、リカルドさん。クリシェンヌの
聖浄器ってどんなのなんです?」
「ん? ああ、それは……」
「光の書──『聖教典エルヴィレーナ』だよ。私も実物を見た事は無いが、聖都の何処かに
安置されている筈だ」
「やはり敵地に、ですか。あまり悠長にはしていられませんね。もうあれから何日も経って
しまっていますし」
「そうね。支度が整い次第、すぐにでも出発した方がいいわ。もうサーディス長官から辞令
も受け取っているし、早速聖浄器回収(にんむ)に臨みましょう。……数も労力も掛かるの
は間違いないでしょうし、ここは手分けした方がいいわね」
 ダンが締めるように言い、シフォンが苦笑する。ジークが肝心の聖浄器(ブツ)は何なの
かと訊ね、リュカの呟きに応えて、イセルナが少し考え込むように唇を触りながら言った。
 皆で話し合った結果、決まった振り分けと目的地は次の通りである。

 北ルート(聖都クロスティア方面)
 :イセルナ、ジーク、レナ、ハロルド、リカルド、シフォン、クレア、オズ

 南ルート(サムトリア共和国方面)
 :ダン、ミア、グノーシュ、リュカ、サフレ、マルタ、クロム、ステラ

 当面クランの主要メンバーは、南北二チームに分かれ十二聖ゆかりの聖浄器回収の任に当
たる面々と、ホームに残りその守備とアルスの警護に当たる面々に分かれる事になった。後
者は主にリンファやイヨ以下侍従衆、及びアスレイ・テンシン・ガラドルフ隊を中心とした
団員達である。またレジーナやエリウッド、クランと契約を結んで久しいルフグラン・カン
パニーの技師達は、今後新しいホームとなる飛行艇の維持・管理を一手に担う。
「折角新しい編成表を作ったのに、また別行動か」
「仕方ねぇよ。一から十までこの大所帯でうろうろする訳にもいかねぇだろ」
「特に今は、教団と喧嘩になってる訳だしな」
「もし表通りになるとすりゃあ……本当の本当に結社(やつら)との決戦になった時か」
「……」
 めいめいに団員達が零している。そんなテーブルを囲む仲間達を、ぽつんとアルスは遠巻
きから物音一つ立てずに眺めていた。
 ぽんと、リンファがそんな彼の肩に軽く触れている。言葉こそなかったが、それは彼女ら
侍従衆の彼を守り抜くという意思表明だったのかもしれない。
 沈黙。エトナがふよふよと淡い翠を纏いながらそんな相棒の頭上に浮かんだままでいる。
ジークがミアが、ちらと一度こちらを見遣っていた。
 まだ学生である彼を戦いに巻き込む訳にはいかない。それこそ、これからは本物の戦争に
なるのだから。
「……」
 解り過ぎてしまう皆からの眼。
 故にアルスは、決してその表情を晴らさなかった。
「……なぁ、レジーナさん」
「うん?」
「その、今回からルフグラン号を使うって話だけど、俺達が三つに分かれちまうんだぜ? 
どうするんだ? 船は一個しかねぇんだから、かなり動き回る事になっちまうが……」
「ああ……。そのことね」
 そして、作戦会議が進む中で、ふとジークが問うた。すると彼女はまるで待ってましたと
言わんばかりにニッと嗤う。
「それなら大丈夫。あたし達に任せておいてよ」

 レジーナやエリウッドに連れられて、ジーク達は街の郊外に設けられた造船スペースへと
やって来た。この二年の間にすっかり見慣れてしまった風景だ。辺りを警備してくれている
アトス軍の兵士達に会釈をしつつ、一行はその中央に鎮座している巨船を目指して周囲に組
まれた足場を上っていく。
 ぞろぞろ。最終調整が済み、後は旅立つだけとなっただけあって足場は一頃に比べるとす
かっり取り除かれて疎らになっている。早いものだな……。感慨深げに船内へと入っていく
ジーク達の一番後ろを、黙したまま衣を翻す剣聖(リオ)が続く。
「うわぁ……」
 最初の一歩、全体からみれば甲板に降り立った一行が漏らしたのはそんな感嘆だった。
 とにかく広い。外からも見上げるほどの大型船であることは分かったが、実際に足を踏み
入れてみてその視界一杯に広がる床の平坦さを思い知る。
「ここ、飛行艇の上だよな?」
「その筈だろ。まるで何処かの平原にでもいるみたいだ」
「ああ。それに……空?」
 めいめいに団員達が驚き、戸惑い、零す。
 甲板部分にずらっと広がる人工の地面の向こうに左右、大きな建物が見え、更に頭上を見
上げれば眩しい日の光と空さえ見える。
 ……おかしい。確か外観の時点では、ドーム状の建造物が行く手にあった筈だが。
「どうなってるんだ? まさか俺達は甲板じゃなくて屋根の上にいるのか?」
「ふふ。違うよー。ここは正真正銘、船でいえば甲板の部分。あそこに映っているのは全部
外から撮った映像だよ。流石に霊海を飛び回るのに野ざらしで暮らすのは無理だからねー」
 すると待ってましたと得意げにレジーナが言い、ジーク達が「えっ!?」と一様に驚いて
目を見張った。
 つまりここはドーム状の天井に包まれた巨大な室内ということになる。
 映っている──レジーナはこの視界一杯に広がる空が全て映像器と無数の照明で再現され
たものだと教えてくれた。マジか……。ジーク達は唖然として暫くこの人工の空を見上げて
いる。そう言われればなるほど少し本物とは違うように思うが、逆に何も言われなかったら
作り物だとも気にならない程の精度でもある。
「で、あそこにずらっと建っているのが新しいホームだよ。皆が寝泊りできる宿舎や食堂、
トイレやお風呂は勿論、図書室から娯楽室まで一通り揃えてあるよ。あとここからは見えな
いけど、地下には食料や武器、メンテ用の機材の保存庫が並んでるよ」
「それと、宿舎棟に囲まれたあの長方形の建物は訓練所です。中は空間結界を張れるように
なっていますので、皆さんの日々の鍛錬に使ってください」
「あ、間違ってもこの場所──広場でドンパチやっちゃ駄目だからね? 航行中にドームに
穴が空きでもしたら外に吸い出されちゃうよ?」
 飛行艇ルフグラン号。
 レジーナが長年温め続けた“夢の船”にして、ジーク達クラン・ブルートバードの新しい
拠点となる空の要塞。
 イセルナが特務軍の一角として建造を依頼し、その資金を出させた時点で皆にもある程度
話はされていたのだが、まさか本当に町を一個丸々船の上に作ってしまうとは。ジーク達は
改めてその技術に唖然とし、只々これに目を見張ることしかできない。
「凄いな……。機巧技術というのはこんな事までできちゃうんだ」
「うーん、それは違うかな。確かに船自体はうちの技術だけど、動力炉やら内装なんかは魔
導なしには成り立たないよ。訓練所もそうだし、そもそも飛行艇ってのは飛びながら周囲の
魔流(ストリーム)を取り込みながらエネルギーにしてるからねえ」
 だからぽつりと、アルスが皆に混じって呟いていた。
 しかし当のレジーナは、天井知らずに天狗になることをしない。皆が素直に驚いて称賛し
てくれることに照れている節もあるのあろうが、いち技術者として自分達のできる事とでき
ない事には明確な分別があるのだ。
「……本当、感謝してる。皆のお陰であたしの夢が叶ったんだ。あたし達の力だけじゃ絶対
に着工すら出来なかっただろうし」
「レジーナさん……」
 フッと真面目に、だけど心の底からの思いで微笑んだ表情になる。ジークがアルスが、場
に集まった団員達皆がその吐露に引っ張り込まれかける。
「……な~んて。ふふ、まだそんな面をするのは早過ぎるかー。寧ろこれから先が本番だも
のね。ささ、次行くよー! 肝心な話がまだ残ってるからさ?」

 甲板部──もとい広場から船首方面に向かって階段を登り、突き当たった建物に入る。
 そこは操舵室のようだった。先程までとは打って変わって無数の機材が部屋一面に設置さ
れており、ルフグラン・カンパニーの技師達が揃って出迎えてくれていた。
「見ての通り、ここが操舵室だよ。普段あたしやエリはこっちに詰めてるから、用があった
ら来るか内線で連絡して」
「広場を通るか、地下スペースにも往来できるルートは幾つか用意しています。尤も部屋の
すぐ下が機関室になっているので、できれば触らずにいてくれると助かります」
 へぇ……。物珍しさも相まって、ジーク達は室内の装置をぐるりぐるりと見渡していた。
 正面には分厚いガラスの窓が外の風景を映し、眼下の掘り下げられた地面や更に奥の街の
姿を小さな点の集まりに見せている。
「じゃあ、そろそろ本題に入ろっか。エリ、例の物を皆に渡してあげて」
「ああ」
「……?」
 するとそんな中レジーナは、両手を腰に当てたままジーク達を見渡すと、エリウッド以下
部下達に何やら指示を飛ばし始めたのである。
「これは……」
「腕輪の、魔導具?」
 それは一人に一つずつ配られた、腕輪型の魔導具だった。
 手渡され、嵌めてみて各々がそこに刻まれた文様(ルーン)を見ている。表面は妙なつや
を持って静かに輝いており、汎用的に流通するそれとは違う力を感じさせる。
「レジーナさん、これは……?」
「うん。言ってしまえば“転送リング”かな。ほら、今まで“結社”が使ってた何でもあり
みたいな転移能力。あれを何とか自分達でも使えないかなーって試行錯誤したんだよ」
 ジークが代表して問い、その答えに団員の少なからずが元使徒(クロム)を見た。
 クロムは黙ったまま同じようにリングを嵌め、コクリとこちらに向かって頷いている。次
いでレジーナが「いいかな?」と続きを受け取り、説明を始める。
「彼の話だと、あの転移能力は個人のものじゃなく“結社”が手下達に端末になるものを登
録させることで可能にしてたそうなの。ざっくり言うと仕組みはこう。先ず世界規模で中心
となる座標──地点を決める。そこから各地の座標を算出すれば、後はそこへ転移魔導を使
って対象を飛ばすって仕組みになる訳」
「なる訳って……。え? そんなホイホイ簡単にできるモンなのか?」
「普通は相応の設備がないと難しいですね。それだけ“結社”は現代の僕達が知らなかった
技術を、或いは失われた技術を持っているのかもしれない」
「だから苦労したんだよ? クロムさんは勿論、リュカさんやミレーユ学長、あとこっそり
統務院の魔導師達にも手を貸して貰ってねえ……」
 ダンが目を瞬く中、エリウッド、そしてまたレジーナに戻りながら彼女らは言った。
 曰く、ワールドワイドな自分達だけの転移ネットワーク。その為の受信器だと。
 ジーク達はこの知らぬ間に進んでいた“秘策”に、クロム以下関わっていた仲間達の方を
見た。一様に澄ましていたり、苦笑いを浮かべていたりする。イセルナもその中に含まれて
いたことから、どうやら当初からクラン全体が別行動することは想定にあったようだ。
「流石に“結社”のそれには及ばないかもしれないけど、そのリングを付けていれば自由に
この船に戻って来れるよ」
「そして逆も然りだ。尤も事前に『陣』を敷設した場所だったり、魔流(ストリーム)が安
定している場所でないと飛ばせないのだけど」
「そっか……。つまりこいつを使えば、南北に分かれててもこの船で落ち合えるって事か」
「うん。そういう事」
「転移で行き来する際には、宿舎内にある専用の設備棟を使う。また基点はこの街のホーム
にしてある。その意味で攻められた場合のリスクもあるが……他に安心して基点を敷設して
おける場所は見つからなかった」
「気にすんなって。まぁ全くのノーリスクで実現できるものでもねぇだろうしな」
「シカシ、ソウナルトセキュリティガ気ニナリマス。腕輪ヲ奪ワレレバ敵ニ進入サレル危険
ガアルノデハ?」
「ああ、それなら大丈夫」
「よーく見てくれれば分かるけど、そのリングには一つ一つ、術式以外にも持ち主の魔力の
波長を記録してあるの。いわば指紋ね。それこそ全く同じオーラを持つ人間でもない限り、
リングは作動しないようになってるわ」
「ナルホド……。悪用防止デスネ」
「へえ。つまり一個一個が専用の──特注品になるのか」
「そうだね。まぁその分、製造単価はぐーっと上がっちゃったけど」
 指で輪っかを作り、そうレジーナがぺろっと舌を出しておどけてみせる。
 そんな贅沢が出来るのも特務軍──統務院という巨大スポンサーがあるからこそだろう。
技術者としてはやりたい放題だったのかもしれない。
 そう言えば修行中何度か、オーラを測るとかいって色んな電極を付けられたっけ……。
 ジークは思い出し、今になってその時の不思議に答えを見出していた。
「はは、そいつはいいや。俺達専用の帰還アイテムって訳か。これで安心して任務にも集中
できるな」
「ええ。だから時々此処やホームに戻って、それぞれの状況を報告する場を持ちましょう。
これから先の戦いは一つでも確かな情報が欲しくなるわ。戦いを終わらせる為にも、結社の
目論みを知る為にもね」
『……押忍ッ!』
 ジークやオズを始め、団員達はイセルナの言葉に頷き、返事を重ねた。にわかに一同の面
持ちは真剣さを増し、これから激しくなるであろう戦いを頭の中でシミュレートする。
「リオおじさん。おじさんも、これを」
「……いや、いい。もう俺の役目は済んだ。この二年でお前達は色装を習得し、奴らに対抗
しうる力を備えられた。これ以上俺が介入すべきじゃない」
 だからふと、アルスがじっと皆の輪の外で立っているリオを見つけてリングを差し出した
時、彼がこれを受け取らなかった事に一同は少なからず驚いたのである。
 これ以上介入すべきじゃない。
 それは、つまり──。
「リオ……」
「おじさん……」
「何を泣きそうな顔をしている? 元に戻るだけだ。また暫く、あちこちを回ろうと思う。
この二年で世界は確実に変わっているからな」
 水を差すようだった。だがそれ以上に“仲間”が一人突然いなくなると言い出した事が皆
にはショックだった。これほど頼りになる戦力はないという以上に、二年の間寝食を共にし
た仲間が、まだ完全に自分達に心を開いてくれてはいなかったのかという落胆があった。
「おじさん!」
 リオが衣を翻してその場を立ち去ろうとした。にわかに沸き始めた感情にすぐに引き留め
る言葉を面々が起こせない中、逸早くアルスがそう彼の名を叫んでいた。
「……本当に、行っちゃうんですか?」
「ああ」
「だったら……。皇国(トナン)に、父さんと母さんの傍についてあげてくれませんか? 
おじさんが戻って来てくれれば、きっと皆喜びます」
「……俺はもう爵位を返上した身だ。それに今更、国に戻った所で……」
 何て頑ななのだろう。アルスが懇願したものの、リオはその頼みに首を縦に振ろうとはし
なかった。
 政争に嫌気が差して国を出、狂気に堕ちる姉を救えなかったかつての日々への罪悪感か。
 だがとアルスは思う。ジーク達は思う。もう誰も、その事で貴方を責めようなどとは思っ
ていない。あの内乱も貴方がいなければ、成し得なかった奪還ではないか。
「でも、おじさんはおじさんです」
 多くは言葉にすまい。ぎゅっと唇を噛み、アルスはただそれだけを言った。
 背中を向けたままリオは黙っている。深い黒色の衣が二度三度と微かに揺れ、彼はじっと
慎重に返す言葉を選んでいるかのようだった。
「……考えておく」
 歩き出した。二年の時を共に過ごした剣聖(リオ)が立ち去っていく。
 アルスが、ジーク達がその後ろ姿を只々見送っていた。
 正直を言うと寂しい。
 だが救われたのは、立ち去るその間際、垣間見えた横顔に少しだけ──ほんの少しだけ綻
びが見えたような気がしたことだった。


「ああああ! またか、またレノヴィンなのか!?」
「ただでさえ拗れていたというのに、何故また自分から火をくべるような真似を……!」
 時を前後して、統務院本部の議事堂。
 クラン・ブルートバードと史の騎士団の間で起こった衝突騒ぎに王や統務院議員達が頭を
抱える中、はたとエレンツァの部下を経由してやって来た新たな報せに、彼らの多くはまる
で発狂したかのように再びの悲鳴を上げていた。
 議事堂に直参していた議員、中空のホログラム映像越しの王達。
 基本疎らでがらんとしている堂内にそんな面々の悲喜こもごもが響く。
『ははは! やりやがる。全く、飽きさせない連中だよ。いいんじゃねぇの? サミットの
時には教団(やつら)に踏み絵を掛けられたしな。いい機会だ。今後の力関係の為にも、な
るべく弱って貰おうぜ?』
『そう上手くいくといいがな……。だが確かに、この映像を見る限り元々の非は教団の側に
あるようにみえる』
 ファルケン王と、ウォルター議長は笑い、ごちていた。
 前者は言葉の通り今回の一件で今や厄介な勢力である教団の力が削がれる──自分達の戦
いが円滑に進むことを期待し、後者は後者で早速導信網(マギネット)上にアップされた件
のやり取りを確認しつつ、頭の中で算盤を弾いている。
『な、何を考えているのでしょう? 皇子は。相手はあの教団ですよ? 最悪クリシェンヌ
ゆかりの聖浄器に二度と近付けない可能性だってあるのに』
『それもまた、あいつら次第って事さ。少なくとも誰かがぶち当たらなきゃ、あそこの聖浄
器は確保できねえ。まぁ教団(れんちゅう)が絶対に“結社”から守り抜いて、俺達の戦い
にも協力してくれるってんなら話は別だけどよ?』
 特に四大盟主の内ロゼッタは、なまじ清廉で良識人な分、ジーク達の起こした前代未聞の
それに大分参っているようだった。呵々と笑い、一方でファルケンはありもしないと分かっ
ていながらそう言い、寧ろ事の推移を愉しもうとさえしている。
『……』
 そして彼らのリーダー、老練のハウゼン王は黙っていた。
 そっと目を閉じ、先ずは方々から漏れる他の王や議員達の声・意見を分け隔てなく聞き入
れることから始めようとしている。
(さて、どうしたものか。こう彼らばかりに試練を負わせるのは少々酷だろうか? いや、
かと言って介入の時期を見誤れば儂らの関係は益々拗れてしまうだろう……)

「──分かっておるのか? このようなこと、前代未聞だぞ!」
 そして現在。件の宣戦布告から数日。
 王都クリスヴェイルの玉座の間。ハウゼンはそう眼下で口角泡を飛ばすベテランの臣下達
の声に意識を向け直し、そんな彼らの口撃の矢面に立たされているセドを見た。
「その成立以来、あの巨大組織とまともに争おうなどという者はいなかった……」
「それが何故、またお前の友の子らばかりなのだ!? エイルフィード!」
 されど当の本人は自身の序列に着いたまま平身低頭。ただ彼らの罵声にじっと耐えている
のか聞き流しているのか、ぴくりとも反応しない。
「……そこまでにしておけ。こやつを責めた所でどうなる。別にジーク皇子に直接あのよう
な指示を与えた訳でもあるまいに」
「ぬぅっ」
「それは、そうですが……」
 なのでハウゼンは見かねて、そう彼に助け舟を出してやった。興奮する臣下達も、王の直
接の言葉とあれば矛を収めるしかない。
 とはいえ、彼らはやはりというべきか不満だった。
 理由なら分かっている。今回の件も含めて、レノヴィンという英雄にして問題児をさも匿
っているかのような立場にあるこの国に対し、陰ながら煙たく思う者達が少なからずいるの
もまた事実なのだ。
「……申し訳ありません、陛下。私もジーク達の動向については随時報告が上がるように指
示しているのですが」
「構わんよ。情報が上がってくるだけでも充分だ。彼らが冒険者で、今あるしがらみに囚わ
れぬ動きが出来るからこそ、彼らはこれまで我々の成し得なかった戦果を挙げてきたのだと
も言える」
 あくまで“臣下の礼モード”で接してくるセドに、ハウゼンはそうやんわりとフォローを
入れてやっていた。尤も内心は言葉にした所の半分程度なもので、彼の頭の中には既にこれ
から起こるであろう懸念材料が一つ二つと列挙されてしまっている。
 幸い、今回の一件でクリシェンヌ教団の強硬──焦りが故の先走りが明らかにされる結果
となった。これにより人々の中には以前よりも教団の威光に疑問を持つ者達が出てくること
だろう。だがしかし、その一方でより頑なになる者達もまた出てくる筈だ。彼らはその拠り
所をレノヴィン達に傷付けられたと感じるだろう。思うに信仰というものの恐ろしさの一つ
とはそこにある。
 だからこそ、どれだけ他国から批判されようとも、我が国も統務院も今下手に動くのは得
策でないのである。あの時ヒュウガ・サーディスが自分達に当てこすった台詞も、故にあな
がち間違ってはいないのだ。
 政治家として最善の手を考える。そんな時真っ先に浮かぶのは、レノヴィン兄弟とクラン
・ブルートバードに対教団という局面において防波堤となって貰うことだ。それに諍いとは
往々にして、大きな看板を背負う者同士が割って入ると寧ろ泥沼化してしまうものだ。少な
くとも今ではない。願わくば「落ち度」でイーブンとなった両者が落とし所を探そうとする
段階となり、そこで可能な限り教団からの助力を勝ち取れればいいのだが。
 ……とはいえ、これまでの経験上あの兄弟がこちらのシナリオ通りに動いてくれたことは
皆無だった。見守るだけだ。自分達にできることは推移を見守り、そして何よりもそうした
状況の変化の中からより多くの人々の安堵を担保する術を探し出し、選ぶということ。更に
言えばそうして選ぶということは、一方で何かを誰かを選ばないということでもある。
「陛下。お言葉ですが、では我々はどうすれば宜しいのでしょう?」
「ただ待てと? 逆を言えばエイルフィード伯を通じてレノヴィン達に介入できる立場にあ
るというのに、何もしないのでありますか?」
 考える。そんな最中、口々に臣下達が低頭し直しては顔を上げ、低頭しては顔を上げなが
ら問い詰めてくる。
 だろうな。ハウゼンは思った。要するに何か手を打たなければ不安なのだ。
 気持ちは分かる。自分とてこのまま傍観を続けて事態が好転するとは信じ切れていない。
ただ今回は不作為の方が悪化を抑えられると判断したからだ。レノヴィン達を盾にすれば、
少なくとも直接的な被害は最小限に済むと打算するからだ。
「では訊くが、仮に我が国としてクラン・ブルートバードに働きかけ、あの兄弟がすんなり
と言うことを聞くか? 今は我が国ではなく、統務院全体として“結社”との戦いを遂行し
ている最中なのに。……示しがつかん。我々が自国の利のみで動けば、他国もそんな向きに
追従していくだろう。この二年でようやく落ち着いてきた統制をまた乱してもいいのか? 
はたして得るものと失うものは釣り合うのか? 私はそうは思えない。少なくとも今介入の
時期を見誤れば、事態は一層拗れたものになるであろう」
『……』
 ハウゼンの言葉。セドを含めた臣下達が、驚いたようにその朗々とした語りように圧倒さ
れていた。
 珍しいことだ。彼がこれほど明確にその意図・目論見を詳らかにするのは珍しい。それだ
け今回の事態に緊迫感をもって臨んでいるということだ。思慮を重ねているということだ。
 はっ……。臣下達は一斉に低頭し直した。賢君の本領発揮という所か。当のハウゼンは内
心そういった特別視をあまり好んではいなかったが、その点はもう今に始まった事ではなく
否が応にも慣れてしまった。
「我が国としても、統務院としても、暫くはクラン・ブルートバードの動向を注視すること
にする。動くのであればもし彼らが教団によって大きく損われた時だ。その時は特務軍──
友軍を救うという名目で外交なり、軍事なりで動くこともできよう」
 ははっ……! 改めて場の一同が胸元に手を当てて恭順の意を示した。王の意思が表明さ
れたからか一層拗れるとのフレーズが効いたのか、ようやく口撃ばかりの議論は終止符を打
つこととなる。
「エイルフィード。信じていいのだな? お前の、友の子らを」
「……はい。私の名に賭けて」
 小さく息をつき、ハウゼンが問う。
 たっぷりと間を置いて顔を上げ、セドが力強く頷く。

「──また、面倒な事になっているようですね」
 その頃、白咆の街(グラーダ=マハル)・ディノグラード邸。
 やや遅れて地上の情報が新聞となって届き、セイオンがその紙面を開きながらすとすとと
部屋の中を突っ切ってきた。
 煌々と焚かれた暖炉、キシキシと揺れるロッキングチェア。
 ヨーハンはいつもの指定席に座り、そう話しかけてくる玄孫をちらと見遣っていた。しか
しその細めた皺くちゃの目はこの日は何処か上の空で、また正面に戻ると再びじっと暖炉の
火の方へと向けられていく。
「どうにも試練に愛されている者達のようです。彼女が──レナ・エルリッシュが騒動の渦
中にあるというのは、大爺様には他人事ではないかもしれませんが」
「……そうだの」
 ぽつり。ヨーハンは言う。
 しかし大爺様の聖浄器が後回しになったのは、それはそれで彼らにとっても良かったのか
もしれませんね──。だがそんな彼の様子を知ってや知らずか、セイオンもまた紙面に目を
通しながらあらぬ方向をむいて呟いている。
「……」
 ヨーハンはずっと頭の中で繰り返していた。先日ジーク・レノヴィンとその仲間達がこの
館を訪れた際、会談の終わり際に放ってきた一言である。
『うちの弟から一つ、あんたに伝言を預かってる』
 繰り返す。
『十二聖はもう、本当に“あんたしかいない”のか?』

 そしてこの日、特務軍としてのクラン・ブルートバードはようやく本格的な活動──聖浄
器回収の任務を開始した。
 お披露目から更に三日ほど。旅支度を整えて。
 ジーク達はルフグラン号が鎮座する件の郊外に集まっていた。出発とあって、深く掘り下
げされた地面を除き、船体には組まれていた足場や機材などはすっかり撤去されている。
「じゃあダン。例の書庫についてはお願いね」
「ああ。先生さんやクロムもいるし何とかなるだろう。そっちこそ、上手いこと教団と話つ
けてこいよな」
 別れ際の挨拶。南北それぞれのチームを率いるイセルナとダンは互いの健闘を祈る。
 予め話し合った通り、ジーク達は大きく二手に分かれて行動する。聖都(クロスティア)
へと赴き一連の対立に終止符を打つ、イセルナ率いる北回りチーム及び、サムトリア共和国
領内にある“賢者”リュノーの書庫を目指す、ダン率いる南回りチームだ。尚ルフグラン号
は後者が乗って行く。地理的にも移動距離が大きいのがその主な理由である。
「……気を付けてね? 兄さん、皆」
「ああ、分かってる。お前は何も心配しなくていい。後は俺達に任せろ」
「リンさん、イヨさん。アルスを頼みます」
「うむ。言われずとも」
「せ、精一杯善処しますっ!」
 ジーク自身もアルスら留守番組に見送られ、ミアの言葉にリンファとイヨが並び立ちつつ
も対照的な反応をみせる。
 場には残る三隊長や団員達、アトス兵や街の守備隊達までが足を運んで来てくれていた。
 少なくとも、ここにいる面々は自分達に比較的友好的な側なのだろう。形式的な礼の為に
顔を見せている者もいようが。先ずダン達南回りチームがレジーナとエリウッドの案内で船
に乗り込む。人々からめいめいに旅の無事と活躍を祈るエールが送られる。次いでイセルナ
達北回りチームがそれを背にしながら歩き始めた。梟響の街(アウルベルツ)の管轄区域外
はすぐそこだ。
 街が少しずつ遠くなっていく。空に駆動音を立てながらルフグラン号が真っ直ぐ上昇して
いくのが見える。
 直後加速をつけて見えなくなる船体、かつての造船スペースから届く人々の歓声。
 イセルナ以下、ジーク達はそれを肩越しに眺めながら荷物に手を伸ばし、目深なローブな
どを被って早速めいめいに変装する。途中怪しまれぬよう乗合馬車では複数の便を利用して
分乗・待ち合わせを繰り返し、ジーク達は一路陸路を南下、北方南部の盆地沿いにある聖都
クロスティアへと向かう。
 しかしあの“宣戦布告”により、教団は自分達を警戒している筈だ。
 事実、道中聖都に近付くにつれて、方々で教団を擁護するデモ隊──反レノヴィンの集団
を見かけた。おそらくは敬虔な信徒だった者達だろう。ハロルドはさも興味がないといった
様子で話していたが、当のジークや渦中のレナにとっては居た堪れない。それが流石に何度
も続いてくると彼女が変装の下で目を潤ませ始め、ぽんぽんとジークがそれとなく励まして
やるといった場面が散見された。
 ……それでも、当初の予想に反してそうした勢力があまり多い訳でもなかったのは都合の
良い状況かもしれない。
 間違いなく、アルスが機転を利かせてあの非公式会談をオープンドにしたことが効いてい
るとみえる。少なくともジーク達が遠巻きに見る限りは、デモ隊に対する周囲の態度は往々
にして冷めているようだった。元から一定数無関心な層はいるのだろうが、よほど頑なに信
心を持つ者でなければ多かれ少なかれ、今や教団に対して薔薇色の幻想を持てなくなってい
るのだろう。
(このまま、押し切れりゃいいんだがな……)
 道中人々を観察しながら、ジークは思った。
 だがあまり楽観的に構えられないというのも分かっていた。精々イーブンというくらいが
巷の心証なのだろう。だからこそ何かの切欠で今のパワーバランスが崩れてしまうかもしれ
ないし、そうなってしまわない内に教皇と直に話をつけて来ないといけないのだ。
「──寄り道?」
 なのに、途中そんな提案がハロルドからなされた。
 曰く聖都へ着く前に寄っておきたい場所があるというのだ。あまりのんびりしている暇は
ないと分かっている筈なのに……。彼を除くジーク達は訝しがる。
「そういう事は早めに言っておいてくださいよ……。何なんです? 何か、連中相手に立ち
回る為の秘策でも?」
「いや、そうではないんだが……。義理立ての為にね」
「貴方がそこまで言うならいいけれど……。何処なの?」
 皆で地図を囲む中、ハロルドはぴっとある一点を指差した。それはクロスティアと山一つ
を挟んだ、方角的に北西の郊外に位置する村だった。
「“散光の村(ランミュース)”──レナの実の両親が住む場所だよ」

 はたしてそこは小さな寂れた村だった。山一つ向こうに世界屈指の都市が広がっていると
は到底思えない。
 緊張し、しかし急く想いで村に足を踏み入れるレナを先頭に、ジーク達はこの人気も疎ら
な村の中を進んでいった。
「……その。随分と殺風景だな」
「この辺は大体こんなもんさ。聖都が発展し過ぎてるんだよ。偶々あそこがクリシェンヌの
生まれ故郷だったからってだけで、元々この辺り一帯はこれといった産業もなかった。ここ
らの平均的な姿だよ」
 レナの手前、多少遠慮がちにサフレが呟く。しかしそれを受け取ったリカルドは何の気な
いと言った感じで自嘲(わら)っていた。粗末な平屋が点々と建ち、周囲には決して豊かと
は言えない田畑が風に吹かれている。
「ここが、レナの故郷」
「大丈夫かな? 私達が来てびっくりするんじゃない?」
「でしょうね。でも今回の旅を考えれば、ご両親にきちんと経緯を伝えることは何も間違っ
てはいない筈よ」
 レナが村の只中できょろきょろと辺りを見渡している。その少し後ろをハロルドが見守る
ようについていき、じっと黙してジーク達に後ろ姿を晒している。
 思い出しているのだろうか? 以前彼から聞いた話では、ここに住む実の両親からレナを
託されたそうだが……。
「──神父、さま?」
「ッ!?」
 そして、次の瞬間だったのである。
 偶然なのか必然なのか、一行の姿を認めて恐る恐るといった様子で声を掛けてきた人物が
いたのである。レナが驚いて振り返る。ハロルドが、更に後ろから追いついて来るジーク達
がその声のする方向を見遣り、この主を目の当たりにする。
『……』
 畑仕事の帰りだろうか。一組の男女だった。
 暮らしぶり故か、その背中の翼も身なりも薄汚れた、鳥翼族(ウィング・レイス)の夫婦
だったのである。


「このように、放出された魔流(ストリーム)の変化と予め規定された術式、この場合第八
から十九節までとを照らし合わせる事で対象者の患部が“正常”ではないと同期され──」
「……」
 ジーク達が旅立った翌日、学院にて。
 アルスは教室で、他の学院生らに混じって講義を受けていた。今や当たり前となった日常
である。しかしこの日ばかりは、アルスは中々授業に集中できないでいた。
 言わずもがな、兄達のことである。
 ぼうっと教卓の講師の言葉が遠くに感じる。そしてハッと我に返り、ノートの続きを取り
直すというパターンを何度も繰り返した。
(兄さん達、大丈夫かな……)
 ちらと窓の外に横目を遣る。塀で遮られて見えはしないが、今朝からずっと街の方から物
騒な物音と叫び声が聞こえている。
 例の“宣戦布告”以来、街には徐々に兄に対するデモ隊がたむろし始めていた。
 自分達の信仰を揺るがし、あまつさえ教団に喧嘩を売ったジーク・レノヴィンへの反発。
 新生トナン皇国の第一皇子──これまで何度となく旧来の秩序を破壊し、世の中を騒がせ
てきたジーク・レノヴィンへの反発。
 或いは対“結社”の急先鋒となり、今や統務院肝煎りの切り込み隊長としての各地に戦火
の不安を撒き散らすジーク・レノヴィンへの反発。
 クリシェンヌ教徒の強硬派、イデオロギー上の保守派、反戦活動家。もう今に始まった事
ではないが、振り返ってみるとよくもまぁこんなに“敵”が増えてしまったものだ。
 アルスは頬に手を当て嘆息をついていた。ペンをノートの上に走らせる気力が湧かない。
 怒りを通り越して、呆れの感情が勝っている。兄さんの何を知っているのさ? これまで
皆がどんな思いで戦ってきたと思っているのさ?
 まるでごった煮と化す反レノヴィンの徒党。だが先日、案の定仲間を見捨てなかった兄を
アシストする形で会談を導信網(マギネット)に放流したことで、その風向きも逆転とまで
はいかずとも大きく跳ね返せたと思う。
 団長・イセルナ不在のタイミングを狙い澄ました卑怯さ、レナ本人を置き去りにして組織
の威光を回復しようと躍起になっていた事実。そうした内情が明るみになり、件のデモ隊ら
に対する市民の目は少なくとも歓迎しない──白眼視の側に寄っていると感じる。
 作戦は効いている。
 たとえそれがその実、単に個々(ミニマム)なレベルへ逃避していく人々の“保守的”な
性質だとしても、これから教団と直接対峙するであろう兄達を援けることになるのなら有利
に働く筈だ。
「……」
 しかし一方でアルスは思う。
 それは即ち、自分が人心を操っていることではないのか? 意図的に印象を操作し、さも
巷の人々を愚かな駒としてしか思っていないのではないかと自問・自罰するのである。
 レナさんを、仲間達(みんな)を守りたい。
 誰かを、感情的にしたくない。争って欲しくない。
 そっと手を添える。胸の奥がズキズキと痛むような心地を覚えた。
 どうしてこの二つはこうも両立しないのだろう? やっぱりそうじゃないか。自分たち兄
弟は彼らの言う通り、世の中を引っ掻き回して心乱す、厄介者じゃないか。
 ……もっと他にやりようはなかったのだろうか? もっと誰も傷付けずに解決に導く一手
を探すべきだったのではないか?
「む? 時間か。では、今日はここまで。各自しっかり復習しておくように」
 そして気付けば、いつの間にか授業の終了を告げるチャイムが鳴っていた。板書をしてい
た講師がぴたっと動きを止めて教卓に戻り、慣れた手つきで教本をまとめながら生徒達に念
を押している。
 目を落とせばノートは半端な状態で止まっていた。しかし書き写そうにも既に周りは緊張
の糸が切れてめいめいに立ち上がり、ざわめきが強くなっている。
「……はあ」
 静かに嘆息。残りの内容は諦めた。のそのそとノートや筆記具を鞄に押し込み、この人の
波に紛れるようにして教室を出て行く。普段から予習・復習を欠かさない生活でなければ、
もうこれだけで一回分は後れていた筈だ。

“何故、自分は此処にいるのだろう?”

 旧い講義棟の廊下に出る。モダン調のエントランスを突っ切って正面と裏口、掲示事項を
貼る為のスペースがあり、外に向かって学院生達が思い思いの服装とグループを作って無数
のお喋りを奏でている。
 ……何処か遠い世界の出来事のようだった。彼らと、まだしつこく塀の向こうから耳に届
くデモ隊の叫び声や鳴り物が混じり合い、きんとつんざく不快さを呼び起こす。
 それでも人ごみの向こう、駐輪場の片隅にリンファの姿があった。別の講義から合流して
きたのか、フィデロにルイス、シンシアもこの傍に立っている。
 こちらの姿を認めて彼女達が小さく頭を下げ、手を振ってくれている。アルスはホウッと
顕現して(でて)きたエトナに訝しがられながらも促され、講義棟の正面玄関を潜って歩い
ていた。
 視界に、脳裏に浮かぶ。
 向こうにいる仲間達に友人達、今は遠くに行ってしまった兄達、或いはこの街やもっと別
の街に暮らし、生きている名も知らない他人びと。
 兄さん達はどうしているだろうか? あれから特にニュースに出ていないという事は少な
くとも道中に支障は出ていないことになるが、それでもやはり心配である。もっと自分にで
きる事はないのだろうか? しかしその一念で飛び出し、たくさんの人々に迷惑を掛けてし
まった先例が記憶にはっきりとあるため、そういった二の轍を踏む訳にもいかない。
 皆の笑顔があった。そのさも背景にデモ隊(ふおん)がある。
「──」
 コツコツ。一歩また一歩。この時アルスは思っていた。
 それは決意。ぼんやりとしている、だけども自罰という意味で半ば無意識に弾き出された
彼の回答(こたえ)であった。
 コツ、コツン。
 この街の誰もが傷付かず、悲しまずに済む方法とは、何だ?

 ルフグラン号を駆り、ダン率いる南回りチームは南方へと飛ぶ。
 数字をかけて世界樹(ユグドラシィル)を迂回し、渦巻く霊海を越え、一行は南方の諸浮
遊大陸をその眼下に捉えていた。
 視界一杯に点々と広がるのは、深い緑と濃い土色に彩られた大地たち。
 四方に分岐する巨大魔流(ストリーム)の一つ、緑の支樹(テラ・ストリーム)による影
響だ。地の力を強く宿すこの南方一帯は古くから肥沃な土壌に恵まれ、それが故の豊かな食
糧事情に裏打ちされたゆっくりとした時間が流れる。
「緑が綺麗……。話には聞いていたけれど、本当に豊かな土地なんですね」
「そうだな。まぁ逆を言えばそれ以外何も無ぇってことでもあるんだが」
「皆さ~ん、そろそろ着陸しますよ~」
「これから高度を下げていく。しっかりと掴まっていてくれ」
 サムトリアン・クーフ。
 そんな南方の中でも屈指の都市であり、且つサムトリア共和国の首都でもある街だ。
 ダン達は先ず最初に此処を訪れ、ロゼッタ大統領と面会する予定だった。事前の根回しと
いう奴である。これから南方を中心に聖浄器回収の任に当たるにおいて、現地の首領に挨拶
の一つもしないというのは拙かろう。
 人気の少ない、疎らな木々に囲まれた平地の中にルフグラン号は着陸した。タロップが降
りてダン達が出てくる。「陣」を敷く時の為に同行する技師数名を除き、レジーナ達は留守
番だ。一つ用事が済むまでは船を守りつつ待機して貰う。
 森を抜け、緩やかな丘を臨む開けた場所に出た。すると視界の向こうにはずらっと件の都
サムトリアン・クーフの全景が見える。
 やや遠巻きに四方を勾配のある丘に囲まれ、だだっ広い緑の中にはたと街並みが展開して
いるかのようだった。都市は東西南北にほぼ真四角で、上下左右に渡された幾つもの水路と
相まってさも自然の城壁にもみえる。周囲は他の周辺各国の例に漏れず、広大な農地が翼を
広げるようにどこまで続いていた。
「じゃあ……行くぜ。準備はいいな?」
 荷物から変装用の衣類や小道具を取り出し、一行は進み始めた。
 更にダンやグノーシュ、クロムを中心に全体を複数の班に分け、互いにアトランダムな距
離を置いて進む。言わずもがな、道中素性を隠し、人々にそれと勘付かれぬ為だ。聖都とは
随分離れているとはいえ、信者達がいない訳ではない。避けられるゴタゴタは避けて通るの
が目下の方針であった。
「聖女様を、ブルートバードから助け出せ!」
「豊かな土地を守ろう! 開拓派の専横を許すなー!」
「戦・争・反・対! 政府は民衆の声を直視しろ!」
 はたして案の定、こちらにもデモ隊と括れる各種勢力が街の周辺を練り歩いていた。
 クリシェンヌ教徒の強固派らしき、レナ奪還を訴える人々。かねてより在る反開拓・保守
派の市民デモ。そしてこの二年で数を増した、対“結社”の戦い自体を否定するグループ。
 ダン達はそんな騒がしい者達を横目で見遣りながら、クーフ市内を時折迂回しながら目指
す場所へと進んだ。主張・目的は厳密にみればバラバラだ。しかし耳に届いてくる言葉をざ
っくりと噛み砕いて整理すれば「ブルートバードは奴らの手先」となる。
 それでもまだマシなのは、彼らとの直接的な水際にある他の市民らが概してこれらを冷や
やかな眼でみているようだという事だ。巻き込んでくれるな──さもそう言いたげにそっと
眉を顰め、気持ち早足で場を通り過ぎていく。温和な土地柄に裏付けられたゆったりとした
時間も、今日の諸々の「闘い」の波には霞んでしまうのだろうか。
「──ようこそ、遠路遥々サムトリアへ。お話は伺っております。……先日は大変なことに
なってしまいましたね」
「久しぶりね。二年ぶり……あの総会(サミット)以来かしら?」
 そして事前に連絡を取り、指定された場所で待って、迎えに来た鋼車に乗り込むとそのま
ま大統領府へと直行。
 エントランスでは大統領ロゼッタとその用心棒、七星の一人ロミリアが待っていた。左右
には職員達もずらりと並んで出迎えの体制。ダンとグノーシュが代表して、彼女らとがっち
りとした握手を交わす。
「まぁ、その辺はイセルナ達が上手くやってくれるさ。俺達は俺達で、こっち側の“任務”
の為に来た。ともかく、宜しく頼む」
「“黒姫”殿も元気そうで。早いもんだな、時の流れってのは」
 されどパフォーマンスはこれまで。下手に番記者などに嗅ぎ付かれぬよう、早速一同は場
所をより奥まった密室に移して本題へと入る。
「二年前の総会(サミット)の決議、統務院による決定──私どももその一員である以上、
皆さんの聖浄器回収の任には可能な限り協力させていただきます。……それが長い目で見た
時に、泥沼の戦いを終わらせる事に繋がるのであれば」
 木造やレンガ造りの家屋が建ち並んでいた市中とは少々趣が変わり、大統領府内は黒や濃
茶の木材・石材をふんだんに用いたモダンなデザインだ。伊達に四大盟主の一角が使う部屋
だけあって、通された応接間はシックながらも気品漂う佇まいだった。ツヤ出しの効いた木
製テーブルを挟んでロゼッタが真剣に──生真面目な面持ちで言う。
 しかしおそらく、その内心は額面ほどあまり歓迎はしていないのだろう。
 詰まる所、人が良過ぎるのだ。その真面目な表情には一抹の不安というものが滲んでいる
ようにも捉えられ、秩序全体としての決定には従うものの「自国でトラブルを起こされるの
はちょっと……」という本音を邪推してしまう。
「同感だ。協力感謝する。それで、あんたに訊きたいんだが、こっち方面で在り処がはっき
りしてるのってはあるんだろうか?」
「無い訳ではないですが、それはらおそらく北や西の方が確実ですね。連邦朝(アトス)に
は“忠騎士”レイアの、王国(ヴァルドー)には“大戦士”ベオグの聖浄器がそれぞれ王器
として祀られていると記憶しています」
「鎧戦斧ヴァシリコフね。消失事件の時、ファルケン王が自ら使っていたのだけど」
「あ~……そうだっけ?」
「うん。以前にアルスから聞いた。現れた“教主”達を攻撃しようとして」
「……相変わらず無茶苦茶な王様だなあ」
 ロゼッタとロミリアの情報に、うん? とダンが眉根を寄せる。
 代わりに隣のミアが補足してくれていた。それを聞いてダンは苦笑しながらも妙に納得し
てしまう。
「申し訳ありませんが、彼らとは違い、我が国の王器は聖浄器ではありません。文献によれ
ば大昔に用いられていた豊穣を願う祭具だそうです」
「他の国は……あまり分からないわね。未だにどこも詳しい事は隠したがるから」
 どうせ結社(れんちゅう)にはバレてるでしょうにね……。ロゼッタの言葉を引き継ぎな
がらロミリアは言った。ダン達は然りと頷く。各国が一致して戦うというのは所詮文面上の
ものであろうし、何より正義の盾(イージス)・正義の剣(カリバー)や自分達に肝心の部
分を押し付けている時点で実情は明らかだ。
「でも領内にはあるだろ? “勇者”様から勧められたんだ。この国には“賢者”リュノー
の書庫があるんだろ? 翠風の町(セレナス)って場所だそうだ。先ずはそこへ行って色々
知って来いってな」
「……ディノグラード卿が?」
 どうやらその話に関しては初耳だったらしい。ロゼッタは目を瞬き、しかしすぐに扉の傍
に控えていた職員に命じて地図を持って越させた。テーブルの上に広げ、ちょうどサムトリ
アン・クーフを中心に描いた頁を開く。
 スッ。そして都から指を這わせて示されたのは、そこから北北西の沿岸部方面。
 そこには確かに、やや小さく翠風の町(セレナス)と書かれた地名と、点があった。
「此処です。マルセイユ侯爵領、アルノー殿が治める町です。ここからだと北北西──ヴァ
ルドーの南端にも近い位置になりますね。ですが……」
 丁寧に自ら指し示してくれた後、しかし一旦言葉を切ったかと思うとロゼッタは言った。
ステラやマルタが頭に疑問符を浮かべている。地図をなぞっていた彼女の指がまた南東に戻
り、もう一つ別の場所を指す。
「その前に“導都ウィルホルム”を訪ねては如何でしょう? ご存知の通りこの街は魔導の
最高学府であり、十二聖の一人・ユヴァンにも縁のある場所です。確か書物では彼は戦いの
前、この街で聖浄器を手にしたとも聞きます。翠風の町(セレナス)へ向かうルート上でも
ありますし、行ってみて損はないかと」
「ふむ。言われてみればそうだな……。どうする? 行くか──って何だよ、グノ」
 それは彼女からの提案だった。
 導都ウィルホルム。魔導師の総本山・魔導学司(アカデミア)をその中核に擁く学問の聖
地であり、人によってはこのクーフ以上に有名かもしれない。
 ダンはゆっくりと頷き、顎を擦りながら代表して皆の意見を聞こうとした。なのに振り向
いた先ではグノーシュが皆に混ざって何やらニヤリと笑っており、されどその意図が分から
ないでいるダンをミアが軽く瞑った眼で傍観している。
「いんや? まぁ俺はいいと思うぜ。少しでも取っ掛かりがあるに越した事はないしな」
「そうですね。私も一度は行ってみたかった場所でもありますし……」
「? どうしたんです、クロムさん? 急に難しい顔してますけど……?」
「……何でもない。私も、賛成だ」
 リュカが若干自身の知的興味も含めて頷き、マルタがふと違和感を覚えて問うに構うこと
なく、クロムがじっと一人眉間に皺を寄せて賛同の意思を示していた。
 ぐるりとダンが一同を見渡す。サフレやミア、他の仲間達も特に異論はないようだ。なら
ばとダンはロゼッタに向き直って頷き、この提案を素直に受け入れることにする。
「分かった。ウィルホルムにも寄ってみよう。その話の通り、ユヴァンの聖浄器の行方につ
いても何か判るかもしれない。翠風の町(セレナス)には後で連絡を入れとく」
 かくして大まかな旅程が決まったのだった。
 導都(ウィルホルム)と翠風の町(セレナス)。この二点を中心に一行はサムトリア領内
を斜め方向に北上する。
「ただお気をつけください。導都(ウィルホルム)は確かに我が国の領土ではありますが、
あそこは自治区の扱い──事実上の異国でもあります。私達も事前に協力を要請してはおき
ますが、必ずしも彼ら魔導学司(アカデミア)が協力してくれるかは保証できません」
 ……了解。
 あれやこれや、少々人の良過ぎる大統領・ロゼッタの忠告。これをしかと受け取り、ダン
達は今一度気を引き締めるとコクリと頷くのであった。

「ああ……。レナ、レナっ……!」
「本当に、よくぞ無事で……」
 二人はカインとクラリス、セディナ夫妻といった。そして彼らは他ならぬ、レナの実の両
親だったのである。
 夫妻に招かれた散光の村(ランミュース)の民家。思わぬ再会に感極まった二人は彼女を
抱き締め、暫くの間十九年分の涙を流していた。対して当のレナは最初こそ困惑しているよ
うだったが、それでも僅かに刻まれた赤ん坊の頃の感触が蘇ったのか、程なくして二人に為
すがままにされ、つうっと静かに一条の涙を伝わせていた。
「……落ち着きましたか?」
「はい……。すみません、お見苦しい所を」
「まさかまた会えるなんて思ってもみませんでした。本当、何とお礼を言っていいか……」
 そんな、心からの低頭。
 イセルナ以下北回りチームの面々はレナを含むこの親子三人と向き合って座り、微笑を返
してこそいたが、実は内心恐縮を通り越して辛いくらいになっていた。
 村に足を踏み入れた時点で薄々勘付いていたことだが、ここの人間は貧しい。
 それは目の前の夫妻の身なりからして明らかだ。顔立ちこそ母・クラリスはよく観察すれ
ばレナを成長──老けさせると面影があるが、長年の決して豊かではない生活からか、随分
と痩せ細って心許なくみえる。そしてそれは父・カインも多かれ少なかれ同様の印象を一行
に与えていた。
 道中のリカルド曰く、これが付近一帯の平均的な庶民なのだという。
 有り体に言ってしまえばショックだった。確かに世界にはまだまだ開拓による恩恵を受け
ていない地域・人々が多く存在するが、実際にこうして歴然たる差を見せつけられると笑顔
でいる事は難しい。……あたかも、内乱前の皇国(トナン)を思い出す。
「そんなことは。寧ろ私は礼よりも、お二人に謝らなければならなくて此処に来たのです」
「……それは」
「教団の件、ですか」
 あまり感傷に浸っている暇はない。悟られても不都合だ。
 誰からともなく、皆を代表して次の瞬間ハロルドが口を開いていた。本題である。しかし
夫妻はジーク達が訪れた時点で、既に大よその見当はついていたらしい。
「やはりご存知でしたか」
「はい。村に届く新聞で大体の事は」
「生まれ変わりのことが、バレてしまったんですね」
「ええ……」
 それからハロルドを中心に、ジーク達は新聞が伝えない細かな事のあらましも含めて、全
てを二人に話して聞かせた。
 大都消失事件の後、二年間の修行──色装、即ち個々の魂の覚醒を行っていたこと。
 そんな状況が生じた事でレナの素性にリカルドが勘付いてしまい、幾つかのすれ違いの末
に兄弟であわや殺し合いまで起こったこと。この騒動が教団に知られる切欠になったこと。
 対“結社”との戦いで統務院の権限が増す中、焦りを感じていた彼らが、おそらくは起死
回生の手段としてレナイコール“聖女”を強く求めたこと。それ故に強硬策──彼女を一度
は秘密の内に連れ帰そうとし、回り回って結果、ジークが宣戦布告のような真似をしてしま
ったこと。
「……本当っ、申し訳ない!」
「いや、元はと言えば私の責任だ。愚弟達の疑心を買い被り過ぎ、事を大きくしてしまった
のは私だよ」
「うぅ」「それはあ……」
「そりゃあ、分かってるけども。改めて傷付くわぁ……」
 ジークがぶんっと頭を下げていた。これまでの自身の行動を客観的に説明されて、流石に
拙かったという認識が圧し掛かったのだろう。それはハロルドにそれとなく当て付けられた
リカルドや、隊の神官騎士達も同じだった。
「ええと……。その、あまりお気になさらないでください」
「それで神父様。これからどうするおつもりなのです? やはり、聖都へ?」
「ええ。ジーク君がそう宣言してしまいましたしね。それに史の騎士団と接触した際、レナ
自身も一度は教皇との会談──話をつけたいと約束はしています」
 カインに訊ねられ、ハロルドが言う。ちらと横目を遣ってぼりぽりとばつが悪そうに後ろ
髪を掻くジークに促しながら。
「……とにかく聖都(クロスティア)に乗り込んで、教皇とサシにする。先に何とか収めよ
うとしてたのをぶっ壊したのは向こうだ。それにアルスのお陰で周りの空気はまだこっちに
分がある。今ならまだ、押し切れるかもしれねえ」
「も、もし、上手くいかなったら?」
「そん時はそん時ッス。教団の聖浄器をぶんどって、レナに渡します。俺達は特務軍の任務
さえ果たせりゃ連中にもう用はねぇし、レナがこう教典持ってアピールしちまえば教団の狗
云々もあってないようなモンになるでしょ?」
『……』
「お気持ちはよく分かります。僕らでも雑だなぁとは思いますよ」
「でも実際、それぐらいしないとレナちゃんの自由を既成事実化できませんから。相手は世
界中に信者を持つ巨大組織。つまりは教皇を上回る威光をこちら側につけるしか逃げ道はな
いという事です」
 訥々、事前に打ち合わせた作戦(ないよう)を復習しながら。
 思わず唖然としている夫妻に、シフォンがそう苦笑いを零していた。さりとて一方でイセ
ルナは整然と現状を言い表し、自分達には覚悟が出来ているとの旨も告げる。
「だからその前に謝っておきたかった。こんな事になってしまった不手際も、十九年前に貴
方達から最愛の娘を奪ってしまった私のエゴも……」
 本当に、申し訳ない──。思わずジーク達すら息を呑んでしまうほどの、迫真で床に擦り
つけるような土下座にハロルドはなった。ぐっと歯を噛み締め、まるでこのまま詰られ処罰
されても構わないという程の鬼気迫る姿だった。
「……どうか、頭を上げてください」
「そうです。神父さまが私達にそうまでする必要なんてないんですよ?」
 たっぷりの間。戸惑い。
 しかしセディナ夫妻は寧ろ優しく諭そうとしていた。許そうとした。
 娘の肩を抱く。元より彼らにはハロルドに対する憎しみなど無かったのだ。それは只々娘
の将来を案じ、幸せに生きて欲しいと願った悲痛なまでの親心である。
「私達こそ謝らせてください。お礼を言わせてください。娘をレナを、今まで守ってくれて
ありがとうございます」
「この子が持って生まれてきた宿命(さだめ)を、私達だけではとても守りきれませんでし
た。怠慢だったんです。なのに神父さま、貴方は私達のそれをその半生を賭けて引き受けて
くださいました。どうして責められましょうか。謝るべきは、私達の方です」
 本当にすみませんでした──。今度はカインとクラリス、セディア夫妻が低く低く頭を垂
れる番だった。結果、互いが互いに向かって土下座をする形になる。
「……」
 言葉こそなかったが、ハロルドは確かに震えていた。最初夫妻が娘に再会して感極まって
いたのと同じように、彼もまた十九年越しの赦しを受けて啼いていたのかもしれない。
「いえ……。少なくともこの子を引き取った日々に後悔はありません。たとえ血は繋がって
いなくとも、娘を、家族を持てたことは私にとって大きな財産でした」
「……兄貴」
「お父さん……」
 ゆっくりと、静かに顔を上げるハロルド。その言葉にリカルドと、夫妻の傍らに座ってい
たレナがめいめいに呟き、くしゃっと顔を歪ませていた。ジークがイセルナ達が、優しい微
笑みで互いの顔を見合わせながら小さな安堵を吐いている。
『──』
 だがこの時、一同はまだ気付いていなかったのである。
 セディナ家の壁に耳を澄ませ、これら会話の一部始終を聞いていた村人達の一団に。

「──違反者全員、確保しました!」
「ご苦労。キャンプまで連行してくれ。くれぐれも手荒を手荒では返すなよ?」
 時を前後して。とある国のとある都市。
 統務院直轄警護軍・正義の盾(イージス)の長官ダグラスは、この日開かれた統務院議員
らのタウンミーティング会場を守っていた。
 そして案の定、反戦や開拓反対を訴えるデモ隊が周辺に現れ、喧伝する。まだそれだけな
ら注意深く見つめているだけで済んだのだが、興奮したメンバー達が一部暴徒と化して部下
達に危害を加えてしまったのである。
 こうなると彼らは動かない訳にはいかない。公務執行妨害の現行犯でこの者達は取り押さ
えられ、縄で一繋ぎになって連行されて行った。はっ! 去り際、兵士の一人にそう念を押
してやったが、はたして実際と相手側の実感というものは大分乖離している。
(やはりキリがないな。一体いつになれば終わるのだろう……)
 ぼやっと、堅く着こなした軍服の手袋を引っ張り、ダグラスは思う。
 細かい部分はバラけているが、この手のデモ隊──「反分子」の主義主張はここの所過激
になる一方で収斂しているようにみえる。現状に対するノーだ。尤もそこに具体的な代替策
がない以上、受け入れる訳にもいかないのだが。
 連鎖しているようでならない。渦巻く戦いと憎しみの連鎖。
 本当にこれでいいのか? この“結社”との戦いの先にはたして希望はあるのか?
 正義の剣(カリバー)達はいざ知らず、自分達が手を出しているのはテロリストではなく
一般市民ではないか。それとも喧伝する者達とは皆等しく排除すべきなのだろうか。
 一進一退。聞こえはいいがその実停滞しつつある戦線。
 だが聞く所によると、クラン・ブルートバードが先日、いよいよ特務軍の一員として本格
的に動き出したという。
 彼らと言えばクリシェンヌ教団との対立で騒動になっていた筈だが、任務に支障はないの
だろうか。どうやら北と南、聖都とサムトリア方面に分かれて行動しているようだが。
(……もどかしいな)
 少なくとも自分は、ヒュウガのように彼らを“防波堤”として使い潰して平然としていら
れるだけの胆力は持てない。先ずもって良心がズキズキと痛めつけてくるのだ。
 どうしてなのだろう? ただ災いから、暴力から、悪意から人々を守りたいと願っただけ
なのに、次から次へと戦いは起こる。時々分からなくなる。本当に“結社”だけが「悪」な
のだろうか? つまり自分は市民にまではたとその疑念を延長してしまう時がある。
「……」
 ポケットに手袋越しの左手を突っ込み、ダグラスはゆたりその場から歩き出した。
 自分達はどうすればいい──よかったのか。
 “結社”は一体何故、このような戦火を起こすのか。

 事件は、その日の夜に起こったのである。
 皆がすっかり寝静まった頃だった。セディナ夫妻に懇願され、半ばその厚意に押し切られ
る形でこの日の宿を彼らの家に決め、夕食のあと床に就いて暫くした時だった。
『せ、せめて一晩だけでも……』
『見ての通り、満足におもてなし出来るような家ではありませんが……』
 娘の恩人(と言われると恐縮なのだが)をむざむざと帰す訳にはいかないという彼らなり
の仁義なのだろう。そしてジーク達としても、折角の親子の再会を、出来る限り長く設けて
やりたいという情があった。
 しかしそんな判断は、結果一行を窮地に陥れた。瞼の裏に明るみを感じる。それに何やら
外からパチパチと音──まるで火を焚くかのような物音も聞こえる。
 ジークはこれまでの暮らしから染み付いた直感で瞬間、飛び起きた。同時に枕元の六華を
手に取って腰に差し、姿勢を低くしていつでも戦える体勢を取る。イセルナ以下、仲間達も
同じく察知したようで、程なくしてこれに続いた。何よりもレナとセディナ夫妻を庇うよう
に陣取り、ジーク達は意を決して家の外へと飛び出す。
「出て来たぞ! レノヴィン達だ!」
「聖女様は? カインの娘はどうした!?」
「中だ! まだ家の中にいるぞ!」
 そこにいたのは、夜闇を照らすように幾つもの松明を焚き、ぐるりとセディナ家を包囲す
る村人達だった。更に拙いことにその集団に目を凝らすと、ダーレンとヴェスタ、史の騎士
団の例の隊長が二人、手勢を率いてその中心に立っていたのだ。
「っ、お前ら……」
「やあ。寝覚めはどうだい?」
「中々来ないなと思ったら、こんな所で油を売ってるとはな。随分と余裕こいてくれるじゃ
ねぇの」
 オズやハロルドが夫妻を守りながら後ろから出てくる。共に状況はすぐに察したようで、
その表情には緊迫と、殺気立った気色がそれぞれ浮かんでいる。
「聞いたぞカイン! お前の娘が聖女様だったなんてな!」
「そんな話、聞いてねぇぞ!」
「まだ赤ん坊の頃、里子に出したのは知ってたけど……」
「例の本山の騒ぎ、つまり元を辿ればお前らのせいじゃないか! どういう心算だ? この
ままだったら俺達は咎人を匿った罪人ってことになるんだぞ!?」
「冗談じゃねえ! 巻き込まれて堪るか!」
「この事が余所に知られてみろ。この村は今度こそお終いだ……!」
 次々に叫ぶ、夫妻を責め立てる村人達。
 なるほど。ジークは眉間に皺を寄せ、内心彼らに容赦なく唾を吐く。要するに我が身可愛
さで二人を売り、自分達だけでも助かろうと企んだ訳だ。
 腰の剣に手を伸ばそうとして……止める。仲間達も同じだ。ここで下手に暴れ回ってしま
えばそれこそ夫妻の立場を悪くすることになるだろう。
「……てめぇら。それでも人の親かよ……」
 さりとて怒りは沸々と込み上げる。レナがぎゅっと二人にしがみ付いている。
 にたり。村人達と共に一行を取り囲むダーレンとヴェスタが、憎たらしい笑みをその口角
に浮かべたのだった。

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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
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